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星影さやかな夜に 第三回

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星影さやかな夜に 第三回

リアクション

 詰め所前ではアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)と戦闘をしていた。
 フェイミィは焦れったそうに奥歯を噛む。

「この〜……! さっきからチョロチョロしやがって……!」
「悪く思わないで欲しいですね」

 ファンドラは特に悪びれた様子もない口調で槍を握り直すと、フェイミィに向けて思いっきり突いた。
 フェイミィは両手で握りしめている斧をフルスイングすると、槍はあっさりと吹き飛ばされ、ファンドラは体勢を崩すがその後ろで控えていたアルミナが火術でカバーに入る。

「うおっ!?」

 目の前に近づく炎にフェイミィは転がるようにして回避すると二人から距離を取った。

「うう〜ん……惜しい」

 アルミナは呟きながらファンドラの横に並び立つ。

「惜しいじゃねえよ! さっきからいいところで割り込みやがって!」
「だって、それがボクの役割だもん」
「繰り返しになりますが、悪く思わないで欲しいですね」

 フェイミィは面白くなさそうに鼻を鳴らすと地面に斧を突き刺した。

「そうかい、なら。こっちも本気出すから後悔すんなよ?」

 にやりと笑うと、フェイミィは全身に力を込める。
 急速に膨れあがる威圧感に二人の本能は警鐘を鳴らし、突撃よりも先に身構えることを選択させていた。

「……行くぞ!」

 フェイミィは斧を片手で握りしめると、軽々と振り上げてファンドラに向けて全力で振り下ろす。

「っ!」

 斧の勢いに気圧されて、ファンドラはバックステップでそれをかわす。斧は地面に直撃すると、まるで爆発でもしたように地面がえぐれて破片が周囲に飛び散った。

「この〜! 馬鹿力!」

 アルミナは再び火術を放つが、フェイミィは斧を振るって炎をかき消した。

「アルミナ! もう、人数で優勢と考えず全力でやりますよ!」
「うん! 油断してたらこっちがやられちゃうもんね!」

 全力のフェイミィに対して、二人も本気の姿勢で突撃を開始する。
 三人の死闘はしばらく続くことになった。

 ――――――――――

 詰め所の中ではヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が従者達に指示を出していた。

「あなたたちは消火活動!」
「はっ!」
「残りはけが人の運搬!」
「了解しました!」

 従者達はきびきびとした動きで指示通りに動いているが、ヘリワードは歯がゆそうな顔をする。

(全然人数が足りない……! このままじゃこっちも保たないかも)

 動揺を見せないように動作を極力少なくはしているが、ヘリワードの手は自然と額を押さえてしまう。
 そんなギリギリな状態を見つめているユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)は、ヘリワードに声をかけた。

「ヘリワード。一箇所に、負傷者を集めていただけますか?」
「いいけど……何をする気よ?」
「あたしの魔法で一気に治します」
「はぁ!?」

 ヘリワードは目を丸くし、そして目くじらを立てながら、ユーベルに詰め寄った。

「なに考えてんのよ、ユーベル! この建物に何十人の負傷者が居ると思ってるの! 先に魔力が尽きるに決まってるじゃない!」
「あたしには聖霊の力があります」
「それでもよ! 一人で手に負えるような人数じゃないわ!」
「心配ご無用ですわ」

 ユーベルは優しい声で、だが力強く言い切った。
 迷いのない声音にヘリワードは一度険しい顔をすると、何かを諦めたように従者たちへと指示を出した。

「けが人の運搬に行った者は速やかにユーベルの前に集めて!」
「はっ!」

 従者たちは指示に素早く従ってユーベルたちの前にけが人を集め始めた。

「信じるわよ……」
「ええ、信じてください」

 ユーベルは優しく微笑むと、けが人が全て集まるまでの間、精神を集中させるべく目を瞑り続けた。

 ――――――――――

 詰所奥。
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は誰にも気づかれずに建物の奥へと潜入していた。
 目的は警備隊の所持している情報の破壊とリュカの奪取。

「ふむ……どうやら、資料はこの辺りにありそうじゃな」

 刹那は周囲を見渡すと、そこらに重要そうに保管されているファイルがいくつか確認できた。
 本当なら燃やして立ち去れば済む話だが、情報を破壊した後でリュカを奪取せねばならず、この作業にも隠密性が重要になってくる。
 だが、

「そこで何をしているのかしら?」

 同じく詰め所奥へとやってきたリネンが刹那に声をかける。

(油断したか……まあ、仲間を呼んだ様子もないし、まだ慌てることも無かろう)

 リネンに見つかり目的の達成が困難になったにも関わらず、刹那は汗一つかかずにリネンから隙を引き出そうと声をかけた。

「そなたらが仕掛けた時計塔の企ても失敗したのじゃ。
 さすれば、時計塔の交渉も期待は出来ないじゃろう」
「…………」
「彦星はずぶの素人じゃ。戦闘などには今まで関わりが薄い。
 そんな少年に、多くの命が双肩にかかり……また、当初の予定通り進めないとなると――」
「……あははっ」

 刹那の言葉を遮り、リネンが笑い出した。

「やっぱりまだまだ子供だね、辿楼院は」
「……どういう意味じゃ」
「そのまんまの意味よ。経験がまだ浅いね」

 小馬鹿にするようなリネンの言葉に刹那は顔をしかめる。

「わらわが経験不足なら、そなたは妄想過多のようじゃのう。あの非力な男にどんな妄想を抱いておるのやら」
「それは見た目の話でしょ? 辿楼院は明人の中身を見てないからそう思ってしまうのよ」
「……中身?」
「人の強さは意思に比例するわ。
 その点に関して、明人は今回の事件で最も強い意思を持っていると私は思う」

 リネンは続く言葉を、どこまでも真っ直ぐに言い切った。

「だから、明人は負けないわ」
「意思の強さなど、状況一つでどうにでもなるわ。一瞬でも誰かに気圧される事があれば、たちまち喉笛をかみ切られるじゃろうて」
「本当にそうかな? それじゃあ、見せてあげるよ。……人を動かす意思の力ってやつを」
「ふむ……わらわの意思がそなたを凌駕するとは考えられなかったのかのう……悲しいことじゃ!」

 刹那は一歩でリネンとの間合いを詰めると、毒虫の群れを放ち、リネンも迎撃の態勢をとった。