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イベントミュージアム(ゴチメイ隊がいく)

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イベントミュージアム(ゴチメイ隊がいく)
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リアクション

 


 
 
「ふう、いい汗かいたぜ」
 ほこほこと全身から湯気をあげながら、ラルク・クローディスが通路を進んで行った。
 さあこれからというときに、ドッヂボールの直撃を受けた水橋エリス選手が霧になって消えてしまったのだ。
 とりあえず展示室に戻った部屋には、本物の水橋エリスたちがぞろぞろと入ってきた。ラルク・クローディスとしてはまだ少し物足りなくはあったのだが。
 派手な応援の声も消えて少し静かになったかと思えたのだが、隣の展示室からも何やら喧騒が聞こえてくる。
「なんだか面白そうなんだもん。ついていったら、また何か見られるかも」
 ミルディア・ディスティンが、こそこそっとラルク・クローディスたちの後についていった。
「なんだか騒がしいのは、この部屋か……ん?」
 展示室の入り口に集まって中をのぞいている樹月刀真たちを見つけて、ラルク・クローディスたちが立ち止まった。
「危ない。とりあえず伏せろ」
 いきなり、橘 恭司(たちばな・きょうじ)がミルディア・ディスティンの頭をつかんで床に伏せさせた。
 その頭上を、流れ弾が飛んでいく。
「ちょっと待て、何だ、テロか!?」
「ふふ、おもしれえ」
 素早く身を伏せたラルク・クローディスの横で、秘伝『闘神の書』が不敵に微笑む。
「いや、自分の描かれている『夜の戦場跡で』という絵を見に来たんだが、御多分にもれず、俺たちの絵もなんだかイベントになってたようでな。よりによって、魔物退治だったからえらいことに……」
 物陰に身を隠しながら、樹月刀真が説明した。
「刀真、攻撃へた……味方に……当たる」
 しれっと漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が言う。
「ちょっと待て! 流れ弾は月夜の物だろうが!」
 とんでもない濡れ衣だと、樹月刀真が叫んだ。
「とにかく、事態が収まるのを待つのが安全だ。確か、この絵の題材の戦闘はすぐに終わったはずだからな」
 橘恭司が、皆をうながした。
「うん、観戦しよー。どんな場面なのか楽しみなんだもん」
 ミルディア・ディスティンが床の上に寝そべりながら、ニコニコ顔で足をパタパタと動かした。
 展示場の中は夜の荒野になっており、その中心では樹月刀真と漆髪月夜と橘恭司が背中合わせに立って周囲の魔物に身構えていた。
 元々は、橘恭司の宅配屋「ゆるねこパラミタ」の手伝いで、三人でジャタの森の集落を目指していたはずであった。マッパーとして道なら任せてと、最近ささやかという形容詞から脱出を目指す胸を張って、漆髪月夜が先導していったのだが、もろに魔物の巣窟に飛び込んでしまったということになっている。
「まったく、嫌な予感がしたんで、護衛を頼んでおいて正解だったぜ」
 栄光の刀を肩に担って、橘恭司が言った。彼としても、戦闘は予想外で、はっきり言ってよけいな手間だ。とはいえ、だからと言って臆するものでもない。
「どーしてこうなった!」
 徒歩だったとはいえ、安全なルートだったはずだと樹月刀真が叫んだ。
「とりあえず、刀真が悪い」
「だから、どーしてそーなる」
 しれっと言う漆髪月夜に、樹月刀真が言い返した。
「恭司の仕事を手伝うって言ったの……刀真。私は……言われたとおり最短距離を出しただけ。魔物がこんな所にいたのは……偶然。こうなったのなら……仕方ない。……退治……する」
 漆髪月夜が、わざとらしくスチャッとラスターハンドガンの撃鉄を起こす。
「来る! そこっ、ディスチャージ!
 漆髪月夜の放った電撃で、魔物たちの姿が夜の闇の中に浮かびあがった。
狙い……撃つ!
 すかさず、漆髪月夜がラスターハンドガンを放った。
 それよりも早くバーストダッシュで飛び出した橘恭司が、すれ違い様に魔物たちを撫で切りにしていった。
 漆髪月夜の背後を守るようにして戦っていた樹月刀真を、回り込んだ魔物たちが取り囲もうとする。
「月夜!」
 名前を呼ばれて、振り返った漆髪月夜が軽く身を逸らす。胸のやや下に現れた柄頭を、樹月刀真がつかんだ。
「顕現せよ、黒の剣!」
 右手で光条兵器を抜き放ちつつ、左手に持った剣を地面に突き立ててそれを軸として大きく側転する。その身が倒立する瞬間に、近づいてきた敵を、漆髪月夜が絶妙のコンビネーションで撃ち倒した。被弾してたじろぐ敵を蹴り倒して踏み台にすると、樹月刀真が敵の囲みの外に着地した。振り返り様に光条兵器が炎を纏って敵の後衛を切り倒す。夜の闇に浮かびあがる赤い炎と漆黒の剣が、樹月刀真の顔を浮かびあがらせた。
 樹月刀真と漆髪月夜に挟まれた敵に動揺が走る。そこを突くようにして、横から橘恭司が切り込んでいった。
「わーい、すごーい、すごーい。たんのー」
 ずっと見ていたミルディア・ディスティンが、パチパチと拍手した。
「チッ、混ざる暇もなかったか」
 残念そうにラルク・クローディスが言う。
「これで片がついたはずだから、このまま消えてくれるといいんだが……」
 樹月刀真のつぶやきに、なぜか漆髪月夜と橘恭司が後ろめたそうに顔を見合わせる。
「……じゃ、これ、今回の報酬……」
「なんだ、これは?」
 まだ樹月刀真が周囲を警戒している間に、漆髪月夜が橘恭司を呼んで何やらつつみを渡した。
 本来なら、樹月刀真たちを雇った橘恭司がバイト代を出すのが筋なのに、なぜ漆髪月夜が逆に報酬を出すのだろう。これではまるで袖の下だ。
「実は――というわけで、魔物退治を頼まれた。これは、ついで」
 いや、はたして、宅配がついでなのか、魔物退治がついでなのか。どうやら、このとき、漆髪月夜はわざと道を間違えたふりをしたらしい。
「じー」
「刀真……なんで見つめる。恥ずかしい。……惚れた?」
「道理で、あの時の報酬が多めだったと……。月夜!!」
 本物の二人が、即座に追いかけっこを始める。
「あーあ、ばれちまった。まあ、相変わらず仲がいいことで……」
 二人を見送って、橘恭司が言った。