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【蒼空に架ける橋】第2話 愛された記憶

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【蒼空に架ける橋】第2話 愛された記憶

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「……で。どうやって指輪を手に入れるんです?」
 壱ノ島へ取って返す船のなかで、おもむろに色花が疑問を投げかけた。
「私たち、だれもこの島のお金、持ってないですよね?」
「でも色花、ホテルでは使えたぜ?」
 もっともなことを言ったのはだ。売店から買ってきたジャンクフードを開けてテーブルに――主に色花の方に――並べたのを、色花はもぐもぐする。
「あれはツアー客用にと推奨されたホテルだったし、まあ街でも食事するくらいのお金は使えるとは思いますが、大金となると疑問が……そもそも私たち、指輪を買い戻せるだけのお金、だれか持ってます?」
 しーん、となった。
 婚約指輪だろ? しかも持ち主は東カナンで1、2を争うくらいの大貴族の息子で。これは相当するんじゃないだろうか……。
 その可能性に、全員がうーーーーん……と想像力で頭を悩ませる。
「……そういえば値段はどれだけしたのか、どちらにも聞いてないな」
 羽純が言うそばで、歌菜が携帯を取り出した。
「まだシャオさんがサク・ヤさんと一緒にいると思うから、訊いてみよう!」
 しかし電波の状態が悪いのか、はたまたここが雲海だからか、携帯はつながらなかった。
「だめ。セルマくんにもつながらない」
 ため息をこぼす。
 その様子に、ずずーっとストローでジュースを飲みきって、色花が言った。
「しかたありません。ここはカードで――」
「おばかっ!」
 すちゃっと懐からクレジットカードを取り出して見せた色花を、ぽかり唐がたたく。
「……痛いです」
「数百万とかだったらどうすんの!? そんな借金背負えないでしょ!?」
「いえ、その前に限度額超過で無理――」
 しかし唐は聞いていなかった。
「ちっ、しかたねえ! ここはこの元怪盗の俺の出番だな。昔とった杵柄だ、夜にでも盗みに入ってやるよ」
 しかたないと口にするわりに、なんだかやる気満々のようである。
 だがこれに歌菜が即座に反応した。
「それは絶対だめ! 盗むなんて、悪いことだよ! 質屋のご主人だって不正なことして手に入れたわけじゃないし、商売なんだからっ」
「だけど――」
「それに、2人の再出発に盗んだ品は良くないよ」
 あの2人はまだ見込みがあると、歌菜は固く信じていた。悲しい出来事が起きて、すれ違ってしまっただけ。サク・ヤはあきらめているようだけど、カディルの誤解さえが解ければ絶対に2人の愛はよみがえる。
(愛はこの世で一番強いパワーなんだから!)
 奮起する歌菜が何を考えたのか、その心が透けて見えるように理解できて、羽純はくすりと笑う。
「俺も歌菜に賛成だ」
「……分かりました。では、説得します」
 2人の反応を見て、色花が答える。
「ありがとう。私も何か手はないか、考えるね」
「チッ。それで最後、どうにもならなかったら盗むからな」
 ぼそっと唐はつぶやいた。




「雲海の龍ってとんでもない存在だったんだね」
 壱ノ島のレンガでできた坂道を下りながら、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)はつぶやいた。
「残念だったか?」
 とても晴れた日、ごくまれに雲海の雲間から覗き見ることができる龍。のぞみがそこにロマン的なものを感じていたのを知っているミカ・ヴォルテール(みか・う゛ぉるてーる)は、内心気にしながらも軽く聞こえるように言う。
 のぞみは「んー?」と考え込んだ。
「どうかな。やっぱり何でも、直接会うか、本人の言葉を聞くまでは分かんないよね。事情とか、いろんな見方ってあるし。オオワタツミにはオオワタツミの言い分がありそう」
