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リアクション
4.町を守れ
「ぱらりら♪、ぱらりら♪」
ファストナハトが、大声で叫びながらスパイクバイクで大通りを暴走している。本人としては、ナガンに言われた通りに大暴れしているつもりなのだが、町の人々からは完全に無視されていた。
実は、他の人々はそれどころではなかったのである。ザックハートが、無差別破壊を始めていたのだ。
「はっはっはっ。これは面白い。そら、そこにビュリを見つけたぜ。攻撃だ!」
革袋からザックハートが魔弾を取り出して放り投げると、それは生き物のように複雑な軌跡を描いて飛んでいった。命中すると、激しい炎を振りまいて爆発する。さらに、魔弾は革袋の中からいくらでも出てくるのだった。
今や、この黒衣を着た異形の男の周囲は、炎と瓦礫の山となっていた。
町の人たちも、突然現れたこの破壊者が、自分たちの雇った学生の一人なのか、通りすがりのテロリストなのか分からず、大混乱に陥っている。ただ分かることは、いもしないビュリめがけて魔弾を撒き散らして楽しんでいるということだけだ。
「何か、中央通りの方で火の手が上がっているようですわよ」
桜華の後ろで、ジュリエットが言った。やっと町に辿り着いたビュリたちだったが、上空からだと町の中央で何かが起きていることがよく分かる。だが、地上にいる者たちには、事態の全容を把握することは無理なことであった。
「きたきた。カナタ、まかせたぜ」
「うむ、まかせておくのだ。そこの魔女!」
ビュリの姿を遠くから見つけたカナタが、ケイのいるバリケードから一人進み出た。
「わらわは、悠久ノカナタ。偉大なる魔女を名乗るのであれば、わらわと正々堂々勝負せよ」 空飛ぶ箒にまたがると、カナタはふわりと空に舞いあがった。
「みんな、戦いたがりなんだから。ビュリさんは、先に行って。ここは私がなんとかするから」
そう言うと、小鳥遊がベアトリーチェをライの飛空艇に預けて飛び出していった。
「私━━わしがビュリであるぞよ」
「勝負!」
小鳥遊の思惑通り、カナタは彼女をビュリだと思って突っ込んできた。かろうじて、小鳥遊がそれをかわし、二人は空中戦に入っていく。
二人の戦いに気づいて、近くにいた学生たちの幾人かが集まってきた。
「この隙に、わたくしたちは、暴れている痴れ者を成敗に行きましょう」
ジュリエットにうながされ、ライと村雨の飛空艇を残してビュリたちは中央通りの方へとむかった。
空中戦を演じながら、カナタは小鳥遊のビュリをバリケードの方へと、作戦通り追い詰めていった。
「ようし、うまいぞカナタ」
待ちかまえていたケイが手元に火球を生み出して密かに小鳥遊を狙う。
「そこの彼女、待ちなよ、それは卑怯じゃん」
ケイの思惑に気づいた河城 漣(かわしろ・れん)が、アサルトカービンをかまえてケイの前に立ち塞がった。
「俺はウィッチじゃねぇ。ウィザードだ! 邪魔するな!」
「する!」
河城は一歩も引かない。だが、その銃口は微かに震えていた。
そのとき、突然現れた伊賀が、横から彼女を押さえ込んだ。
「あんた、なんのつもりだ」
河城が叫ぶ。
「まあまあ。ビュリも、少しは痛い目に遭わないと分かんないだろ」
そして、ピンチのビュリを颯爽と助けるのは俺の役だと伊賀は心の中でつぶやいた。
「カナタ!」
ケイの合図で、空飛ぶ箒に乗ったカナタも、空中で火球をかまえた。二人同時攻撃で一気に小鳥遊を撃ち落とそうというのだ。さすがに、二方向から攻撃されれば、避けるのは難しい。
ケイがまさに火球を放とうとした瞬間、リターニングダガーが彼の顔めがけて飛んできた。思わずのけぞってそれを避けたケイの火球が、予定したのとは別の方向へと放たれる。
火球は小鳥遊を直撃するコースから逸れたが、そのため空中でカナタの火球とぶつかって大爆発を起こした。
