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リアクション
パラ実校舎の運命1
一方こちらは廃棄実験体に乗っ取られた巨大インテグラル――パラ実校舎――である。周囲にうんかの如くまといつくゴーストイコンを気にする風もなく、アイールの街の方向へ、がむしゃらに進んでいる。生徒たちが出てゴーストイコンを迎撃しているが、このまま進めばアイールの街に突っ込んでしまう。そうなれば街を守備している契約者たちはこの校舎を破壊してでも止めなくてはならないだろう。国頭 武尊(くにがみ・たける)は急遽集まった対策メンバーたちと対策を提案し合っていた。
「実験体が同化したって場所は、恐らくイレイザーの核があった場所だろう。
巨大イレイザーと同化した実験体との意思疎通は通常の方法では無理かもしれん。
だが“ヒトガタ”の細胞を用いて造られた特殊なパイロットスーツ着用していればちょっとは違うかもしれない。
巨大イレイザーは機晶制御装置は埋め込まれたインテグラル・ナイトとは別物だが……。
実験体の目的が“ヒトガタ”との接触と言う可能性もある。
パイロットスーツを着用した状態で、巨大イレイザーと同化した実験体に触れテレパシーで語りかてみたらどうだろうか?
オレはアクリトの元に迷彩塗装したUFOに乗って行ってくる。
こっちのことはシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)に任せた。随時テレパシーで連絡を取ろう」
「うん、こっちは任せて」
シーリルが応える。武尊がドンと拳でテーブルを叩いた。
「全く無駄かもしれないが、試してみる価値はある。折角作った分校をぶっ壊されてたまるか」
ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が腕組みをする。
「ヒトガタが標的というより強い力の波長のある方向に進んでいるだけのような気もするが……。
出来れば核と融合した実験体を殺したくはない。
実験体の狙いがヒトガタと考えて、校舎の核ごと実験体を破壊しようとする侵入者がいるやも知れない。
傭兵達に最深部の核の護衛をさせよう」
弁天屋 菊(べんてんや・きく)が
「盗んだ校舎で走り出す〜♪ なんて暢気に歌ってる場合じゃねぇよな。
ったく、校舎ごと万引きされるとは思わなかったぜ。
校舎がゴーストイコンの群れに破壊される前に、ユーターンさせたいところだけど、実験体を拝んでも戻ってくれないだろうしなぁ……。
酒と食い物で懐柔できないかな。あたしはそっちの方で動いてみるよ」
ジャジラッドが頷く。
「考え付く限りの手を使ってみるべきだろう。
オレは道中のゴーストイコンを倒して、それで校舎を増築、強化させてみよう。
実験体にヒトガタを乗せた輸送船に手を出すのはまずい、校舎の増設強化で我慢できないか説得してみる。
核を破壊すればその場で棒立ち、格好の的になるだろうし、今はとにかくヤツを破壊する事は出来ん。
なんとかして実験体を説得する以外に方法はない」
何はともあれ、全員一致で実験体の説得に当たるという形に落ち着いた。あとは行動あるのみだ。武尊は趣旨をアクリトに伝え、パイロットスーツを借りに文字通りアクリトの元へと飛んだ。ジャッジラッドはまず、サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)の商人の切り札を使い、アルキメデスの投石機でゴーストイコンに背中の遺跡から岩や破損した建物を構成していた石材をぶつけ、撃墜を試みる。頭部や胸部に何度かヒットすると、ゴーストイコンは機能を停止して落下する。ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)はドラゴネット、ギギ ガガに変身してゴーストイコンと闘い、落下する機体を校舎に運ぶ。それを使ってジャッジラッドが生徒たちと協力して校舎の破損箇所や弱そうな場所を強化してゆく。菊は『ニルヴァーナのいきものずかん』など、以前見つかった書籍の中に食べ物の記述がないか探してみたが、データも完全ではないものを加筆したものなので、見つからない。
「仕方ない」
パラ実の罵威汚腐乱闘で精製する99.9%の燃料用のエタノールを酒代わりに手に入れ、パラ実農場の穀類と、第弌養魚場で取れた魚介類を生の切り身、すり身、茹でたもの、揚げ物とさまざまに加工してみる。
