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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

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・ポータラカ見学会3


「まさかパラミタにこんな場所があったとはな……」
 斎賀 昌毅(さいが・まさき)は初めて見るテクノロジーの数々に、驚きを隠せずにいた。
「いくら今は自由行動の時間だからって、あんまり無茶はしないで下さいね」
 マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)が心配そうに昌毅に言う。カスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)もまた同じらしく、彼に視線を向けていた。
 彼がポータラカに来ようと思ったのは、パイロット科の生徒として「自分の身で体験して」最新のイコン技術を持ち帰りたいと思ったからだ。阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)にいたっては、機晶姫発祥の地ということもあって興味があったようだが。
 彼自身はまだ実戦に参加したことがない。しかし、最近になって急速に台頭してきたF.R.A.G.やエリュシオン帝国に対抗するにはもっと力が必要だ。そう昌毅は考えていた。
「とりあえず、あの『レイヴン』ってやつよりもまともな技術があればいいんだが」
 既に、ウクライナでの「暴走事故」については彼も耳にしている。
 ブレイン・マシン・インターフェイス。それがどのようなものか、超能力科ではない彼はよく知らない。
「昌毅があれに乗るって言わなくて良かったです」
「俺からしたらあんな危ない機体に乗るって方が、気が知れないけどな」
 強化人間であり超能力科であるマイアの方がどうやら詳しいようだ。
(そのブレイン・マシン・インターフェイスというのはそこまで悪いものではありませんよ)
 彼らにテレパシーが伝わってくる。ポータラカ人の技術者のようだ。
(僕達がナノマシンで機械の操作を行うのも、ある意味その技術と同じようなもの。簡単に言えば、「脳と機械の一体化」だね。身体がナノマシンという機械で構成されている僕らはまさにそれが成されているというわけだ)
「だが、所詮は地球人の作った紛い物のシステムだぜ?」
 ホワイトスノー博士が聞いたら間違いなく「ガキが中途半端な知識だけで決め付けるな」と怒る発言だ。
(システムが危険なわけじゃなくて、単に君達には早過ぎる技術だってことさ。まあ補助装置として使う分には問題は見当たらないんだけどね)
 どうやらホワイトスノー博士から研究所のイコンデータを見せてもらったらしく、コンピューターのようなものを操作して確かめている。
(まあ、僕達みたいな身体だったら直接イコンに「装置として」組み込まれるっていう手段もありだけど、君達はそうはいかないだろうね)
「何か、俺達で体験出来そうな技術はないか?」
(さっきちらっと耳にしたのは出来そうだけど、まだ作ってないからなぁ……)
「差し支えなければ、どういったものかだけでも教えてくれたら助かる」
 なんでも、ホワイトスノー博士とシャンバラの生徒とポータラカ人が新型機の案出しをしているときに、偶然耳にしたらしい。
(機晶姫のユニット化と、モーショントレーサー)
 パラミタ種族と地球人が二人一組で乗り込めばイコンの性能をフルに発揮出来る。しかし、その「乗り方」については問われていない。
 天御柱学院のパイロット科では、「攻撃(兵装管理)担当」と「それ以外(管制・機体制御)担当」で分担するのが基本とされている。が、それをより効率よく行う方法があるという。
(さっきのシステムが脳で思考するだけで機体を操れるってものなら、こっちは「感覚」の拡大になるのかな。機晶姫はパーツとして組み込まれることで、それ自体が制御システムに取って代わることが「理論上」は可能。それと、パイロットの手足の動きをイコンと連動させられれば、コックピットのパネルや操縦桿で操作するよりもずっと楽になるはず。
あくまで、「操縦の効率化」のための機構だけどね。ただ、さっき出たブレイン・マシン・インターフェイスが脳に負荷がかかるのに対し、こっちは肉体に負担がかかる。それをいかに減らすかが課題になるだろうね)
 ポータラカの技術を身をもって……とはいかなかったものの、昌毅達はアイディアを得ることは出来た。

