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リアクション
Scene3
3-1
「全 然 人 来 ね ー !」
わめいているのは『誰が勝つかクイズゲーム』を主催している高崎悠司(たかさき・ゆうじ)だ。
楽に一儲けできるチャンスだと思ったのだが……
「ねー悠司ぃ……どうするの?」
八重歯もかわいいパートナーのレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が悠司の側にやって来る。
その手には『明日の四天王は誰だ! そして富を手に入れるのは誰だ! 一口たったの百円』と書かれたプラカードを持っている。
「賭ける人っていうか見物人なんかいないよ」
乱闘最中の酒場店内を見る。
見物人がいたとしても、レティシアのプラカードを見る者がいたかどうか怪しいものである。
「そんなに戦いてーのか。くそう、客層の見極めしくじった……」
「……はぁ、どうしてボクこんなのと契約しちゃったんだろ」
おたがいに肩を落とす。
が、ここで引っ込む悠司とレティシアでもなく。
「切り替えて正義の味方がんばろー!!」
「おうよ! 行くぜ、れち子!」
ふたりは、王大鋸を支援するべく戦いに身を投じるのであった。
その王大鋸である。
何度目かの挑戦になるだろうか、ゴンサロに突撃して行こうとしたところで、誰かに力いっぱい体当たりされた。
「ぐあっ? な、なんだ?」
「周りは囲まれています、お助けくださいッ!」
見ると、ボロボロの衣服をまとったはかなげな美少女荒巻 さけ(あらまき・さけ)が、王に助けを求めているのだ。
「わたくし、女衒のゴンサロに売られてきましたのですわ……」
目を伏せる、さけ。
長いまつげが影を落とす。
見るからに、薄幸の美少女だ。
「って、騙される人がいるのでしょうか?」
さけのパートナー日野 晶(ひの・あきら)は、さけと王の様子を眺め、唇に皮肉げな微笑を浮かべた。
王が、さけの言うことを真に受けたのか「まかせろ! やってやる」とか言いながら、取り巻きに守られているゴンサロに向かっていった。
「ふ……単純ですわね」
王を見送った さけは、晶に近づき微笑かける。
「趣味が悪いですね。強者どうしでつぶし合いをさせるなんて」
「正面から戦うだけが勝者への道ではないですわ」
目指すは、パラ実四天王。
そのために手段は選ばないそれだけだ。
さけの言葉に晶は静かに頷き、そしてパートナーから預かった彼女の「武装」を返し参戦するためにカルスノウトを手に取った。
「シー…… うわっ!? 何しよるんじゃ?」
「後ろから来るあなたが悪イ」
棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)は戦いの最中、シー・イーに近づき声をかけようとするが、エンシャントワンドで殴りかかられる。
「何の用ダ?」
「いや……携帯番号とメアドを教えてくれんね?」
「……」
目がテン。
シー・イーは亞狗理の言葉が聞こえなかったように踵を返そうとする。
「おい、タンマ、タンマ」
あわてて呼び止める亞狗理。
「マダ、何か用カ?」
「王ちゃんは彼氏なのかいのう?」
「カレシ?」
シー・イーの眉間にしわ。
なにを言っているんだ、コイツはという感じ。
そんなこと聞いてどうするのかというと、とにかくシー・イーと仲良くなるのが目的なのだ。
はたして亞狗理の目的は達成されることがあるのだろうか?
「らめぇぇぇ、みないでぇ!」
いきなりあがる少女の叫び声。
敵に取り囲まれた国頭 武尊(くにがみ・たける)がパートナーの剣の花嫁シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)の胸から光条兵器 レイジングブル。マキシカスタム風の銃剣付き拳銃をとりだしたのだ。
胸から光条兵器をとりだされるシーリルの純白のドレスは透け、とてもエロティックに幻想的だ。
やがて光があふれ、周囲の人々の目をくらませる。
「ふっ……オレの相棒のそれは無料じゃねえんだよ!!」
武尊は、シーリルに見とれ怯んだ男たちの急所にデンジャラスキックを次々と叩き込み悶絶させる。
それをゴンサロにお見舞いしようとしたところで、反対に蹴り飛ばされた。
「な……っ」
「ぐははははっ! 女衒の俺様が、そんな小娘などに目を奪われると思ったか!!」
3-2
弁天屋 菊(べんてんや・きく)は、この混乱する戦いをどう勝ち抜こうかと考えていた。
「といって、正攻法じゃ勝てそうにないし……」
ふと店内にある何本かの柱が目に入る。
「ふふん……ガガうまくやってよ」
その頃の店外。
パンキッシュなドレッドヘアーの黒人少女エスメラウーダ・シルバ(えすめらうーだ・しるば)が、派手にデコラティブされたサイドカーに乗って現れた。
その右側のカー部分にバイオエタノールの入ったタンクを満載させている。
「ゴミはちゃんと燃やして処分だよね!」
「それ店に突っ込ますの? じゃ、こっちを乗せたほうがいいよ」
菊のパートナーガガ・ギギ(がが・ぎぎ)がエスメラウーダのサイドカーのバイオエタノールのタンクを退けると自分の持ってきた赤いタンクを「よっこいしょ」と乗せた。
「中身なんなの?」
「ガソリン」
ギギ・ガガは、かわいい外見に似合わず空恐ろしいことをしれっと言う。
「そ、そんなもんで火つけたら爆発するかもしれないんだよ?」
「気にしない、気にしない
それはそれとして、エスメラウーダがバイクを運転して突っ込むのかい?」
「ま、まさか!? 途中までしかいかないよ!」
エスメラウーダはサイドカー本車のエンジンをかけると、酒場に向かって発車した。
そしてエスメラウーダが飛び降りたサイドカーが酒場へと突っ込んでいく際、ガガ・ギギが火の玉をぶつけた。
どーん!!