「実験体は人とは違うし、ひょっとしたらどれか好みに合うかもしれない……いや、合ってくれ!」
料理と酒――というより精製エタノール――をカートに乗せた菊は、シーリル、傭兵隊とアイアンハンターを引き連れ、コアの現状確認に向かった。もともと実験体はカプセルに入ったままコアのあった場所に近い夜露死苦機械犬ニルヴァーナ分室の研究開発室におかれていたものである。シーリルはまず、本体との接触前に研究員から話も聞こうと考えていた。研究開発室にと到着すると、当日のいた研究員で何か目撃したものはいないか聞き取り調査を行った。だが、研究室から皆が引き上げた後、何かが起きたようで直接の目撃者はいない。
「うーん、校舎が動き始めてからここを見て気がついたわけね」
「そうです、カプセルが破損して、中の液体が床に全て流れていました。
わずかに残った液の成分は調べてみたんですがアミノ酸などの複合蛋白の溶液のようでした。
量が少なすぎて、それ以上の細かい分析は出来なかったんですが。どうも……あの生き物は羽化したようです」
「羽化?」
割れたカプセルはそのまま、大型の容器に入れられて保管されていた。その中にクシャクシャになった黒い薄皮のようなものが縮こまっていた。どうやらあの実験体の抜け殻らしい。
「こりゃあ、実地にあとは見てみるしかないねぇ」
菊が言った。
アイールの街の危機と知り、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)と共に出撃していた。バグベアードは漆黒の球体のの真ん中に一つ目、体(?)の各所から細い触手が生えている。触手の中には何故か、一本だけUSBケーブルが混じっている。
「星心招来! 星怪球バグベアード! 星心合体ベアド・ハーティオンとして一体化し、出撃だ。
星心合体!! ベアド・ハーティオン推参ッ!」
夢宮 未来(ゆめみや・みらい)は父、星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)と、ハーティオンに元気良く声をかける。
「おとーさん、ハーティオンさん! いってらっしゃーい!
あーあ。イコンじゃなければあたしも一緒に戦えるんだけどなー」
「ヨーシ、未来ニ イイトコミセルゾー!
オソイクル ゴーストイコンヲ チギッテハナゲ チギッテハナゲ ノ ダイカツヤクダー!」
バグベアードが未来に返す。今回イコン戦のためお留守番だが、このアクション読者に向かってのアピールを忘れないラブ・リトル(らぶ・りとる)が、歌うように言う。
「はろはろ〜ん♪
蒼空学園のNo1アイドルにしてニルヴァーナでも最強アイドルのラブちゃんよ〜♪
……て言っても、今回は出番ないかな〜。
ゴーストイコン相手に歌ってもいいんだけど、絶対あいつら歌きかなそうだし。
……いや、チョット待って? むしろ話を聞くわけも無い敵に歌を聞かせて戦いを収める方が歌姫っぽい……?
……くっ!ついていくべきだったかしら?」
アイドルとしての活動に余念がないラブに、未来が言う。
「でも、あたし達もあたし達でやれる事をしなきゃだよね、ラブちゃん!
まずは一生懸命おとーさん達を応援しよう! フレー!フレーおとーさん! ほら、ラブちゃんも一緒に!」
そのとき、ラブは後ろの契約者たちがあわてた様子で話しているのを聞いた。
「はあ?!パラ実の分校が突っ込んでくる?!何よそれー?!」
「えええーーー?! ど、ど、どうしようラブちゃん?!
お、落ち着かないとだめ? そ、そうだよね?! まずは落ち着いてトカゲを丸焼きにして!」
全然落ち着いていない未来である。ラブがクールに突っ込む。
「とにかく、ハーティオンたちにこのことを伝えないと!
今回あたしたち、それしか出番ないんだからね!」
そ、そうだね! お父さん達にこの事を! あ、あたしテレパシーでお父さんたちに伝えるッ!」
未来は意識を集中し、テレパシーを送った。
『おとーさん! ハーティオンさん! 聞こえますか?!』
そのころハーティオンらは街の周辺を飛び回るゴーストイコンめがけて攻撃を行っていた。
「ハートビートキャノン!」
エアブラスターを掛け声と共にゴーストイコンめがけて炸裂させる。そこに未来からのテレパシー通話が届く。
「さあこい! ゴーストイコンよ! 好き勝手にはさせんぞ!
……む、どうした未来? ……なんだと?!
パラ実分校でもある巨大イレイザーが、この戦場に向かっているというのか?!
いかん!