* * *


「さて、なんとかここまで来ましたが……」
 御空 天泣(みそら・てんきゅう)ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)はイコン誕生の経緯を調べるため、その資料がありそうな場所を探していた。
 ホワイトスノー博士達とは決別したものの、ポータラカ入りするためには研修に参加しなければならなかったため、然るべき手段で申し込みは行っている。
 とはいえ顔は合わせにくいため、生徒達に紛れて接触は避けてきた。こうして現地入りし、やっと単独行動に踏み切れた、というわけである。
「じゃ、ちょっと聞いてみるよ」
 ラヴィーナが目に留まったポータラカ人に話し掛ける。
「ちょっと聞きたいんだけど、この近くに昔のことが分かる施設ってない?」
(資料館ならありますよ。もっとも、外部の方が閲覧出来る資料はそう多くはありませんが)
 二人はそこへ案内してもらうことに。
 巨大なピラミッドの一つが、その場所だ。
(何の資料をお探しですか?)
 天泣達では機器を操作出来ないため、ポータラカ人に検索を頼むしかない。
「古い時代の……一万年前のことが分かるものはありますか?」
(少々お待ち下さい)
 しばらくすると、タブレットPCのような形状の機械が現れた。
(そちらの言語に合わせてありますので、あとはキーワードを入力すれば大丈夫です)
 さすがポータラカと言うべきか、完全に電子化が成されているようだ。
「ボク達イコンの技術研修で来たんだけど、そもそもイコンってどうして造ることになったの?」
 天泣が調べているなか、さりげなくラヴィーナが尋ねる。
(迫り来る脅威からパラミタを守るために、サロゲート・エイコーンが造られた。というのが定説になってます。その際、我々の祖先が技術提供をしたのだと)
 ポータラカの記録が確かなものかは定かではない。とはいえ、彼らの技術なしにイコンは完成し得なかったのは事実のようだ。
「調律者……あった!」
 天泣はその単語を見つけた。

『パラミタは窮地に立たされていた。それを救ったのが、サロゲート・エイコーンを生み出した調律者達である。彼らは「契約者」であり、聖像の性能を完全に引き出せる存在だった』

 そこに、罪の調律者という単語は存在しない。
 また、彼女の話と食い違った内容となっている。あたかも、初めから兵器として造られたかのような――。

 『わたしは……負けたのよ。争いを、力を好む調律者達に』

 以前罪の調律者から聞いた言葉を思い出した。
 改めて調べてみるが、イコン誕生の経緯から彼女の存在は「なかったこと」にされている。
 かつてパラミタの地には強大な力を持った「神族」と呼ぶに相応しい者達がいたと資料には記されている。龍神族や巨人族と呼ばれる者達のことであると。
 彼らはその身体的能力もさることながら、長寿であったとされる。数百、あるいは数千年の寿命を持ち、大陸に君臨していたらしい。
(その彼らの「力」を得るために再現されたのが……)
 サロゲート・エイコーン。
 それが、「歴史」の証明するイコン誕生の経緯だった。

