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リアクション
第3章
ミランダ・ウェイン(みらんだ・うぇいん)とカール・ホールドマン(かーる・ほーるどまん)は、倉庫にいたチンピラ犯罪集団で性質の悪そうな連中を教導団に連行した後、【龍雷連隊】として活動すべく松平 岩造(まつだいら・がんぞう)、ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)と落ち合った。
倉庫にアリアはいなかった。そして、バイト先の牛丼屋にもおらず、ネットカフェを探し回るしかないのだが、いかんせんネットカフェの数が多すぎた。
そこで登場するのが、岩造の忍犬の愛犬竜介である。
牛丼屋から借りた、アリアの制服の匂いを竜介にかがせると、彼は四人を勢いよく導いた。
「岩造、ごめんなさい」
「どうしたんだ、ミランダ」
岩造は張り切って先導している竜介に振り回されながら余裕がなかったが、他でもない部下のミランダの言葉は聞き逃さない。
「教導団に連れて行った連中、たいしたことなかったの。本当にチンピラって感じで、あまり岩造のお手柄には貢献できなかったわ」
「なに、かまわない。私の昇進のことなど気にしないでいい」
「それに、結局アリアさんのことも彼らは関係なかったし。また振り出しに戻ったような感じね」
危うく電柱にぶつかりそうになりながら、寸前で回避した岩造は内心冷や汗をかきながら表面では平常心を装った。
「アリアさんの持ち物からこうして竜介の力を利用することができたんだ、状況は最初とはぜんぜん違うと思うぞ」
「うん……そうだね」
「竜介の力をなめんなよ、奴は本当にすげえんだ」
彼なりにミランダに気を使ったのかドラニオも後押しする。
「ん、竜介の様子がおかしいでござる」
竜介が足を止めてあたりの匂いをかぎ始めたのにいち早くカールが気づいた。
そこは、センター街の脇道にある古びたビルだった。
竜介は匂いをかぎながらゆっくりと階段を昇り始めた。
毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)とプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)はなんとなくアリアらしき少女がいないか目を配りながらも、大いにセンター街の食に舌鼓を打っていた。今は3個目となるアイスクリームをいただいている。3個のアイスクリームがうまいことひとつのカップに乗っているが、なんとも危なっかしい。
「あーもう甘いものはいらない」
毒島はうんざりした表情でアイスクリームを眺めた。
食べてなくなるよりも、まず溶けてなくなりそうだ。
「えーっ、まだまだ食べたいものがいっぱいあります!」
「だがな、さすがに限度というものがあるのである……」
「私に限度はありませんから!」
「そうか、それならば我はとめない。だがしかし、我は先に進むのである」
「えーっ、こんなところにおいていかれたら、私は野たれ死んでしまいます、今生の別れになってしまいますよ!」
「それはそれでいいのではないか、我はもういろんな意味でお腹いっぱいである」
プリムローズは本気で泣きそうになった。
「意地悪だーーーーっ」
地団太踏むプリムローズに少年の一団が大勢向かってきてぶつかりながら過ぎていった。
道の真ん中でぐずぐずしていたプリムローズが悪いのだが、彼女のアイスクリームはその衝撃で落ちてしまった。
「あああああーーーーーーーー!!!」
しかし、毒島がパートナーのそんな様子に気にかけている様子はない。そのままプリムローズをおいて少年たちを追いかけていく。
「えええええーおいていかれたらそのまま干からびちゃいます!!」
慌てて追いつくプリムローズに、毒島は目で黙るように示す。
「あの連中、誘拐計画に乗るみたいである。ついていくとアリアにつながるかもしれない」
プリムローズは頷いて黙って後を追いかける。
「いやまて、それは逆である」
「あ、失礼しました」
そんな彼らのやり取りを陰から見ている者がいた。
朱 黎明(しゅ・れいめい)である。
怜悧な眼差しで二人を見やりながら迷ったのは一瞬で、そのまま二人を追いかけていく。
プリムローズが何度も道をあやまるので、そのやり取りでセンター街のネットカフェを探し回っていた人々の数組が一緒になって追いかけることとなった。
少年たちは、センター街の脇道にある古びたビルに入っていった。
「ここの上にきっとアリアがいるんだね」
息を切らしながらプリムローズが呟く。足元にはテンションの上がった忍犬の竜介がいた。
悪徒は階下の騒ぎに耳を澄まして、金目当てでチンピラどもが集まってきたのを知った。
援軍は多ければ多いほどいい。
アリアは部屋の一番きれいないすに座って、パフェを食べてご満悦だ。
パフェを奢るから誘拐されてください、と土下座されたので、なんとなく悪徒についてきたのだが、本当にこのパフェはおいしかった。
そろそろパフェも食べ終わるので帰る旨悪徒に告げようとした。
しかし、悪徒は窓際に張り付いたまま奇妙な緊張感を背中に漂わせて動かない。
「あの……もしもし?」
アリアが声をかけるも、反応はない。
悪徒は携帯電話になにやら耳打ち(?)したかとおもうと、回れ右をしてアリアに向き直った。
「ちょっと、俺はここで失礼しますね、お嬢さん」
「え?」
アリアが反応しきれずにいる間に、悪徒はどこへともなく姿を消し、それと入れ違いでチンピラ少年たちが姿を現した。
「誘拐計画に協力しにきたぞ!」
「リーダーはどこだ!?」
「金は?」
アリアがあっけにとられていると、チンピラ少年たちはアリアの姿を見つけて大騒ぎし始めた。
やれ、誘拐されたのはおまえか、誘拐犯はどこだ、なぜ自由の身なんだ……。
さすがのアリアもその剣幕を恐ろしく思い、逃げようとしたが、チンピラ少年たちは人数が多く、出口がふさがれている。
あわやチンピラたちに襲い掛かられそうになったところ、彼らの背後から数人の集団が飛び込んできた。
チンピラたちはその連中に襲い掛かろうとしたが、その集団の攻撃は彼らの比ではなかった。
たちまち戦場と化したそんな中、彼女の袖を引くものがある。部屋に備え付けの本棚のかげから腕が伸びている。
「……アリア」
「あげは?」
次の瞬間、アリアはその部屋から姿を消していた。
悪徒は命からがらビルの秘密の出口から逃げ出していた。
あんなに契約者たちがいたのでは、勝てる見込みがない。
息を切らせながら走る彼の前に立ちふさがる者がいる。
黎明である。
「何をしたかったのかはよくわからないが、その気持ちだけはよくわかります」
彼は悪徒に歩み寄る。
悪徒は逃げたほうがいいような気がしたが、なぜか黎明のオーラに惹かれてしまった。
「もっとうまくやったほうがいいですね。そんなことでは空京警察に捕まってしまうのがおちだ、もったいない」
黎明は背広のうちポケットを探っている。まさか拳銃でも出すのか、と警戒してもいいものだが、悪徒は憑かれたように彼に見入っている。
「こんなシャンバラの端にあるような空京で暴れるのではなく、パラミタ全土を舞台にして私と一緒に遊んでみませんか」
悪徒の胸ポケットにいる大首領様が振動しているのを感じながら、それでも差し出された名刺をうっかりありがたく頂戴してしまった。
「気が向いたらこちらの電話番号に連絡をしてください」
悪徒はいつの間にか握手を求めていた。
黎明はそのときばかりは冷徹な眼差しを和らげてその握手に答えてやったのだった。
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