このままではここが大混乱になるだけではなく、校舎も戦闘に巻き込まれて校舎・生徒共に被害が及ぶかもしれん!
かくなる上は……!」
何かを決意し、星心合体ベアド・ハーティオンは町を飛び立ち、パラ実校舎に向かった。リカインとシルフィスティもあとに続く。
「パラ実校舎を横から押して、軌道を僅かにでもずらす!」
ハーティオンの機体が横手から校舎に取り付き、進路を変えようと力をこめる。
「ハーティオンヨ、ムリムリ。 コンナデカイノ オセルワケガナイ。ヤメヨ ヤメ……」
バグベアードの制止をハーティオンは聞いちゃいない。
『ぬおおお!フルパワーッ!!』
ハーティオンの胸のハート・クリスタルが強く光り輝く。――がそれ自体に特別な力は、ない。
「オオオオ!? コ、コノ ハーティオンノ タカマリハ?!
ハート・クリスタルカラ チカラガナガコレンデクル! ゼンカイ……パワーゼンカイッ!」
バグベアードが叫んで、ヴィサルガ・イヴァを発動させる。星心合体ベアド・ハーティオンが光に包まれた。だが……その力を持ってしても巨大イレイザーの歩みは揺るがない。
「く、フルパワーでもビクともせんか……!
だが、例え無駄だとしても最後まで諦めはしないぞ!
巨大イレイザーよ、君の中にいる人々を守るため……どうか道を逸れてくれ!」
正面にまわりこみ、ひたすら後方に押してみる。星心合体ベアド・ハーティオンを押し出すようにしながら、巨大イレイザーは歩いてゆく。
シルフィスが不敵笑いを浮かべた。
「楽しいイコン狩りを邪魔してくれるならしかたない、エンド・オブ・ウォーズで抜け殻になってもらおう」
そう言って、巨大イコン頭部に片手を当て、エンド・オブ・ウォーズを発動した。だが、歩みは止まらない。シルフィスがキレた様子なのをリカインが察した。
「止まらないってことは……戦意がないってこと? それともでか過ぎて効かないのかな……。
とりあえず、今はフィス姉さんをとめなきゃね」
滅技・龍気砲をパラ実校舎に群がるゴーストイコンともども、シルフィスを的確にを巻き込むように撃つ。シルフィスが爆炎に巻き込まれて落下、ハーティオンがそれを受け止め、校舎の救護班に手渡す。
「これでフィス姉さんはよし」
リカインも校舎に向かって魂の共鳴で足止めを狙ってみるが、足取りの鈍る様子はない。あきらめて周囲のゴーストイコンの始末に戻る。
アクリトの戦艦はリア・レオニス(りあ・れおにす)がパートナー、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)のサクロサンクトで厳重に保護されていた。ヒトガタへのコンタクトもリアはさまざまな方法で試みてみたのだが、レナトゥスと面差しの良く似たヒトガタには、何の反応もなかった。アクリトが言う。
「私も試してはみたが、反応は得られなかった。
おそらくレナトゥスのように特殊なスポーンなのだろうが、“違った役目”を持ったものなのだろう。
レナトゥスと何かしら繋がりを持っているのは間違いなさそうだが……」
リアはシュッツァーに機乗し、甲板からゴーストイコンを迎撃していた。サブパイロットのレムテネルが言う。
「こちらは中継基地の迎撃範囲内に入りましたね。
ですが……パラ実の校舎がアイールの街に向かっているとか。例の謎のイコンもパラ実の校舎周辺に向かったようです」
「なんだと? では今度は街が危ないのか」
「あのイコンの迎撃部隊の攻撃も全く通らなかったようですしね」
「それはまずいな。様子を見に行こう」
遠目からパラ実の校舎の動きを観察し、何を目標として動いてきているかを考察する。ヒトガタを目指してるのだろうかとも思ったが、すでに校舎の進路とアイールを結ぶ線上に戦艦はない。パラ実の校舎は飛行移動はできないようだ。
「パラ実校舎の目標物が何か分かれば、それを活用して校舎をうまくあしらえるのではと思うのですが」
レムテネルが言う。だが、ただただ校舎は街の方向へ向かって歩いてゆくだけだ。
「この針路で進んだ場合、どこにつく?」
リアがふと尋ねた。レムテネルがマップを調べる。
「夕日海、ですね」
「……海か」
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