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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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「結構みんなばらけていますわ」
 レーダーに写った僚機の位置と作戦ポイントを見比べながら、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)が宇都宮祥子に告げた。
「どうします。こっそりと離脱するのなら、今だと思いますが。どう見ても公的な依頼ではないみたいですし、このままイルミンにむかって、この部隊のことを通報するのも一つの手段ですが……」
「それじゃあ、バイト代が入らないじゃないの」
 すっぱりと宇都宮祥子が言い放った。
「だいたい、割のいい仕事ってのは、たいてい裏があるのよね。リスクを取るか、おまんまを取るか……。今の私たちに選択肢なんてないのよー」
 半ば、叫ぶように宇都宮祥子が言った。
 だいたいにして、S−01タイプのプラーティーン・フリューゲルの維持費だけでも大変なのである。贅沢は言っていられなかった。
 
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「やや遅れたか、まあ、むやみに突撃するよりも、臆病なぐらいの方が生還率は高いだろう」
 フリューゲルレーヴェFのコクピットの中で、月島悠が言った。
「だって、悠くんがもたもたしてるから……。さあ、さくっと終わらせちゃいましょうよ」
 ちょっと気楽……というよりは、さばさばと割り切った感じで、サブパイロット席の麻上 翼(まがみ・つばさ)が言った。
 だが、軽く言われたからと言って、イコンの操縦までもがお手軽になるわけではない。特に、可変型のIRR−S01Fは取り扱いが難しい。
「思いの外、ミーティングに時間がかかったのだ。それに、まだフリューゲルレーヴェFの性能を100%引き出せてはいない。慣熟訓練のつもりで、余裕を持った方がいいだろう。それに……」
 答えつつ、月島悠がちょっと口籠もった。
「大丈夫だよ。悠くんだったら、きっとうまくやれるでしょう?」
 いや、そういうことじゃないと言いかけて、とりあえず月島悠は口をつぐんだ。もともと正規軍以外を使う隠密行動の作戦など、100%まともであるはずがない。とはいえ、ずっと感じている違和感は、これは何に対してなのだろうか。
 
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「どうやら、ほとんど殿に位置したようであるな」
 イーグリット・アサルトタイプのフォイエルスパーのサブパイロット席で、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)に言った。
「いやあ、意外とミーティングが手間かかってもうてな。雇い主は謎やし、隊長さんも何やら焦げ臭いし、久しぶりに危ない橋かもしれんで。こういうときほど、慎重にやらんとあかん。でも、割はいいさかい、それなりの稼ぎにはなりまっしゃろ」
 軽く肩をすくめてから、大久保泰輔がさばさばと言った。
「死んだらそれまで……それは忘れるでないぞ。やられるときは一瞬であるのだからな」
「重々承知してまっせ。僕にでける範囲内で頑張るだけや」
 讃岐院顕仁に釘を刺されたが、大久保泰輔は稼ぐ気満々であった。
 
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「殿は、私たちと隊長機のようですね」
 ガーネットタイプのツィルニトラのメインパイロット席で瀬名 千鶴(せな・ちづる)が言った。
 もともと水中専用に特化しているガーネットは、空中が移動できるとは言え、それほどスピードが出るわけではない。基本的には、最後尾で損傷機の回収をメインとするつもりであった。これは、看護師でもあるテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンの意志でもある。
「単純に、建物と茨を壊すだけですめばいいのですけれど……」
 デウス・エクス・マーキナーの装甲の中から、ちょっとくぐもった声でテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンが言った。
「大丈夫。戦闘は、私がいたします。テレサちゃんは、部隊の様子に注意していてくださいね」
 トリガーを引く責任はすべて自分のものだと暗にほのめかしつつ、瀬名千鶴がデウス・エクス・マーキナーと軽く目配せをした。何かあれば、人の姿に戻ったデウス・エクス・マーキナーがテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンを危険な場所から連れ出してくれるだろう。二人にとっては、彼女こそがすべてであるのだから。
 彼女たちのイコンの後ろからは、ミキストリがバインダーから青白い光を発生させながら、周囲の大気を震わせて移動していた。
 
