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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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●法隆寺巡り〜トヨミちゃん法隆寺を案内する〜

 法隆寺は、別名を斑鳩寺とも言う、聖徳太子ゆかりの寺院とされている。
 日本最古とされる五重塔を始めとした数々の建築物、そして収められた国宝や重要文化財は、かつての日本を知るいわば美術館の装いを呈していると言っていいであろう。

「これが玉虫厨子かー。玉虫が剥がれてるのが残念だなー」
 国宝に指定されている『玉虫厨子』を見遣って、鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)が声をあげる。その近くではガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、観光者向けに配布されているパンフレットを片手に、壁画や観音像といった国宝・重要文化財を見学していた。
(立派なものですね……確かここは聖徳太子ゆかりの寺だそうですが、ではその聖徳太子はどこに行ってしまったのでしょう? もし本人がこの場にいれば、これら宝物が作られた由来などを聞いてみたかったですね)
 そんなことを思いながら、ガートルードが次の展示物へと足を向ける。
「これ、玉虫厨子。ボク、鈴虫翔子。えへへー、なんか字面が似てるよねー。……え? 似てるかもしれないけどそれがどうした? もしこれが人だったら友達になれるかなーって思って――うわ、何か怒ってる人が来た!? ご、ごめんなさーい!」
 玉虫厨子の隣に腰を下ろしていた翔子が、寺を管理している坊主らしき人に追いかけられながらその場を後にしていく。
 玉虫厨子がもし人間の姿を取るとしたら……その想像は周りにいた他の生徒をしばし悩ませたそうな。

「これが金堂だな。このような様式が千年以上も前に既にあったとは、それだけで驚きだな」
「本当ですね。いつの時代も人は、優れた技術で様々な物を生み出してきたのですね」
 装飾の施された仏堂、金堂を見上げてロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)アリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)が感慨深げに呟く。
「そうかぁ? 俺にはよくわかんねーけど。……しっかし、ロブにこういう趣味があるとは思いもしなかったぜ」
 その隣で一人、レナード・ゼラズニイ(れなーど・ぜらずにい)がロブに声をかける。
「単純に、こういう所を訪れる機会が少ないからな。後に役に立つかどうかはともかく、興味の範囲だ」
「レナードさんも、せっかくの機会ですからきちんと見学なさったらどうですか?」
「んにゃ、俺はいーや。どうしても地味に見えちまうんだよなー。それよりも腹へらねーか? ここに来る途中に甘味処あったろ、ちょっと休憩しよーぜ!」
「もう、レナードさんったら。……でも、私も気にはなっていました。もう少し見て回ったら、甘い物でもいただきませんか?」
「そうだな。……そういえば、ウマヤドを探してほしいとのことだったな。この近くにはいないようだが」
 アリシアの誘いに頷いたロブが、そういえばとばかりにウマヤドのことを話題にする。
「関わりがあるのはここ法隆寺とのことですが、どうでしょうか。かなりの広さですし、私たちが立ち入れないようなところにいらっしゃったら、探すのは難しいですね」
「まーアレだ、いっそ菓子で釣るってのもアリじゃね? 逃げ回って腹へってんだろーし」
「腹を空かしているのはレナードだけなんじゃないか?」
「そ、そんなことねーよ――」
 反論しかけたレナードの腹が小気味良い音を立て、そして一行の間に笑みがこぼれるのであった。

