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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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京都御所を巡る『土』のコース



「場所を戻しまして……。次の挑戦者は光臣翔一朗(みつおみ・しょういちろう)選手です!」
 リングの上に颯爽と登場する翔一朗。
 武器も防具も身につけず、その身一つで勝負を挑む所存。その意気や良し。
「アンタが十二神将の高山、いや大森やったか? 俺と勝負してくれぇや!」
「この俺相手に丸腰か……。気に入ったぞ。その勝負受けて立つ!」
 裸一貫で勝負を挑まんとする彼の姿は、勾陳のファイティングスピリッツに火を点けた。
 翔一朗に合わせ、自らも兜以外の防具を脱ぎ捨てた。
「……どうして、兜は脱がないんじゃ?」
「馬鹿野郎! 俺がマスクを脱ぐのは、引退する時だけだっ!」
 まあ、誰でも譲れないポリシーはあるものである。
 話を試合に戻そう。
 ゴングが鳴るなり、真っ先に動いたのは翔一朗だ。
 己の拳に込めるのは、これまでの冒険が培ってくれた熱い魂。それだけがあれば十分だ。
「どらあああああ!!!」
 気合いの叫びと共に、勾陳の顔面を殴りつける。
 勾陳も負けてはいない、反撃に翔一朗の顔面にも拳を叩き込む。
 壮絶な殴打の応酬を続ける二人だが、目に見えて翔一朗のダメージが大きい。
「な、何故じゃ……! 何故、俺の拳が通用せんのじゃ!」
「知らずに勝負を挑んだのか? 俺は黄竜の化身、よってこの身体も竜並みに強固!」
 勾陳の鎧はあくまで演出のためのステージ衣装に過ぎないのだ。
「りゅ……、龍がなんぼのもんじゃいっ!」
 最後の力を振り絞って殴り掛かる、翔一朗。
 しかし、途中で意識が途切れ、勾陳の胸にもたれかかった。
 何か思う所があったのだろう、胸の中の漢を抱きかかえ、勾陳は高らかに声を上げた。
「己を出し尽くしたこの男に、盛大な拍手を!」
 見守る生徒たちの拍手を受け、翔一朗はリングサイドへ運ばれていった。


「続いての挑戦者は、朝野未沙(あさの・みさ)選手ですが……、準備に少々時間がかかるようです」
 準備を行っているのは、朝野未羅(あさの・みら)朝野未那(あさの・みな)だ。
 未沙のパートナーである二人は、リングの上に物干し台や汚れた洗濯物を運び込んでいた。
「これは技の見せがいあるわね」
 大量の汚れ物を前に、未沙は呼吸を整え精神統一。
 影ながら家庭を支えるメイドの技を、日のあたる場所で披露する機会があろうとは、メイド冥利に尽きる。
「いっぱい、いーっぱい、お洗濯物が干せるように、たっくさん準備してるからね!」
「未羅と未那のためにも、良い所見せなくっちゃ!」
 元気に準備を進める未羅の姿に、未沙は自然と気合いが入った。
「……あのぉ、姉さん。こんなものが落ちてたですぅ」
 未那はおずおずと、先ほど脱ぎ捨てられた勾陳の鎧を差し出した。
「あら、結構汚れてるわね。ついでだから、洗っちゃおうか」
 そして、準備は整った。
 ギャザリングヘクスでこしらえた美味しそうなスープをひと飲みし、未沙は魔力を増幅させる。
 洗濯板とたらいをその手に掴み、これより始まるはランドリーによる高速洗濯。
「おおっと! 朝野選手! 大量の汚れ物を抱えて洗い始めたぁーっ!」
「無駄のない動きですねぇ。日々の仕事の賜物ですねぇ。いやぁ、うちにもこんなメイドさんが欲しい」
 洗い、しぼり、干す。リングを縦横無尽に駆け回りこなす一連の動作は美しかった。
 あっという間に、真っ白な洗濯物が物干し台に並び、ミッションコンプリートである。
「はい。勾陳さんの鎧も洗ってあげたわ」
「……むぅ。すまんな」
 輝きを増した黄金の鎧に袖を通し、勾陳は思わず息を飲み込んだ。
「や……、柔らかい! ふわっふわじゃないか!」
「えへへ。大したもんでしょう?」
 ふわっふわになった鎧は、もはや鎧として駄目な気もするが……。
 まあ、勾陳が喜んでいるようなので、気にしないでおこう。
「これが家庭と言う名の戦場で戦う強者の実力か……! 見事! 恐れ入った!」


