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リアクション
対峙――両雄相見える
「結局、何だったんだ、こいつは……」
ラルクが眉を寄せて残骸を見やっていると「……駒みたいなもん、だ」と、月夜に支えられていた刀真が口を開いた。
「こいつ等自体には、意思はない」
「刀真さん、大人しくしていてください……っ」
白花が訴えたが、刀真は大丈夫だ、と青い顔のまま首を振った。恐ろしく体に力が入らないが、外傷はないため、痛みは無いらしかった。そんな刀真に、レキが眉を寄せながら問いを重ねる。
「じゃあ彼らの背後に、操っている存在があるってこと?」
「恐らくな」
刀真が頷くと、月夜がその肩を支えるのを手伝いながら、クローディスが口を開いた。
「考えるのは後だ。この秘宝が覚醒に必要だというなら急いでくれ」
「外の状況が芳しく無いようです。このまま暴走を続けさせるのは危険です」
ナッシングの撃退も早々に、焦りの見え隠れするクローディスの言葉に、マリーから外の様子の連絡を受けて白竜が添ええる。小型龍の破壊が成功し、徐々に戦線を覆しつつあるとはいえ、契約者たちの体力的な面での負担も大きく、その上、突入者達のことを考慮して、派手に攻撃を加えられないことが災いしてか、足を失ったはずの遺跡が、その進路をずるずるとエリュシオン側へ向け始めていると言うのだ。そのため「本来ならしっかりと調査をしてから、としたいところだが」と言いながらもクローディスは、台座をセルウスに譲った。
「よおし……」
皆の視線を一身に浴び、巨大な心臓を模したと思われる台座の上へと上がったセルウスが、ごくりと喉を鳴らしながら、そうっとその秘宝に触れると、突然。キイイイイ……ッ、と遺跡全体へと超音波のようなものが鳴り響いた。
「わぁああっ!?」
その発生源に最も近いセルウスのあげた悲鳴に呼応するように、心臓部にはめ込まれた秘宝は唸りを上げ、遺跡が揺さぶられる。足元の細かい振動に祥子は顔色を変える。
「セルウスっ」
どうしたのか、大丈夫なのか、と問うその声に、顔色を変えたセルウスが助けを求めるように祥子たちを向いたが、下手に手を出してよいものか判断つきかね、誰もがとっさにはその場を動けなかった。警戒していた翔一朗と、傍にいたトマスが、辛うじてその小さな体が台座から投げ出されないように支えられるぐらいだ。
「だ、だめだ、言うこと聞かないんだよ……っ」
セルウスが弱気な声を上げるたび、直接頭に響くような超音波と、変動する足元の感覚にグラキエスが眉を寄せた。
「揺れが酷くなっている……精神状態が影響を与えているのか」
その感覚は皆共通のようで、遺跡が暴れるほど焦りを深めるセルウスに、皆が落ち着かせるように次々と声をかけた。
「大丈夫だよっ、皆ついてるから落ち着いて!」
「そうだ、まず深呼吸をしたまえ、セルウス君」
美羽が言い、アルツールが指示するのに、頷いてセルウスが大きく深呼吸を繰り返し始めると、僅かではあるが遺跡の振動も弱くなる。そうして、セルウスが少しずつ、少しずつ焦りを鎮めようとしていた、その時だ。
「危ない……っ!」
叫んだのは誰だったのか。ルカルカが咄嗟にその瞬間的な跳躍でセルウスを突き飛ばすようにしてその場から引き剥がし、危険を察知した面々が飛び離れ、或いは仲間たちを庇ったその瞬間。ドォンッ、という凄まじい轟音と共に、遺跡の天井が爆破されたかのように砕け、土煙と瓦礫が遺跡に吹き荒れた。
「……な、何……!?」
尻餅をついて、遺跡に開けられた穴をぼうぜんと見上げるセルウスの前に「それ」は身じろいでその姿を現した。
「――ふん。随分とあっけないものだな」
砂埃が晴れた中にあったのは、遺跡に心臓部とも言えるその台座を、その拳と体で押し潰している巨体、ブリアレオスと、その肩に悠々と腰掛けた荒野の王だ。あれほどの硬度を持つ遺跡を貫いた拳の力だ。積み木でも壊したかのように、秘宝が嵌っていた台座は無残に砕かれた台座を睥睨する荒野の王に、祥子はぎっと殺気すら篭った目で見上げた。
「何てことを……!」
