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【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

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【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

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【鏡の国の戦争・空港1】




「目標を射程内に確認、これより砲撃を開始する」
 フランソワ・ポール・ブリュイ(ふらんそわ・ぽーるぶりゅい)のその宣言を持って、空港におけるアルダ・ザリス軍との戦火は切って落とされた。
 誰よりも早く、誰よりも遠くの敵軍に対する水上艦隊の旗艦を担当するのは巡洋戦艦 アルザスである。
 アルザスに連なるのは、何も契約者達だけではない。この空港を奪い返すために共に戦った海上自衛隊の艦船も、砲撃に参加していた。最も、彼らは司令級と同等と目されるアルダ・ザリスに接近されれば、ほぼ成す術なく轟沈させられてしまうだろう。もしも本格的に接近されるようであれば、彼らはいち早く離脱させなければならない。その判断は、フランソワに預けられている。
「これに怖気づいて帰ってくれればいいのですがな、期待はできんでしょう」
 海上から、陸地に向けての砲撃の効果は絶大だ。地上部隊はほとんど海上の船舶に抵抗する手段を持たず、一方的に蹂躙されるからだ。最も、今はその役目は航空機に取られているが、だからといって海上砲撃の威力が低下したわけではない。
 各艦の砲撃は、当初は絶大な効果を示した。当初は、とつくのはすぐに金 麦子(きん・むぎこ)黒乃 音子(くろの・ねこ)からこう報告があったからだ。
「だめだ、どんどん当たらなくなってる」
「まるで着弾地点がわかってみるみたいに、さっと引いてくの」
 上空から見ると、その動きは奇妙かつ機能的だ。
 こちらの砲塔が火を噴いた瞬間、着弾地点からさっとアルダは離れていくのだ。距離を取ってみれば、それは小さな魚の群れが捕食者の突撃を避ける様に似ている。
「完全に回避できるようですかな?」
「逃げ切れないのはいるみたいだけど」
 歯切れの悪い返答をする音子。
「では、続けましょう。なに、こちらの砲弾一発と、彼らの価値を考えれば安いものです。全く当たらなくなれば、また別の手段を考える必要もあるかもしれませんがね」
 アルダの戦闘力が、司令級と同等というのが事実であれば、砲弾一発で一体でも仕留められれば十分な戦果だろう。接近されてしまえば、もはや主砲で狙うのは不可能なのだ。当たるうちに撃ってしまうのは、間違った判断ではない。
 そうした会話を艦橋で行ってる最中、フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)は甲板に出て空を見上げていた。
 その視線の先にはたった今発艦したアウクトール・ブラキウムシルフィード、アンズーとコームラントの背中があった。
 フランソワはすぐに視線を外し、振り返って黒豹軽竜騎兵小隊と黒子の隊員を見やった。
「まだ終わりではないぞ、みんなすぐにお腹を空かして帰ってくる。補給を素早くするため、我らは今から戦場に突入するでござる」

 空港防衛部隊、最前線の一番槍を努めたのは騎神剣帝、朝霧 垂(あさぎり・しづり)ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)駆る黒麒麟紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)操る魂剛を騎乗させたものだ。
「エクス、垂、ライゼ……悪いが付き合ってくれよ」
 朝日が視界を遠くまで広げ、敵の姿をその目に映す。
「何を今更」
「張り詰めたよい空気だ。こういうのは悪くない」
「僕達が負けるわけ無いもん、大丈夫だよ」
 唯斗はその言葉に、僅かに口元を緩めた。
「……。さぁ、騎神剣帝、推して参る! 司令級だろうが何だろうが叩き斬るのみ!」
 等間隔で並び、一糸乱れぬ動きで近づいてくるアルダの群れは、騎神剣帝は小さな粒の集まりに見える。そこへ、小細工無く騎神剣帝は駆ける。
「ここがお前らの分水嶺だ! 退くなら良い、だが来るならば命を貰う!」
 アルダの群れは答えない。淡々と進む。
 駆け出して、騎神剣帝はすぐに最高速度に達し、そのままアルダの群れへ飛び込んだ。
 その様は、巨大な怪獣が人々を蹂躙するように見えた。だが、見えるだけだ。駆け抜け、デュランダルで敵をなぎ払い、嵐の儀式で敵を打ち払い、魂剛の剣がアルダを崩していくも、その実繊細で忙しい攻防が繰り広げられていた。
「またも取り付かれた、エナジーバーストで弾き飛ばしてくれ」
「あいよ!」
「足にしがみついているのがいるよ」
「離れろ!」
「木葉みたいに飛ぶのかよ」
 走って走って、騎神剣帝はアルダの陣を飛び出した。そこで反転し、敵を見る。全体の動きは止まりはせず淡々と空港に向かっている。どれだけ被害を与えたかは、死体も存命のも黒いうえに数が多いので、ぱっと見ただけではわからない。それに、海上からの援護射撃もあって、吹き飛ばした分はもはや誰の戦果かわからないだろう。
「暢気に数を数えてるわけにもいかねぇよな」
 再び、騎神剣帝が走り出す。今度はアルダの背中から、同じように突撃した。
 この二度目の突撃を、上空から支援援護していた指揮下のイーグリッドは突然騎神剣帝が空に飛び上がったのに驚きの声を漏らした。
 空中に飛び上がってから、エナジーバーストで取り付いていたアルダを振り払い、滞空する。部下達は何事がわからず呆然としたが、間もなく騎神剣帝が握っていたはずのデュランダルが無い事に気が付いた。もっと目端の利く隊員は、デュランダルを握っていた手の親指が、ありえない方向に曲がっていた事にも気付く事ができた。
「機体をぶっこわせる火力が出せないなら、これか」
「なるほど、単に威圧目的で同じ姿をしているわけでもない、という事なのだな」
「ちっちゃいのしかいないのかと思ったけど、これなら退屈だけはしなさそうだな。行くぜ!」