* * *


(しかし、こんなに素晴らしい技術を、どうして外に広めようとしないのだ?)
 ドクター・バベル(どくたー・ばべる)は疑問に思っていた。
 自ら天才マッドサイエンティストを自称する彼女であるが、ここまである程度自重して行動をしてきた。
 というのも、下手なことをして警戒されても困ると考えていたからである。意外とその辺りは弁えているのであった。
 とはいえ、未知なる技術を知りたいという衝動に駆られるのは彼女の性だ。疑問を持ったら直接聞くに限る。
「なぁ、教えてくれないか? どうしてポータラカ人はこれだけの技術をもっと表に出そうとしないんだ?」
 「科学は人の助けになる」というのがバベルの信条だ。どんなに素晴らしい技術も、使われなければ宝の持ち腐れである。
 途中までホワイトスノー博士達と一緒にドックやプラントを見学していたが、それでさえ氷山の一角だということが分かった。
 ポータラカ人しか使えないようにナノマシン操作式になっているものの、それをちょっと変えさえすればシャンバラに持ち込むのも難しくはない、バベルにはそう見えていた。
 それをしないということは、ポータラカ人は外の人類に絶望しているのではないか? そう勘繰ってしまうほどである。
(表に出さないのではなく、表に出せないというのが正しい表現だ)
「どういうことだ?」
 人型のゼリーみたいなポータラカ人が告げる。
(我々は長い間封印されていた。それが解かれたのはつい最近のこと。それについては、シャンバラの代表者から聞いていないのか?)
「いや、初耳だ」
 実のところ、四月から正式に天御柱学院に通うことになるバベルは、まだシャンバラ情勢を把握し切れていない。学院に出入りするようになったのも、入学が決定してからであるため、つい最近のことだ。
(あまりに急過ぎる技術の発展は、世界のバランスを崩すことに繋がる。我々ポータラカ人は、パラミタの人々の要求に応える形で、技術を与えてきた。逆に、こちらから外に『勝手に技術を流す』ことは許されていなかった)
「それもまたおかしな話だな。これだけの技術があれば、パラミタでは優位に立てそうなものなのに」
(パラミタにおける立場は決して強いものではない。我々戦争で言うところの、敗戦国の出身になるからな)
 ポータラカ人の説明によれば、彼らの祖先はパラミタへ侵攻を行った異世界の住人であり、その生き残りの一部がパラミタにやってくる際、優れた技術をパラミタに提供する代わりに土地を得たということである。
「それがこのポータラカってわけか」
 しかし彼らが「封印」されたことを考えると、過去にポータラカの技術によって悪いことが起こったのだろう。
 それもあって、パラミタがポータラカの技術を忌避してきた部分もあるのかもしれない。

* * *


 ポータラカの在り方に疑問を持っていたのは、バベルだけではない。
「イコンや機晶姫、さらには剣の花嫁もがポータラカの技術によって誕生したと伺っております」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)はポータラカ人と向かい合う。
「これ程様々な戦争兵器を生み出しておきながら、つい最近まで傍観していたのには何か訳があるのでしょうかねぇ……あまりにもそれらの力が自分達の手の離れた場所で強力になり過ぎ、手に負えなくなってしまったのでしょうか?」
(戦争兵器、というのは語弊がある。我々はこれらの技術を提供したが、それを兵器として使い出したのはパラミタ人だ。それに、傍観していたというよりは、介入の余地がなかったという方が正しい)
「ポータラカは五千年の間、鎖国をしていたのでは?」
(否。シャンバラによって『封印』されていたのだ。無論、『封印』を破って勝手にポータラカの外に出て行った者はいる。が、そこまでのリスクを犯してまで我々の方から関わる理由がなかった。あくまで、諸々の技術は我々の祖先がパラミタの地を得るための交換条件として、パラミタに提供したに過ぎない。元々我々はパラミタの住人ではないのだ。積極的に関わらなくても不思議なことはないだろう)
「パラミタではない世界から来たのでしょうか?」
(そういうことになる。その末裔が我々だ)
 ポータラカ人曰く、自分達の祖先が来る前にパラミタにいた種族の多くは、今は絶滅してしまったという。
「もしや、ドラゴニュートや魔女などの種族もあなた方ポータラカ人が作り出した物で、このパラミタ大陸はあなた方にとって『実験室のフラスコ』とでも言うのでしょうか?」
(一部は正しい、とだけ答えておこう。が、完全に正解というわけではない)
「どういうことですの?」
(面白いデータが得られている。パラミタ人は地球に降りても拒絶されないが、地球人がパラミタに来ると拒絶される。その理由を考えれば、ある仮説を導くことが出来るだろう)
「今のパラミタの人達は、『純粋な』パラミタ人ではない、ということでしょうか?」
 その綾瀬の問いに対して、ポータラカ人は沈黙を貫いた。
「肯定でも否定でもない。いずれ分かる、と思っておきますわ」