爆発。
いろんなものが木っ端微塵に飛んでくる。
そして建物は倒壊した。
「壊れすぎじゃない?」
「そう?」
店内。
火達磨の物体が飛び込んでくるのを確認して、菊はドラゴンアーツで一撃のもと店の柱を次々に破壊した。
そして爆発。
戦いに夢中だった連中の上に屋根が落ちてきた。
そのせいで、混戦は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していく……
そんな中、危険も顧みず鹿島 麗子(かしま・れいこ)がゴンサロに襲いかかる。
「もらった!!」
「うわぁ!!!」
背後から近づきダガーを射出。ゴンサロ背中に刺さった。
麗子は倒れていたゴンサロ一家の手下を盾にすると、ゴンサロに肉薄するが、守護天使たちに阻まれ逆に追い詰められる。
「どうした? それで終わりか?」
「……くっ」
大柄な男たちに見下ろされる。
「まだだ、ぜ」
麗子は不適に笑い返すと立ち向かっていく。
「おまたせ!」
いろんなものを蹴散らして麗子のパートナーリ・テケリ(り・てけり)がスパイクバイクで飛び込んできた。
そして火事の中でさらに火術を使い火勢を追加する。
さらに混迷を極める店内。
逃げ出す人々に麗子とテケリはゴンサロ一家の姿を見失ってしまった。
「そろそろ、僕たちも引き際だね」
テケリの合図に麗子は彼女のバイクに乗り込み崩れ落ちる酒場を後にした。
ゴンサロの酒場につけられた火は周囲へ延焼し、花街へと広がっていた。
その原因が酒場の爆発も一因ではあるが、主にガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)とシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)である。
彼女たちは、花街に潜むだろうゴンサロ一家の配下の者たちを燻りだすために火をつけて回ったのだ。
彼女たちの言い分は、女衒ゴンサロに囚われた女性たちの解放ということだそうだ。
「みなさん、ゴンサロ一家は破られました!」
延焼した店々から避難してくる人々に向かってガーフィールドが燃えるゴンサロの酒場を指し示して叫ぶ。
それを聞いて安堵する人、困った表情を浮かべる人などいろいろだが、その中から怒りもあらわに立ち上がる人たちがいた。
「ちょっとあんたら、どういうつもりなのよ?」
「って?」
色っぽい衣装の、みるからに遊女といった感じの女性たちだ。
少しとまどうガートルードとシルヴェスター。
というより、開放してあげたのだから感謝されても良いのでは?
「たしかに、ゴンサロに親の借金のかたに売られてきた娘もいるよ、でもね、あたしたちみんながそういう境遇じゃないってことさ」
お姐さんの言うには、こういう商売を楽しんでいる者もいること、嫌でもこういう場所でしか生きていかれない者もいる。
「でしたら、私がゴンサロに変わりこの街のボスになります。あなた方を解放し、自由な女街にするのです」
ガートルードの言葉に、お姐さんたちはきょとんとして、次の瞬間おなかを抱えて笑い出した。
「あははははははっ!! おもしろい事を言う子たちだねぇ!」
ひとしきり笑い、お姐さんたちはふたりに楽しませてくれた礼だと教えてくれたことがある。
ゴンサロ一家は、たしかにこの街の顔役ではあるが、彼らの商売はあくまで女たちを集めてくる「女衒」でありボスではない。
花街の実力者は別にいる。
学生の首の突っ込める範疇ではない。
利益をともなう権力を手に入れるのは難しいようだ。