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「いってらっしゃーい。やりすぎないでよー。さて、そろそろこちらも移動しなくちゃ」
 先遣隊を見送ってから、リカイン・フェルマータは、自機であるイーグリットの方へとむかった。他の者たちも、順次出発の準備を整えている。
 人がいなくなるのを見計らうようにして、服部 保長(はっとり・やすなが)が、トレジャーセンスで周囲のイコンを索敵した。
 このキャンプに到着してから、傭兵たちのイコンはすべてチェックしてある。問題は、はたしてそれ以外のイコンが近くに存在しているかだ。
「いるでござるな……。一つ、二つ……九つ、十……。なんと、それがしらのイコン以外に、十機ものイコンがこの森に集まっているでござるか」
 さすがに、この数は意外であった。もっとも、遺跡にあるというイコンが反応したのかもしれないが、一応は各学校で公式に発表されたイコンのみをサーチした結果だ。遺跡の中にあるのが既製のイコンでなければ、これらは周囲に隠れているということになる。もちろん、偶然イルミンスールの森に何か理由があってやってきているイコンも含まれるだろうし、情報公開がないイコンはトレジャーセンスには反応しない。もちろん、イコンという曖昧なイメージだけで探索すれば分かるだろうが、傭兵部隊のイコンもすべて反応してしまい、個別識別は不可能になってしまう。
 とりあえず、常に最悪の状況は考えておくべきであろう。
「アルマインタイプが3機、焔虎、シパーヒー、イーグリット、アルジェナ、キラーラビット、センチネル、雷火……。はたして、どれが味方でどれが敵でござるか……」
 さらなる情報を閃崎静麻に報告すべく、服部保長は小型飛空艇に飛び乗って茨ドームへとむかった。
 
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「ふがー、ふが、ふんがー!!」
「はい、分かりました、フィス姉さん。発進準備ですね。アイ・ハブ・コントロール」
「ふがー、ふがー!!」
 イーグリットのメインパイロット席に座っている――いや、おかれているといった方がいいかもしれない――シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)にむかって、リカイン・フェルマータが一方的に言った。
 なにしろ、今のシルフィスティ・ロスヴァイセは布団で簀巻きにされ、グルグルと何重にも太いロープで縛られている。布団から飛び出しているのは、かろうじて頭だけという状態だ。その頭も、口にはタオルで猿轡がされていて唸ることしかできない。
 「もう、周囲がイコンイコンとうるさいので、そのうち人にイコンが乗るようになるわよ」などと訳の分からないことを口走り始めたシルフィスティ・ロスヴァイセを矯正するために、無理矢理イコンに乗せたまではよかったのだが、はたして、この荒療治は吉と出るのだろうか……。
「はいはい、茨ドームへとむかうんですね。了解しましたー」
 勝手に決めつけると、リカイン・フェルマータはゆっくりとイーグリットを移動させていった。
 
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「ふはははははは! さあ、ついに究極合身を試すときが来たのだよ。いけ、究極人造人間ヘスティアよ、合身せよ!」
 のりのりで、ドクター・ハデスがヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)を指さして命令した。
「はい、ちょ、ちょっと待ってくださいね……」
 のんびりしていたヘスティア・ウルカヌスが、あわてて横においておいた追加武装ユニットをよいしょっという感じで背負う。加速ブースターに、六連ミサイルポッドを三基、射出式のワイヤークローを一基装備したバックウエポンシステムだ。
「ええと、ちゃんとジョイント填まっていますよね?」
 背中のジョイントがちゃんと接続されたか気にして、ヘスティア・ウルカヌスが片足を引いて必死に後ろへと首を回しながら聞いた。
「どれ、まったく世話の焼ける……。よし、問題ない!」
 いちおう、ドクター・ハデスが確認する。
「さあ飛べ、ヘスティアクロスだ!」
「はい。えーいっ!!」
 ドクター・ハデスに命じられて、ヘスティア・ウルカヌスが空に飛びあがった。次に水平飛行に移ると、そばに立っていたクェイルタイプのイコン、戦神アレスの左肩に近づいた。戦神アレスの肩部の装甲が開き、マットレスが現れた。その上に、ポヨンとヘスティア・ウルカヌスが寝そべるように着陸する。すぐに、左右から何本ものパイプがのびてきて、BWSごとヘスティア・ウルカヌスを戦神アレスと接続した。
 ブンというコンデンサーの唸りが聞こえ、戦神アレスのゴーグル状のセンサーに光が点った。
「行きます!」
 ヘスティア・ウルカヌスが、戦神アレスを一歩進ませた。
「ちょっと待て!」
 あわててドクター・ハデスがそれを呼び止める。
「なんでしょう、御主人様……じゃなかった、ハデス博士」
「俺を忘れているであろう。早くコックピットを開くのだ!」
「あああ、すいません、すいません」
 ヘスティア・ウルカヌスはあわてて戦神アレスをしゃがませると、イコンの手でドクター・ハデスをコックピットまで運んだ。