だが、向けられるいくつもの敵意を風程にも感じた様子もなく、荒野の王は理解できない、とばかりに肩を竦めた。
「感謝されこそすれ、そのように非難を受ける筋合いは無い」
「な……っ!?」
憤る面々に、荒野の王は嘲笑するように鼻を鳴らし、芝居がかった大げさな仕草で遺跡をぐるりと見回した。
「判らないか。この遺跡は既に狂い、地脈を乱す存在と成り果てた。我がエリュシオンに少しの被害も出る前に潰しておくのは道理だろう?」
馬鹿にしたような口調ではあるが、一理ある。ぐっと言葉に詰まる一同の前で、荒野の王は更に続けた。
「余は次期皇帝として、エリュシオンの危機を救う義務があるのだ。貴様等には申し訳ないとは思うが、帝国の民の命を思えば、遺跡の破壊もやむなしと理解いただけるであろう」
「なら、この秘宝は我々が預かっても構わないな?」
そんな荒野の王の口上に、口を挟んだのはクローディスだ。さりげなく台座に近付くと、ぎりぎりのところで破壊を免れた秘宝に触れた。何も起こらない所を見ると、本当に台座の破壊と共に沈黙してしまったようだ。それに眉を寄せながらも、クローディスは続ける。
「遺跡が沈黙した今、これはただの秘宝に過ぎない。我々調査団は、この遺跡が”暴走した原因”を究明するのが仕事なのでな。そのためにはこれを持ち帰る必要がある」
「シャンバラ教導団、氏無大尉からも、秘宝を持ち帰るよう、指示が下りました」
その言葉に添えるように、トマスが続ける。
「この遺跡が、各地のアンデット事件に関わっている可能性があります。貴国としても、その原因を解明する必要があるはず。遺跡類の扱いに長けた調査団の同行する我々が、一端預からせていただきます」
並べたのは本音半分、奪取や破壊を防ぐための建前半分、と言ったところだ。個人ならいざ知らず、国の立場を持ち出すなら強行には出られないはず、と考えてのことだ。その意図も恐らく悟っているだろうが、荒野の王は僅かに目を細めただけで、ことさら反論するでもなく「いいだろう」と頷いて見せた。
しかし、それで安堵するにはまだ、早かった。
「だが……それは、ここを生きて出られたら、であろう?」
言って、荒野の王は薄く笑うと指を鳴らし、ブリアレオスがその肩を動かした。
「……っ、頼む!」
足元への急激な振動に、咄嗟に投げたクローディスの視線を受け、ミカエラが飛び込んで秘宝を抱え込んだが、そこまでだった。台座にめり込むようにして埋まっていたブリアレオスは、クローディスの乗っていた瓦礫ごと腕を振り上げたのだ。幸い、秘宝を守って地面を転がったミカエラには、パワードスーツのおかげでダメージもなく、ブリアレオスの腕に乗ったままのクローディスも、咄嗟に体を支えて事なきを得たようだった。ぱらぱらと砕けた瓦礫が落ちてくるのを払いながら、白竜は荒野の王を見上げて眉を寄せた。
「……何のつもりです」
「人聞きが悪いな。一般人の救護だ」
何を、と問い質そうとしたのと同時、まるでその回答を示すようにして、先ほどのそれとは違う、遺跡が内側から身震いするような振動に、一同は不吉なものを感じてその顔色を変えた。この振動はただ事ではない。そう思った瞬間、ビキビキと音を立てて、台座のあった場所から、床へ天井へと亀裂が広がりはじめた。そう――遺跡が崩壊を始めたのだ。
身構える契約者たちを見下ろし、一応はブリアレオスの腕でクローディスを庇うようにしながら、荒野の王はくっと喉を笑わせた。
「生憎と、ブリアレオスは救助用ではないのでな。貴様等は強者と名高いシャンバラの”契約者”なのだろう? ならば自分の身は自分で守れる筈だ」
挑発的にそう言いやると、再び鳴った指の合図を受けて、ブリアレオスがぐっと体を屈めて跳躍の体勢を取り始める。その肩で外套を揺らしながら、荒野の王は睥睨するようにセルウスを見やり、口の端をあげた。
「貴様も、仮にも余と並ぶ皇帝候補を名乗るのであれば、よもやこの程度で終わりはせんだろうな?」
言い残し、荒野の王はブリアレオスと共に、崩壊を始める遺跡から遠ざかっていったのだった。
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