「まあ、閉じ込められてたわけだからな。だけどこの状況に置いて、じわじわ手下に食わせるっていうのは、やっぱマトモな神経のやつの考えることじゃないと俺なんかは思うぞ」
「そうかもしれないけど……。
 とりあえず、龍についてほかにも何かないか、もう少し調べてみようよ」
 というのぞみの希望で街へ下りてきたわけだが。ミカには別の思惑があった。
「なあのぞみ。ロビンのやつも呼んでやらないか?」
「え? どうして?」
「あいつにも見せてやりたいっていうか。あいつ、こういうとこ、好きそうだし」
「あー、それはそうかも」
 納得して、のぞみは悪魔ロビン・ジジュ(ろびん・じじゅ)を召喚する。
「ロビン、こんにちは!」
「……こんにちは」
 ロビンは毎度のことながら、まず呼び出されたここはどこかと周囲を見渡して、まったく見覚えのない場所だと理解する。
 戦場でないのは間違いないが。
「ここ、どこ?」
「「浮遊島!」」
 ミカとのぞみは声を揃えて答えた。
(……いや、それだけだと全然分からないんですけど……)
「じゃあ何の用で――」
「まあまあ。いいからこれでも食え」
 ぽすっとミカが手のなかに何かを落とした。見たところ、ハンバーガーに似ている。しかし挟まれている揚げ物が緑色……。
「これは?」
「ここのフィッシュバーガー、かな? うん。衣に豆を練り込んでるみたいだな。なかなかおいしいぞ。ほら、のぞみも食べてる」
 ミカが指さした所では、のぞみがハンバーガーを片手に何かブティックのショーウィンドーを覗き込んでいた。
 ということは、2人はここへ旅行に来ていたのか。
(……まあ、いいか)
 途中からでも呼んでくれたのはうれしいし。
 くん、とにおいを嗅いで、もそもそ食べ出したロビンを横目に、ミカはのぞみに近づいた。
「なあ。これっていい機会だろ? ロビンに何か買ってやれば?」
 こそっと耳打ちする。
「え? うーーーん……」
 言われて初めて気づいたように、のぞみは今まで見ていた春色の大和風ワンピースから目を離すと、ロビンの方を向く。ロビンは彼らに半分背中を向け、少し前かがみになって、とある店先のショーウィンドーの向こうをじーっと覗き込んでいた。
「ロビン、何かほしい物でもあるの? 買ったげよっか?」
 近寄って肩越しに覗き込むと、それは指輪だった。
 地金にぐるっと繊細な唐草模様の象嵌がされているだけで石は嵌まっていない。きれいだが、今のはやりではなかった。どちらかというと地味。しかも見るからに年代物で、擦り切れて模様が消えかかっている所もある。
 値段は……。
(――げ。高いっ)
「これがほしいの?」
 シャンバラならたぶん、これの半値くらいで同じような物が見つけられると思ったが、ロビンがほしいのがこれだと言うなら買ってあげよう、そう思って訊いたとき。
 ロビンが何か答えるより早く、長く店先にいて、覗き込んでいる彼らに気づいた店主がドアを開けて外に出てきた。
「お客さま、よかったらなかへお入りになりませんか? お望みの商品がございましたら、お出しいたしますので」
 そう言った店主の笑顔が、ロビンが見つめていた物が何かを知った瞬間、申し訳なさそうに曇る。
「ああ、こちらのお品は今朝入ったばかりでして。すみませんが、まだお売りすることはできないんです」
「え? どうして?」
「のぞみ、質屋は流質期限が来ないとその商品を売買できないんです」
 答えたのはロビンだ。そこでようやくのぞみは看板を見て、ここが質店であることに気づいた。
「どうして売れないのを店頭に出してるの?」
「こちらは地上のお品で、われわれにはとてもめずらしい商品なのです。それで、まあ、客寄せ用ですね。もちろんご予約を承ることはできるのですが、地上からのお客さまにはそれよりもこちらのお品の方がよろしいのではないでしょうか?」
 店主はさりげなく、3人を別の棚へと誘導する。
「壱ノ島の色ガラスを用いて作られたアクセサリーです。すべて窯元の保証書のついた、未使用品のコーナーもありますよ」