「きゃっ」
至近で爆風を受けた小鳥遊が墜落する。カナタも空中で止まって姿勢を保つのがやっとだった。
墜落する小鳥遊にむかって、上空から一機の飛空艇が真っ逆さまに落ちるようなコースで突っ込んできた。
「ボクは、飛空艇なんか操縦したことないのだぞ!」
桐生は大声で叫びながら、左手でなんとか小鳥遊をつかまえ、右手で操縦桿を引いた。地面に激突すると思った刹那、ローリングして急旋回した飛空艇が、地面でがりがりとボディを削りながら不時着した。
村雨の飛空艇はぼろぼろだが、桐生と小鳥遊は軽傷ですんだようだ。だが、肝心の飛空艇の持ち主の姿がない。
上空で飛空艇から飛び降りた村雨は、空中でマントをはためかせながら、大きく腕を広げて落下していた。
「はうっ!」
ほとんど体当たりを食らわすような体勢で、村雨は小柄なカナタを空中でつかまえた。そのまま落下に引きずり込む。銀髪を激しく振り乱しながら、カナタがあわてた。それでも必死に空飛ぶ箒を手放すまいとして、なんとか落下しまいとする。
おかげで落下スピードが殺され、カナタをかかえた村雨はふわりとバリケードの上に舞い降りた。一瞬遅れて、広がっていたマントが痩身を覆い隠す。
「落ち着け」
カナタの身体をケイに投げ渡して、村雨は言った。受けとめきれなかったケイが、カナタとともに倒れ込む。
「まずは状況を把握しろ。話はそれからだ」
同じ言葉をみんな聞いたなとばかりに、村雨は鋭い目で周囲を見回した。
「そうだな。その方が効率がよさそうだ」
バリケードにもたれかかるようにして、戻ってきたリターニングダガーをもてあそびながら赤月 速人(あかつき・はやと)が同意した。隠れ身はすでに効果をなくして、その姿は衆目の前にある。
「美羽さん、美羽さん。ヒール、ヒール、ヒー……ああ、もうヒールできない」
ライに地上に降ろしてもらったベアトリーチェはあわてて墜落した飛空艇に駆けよると、半べそで小鳥遊と桐生を治療していった。
☆ ☆ ☆
ザックハートの暴れている場所をめざしているビュリたちであったが、途中でウェイドたちのバリケードに集まった集団に捉まってしまっていた。
「来たか」
ヴィンセント・ラングレイブ(う゛ぃんせんと・らんぐれいぶ)は、バリケードで姿勢を固定すると、ビュリにアサルトカービンの狙いを定めた。トリガーにかけた指に力を込める瞬間、わずかに銃身の角度を変える。大気を切り裂く音ともに、ビュリのそばを━━通りすぎたとは分かるが怪我はしないほどの距離を━━弾丸が通過した。
驚いて、ビュリが空飛ぶ箒の軌道を変える。
「狙撃!? 待って、彼女の話も聞いてあげて」
「ちょ、ちょっとですわ」
ビュリの盾として前に出る桜華に、ジュリエットがあわてた。巻き添えはごめんだ。
「であれば、下りてこ……」
威嚇射撃を行ったヴィンセントは、ビュリに呼びかけようとして、あわてて身を翻した。
「ビュリをいじめちゃダメだよ!」
空飛ぶ箒で低空から突っ込んできた風滝 穂波(かざたき・ほなみ)が、問答無用でヴィンセントがいた場所に火球を叩き込んできたのだ。ビュリを見つけたとたん、彼女が攻撃されているのを見て怒っている。
「容赦ないな。冷静さを失った時点で、お前さんはすでに負けているというのに」
すぐには話が通じそうにないと悟ると、ヴィンセントはいったんその場から身を隠した。
「始まったのか。よし、ボクも混ぜろ」
騒ぎを聞きつけて、嬉々としてエル・ウィンド(える・うぃんど)がやってきた。相手を確認もせずに、チェインスマイトを使ってランスでバリケードを突き崩していく。
「ボクちゃん、完全勝利!!」
「そこの奴ら、いったい何をしているんだ。戦う相手は上であろうが」
勝ち誇るエルにむかって、ウェイドが叫んだ。
「ビュリさんの敵は、ボクの敵!」
「そうだよ」
エルも、風滝も聞く耳を持たない。
