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伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

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伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

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 イコン格闘大会は、第一試合から小休止を挟んで停滞していた。
 第二試合に備えて気合十分にスタンバっていたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)とパワードスーツ隊のフィアーカー・バルは、じりじりと待ちくたびれかけている。
 巨大イコンの転倒により壊れた客席は、分校土木科とボランティアたちの手によって素早く手直しされ、観客たちも戻ってきていた。
 そんな中、ひときわ目立つのが、蒼空学園から様子を見に来た【三代目校長兼理事長】の馬場 正子(ばんば・しょうこ)の存在だ。
 この分校に赴任してきた特命教師を警戒して秘密の調査で出向いてきたのだが、全然お忍びになっていない。観客のフリをして大会観戦を楽しんでいるのだが、彼女の来訪の報せは、早くも分校内を駆け巡っているだろう。
「進行が行き当たりばったりなのは、パラ実らしいな。もうそろそろ次の試合が始まってもいい頃だが」
 まだグダグダやっている大会運営を眺めながら、正子は呟く。苛立ってはいないようだが、手持ち無沙汰で暇そうだった。
「……」
 と、そこへ……。
「おや、これはこれは親方様ではありませんか。こんなところにおられたとは、この自分気づきませんでした。いやはや、これは迂闊迂闊」
 そんな正子にゴマ擦り口調で近寄ってきたのは、【非リア充エターナル解放同盟公認テロリスト】の称号を持つ葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。
 これまで、にっくきリア充を相手に華々しいテロ活動を行ってきていた吹雪だったが、正子の前では忠犬のごとく従順だ。この校長を敵に回すことは避けなければならない。
「お話は伺っているであります! なんでも怪しげな教師たちを調査しておられるとか。不肖、この葛城吹雪、今後とも親方様のために粉骨砕身働く所存であります。どうぞご遠慮なくこの自分を使い潰して下さいませ!」
 人畜無害な笑みを浮かべて迫ってくる吹雪に、正子は頷く。
「うむ。手伝ってくれるのは有難いが、くれぐれも気をつけるのだぞ。皆はパラ実と侮りがちだが、どこに落とし穴が待っているとも知れぬ」
「しかと肝に銘じるであります! では、行ってくるであります、親方様!」
 吹雪はビシリと敬礼すると、観客の人ごみの中に姿を消す。
「……」
 正子は胡乱げな目でその姿を見送った。今、吹雪からなにやら邪悪な念を感じたが、気のせいだっただろうか……。
 まあいい、と正子は溜息をつく。
 そんなことをしている間に舞台の準備も整ったらしい。
 再び、審判兼解説役の柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)の声が会場に響き渡る。
「みなさん、お待たせ! これより第二試合を始めるぜぇ!」
 大会は、熱気を取り戻した。
「私も見守っていますからね。主に遠くから」
 ウィスタリアのアルマも会場の上空へと戻ってきていた。
「第二試合は、“押忍! 九州番長” VS フィアーカー・バルだ! 両者、舞台へ!」
 またしても、対戦相手の紹介とともに派手はBGMが流れる。
「ようやく出番か。パワードスーツ隊の強さを見せてやるぜ」
 もうもうと立ち込めるスモークを掻き分けて、トマスとフィアーカー・バルがリングへと姿を現した。
 フィアーカー・バルは、パワードスーツ3機と、装甲兵員輸送車1輌により編成される部隊だ。
 パワードスーツを装着しているのは、トマスの他にパートナーのテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)。装甲兵員輸送車を操っているのは魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)である。この四人がイコンに挑むのだ。
「初戦はパラ実のイコンか。奥の手は使わなくてもよさそうだな」
