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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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第三楽章「決着」


「照準補正完了! いけるわよ!」
 【レヴィアタン】の中で、エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)如月 正悟(きさらぎ・しょうご)に告げた。
 現在地は古代都市沿岸付近の海中。そこからバスターライフルの照準を、遥か上空にいる【マリーエンケーファー?】に合わせる。
「機体まではさすがに届かないか。だが……」
 実弾をフルバーストで撃ち出せば、あのシールドを破れるはずだ。
 まだ試作段階であることと、「七つの大罪」専用装備にする関係もあって、現F.R.A.G.の持てる限りの技術が注がれている、とエルザは説明していた。
 砲身が長いのは、それを用いて弾頭を加速させるためであり――言ってしまえばレールガンである。海中仕様のレヴィアタンなら、砲身の熱も海水で冷却されるため、地上で使い続けることに比べればずっと負担が少ない。
 しかも、モードを切り替えればエネルギーをそのままビームとして撃ち出すことも可能となっている。とはいえ、コストの関係で量産化の際は実弾式のみになるとエルザ校長が言っていた。
「枢機卿は本当にもったいないことをしたな」
 こっちの装備でシャンバラとの戦いに臨んでいれば、あっけなくやられることもなかっただろうに。
(試されている、か。自分が他人を試せるほど優れた人間だとでも思ってるのか? そういう傲慢で自分本位な連中が世界を歪ませているんだ)
 エネルギー充填完了。
「世界が歪んでるじゃない、世界を歪ませるために悲しみの連鎖をばら撒いている馬鹿がいるだけだ。ならば俺はそれを断ち切る……世界中から裏切り者扱いされても!」
 
 トリガーに指をかけ、それを引いた――。

* * *


『こちらF―01、これよりシールドを突破する』
 ダリア・エルナージの【マモン】とカール・ウェーバーの指揮官機が【マリーエンケーファー?】のマルチエネルギーシールドに肉薄した。
 【マモン】が盾で防ぎながら突破し、シールドを前にすると盾を肩までスライドさせ、もう一本の剣を構える。
 いつもの二刀流スタイルだ。
 指揮官機がランスを突き立てることで開けた部分に剣を通し、その両方の剣でシールドの穴を一気に拡大しようとする。
『ダリア!』
 【マモン】に、ワイヤーが迫った。それを視界に捉えた星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)は、【アイビス・エクステンド】のプラズマライフルのトリガーを引いた。
 ワイヤーの先端部分が爆ぜる。
 だが、ほぼ同時にカールの機体にミサイルの集中砲火と、さらにワイヤーまでが繰り出されていた。
『ち……さすがに捌き切れねぇ!』
 その瞬間だ。
 一瞬だけ、光の筋が見えた――かと思えば、ワイヤーを切断し、さらにシールドをも貫いた。
『行け!』
 ダリアが一気にその部分にまで刃を伸ばした。
 最初に突破した部分が修復され始めている。急がなければ。
 【マモン】と入れ替わるようにして、二挺のプラズマライフルで【マリーエンケーファー?】を狙う。
『誰にも邪魔はさせん。さあ、撃て!』
 ちょうど【マモン】と【アイビス・エクステンド】が背中合わせの形となった。
「大人の男は背中で語るべきだ」
 彼女の背中を見てばかりはいられない。もういい加減、ダリアを超えなければ。
(アイビス、お前もリードされ続けるのは癪だろう? 行こうぜ、世代なんか関係ない、その先へ)
 そのための道を、今拓こう。
「覚醒めろ、アイビス!」
「覚醒めて、アイビス!」
 時禰 凜(ときね・りん)と同時に叫び、覚醒の「その上」を起動する。
 完全覚醒。
 ミサイルが迫るが、エナジーウィングの羽ばたきのような動きだけで、それらは誘爆した。
 そこから動かす度に舞う機晶エネルギーの粒子が、レーダーも赤外線をも乱しているらしい。それどころか、
「軽い……」
 空気の流れというものを一切感じない。自分自身が風として、空の一部であるような感覚。
 今なら敵からのどんな攻撃も当たる気がしない。
 シールドの内側に銃身が入る。そして、
「撃ち貫けええぇぇ!!!」
 超高速で撃ち出されたプラズマ弾が、マリーエンケーファーの機体に直撃した。
 そして爆発と共に大穴が開き、バランスを失った機体の高度が下がっていく。
「まだだ!」
 だが、だからといって完全に沈黙したわけではない。まだシールドは健在であり、バルカン砲も残っている。
 ビームキャノンから放たれたビームが【アイビス・エクステンド】に向かって飛んでくるが、それが途中でそれた。
 完全覚醒によって周囲の空間が乱れており、トリニティ・システムの完全覚醒による機晶エネルギーより出力が弱い攻撃は偏向させられるようだ。
 ふと見ると、また何者かの狙撃により、シールドが破られた。
『あれは、【レヴィアタン】のバスターライフル!』
『まさか、あれは枢機卿と一緒に沈んだはずだろ!?』
 智宏も、その機体のことは知っている。
『エルザ校長が海京に向かう際、回収したんだ。パイロットについては一切聞いていないが』
 ダリアがオープン回線で呼びかけた。
『所属不明機に告ぐ。何者だ?』
 それに対し、返答が来た。
『そうだな。「レベリオン」といったところか。今のところ、目的は同じだ』
『その【レヴィアタン】は?』
『さる友人を通じて使わせてもらっている』
 あのシスター・エルザのことだ、切り札として第三勢力に根回しをしていても不思議ではない。
『敵でなければ、今は問題はない。先程は助かった礼を言おう。協力、感謝する』
 そして突破口の見つかった【マリーエンケーファー?】へと一気に攻め込んだ。