「私のマスティマ、今どこにあるのかしらねぇ?」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)はイーグリッドを見上げながらそう零した。
 こちらに呼び寄せていたはずのイコンが何かの手違いで届かず、代わりにとこのプラヴァーが宛がわれたのである。一応第二世代機とはいえ、ロールアウトしたばかりのような状態では、武装も使い勝手もよろしくない。仕方ないので、見えないように空港に貯蓄してあった爆弾を設置して、人型機雷として空港の外に配置した。
 他にも地雷を仕掛けたりと準備を整え、アルダの群れを出迎えるに至った。
 戦いが始まった事を告げたのは、海上からの砲撃の音、それに続いて飛び出していったイコン部隊だ。
「それがしの声は聞こえるでござるか?」
 後方で部隊指揮の手伝いをしているスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)が通信が入る。
「聞こえてるわよ」
「妨害電波などは無いようでござるな。では、まず砲撃地点の情報を送るでござる。地図の色が違う地点は船の支援砲撃の対象であるが故、努々立ち入らぬよう徹底してくだされ」
「了解」
 送られてきた地図は、作戦前に配られたものと一緒だ。少し違うのは、実際の着弾した際の被害のデータが取れた事により、若干詳細になっている事だろう。
「ところで、随分と外の音が聞こえるようでござるが……本当にプラヴァーを機雷にしたのでござるか?」
「したわよ?」
「動かないイコンを置いて意味があるのでござろうか……」
 スベシアの疑問は、案外あっさり解決した。
 アルダのうちの、少数ではあるが進軍ルートから外れ、さっそくプラヴァーにへと向かっていったのを彩羽がその目で確認したからだ。
「効果抜群みたい。誘引剤みたいに寄ってくわよ」
「なんと!」
「こっちもそろそろ忙しくなるから、何かあったら連絡頂戴」
「承った。では、後ほど」

「今です!」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)がそう叫んだ瞬間、彼の指揮する焔虎隊六機は、彼の乗る龍王丸に向かって、一斉にバズーカを発射した。
「ぐぅっ!」
「んっ!」
 小次郎、リース・バーロット(りーす・ばーろっと)はそれぞれバズーカの衝撃に耐える。当然龍王丸にダメージもあるが、これによって最も被害を受けたのは、アリ塚のアリのようにこの機体にたかっていたアルダの方だ。
 全てのバズーカの弾が着弾したのを確認したのち、小次郎は最大速度で離脱する。
「機体の損傷は?」
「一発直撃してしまいましたが、なんとか許容範囲内ですわ」
「まだ下がる必要はないですね」
「ええ、けど次の一回のあとには、上部装甲だけでも交換しないといけませんわ」
「了解しました。大丈夫、予備は用意してます」
 龍王丸は再び、アルダ・ザリスの群れへ飛び込んでいく。
 そう、これはイコンに群がる習性のある彼らに自らのイコンを餌として利用し、それを味方に撃たせる事でまとめてアルダを吹き飛ばす豪快で危険な策なのだ。
 焔虎のパイロットの腕とバズーカの速度では、まずアルダに直撃させるのは難しい。その為、この作戦は非常に効果的だ。問題があるとすれば、龍王丸に代わりが無いという事だけだろう。
 龍王丸自身も飛び込みながらアルダに向かって攻撃を行うため、ザリス殲滅効率は高い。
「しかし、これならグレネードをもっと積んでくるべきでしたね」
 サブウェポンであるグレネードは、搭載弾数が少ない。この状況では、剣を振ったり銃で一発ずつ撃つよりも、爆風が広がるグレネードの方が高いのだ。砲撃も同等の効果があるはずなのだが、どうも着弾点を予測して回避しているらしく、期待程の効果が出ていないのが現状である。それでも、自衛隊共々砲撃は今なお続いている。
「次の離脱で、一緒に補給しますわ」
「そうしましょう……今です!」
 龍王丸が味方のバズーカの爆煙に包まれる。間もなくして、煙をぶち抜いて機体が姿を現した。
「こちら龍王丸、焔虎隊は次の弾薬補給地点に移動し、バズーカの再装填をお願いします。こちらは一旦離脱し、補給しすぐ戻ってきます。何かあればすぐに報告を」
 龍王丸はそのまま海上のアルザスに向かう。補給と装甲交換の要請は既にリースが行っている。準備が整っているなら、戦場に戻ってくるのに五分とかかる事はないだろう。