 トマスはパートナーたちと頷きあった。強敵と当たった時のために戦法を立ててあったのだが、それは二回戦以降に取っておこう。目配せで子敬に伝える。
「……」
 子敬は視線で了解と答えた。
 リング脇では、試合を終えた昌毅の他、出場メンバーが見つめている。彼らと対戦する時のために、早々と手の内を見せるのは得策ではないと判断したのだ。
「正面から行くぜ。ここは小細工なしで勝たないとな」
「押忍! 九州番長でごわす! えらいことちみっこいのが出てきたの〜。ぼてくりこかしちゃるけん! 覚悟ばするとよかとよ!」
 トマスの台詞に答えるように、反対側からは対戦相手の“押忍! 九州番長”が勢いよく登場した。離偉漸屠に学帽をかぶらせたスタイルのイコンで、全身を覆う学ランがマントのようにはためいている。
 ウェポンは、金棒ではなく両手持ちのハンマーだ。目の部分が光るように改造されており、番長らしく鋭い眼光でガンをつけてきた。
「敵は、びびっちょるばい」
「いやいや、九州弁って言っても、福岡と長崎と鹿児島では方言が違うし、その使い方はどうなのかな、と思っていただけだから」
 トマスは真面目に突っ込む。どうして日本人ではない彼が、日本人に日本語の使い方を指摘しなければならないのだろうか。
とはいえ、深く考えたら負けだろう。気にせずに先に進めることにした。
「さて、では……」
「待ってください、審判殿」
 子敬は桂輔に尋ねる。
「パワードスーツ隊の場合、場外判定はどうなるのですか? 一機でも場外に出れば負けになるのか、全ての機体が場外に出されるまで試合は続行されるのか?」
「……」
 桂輔は考える。
 確かに、パワードスーツ隊はフィアーカー・バル以外にも出場している。ルールを統一しておく必要があった。
「イコンの場合、身体の一部がリング外に着地しても負け判定となる。従って、パワードスーツ隊の場合は、一機でも場外にでれば負けと判断するのが妥当だろう」
 桂輔は、運営のテントに視線をやった。だが、誰も居ない。完全に彼に任務を丸投げしたらしかった。
「……」
 意義申し立ても無さそうなので、そう決定することにした。いいのだろうか? いいのだろう。
「なるほど」
 子敬は納得したように頷いた。
「早く始めるでごわすよ」
 試合を始めたくてうずうずしていた“押忍! 九州番長”が苛立たしげに急かしてくる。
「では、改めまして。レディー、ゴー!」
 桂輔の声と銅鑼の音を合図に、試合が始まる。
「番長アターーーック! ばい!」
押忍! 九州番長”はハンマーを振り回しながら、まっすぐに突っ込んできた。問答無用で押しつぶすつもりのようだ。
「……」
 トマスは無言で攻撃を避ける。
 特に号令をかけるまでもなく、パワードスーツ隊は陣形を整えながら散開した。いや、今回はトマスではなく子敬がメインとして指揮を取ることになる。
 魯粛子敬といえば、お人よしでヘタレたイメージを持たれがちだが、それは違う。三国志演義や“ヨコミツ”三国志での残念な描写は、孔明の陰謀に違いない。
 例の“奥の手”はこの試合では使わないが、パワードスーツ隊の長所を生かした戦い方なら習熟している。対イコン戦においてパワードスーツ隊の優位な点は、小さな機体とまさに「隊」であることだ。その機動力を生かして撹乱しながら攻撃していくことにした。
「やれやれ。地味に攻撃か。まあ、細かいことは任せるぜ」
 トマスは隊の連携を乱さないよう敵との間合いをとりながら、【対神像大型レーザーライフル】でチビチビとダメージを与え始めた。
「せからしか! 大人しく砕け散るでごわす!」
押忍! 九州番長”は、何でもいいから当てようと四方八方にハンマーを繰り出してきた。頭悪そうな攻撃方法だが、迂闊に近寄ると危険だ。ベースとなる離偉漸屠から改造を施されているようで、装甲もなかなか固い。
「……」
 ミカエラも無言ながら、相手の動きを見極めながら効果的な攻撃を繰り出す位置を探していた。
 優勝商品が待っているのだ。こんなところでもっさりしている場合ではなかった。肝心なのは二回戦以降。ここは早くケリをつけたいところだ。
 そんな彼女の思惑を知ってか知らずか、子敬は間合いを取りながらものんびりと“押忍! 九州番長”に話しかけている。