「やはり立派な建物ですね。ちょっと中を覗いてみましょうか」
 金堂を見上げていた陽河 誠一(ひかわ・せいいち)が、後ろを付いてきていたマリアンヌ・アイゼンハワー(まりあんぬ・あいぜんはわー)に一声かけて、中へと進んでいく。
(建物の見学など、何になるというのだ? 分からんな……)
 そう思いつつも、パートナーである誠一がどんどんと進んでいくので、マリアンヌも仕方なしに後を追いかける。
「釈迦如来に薬師如来、阿弥陀如来……どことなく、穏やかな気分にしてくれますね」
 瞳を閉じ掌をかざした格好の如来像を見ていた誠一は、その表情がどことなくくすんでいるような気がしてはた、と思い返す。
(そういえば、ウマヤドさんは掃除をサボって逃げ出したんですよね。これほどの品であるのに手入れをしないのは、少々気になりますね)
 思わず掃除をしたい衝動に駆られるが、ちょうど管理人が通りかかったのもあり、誠一は伸ばしかけていた手を引っ込める。
(……まあ、ウマヤドさん探しは、気楽に行くとしましょうか。……そうです、せっかくですからマリアさんへ何か買ってあげましょう。何がいいでしょうかね……)
 隣でつまらなさそうに、それでも付いてくるマリアンヌのことを思いながら、誠一がその場を後にする。

「へー、金堂って一回再建されてんだ。にしたってもう千三百年以上この姿を保ってんだろ!? ホント、木の力って偉大だなー……」
 パンフレットの説明文を読みつつ、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)が目の前に立つ建物を見上げて感嘆のため息をつく。その隣で、ここに来る前に調達した和傘を広げた雨宮 夏希(あまみや・なつき)が、パンフレットを覗き込みながらジルバの説明に耳を傾けていた。
「この辺全部ひっくるめて西院伽藍って呼んでるんだってな! それが全部木造建築だなんて、信じられねーぜ……」
「そうですね……とても、趣を感じさせてくれる気がします」
 時の流れすらも装飾とするかのように佇む建物や門は、見る者にどこか安心感というか、こここそが自らの帰るべき場所なのかもしれないといった感覚を与えるかのようであった。
(……私も、いつか、自分の居場所を見つけることが、できるのでしょうか)
 ふとそんな思いがよぎり、そして夏希が視線をシルバへと向ければ、シルバは一刻も早く間近で建物を見たそうに、そわそわとしているようであった。
「……行きましょう、シルバ。私、もう少し近くで見てみたいわ」
「おっしゃ! んじゃ俺が案内してやるぜ、任せとけ!」
 待ってましたとばかりにシルバが先へと進んでいく。
(こうしてシルバと歩いていけば、いつかきっと、見つけられるわよね)
 その背中を追いかけるように、夏希がゆっくりと一歩を踏み出す。

「ああいえ、大したことはしてませんので。……では、これで」
 何度も頭を下げる他校生徒に一礼を返して、清泉 北都(いずみ・ほくと)がその場を後にする。少し前、どう行けばいいのか分からずあたふたしていた人を、目的地まで案内してあげていたのであった。事前に周囲の地理を調べておいたのが役に立った次第である。
(さてと……うん? そういえばソーマの姿が見当たらないな……)
 北都がふと立ち止まって辺りを見回せば、さっきまで後を付いてきていたはずのソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が見えないことに気付く。
(またか……ソーマのことだから、何をしているかは見当がつくんだけど――)
「ちょいとそこの子、俺とイイコトしない? 何ならちょいとばかし吸ってやってもいいんだぜ?」
 北都が予想したまさにその事態、ソーマがめぼしい女性に声をかけているのが視界に入ってきた。
「……ちっ、なかなかのブツだったんだが、男とはな……別に構いやしねえが、ちょいと興醒め――」
「……ソーマ? 一体何をしていたのか、聞かせてもらおうかねぇ?」
 何かを呟いていたソーマは、北都の声に慌てて振り返る。
「――ほ、北都!? いや別にそんなやましいことなんて」
「とりあえず、人目につかないところで話を聞こうかぁ」
「おっ、北都の方からなんてそんな――ってアレなんで俺引きずられてるのかなぁ?」
 ソーマの叫びは、吹く風に静かに掻き消えていった。