「石鹸の良い匂いが漂ってますが……、次の試合に移りたいと思います!」
 続いて勾陳に挑むのは、椎名真(しいな・まこと)
 二人のパートナーに見送られ、緊張した面持ちでリングに足を踏み入れた。
「頑張れよ、真。良い所見せたら後で俺が京都を案内してやる」
 原田左之助(はらだ・さのすけ)は声をかけた。
 左之助はかつて新撰組に所属していた英霊。彼も久方ぶりに京都を見て回りたいのだろう。
「左之にぃは戦わないの?」
 八つ橋をもそもそと食べつつ、双葉京子(ふたば・きょうこ)は素朴な疑問を口にした。
「まぁ……、兄貴としては、真のお手並み拝見ってとこだ」
 それから、左之助は眉を寄せて付け加えた。
「京子、食い過ぎだ」
 ……そんな二人をよそに、戦いはリングの上で始まろうとしていた。
「蒼空バトラー、椎名真。お相手願います!」
 まずは一礼。如何なる時でも礼節は怠らない、それが一流の執事と言うものだ。
「では……、参ります!」
 勾陳の懐に素早く飛び込み、挨拶代わりの連続蹴りを浴びせかける。
 そんな真の挨拶に対し、勾陳は片腕で軽く防いで答えてみせた。
「牽制の攻撃など俺が倒せるか! お前の本気を見せてみろ!」
「なら、これはどうです……。左之助兄さん直伝、気合の一撃っ!!」
 勾陳の胸に叩き込んだのは、ヒロイックアサルトの『気合いの一撃』。
 気合をこめた拳を槍突きのように突き出す奥義である。
 だがしかし、勾陳は気をみなぎらせ、その一撃を耐えしのいだ。
「……この程度か! 気合いの一撃のわりには、まだ気合いが足らんな!」
 そう言うと、真に見せつけるように、勾陳は同じく正拳突きの構えを取った。
「本当の突きを見せてやる!」
 勾陳は虚空に向かって突きを打った。
 あたかも突きの練習ような動きだが、いち早く真はその本質を悟った。
 勾陳の突きは、衝撃波を放つ突きだと言う事に。
「避けたら、二人に当たる……!」
 真の後ろには、彼を応援してくれるパートナーがいる。
 避けるか受けるか、そんな事を考えるより先に、真の身体は動いていた。
「気合の……、双激っ!!」
 咄嗟に繰り出したのは、両拳での気合いの一撃。
 その威力は真の想像を超えて高く、勾陳の放った衝撃波を打ち破った。
「……今のは良い気合いだったな!」
 満足そうに言う勾陳に、真はやはり礼儀正しくこう言うのだった。
「手合わせありがとうございました!」


「試合もいよいよ大詰め。最後の挑戦者! イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)選手です!」
 パートナーのフェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)はイーオンを呼び止めた。
「お守り代わりと思ってくれ。勝利を祈っている」
 そう言うと、彼女はイーオンにスモモの木を渡し、リングに送り出した。
 勾陳は不敵に笑って、イーオンと対峙する。
「神頼みでは俺には勝てんぞ?」
「神など頼るに値しない。俺が信じるのは己の力だけだ」
 拳を突き付ける彼を、勾陳はいぶかしんだ。
「……ひ弱な魔法使いが、拳で挑むのか?」
「魔法使いと侮るなよ。凡百のそれと同一に見るなら、鼠に噛まれる程度とは思うな」
 イーオンは格闘術による近接戦闘を挑む。
 ドラゴンアーツで戦闘力をたぎらせ、嵐のような突きと蹴りの連続攻撃を繰り出した。
 様子をみるべく防御に専念する勾陳だが、攻撃を防ぐその腕に激痛が走った。
「俺の攻撃の前に防御など意味はない!」
 インパクトの瞬間、彼は雷術を叩き込んでいるのだ。
 雷は勾陳の苦手とする木気。無敵の肉体を持つ勾陳であるが、弱点攻撃だけは防ぎようがないのだ。
 立て直そうと間合いを取る勾陳。
 だが、イーオンはそんな余裕を与える気はさらさらない。
「回避などさせん!」
 バーストダッシュで強引に間合いを詰め、喉と鳩尾に稲妻を帯びた拳を打ち込む。
 打撃にのけぞった所に、超至近距離からのサンダーブラストが炸裂する。
 格闘と魔法の完全融合。流れるような連続攻撃だ。
「み、見事……!」
 黒く焼けただれた鎧から煙を上げ、勾陳はついにリングに倒れた。
「こ、勾陳選手ダウン! ダウンです!」
 天空が叫ぶやいなや、大裳はリングに転がり込み、カウントを取り始めた。
「1……! 2……! 3……!」
 カンカンカンカン!カンカンカンカン!
 高らかにゴングが鳴り響き、永きに渡る戦いがここに終結した。
「新チャンピオンの誕生です! 新チャンピオンはイーオン・アルカヌム選手!」
 惜しみのない声援と拍手がイーオンに送られた。
 だが、それと同時に生徒たちは、ある一つの疑問に直面していた。
 チャンピオンって一体何のチャンピオンなんだ……?