* * *


「まさかあんな力を秘めているとは……なかなか面白いものを見させて頂きましたわ」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は【マリーエンケーファー?】の中からジェファルコンが完全覚醒を果たす瞬間を眺めていた。
「さて、真の力も発揮されたことですし、ノヴァ様との最終決戦へと向かいましょうか。貴方は最後まで戦われるのですか?」
 元F.R.A.G.第三特務に尋ねる。だが、沈黙を守ったままだ。
「……わざわざ聞く必要もありませんわね。それでは」
 地獄の天使で翼を生やし、【マリーエンケーファー?】に開いた風穴から飛び降りる。
 そして【ジズ】と【ナイチンゲール】が相対しているであろう、都市の最深部へと向かった。

* * *


『敵の機体が崩れたぜ。だが、このまま撃墜すると下の連中がヤバイ』
 【マリーエンケーファー?】に向かって、星小隊が飛び込んでいく。しかし、敵の機体を撃墜させるよりも先に、安全な海域まであの巨体を跳ね除けなければならない。
「F.R.A.G.の連中が頑張ってくれてるみたいだな。シールドに穴が開いたときがチャンスだ。サビク、あれやるぜ」
「やっぱり、今回もやるんだね、アレ」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)に、クルキアータがシールドに風穴開けた瞬間に突っ込むように指示した。
 覚醒状態になり、同じ小隊のブルースロートである【メテオライト】にエネルギーシールドを展開してもらう。
 そして穴が開いた瞬間――、
「いっけぇぇええええええ!!!」
 【マリーエンケーファー?】のマルチエネルギーシールドを突破した。そこに、バルカン砲の銃口が一斉に向く。
『星小隊全機へ。大穴開いてる今のうちに、一斉攻撃を掛けるぜ!』
 そこからさらに上、完全覚醒へと切り替える。
 【オルタナティブ13】がエナジーウィングでバルカンをガードしながら、速度を一切緩めずに敵の巨体へ飛び込む。
「この出力なら、こいつだって……!」
 そのまま【マリーエンケーファー?】に体当たり、ではなく両手を機体につけ、そのまま押し出していく。
 都市に墜落しない程度まで押し切ったところで、総攻撃だ。ギリギリ、小隊全機がシールドの内側に入っている。今しかチャンスはない。
『大吾、バルカンの砲台の位置は把握済み、照準補正も完了だよ!』
『よし、ここで誰か落とされたりしたら洒落にならないからな』
 【アペイリアー】がガトリングガンとミサイルポッドで弾幕を張り、【マリーエンケーファー?】の弾幕に対抗した。
 攻撃を阻害し、味方が確実に止めをさせるよう、援護を続ける。
『この戦いが終わったら、私……告白するんだ』
『それはせめてあれが墜ちてから言え』
『……あれ、オープン回線になってませんか?』
 マジックパック装備のプラヴァーがマジックカノンを放ち、ビームキャノンの砲台を破壊した。
 敵の攻撃手段がほとんど失われたタイミングで、
『信長、チャージは完了だ。今なら当たる』
『了解じゃ』
 【六天魔王】がヴリトラ砲を発射する。一度目こそマルチエネルギーシールドに阻まれたが、今度はその威力を発揮した。
 【マリーエンケーファー?】の円盤状の巨体がその半分以上を失い、動力炉の一つが破壊されたのか、次々と内部で誘爆していく。
 その残骸が、太平洋に降り注いだ。

 今度こそ、二度に渡ってシャンバラのイコン部隊を震撼させた【マリーエンケーファー】は、完全に消滅した。