「ダメだ、ビュリの前に、こいつらをなんとかしないと。おい、山科 圭介(やましな・けいすけ)、手伝え」
一緒のバリケード内にいた山科に、ウェイドは助けを求めた。
「ええー。てきとーでいいよな」
あまりやる気のない顔で、山科がギャザリングヘクスで強化した火球をとりあえず放った。
狙いを定めていないため、誰かが直撃されて消し炭になることはなかったが、バリケードを崩そうとしていたエルたちをバリケードごと後ろへと吹き飛ばすことには成功する。飛び散った火の粉や、バリケードの破片がビュリたちのそばまで飛んでくる。
「あ、見つけた。ビュリ、ボクを弟子に……うぎゃ!」
ビュリを見つけて近づいてきたカレンは、飛んできたバケツの直撃を受けてひっくり返った。まだ配りきれていなかったビラが、盛大に宙に舞う。
「おやおや、ビュリってのは、あそこにいるみたいじゃないか。ということは、ここで肉体労働するよりも……」
のほほんと空を見あげて、山科はつぶやいた。
「ということで、後はまかせたよ」
ウェイドに告げると、山科は空飛ぶ箒に乗ってその場を後にした。
「おい、何を考えて……」
ウェイドが呼び止めようとしたとき、ほとんどなくなっていたバリケードが再び爆発して跡形もなく吹っ飛んだ。
「我とビュリ殿との旅は道連れ世は情け計画を邪魔する者は、この世から消えてもらいますわ。実、やっておしまいなさい」
かわいい容姿なのに、なぜか銀髪をモヒカンにした少女が、そばに立ったリーゼント頭の小柄な吸血鬼に命令した。狭山 珠樹(さやま・たまき)と、パートナーの新田 実(にった・みのる)だ。イルミンスールの生徒としては奇抜な髪形は、最近話題になった瞑須暴瑠(べいすぼうる)にでも参加していたのだろうか。
「タマの頼みなら、しかたねえな」
「こら、よせ!」
新田から放たれた火球が、ウェイドがカウンターで放った火球と正面から激突して爆発する。予想外の爆風が、その場に立っていた者たちを薙ぎ倒した。
「いったいあの者たちは、何をやっておるのじゃ!」
中央通りで未だ断続的に起こる爆発と、眼下で行われている戦いを見くらべながらビュリは叫んだ。どう見ても、下で繰り広げられているのは、ただの混乱だ。しかし、それが彼女を原因としているらしいことだけは確かだった。
「とめに行かなくちゃ」
「ああ、よけいなことはしなくてもよろしいですのに」
飛空艇の高度を落とす桜華に、後ろに乗っていたジュリエットが悪態をついた。
「俺も手伝おう。ビュリは、そいつと先に行ってくれ」」
レイディスが、桜華に追従した。
「愚かな戦いはおやめなさい。話なら、ビュリ家メイド長のこのわたくしが聞いてさしあげますわ。でも、強そうだからやっつけてやろうとか、ただお友達になりたいとか、あまつさえ契約したいとか言いだしたりしたら、このわたくしが許しませんことよ。文句があるなら、このわたくしを倒してから……きゃっ。誰ですの、今攻撃してきたド外道さんは!」
ジュリエット本人は説得のつもりなのだろうが、挑発にしかなっていない。こころなしか、混乱に拍車をかけているだけの気もするが、そこは、桜華とレイディスがなんとかしてくれるだろう。
「ここはあいつらにまかせて、俺たちは先を急ごう。これだけいろいろな奴がいるのに、誰にもやられずに暴れている奴がいるんだ。やっかいな奴に違いない。そいつをやっつけられるとしたら、ビュリだけだ」
「そうじゃろうか……」
少し自信なさそうに、ビュリは霧島に答えた。結局、今まで自分がしてきてことは、下で繰り広げられているような混乱を巻き起こしただけではなかったのか。そういう思いが、今さらながらわき起こってきたらしい。
「でも、ビュリは、この町が好きなんだろ。だったら、この町を壊そうとする奴を放っておいちゃいけないぜ」
「そうじゃな。急ぐぞ!」
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