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【Tears of Fate】part1: Lost in Memories

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【Tears of Fate】part1: Lost in Memories
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 クランジΠ(パイ)は最初、これを見送るつもりだった。
 先を急がねばならない。時間は限られているから。
 しかし、そこに桃色の髪の人物がいるとなれば話は別だ。パイは隠れていた場所から姿をあらわした。
「ええと、確か君は……」
 と話しかけようとするシェルドリルド・シザーズをかわして、パイは大黒美空の前に立った。
「あんた……ますますクシーに似てきたわね」
 クランジΠと大黒美空が再び出会った。
 雪山で遭遇して以来だ。
 だが現在の美空はあのときの美空とは違う。
「いや、クシーに回帰しつつあるというべきかしら? あたしはローみたいに博愛主義じゃないからクシーは嫌いだったけど、共闘するというのであれば手を組んでもいいわ」
 しかし、
「GO 2 Hell !!」
 黒衣黒帽、ピンクのロングヘアの美空は問答無用とばかりに、左腕の刀で斬りかかった。
「ちょ……何すんの! あんたクシーの頃より狂ってるんじゃない!?」
 相田なぶらも蔵部食人も、とっさにどう動けばいいのか決めかね動けなかった。土方伊織も凍り付いている。
 パイは塵殺寺院を裏切ったのではなかったか。
 大黒美空もまた、寺院から離脱して協力者になったのでは。
 その二人がなぜ争う。
「むじゅん……矛盾の、かいしょう……解消!」
 美空の剣が虚空に銀の軌跡を描く。回避に専念しながらパイも必死だ。少しでも反応が遅れれば切断されてしまうだろう。
「矛盾の解消……調和のために! 死になさい……死ね、クランジ!」
あんただってクランジでしょうに!
 純粋な戦闘能力ならば美空が上回るようだ。防戦一方のパイは足がもつれ転んでしまった。
 金属と金属がぶつかり合い、鼓膜を突き破るほど甲高い音を立てた。
 その音の余韻の残る仲、割って入った長身の男――東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は呼吸一つ乱さずに言った。
「……いいですか。私があなたを助けるのはミスティーアのためですからね」
 パイを振り返りもせず、猛禽類のような目で美空を牽制しながら雄軒は言った。
「お久しぶりです。ミスティーアが友達になりたいそうで、私は保護者として来ました。もう一度言いますが貴方のためではなく、貴方が死んだりしたらローが悲しむでしょうし、そうなったらミスティーアも悲しみますから、それを防ぐために来ただけです」
 美空はなにか言おうとするも二の句が継げなかった。
 黒く、重く、そして圧倒的な存在感が、雄軒の隣に影のようにそびえ立っていたからだ。
「……」
 バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)は言葉を話さない。されどそこにいるだけで、恐ろしいまでの威風を放っていた。
(「我は主の助力をするまで。それがΡを悲しませないためなら、我もそう動くまで」)
 ウォォォオオオオオン――バルトの分厚い装甲の内側から、地鳴りのような重低音が響いた。真っ黒な音だ。千のオーケストラが音を出したかのよう。それも、弦楽器も鍵盤も打楽器も一斉に!
 一触即発の緊張感が満ちるなか、良い意味でそれを砕いたのは雄軒のもう一人の同行者、ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)の明るさだった。
「Πちゃぁああああああああんカリスマが助けにきたわよぉぉぉぉおおおお!!」
 喜色満面でミスティーアはパイを助け起こすと、はっしとハグをしたのであった。
「あ、あんたなによ!? いまそういう場合じゃないってば!」
 放しなさいよとパイは身をよじるが、そうそう放すカリスマ(※自称だがミスティーアの別名)ではないのだ。
「お友達のピンチはこのカリスマが救ってみせるからね! そこの桃髪!」
 容赦しない、という口調でミスティーアは言った。
「おとなしく武器を収めるならよし、さもなくば、このカリスマがどうしてカリスマと崇め立てられているか思い知ることになるわよ!」
 櫛状の短剣をひゅんひゅんと回転させて威嚇するミスティーアなのだった。
「ソードブレイカーというのはそういう使い方をするものではなくて……いや、それはともかく」
 雄軒は紳士的な口調で美空に呼びかけた。
「あなたもクランジ、大黒美空でしょう? ここで退いてくれれば手打ちとしましょう。私にはあなたを破壊する理由がありませんし、それに」
 少し、間を置いて雄軒は続けたのである。
「あの雪山で出会ったクランジ……Λ(ラムダ)が最期に族を呼ぶ声が耳に残ってましてね。……知識を求めるために様々な事に手を染めた私が言うのも戯言ですか、気になるのですよ。あなたたちのことが」
 このとき、美空が下がるかと思いきや突進してきた。
 雄軒は身構え、バルトは防御姿勢、そしてミスティーアも反撃姿勢を取るが肩すかしに終わった。
「私には、人間や、非クランジの機晶姫と戦う理由はありません……いや、ない。決着は次だ」
 美空は彼らの横をすり抜けたのだった。
「自分が今倒すべきは混沌を導こうとする者……Θ(シータ)」
 捨て台詞と共に美空は逃れた。
 だがパイも黙って見逃すわけではない。
「待ちなさい!」
 ほんの数秒で大きく離された距離を埋めるべく、身を翻すや全力で走った。