「ところで、九州番長殿は、お生まれは九州のどの辺りですか? ……ほうほう、それは奇遇ですね。私にもそちらの方面出身の知人がいますよ(?)。是非、一度遊びに行ってみたいものですね。ちなみに私は、徐州の臨淮郡東城県、まあ現在の安徽省定遠県南東部の出身でしてね。幸い家柄にも恵まれて裕福だったため、近所のならず者共を集めて私兵軍団として雇っていたものです。いやあ、あの頃は大変でした。乱世の真っ只中でしてね。ですから、番長殿境遇もよくわかっているつもりですよ。いやあ、本当に大変ですね。今のパラ実も似たようなものかも知れませんしね。もしよろしければ、あなたが番長になられたいきさつなどをお聞かせ願えればと……」
「……」
 トマスもミカエラも、半ば呆気に取られてその様子を見守っていた。試合の最中だというのに、“押忍! 九州番長”は攻撃の手を休めて子敬と話し込み始めたのだ。
「真面目に試合しろや、ゴルァ!」
 熱戦を期待していた観客たちも予想外の展開に、ブーイングを飛ばしている。しかし子敬は気にしなかった。ヤジを手で制しながらも穏やかな口調で続ける。
「まあまあ、皆さん聞いてあげてください。実はこの番長殿はですね……」
 そういえば、三国志時代の魯粛子敬は弁舌家としても有能で、しばしば戦わずして勝利を収めていたものだった。諸葛亮も周瑜も孫権さえも手玉に取った極めて優秀な参謀で外交官でもあったのだ。大胆で過激な発言だけでなく、緩急つけた巧みな話術で相手の懐に潜り込み、隙を見て勝負を決めるのだ。
「いやぁ、番長殿とお話できて本当に楽しいですよ。まだまだ積もる話もありましょうから、ここから先は場所を変えてじっくりと交友を深めたいですね」
「いいでごわすよ。おいどん、いい酒場を知っちょるけん、杯を交えるでごわす」
押忍! 九州番長”は、子敬にすっかり魅入られてしまったようだった。大会中だということもすっかり忘れて、場所を変えるために舞台から去っていく。
「……」
 子敬は、微笑んだままその場に佇んでいた。
「あ、あれ?」
押忍! 九州番長”は我に返って動きを止めた。そこはもう、試合の場ではない。パラ実生らしい結末であった。 
「場外」
押忍! 九州番長”がリングから降りたのを見届けて、桂輔は宣言した。なんかもう、言いたい事だらけだが、審判は私情を挟まない。
「勝負あり! 勝者はフィアーカー・バル!」
 桂輔は、第二試合の決着を宣言した。客席からは、歓声ではなくブーイングの嵐だ。
 子敬は、そんな見物客に鷹揚に手を振りながら、トマスたちに向き直った。得意顔で頷きながら、仲間たちの奮戦を労った。
「パワードスーツ隊の活躍を見せつけることが出来ましたね。これでパワードスーツ隊を見直す人たちも現れるのではないでしょうか」
「いや、パワードスーツ隊関係ないし」
 トマスは答える。
「俺、待機していただけなんだが」
 出番のなかったテノーリオが不満げに口を挟んだ。彼には、まだまだ頑張ってもらわなければならないので、見せ場は次回以降に取っておこう。
「良か勝負じゃったの。おいどん、おまんらのこと見直したけん。またどこかで会うでごわすよ」
押忍! 九州番長”は、男らしく潔く負けを認めた。強敵には素直に敬意を払うのが番長なのだ。 
 さらば、わが永遠のライバルよ……。“押忍! 九州番長”は後腐れなく去って行った。バカだが気持ちのいい男ではあった。まあ、多分。
「さて、引き上げましょう」
 納得の行かない表情をしているトマスたちフィアーカー・バルを引き連れて、子敬は悠々と舞台を後にした。
 かくして、第二試合は終わった。トマスたちは二回戦へ進出だ。
「お疲れ様。見せてもらったぜ」
 出迎えた昌毅は半ば笑いをかみ殺す表情だった。
「言うな」
 とトマス。次はこうは行かない。次の試合を見る気も起こらず、控え場へと向かう。
「あちらこちらにTVカメラがセットされてるわね」
 それはさておき、と会場内を歩きながら言った。
 そういえば、リングにも観客席にも目立たないようカメラがセットされていた。放送ブースも中継用のワイドビジョンもないというのに、何の目的があってカメラが用意されているのだろう。
「やはり、誰かが大会を監視しているようですね」
 子敬は正面を向いたまま答えた。気づいていないフリをして、カメラには視線を向けない。
「こういう場合、たいていはレンズに黒い紙でもかぶせて見えなくしてやるか、パラ実生の仕業にして破壊してしまってもいいのですが」
「予想通りだが、破壊するのは監視者の目的がわかってからでいいだろう」
 トマスもそ知らぬ顔をしていた。むしろカメラがあるのがわかった以上、色々とこちらから見せてやれそうだ。
 敢えて派手に行動したりルール違反をしたりして、相手がどう出るか。探るのはこれからだ。二回戦まで時間はあったし、ほとんど戦っていないので余力はたっぷり残っている。ちょっと動いてみるか……。

 一回戦第三試合は、まもなく始まる。