 増えてきた人の流れに、借りた自転車を止めて、高月 芳樹(たかつき・よしき)が空を見上げる。
「いい天気だ。サイクリングを楽しみながらの寺院巡り、悪くないな」
「そうね、風が気持ちいいわ。……あ、ねえ芳樹、次はここに行ってみたいわ」
 芳樹の肩越しに、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が手にした地図を指差して示す。
「了解、ここからだと道順は……よし、大丈夫そうだ。じゃ、行くとしますか」
 人の流れが途切れたのを見計らって、芳樹が自転車のペダルに足をかける。自転車の速度が上がるにつれ、吹き付ける風が徐々に強く、けれど心地よく二人を包み込む。
「ふふ……こうして芳樹と二人で来られて、本当によかったわ」
「僕もだよ、アメリア。今日はめいっぱい楽しもうな」
「ええ。ねえ……後で土産物屋、寄りましょうね。お揃いのアクセサリーなんかいいかしら」
「鹿とかどうかな、雄と雌でペアとか、ありそうだ」
 そんな会話が交わされた後、アメリアがそっ、と芳樹の背中に身を預ける。一時の平和な時間の中、互いの温もりを交換し合う二人を乗せた自転車が軽快な音を立て、目的地へと進んでいくのであった。

「……うん、これは、なかなか。ただ甘いだけでなく、どこか歴史の重みといいますか、貫禄を感じさせてくれる味ですね」
 和傘が日差しを遮ってくれるその下で、運ばれてきた団子の一つを口にして、菅野 葉月(すがの・はづき)が満足げな笑みを浮かべる。
「ワタシもいっただっきまーす! ……うーん、美味しいは美味しいけど、葉月の言ってる重みとか貫禄とかは分かんないや」
 その向かいに座っていたミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)も団子を口にするが、こちらは首を傾げる。
「おや、お気に召しませんでしたか?」
「ううん、全然そんなことないよ! ワタシはこうして葉月と二人でいられるだけで幸せだもん!」
「……そうですね。向こうでは忙しくて、なかなかミーナの相手をしてあげられませんでしたから」
 言って、葉月が視線を、大陸があるはずの方角へ向ける。新大陸での毎日は、今こうしている時間の何倍もの早さで進んでいるかのように思われた。
「ダーメ、今日は葉月はワタシと一緒に過ごすの! 邪魔する虫は駆除しちゃうよ!」
 いつの間にか葉月の背中に回っていたミーナが、思考を追い払うように葉月の頭を振る。
「わ、分かりました、分かりましたから止めてください、ミーナ」
「えへへー、葉月、だーい好き♪」
 首に腕を絡めてくるミーナを、葉月が微笑んでそっと見守っていた。

「すみませーん、ここに書いてあるの全部くださーい!」
 楠見 陽太郎(くすみ・ようたろう)の前で、上機嫌な顔をしてイブ・チェンバース(いぶ・ちぇんばーす)が注文を済ませる。
「イブ、そんなに食べるんですか?」
「うーん、一つに決められなかったから。陽太郎も一緒に食べれば問題ナシよ♪」
「そういう問題ですかね……」
 イブの言葉に苦笑しつつ、陽太郎も運ばれてきた甘味に舌鼓を打つ。
「そういえば、ウマヤドってのを捜さないといけないんじゃなかったっけ?」
 イブがふと思い出したように呟く。
「そうですね……大事なのは分かるんですが、あまり勝手に歩き回るのもどうかなって思うんですよ。……イブ、餡子が頬についてますよ」
 言って、陽太郎がハンカチでイブの頬を拭う。
「ふふ、ありがと♪ ねえねえ、あたしに任せてみない? もし一番に見つけられたら、何かいいモノもらえたりするかもよ?」
「任せるって言われても……って、ちょっと、どこ行くんですか?」
 言うが早いか、イブが陽太郎の腕を取ってすたすた、と歩いていく。
「お姉さんにまかせなさい☆」
「せ、せめて会計を済ませてからに――」
 そんなこんなで終始リードされる陽太郎だったが、本人は本人でそれでもいいかな、と思っているのであった。