 言い終わるのと同時に、店のドアが大きく開かれた。
「すみません!! こちらのお店に弐ノ島のサク・ヤさんからの指輪が入荷していませんか!?」



 店主は歌菜や色花たちの持参した手紙をサク・ヤの物と認めて、彼らに売ることを了承してくれた。
「これがその商品です」
 表のショーウィンドーから出してきた指輪はロビンが目をとめた例の唐草模様の品だった。それについていた値段は恐れていたほどの額ではなかったが、それでも「0」が5つ並んでいた。
 当然、全員の手持ちのお金を足しても足りない。
 色花が事情を話し、譲ってもらえないか説得にあたったが、店主は「商売ですから」と営業スマイルを崩さず、1ミリも譲歩する様子は見せなかった。
「むしろ、この額でお譲りしようというのです、それをわたしの誠意と思ってください。本来ならこれからひと月の間にこの倍はいくお品です」
「……分かりました」
 歌菜は引き下がり、店を出た。
「……どうするんです? あきらめるんですか?」
 遠ざかる店を振り返りつつ、色花が問う。
「あきらめたりしないよ。絶対お金は工面する」
 決意の横顔で歌菜が向かったのは、港の前の広場だった。島の玄関であるここは、日中常に人の往来があり、途切れることがない。
 彼らを前に路上ライブをして、足りない差額を稼ぐのだ。
 歌菜はシャンバラでこそ『マジカル☆カナ』としてそれなりに知名度のある魔法少女アイドルだが、ここ浮遊島ではまったくの無名だった。しかも、まさかこんな事態になるとは想定していなかったので、衣装も音響も何も用意していない。
「歌菜、これは無許可のゲリラライブだ。あまり時間はかけられない。成功しても失敗しても、歌えるのは3曲が限度だ」
 羽純が後ろから声をかける。
「うん、分かってる」
「そうか。がんばれ」
 相当なプレッシャーだろうに、前向きな歌菜に愛しげな視線を向けると、羽純は歌菜の邪魔にならないように退いた。
 すでに何人かは、立ったまま動かない歌菜に気づいて不思議そうな視線を向けている。歌菜はすうっと息を吸い込むと、K&Hの新曲を歌った。伴奏は何もなかったが、鍛えられたのどから出る声と声量が人々の目を引く。
 2曲目に入り、本格的に立ち止まる人が増えてきた。色花と唐が説明を書いたボードを手に、彼らからお金を受け取る。
 しかし残念ながら、それが限度だった。通報を受けたキンシたちが駆けつけるのが思っていた以上に早かったのだ。それを警戒していた羽純がいち早く空の彼らを見つけて合図を出す。2曲目を歌いきったところで、4人はキンシが降下してくる前に撤収した。
「お金、どう?」
 キンシの追跡を振り切って、店の前に戻ってきた歌菜が訊く。
 色花は集まった額を計算し、合計額を出して、首を振った。歌菜も歌いながら様子を横目で確認していたので、そんな気はしていた。
 無名で、しかもゲリラライブでは、やっぱり厳しい。
「そう……。どうしようか……」
「なんとなくだけど、事情は把握したわ」
 そう言ったのは、ずっと彼らを見ていたのぞみだった。
「あの指輪がどうしても必要なのね? 私に任せて」
「のぞみ、買うんですか?」
 ロビンが脇から問う。
「それも考えたけど、でもそうしたら彼らの努力がだいなしになっちゃうでしょ。私が出すのは足りない分だけよ。あの指輪は彼らの物」
 のぞみは財布を取り出すと、色花が口にした足りない分をさっさと彼女の手に乗せた。
「返さなくていいわ。ただ、私もあなたたちの仲間に入れて、いいことをしたと思わせて」
「あ、ありがとう……」
「ううん。
 心のこもった、とってもすてきな歌だった。あなたたちがそんなにまでして手に入れたい指輪なんだもの、きっと、あれもすてきな想いのこもった品なのね。ひと目見て、そうじゃないかと思ったけど」
 さっぱりとした目で、歌菜たちが指輪を購入するのを見守っているのぞみを見て、ロビンは胸が熱くなる。今ここにいてよかった、こんなのぞみが見えて、と思った。