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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

リアクション


・奪還作戦


 海京西地区。
 夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)夕条 媛花(せきじょう・ひめか)から預かったノートパソコンを持ち、地区内を奔走していた。
(誰か……)
 クーデターの直後、彼女が媛花と合流したとき、媛花は上司である風間が死に、統轄としていてまとめていた仲間を全て奪われたことでショックを受け、憔悴していた。
 
 ――どうして死んでしまったの? 私は何を信じればいいの? 何のために戦えばいいの? 何と戦えばいいの? 何故ここにいるの? 何故戦っていたの? 私は、何?
 
 もはや、壊れてしまう寸前だった。

 ――お姉ちゃんはお姉ちゃんでしょう? いつも優しくしてくれる私のお姉ちゃんだよ。

 落ち込むパートナーを励ました。
 なぜ天真爛漫で笑顔に満ち溢れていた彼女が表情を失ったのか。アイオンはその本当の理由を知らない。だが、心まで完全に変わってしまったわけではない。
 それが、アイオンから見た媛花だ。
 彼女の想いが通じたのか、媛花が立ち上がった。そして、行動すると告げた。せめて今オーダー13下にある強化人間だけでも救ってみせる、と。
 こんな状況だからこそ、サイオドロップがクーデターに対抗する何らかの鍵を握っているかもしれない。だが、分かったのは「元PASDの情報屋がサイオドロップから仕事依頼を受けていた」ことくらいだ。
 PASDにいる転送術者は天御柱学院が世話になったこともあり、生徒達の間でも有名だ。そこに思い当たったとき、アイオンも媛花もはっとなった。
 
 ――PASDから救援が密かに送られてきているかもしれない。それらしき人を見つけたら、これを渡してくれ。

 そうして預かったのが、今持っているパソコンだ。
 超感覚を利用し、捜索を行う。すると、物陰で気配を消している一人の人物の姿が目に入った。
 そこへ、近付くと、背後から何かをつき付けられる。
「君は、どっちの味方だ? エキスパート統轄のパートナーさん」
 人型なのは、ただの人形だった。むしろ、相手の方が先にアイオンに気付いていた節さえある。
「なぜ私を?」
「こっちも情報屋稼業が長いんだ。さあ、答えてくれ」
 自分達はオーダー13で精神を支配されているエキスパート部隊のみんなを助けたい、と正直に告げる。
「嘘ではないみたいだね。すまないことをした」
「今、情報屋って言いましたよね。もしかして、元PASDの情報管理部の方ですか?」
「……さすがに、エキスパートには割れてたか。そうだよ」
 情報屋、アレン・マックスに、ノートパソコンを渡す。
「これは、エキスパート部隊の……」
「お姉ちゃんが知りうる全ての情報です。それと、伝言です。『強化人間達をよろしくお願いします』」
 そこには管区長の詳細な身体データや、エキスパート部隊の総戦力や編成・配置のような機密情報も含まれる。
「初めから、こっちは強化人間達を含む海京の人々を解放するつもりだよ。そのために、まずはこの街を取り返す」
 彼がどこかへ行こうとしたとき、自分も一緒に行くと申し出る。新たな情報が入り次第、媛花の携帯電話に連絡するように言われているからだ。
「手伝ってもらうことになるけど、いいかい?」
 むしろ、成功率を上げるためにも、手伝わないわけにはいかない。

「よし、成功だ」
 アイオンが狼姿で囮になって引きつけている間に、アレンが役所への侵入に成功した。彼が入った直後、アレンが仕掛けていた時限式の閃光弾が爆発する。北地区と西地区の境界の辺りでも爆発が起こっていたらしく、強化人間達は警戒しながら確認に向かった。
 その隙に、アレンがセキュリティを解除した裏口からこっそりとアイオンも入った。
「役所の中にも何人かいるかもしれない。ここからは、慎重にいく」
 手始めに彼は役所内のローカルネットワークにハッキングし、建物のセキュリティを全て掌握した。次いで、内部地図からメインサーバーの位置を特定する。首謀者から奪還するためには、直接サーバールームにあるコンピューターを操作するしかない。サーバーそのものを書き換える必要があるからだとアレンは告げた。
 関係者用の通路を、セキュリティを解除しながら進んでいく。一つの区画を過ぎるごとに、ロックを施す。人が通った痕跡を消すためだ。
 そして、最後のロックを解除し、いよいよサーバーと対面する。
「問題はここからだ……」
 アイオンが渡したノートパソコンとサーバー繋ぎ、プログラムの解析を進めていく。普段海京で使われているコンピューターの方が、ネットワーク奪還後に都合がいいからだとのことだ。
『こちら、アレン・マックス。これから本格的にハッキングを仕掛ける。手筈通りに頼む』
『了解!』
 アレンがキーボードを叩き出す。
「早速自動攻撃プログラムが動いた。そうやって吸い出した『ダミー情報の送り先』が特定されるばかりか、それに気付かずプログラムが自己崩壊を起こしていくよ。以前のお返しといこうじゃないか」
 笑みを浮かべながら、彼はコードを書き換えていく。それも、崩壊した文字列を即座に書き換えることで、異変に気付かせないように。
 アイオンには彼がやっていることの全てが分かるわけではなかったが、最先端技術の粋を集めて造られた、海京の都市管理ネットワークシステムに不正侵入し、プログラムを丸ごと書き換えるというのがどれほど困難なことかくらいは分かる。
「これで、完了だ」
 アレンがエンターキーを押した瞬間、海京のシステムは完全に彼の手中に収まった。

* * *


「アレンさんがメインサーバーの書き換えに成功しました」
 サイオドロップのアジトにいるロザリンド・セリナの元に、その報せが入る。
「彩羽殿、逆探知したでござる」
 スベシア・エリシクスが彩羽に告げる。
「天沼矛。高みの見物とはね――行くわよ、彩華」
「悪い人、やっつけるですぅ〜」
 天貴 彩羽が天貴 彩華と共に、天沼矛へ向かいアジトを飛び出した。
「地上の情報だけじゃなく、強化人間管理課――エキスパート部隊の詳細なデータも来ましたね」
「う! かんくちょう、どこりいるかわかっられす」
 緒方 章、林田 コタローがアレンから送られてきた情報統合のサポートを行う。それらのデータをまとめ、各地区に向かった人の携帯電話やHCに転送する準備を始める。
「これで、『海京の街』は取り戻しましたね。あとは、『この街の人々』です」