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リアクション
「ああっもう! 羊! 消えるな!」
羊は叩けば消えてしまう、しかし小林 翔太の飽くなき食への執念は、それしきでは消えることがなかった。
しかしライオ・レーベンツァーン(らいお・れーべんつぁーん)はとっくに飽きてしまっていた。見晴らしのよい場所で羊を枕に寝転がり、チェスのコマをもてあそんでいる。
「腹が減ったのぅ…」
パートナーに、羊が沢山いるらしいよ、何だってやり放題! とそそのかされて来てみたが、肝心の腹が満たせぬでは意味がない。
「おいそこの、羊は食えぬようだ。わしのチェスの相手をせい」
「ええっ、いや僕は諦めませんよ! なんとしても食ってみせます、というわけで他に相手探してくださいよう」
「ふむ、つまらんのう…ではせめてこれを手伝え」
今度は羊のベッドでも作ってやろうと、がしりと羊を両手に一匹ずつ掴んできて並べ、同じく羊を掴んでどうしようか悩んでいた翔太に、その羊をここへ並べろと命じる。
「んもー、わかったよう」
これで相手の気が済むなら、一匹くらいあげよう。他にいくらでもいるのだし。
しかし、そこで事態は驚きの展開をみせた。
先ほど枕にしていた羊と、ライオが掴んだ羊二匹、翔太が引きずってきた羊一匹。
そいつをくっつけて並べると、突如羊はぼよんと融合し、ほんの少しだが大きくなった。
「うわっ!」
「何と…こいつも消えるのかの?」
ライオがリターニングダガーでつついてみる、さっきまでの羊が消える程度の強さで突いても、羊は消えなかった。ならばと思いきり切り伏せると、今度は羊は倒れた。
「でも、消えてないよ!」
「ふむ、羊を集めて大きくすればよいようだな」
もっとぎゅうぎゅうに集めてでかくすれば確実に羊をたべられる! 降ってきた希望に翔太は力がみなぎってくる。
ライオもまた、やる気を取り戻して立ち上がる。
「獅子はウサギを狩るにも全力を尽くすものだ!」
そう叫んで猛然とライオは羊を追い始めた。
飽きてゲームしてたくせに。とはかろうじて心の中に収めた翔太である。
「ひつじさんっ! そのもこもこをいただくのですっ!」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は大量の愛らしい羊の群に満面の笑顔になった。これだけ大量にあればヒパティアに、かわいいもこもこのお洋服を作ってあげられる!
「いたくしないようにしますからねー」
頭をなでてあげれば、ひつじはおとなしくなって彼女に素直に毛を刈られていった。
「あら、いい子たちね。ふふふふふ、可愛らしい子羊ちゃんたち。今、かわいがってあげますわ〜」
神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)も一緒に毛刈りに参加している。バリカンで羊毛を綺麗に刈っていく。
(おびえ、逃げ回る子羊を捕まえ、押さえつけて無理矢理にその真っ白な衣装をはぎ取るなんて……うふふふふ……もえますわねぇ)
「エレンおねえちゃんも、一緒にコスプレ衣装作りませんか?」
「え…わ、私はそれは遠慮しておくわ…」
ふふふ、羊毛をはがされた羊はみすぼらしい…これならおとなしくヒパティアも羊を片づけようとするわ、と企んでいたのだ。
しかし、コスプレ衣装を作ると聞いて、エレンは、何かふと思いついた気がした。
とりあえず、毛刈りは続行するけれど、さあどうしようかな、と少し考えたエレンである。
三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)は、すでに刈り始めていた人を見かけて焦っていた。
「け、毛刈りコンテストはもう始まってたの?!」
慌てて手当たり次第に毛を刈りにかかる。ちなみに、コンテストなんてないが、ネットゲームの『イベント』と『羊』というキーワードに思い込みが発生してしまったようである。
「待てー!」
大声を上げて羊を追い回す彼女に、おとなしく羊も捕まってはくれない。いざ捕まえても、今度もまたおとなしく刈られてくれない。羊がぱちんと消え去らないのが不思議な勢いで、彼女はどたばたしていた。
「きゃー! 羊さんどいてー! 重いよう!」
ついには羊と一緒にもみくちゃになってどたばただ。
そのとなりで、鼻歌まで歌いつつマイペースにフィルテシア・フレズベルク(ふぃるてしあ・ふれずべるく)が毛刈りをはじめた。
「羊といえば…もふもふの毛よねえ…もふもふでモコモコって言ったら、…ふふふ…アレよねえ…」
釣り具セットのコンパクトなはさみでちょきちょき、少しずつ刈り進めていく。大騒ぎしない彼女にひつじも脅えず、確実に毛はたまっていった。
しかし、のぞみのはさみと違って、彼女のはさみはあまりに小さい。のぞみはそれを見てふと思うことがあった。
(こ…これは、勝負なのです! 刈るはさみに差別があっちゃだめよ!)
「どうぞ! これ使って!」
がしっとフィルテシアの肩をつかみ、自分が持っていたのとおなじはさみを差し出した。
「あら、ありがとうございますー」
そしてまたマイペースに毛を刈るフィルテシアに、一方的に大物の空気を感じ、負けられないと熱意を燃やすのぞみである。
思いきり積み上げた羊毛にダイブして、羊毛をかぶり、肩からかけ、手首に巻いて変身もどきをしてみた。
「妖怪モコモコ星人ー、なんつってー♪」
のぞみは思わずライバルの奇行に手を止めて眺めてしまう。
「あなたもどうー? あなたは正義のパラモフマンね」
「…い、いえ…お断りします…」
(すごい、この人、こんなときにまで自分の世界だわ…しかも自ら悪役を選択するなんて…!)
のぞみは恐れおののくしかない。
「わたしの弱点は『モコモコぶくろ』よ、『モフモフ光線』を打ち込まれるまで倒れないわー!」
とりあえず、妖怪なんたらとなんたら星人というカテゴリーが同居しうるかは、ナゾである。
そして自ら弱点をさらけ出すとは…子供向けの絵本になぜか最初から弱点が掲載されているアレなのだろうか?
だれが食べたか知らないけれど、海産物のような味でおいしいと解明されていた怪獣が、彼女の脳裏をよぎる…
(電脳空間だし、出してもらえたら、食べられるのかしら?)
そろそろ危険域まで、フィルテシアの電波に染まってきたらしいのぞみであった。
「い、いけない、毛を刈らないと!」
頭をぶんぶんと振り、ツインテールを揺らして、彼女は毛刈りに戻った。
「こんなにひつじがいたら、喜ぶだろうなあ」
真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)は一面の羊を眺めわたしてため息をついた。
パートナーなら、絶対大喜びで料理しまくるに違いない。
しかし一匹つかまえて押さえ込み解体しようとしたら、…ぱちんと消えてしまったのだ。
「ううっ、食べられないんだね…」
しかし、またがるくらいなら出来るようだ。
捕まえた羊をなだめすかして、馬に乗るごとく手なづけた。
勇ましく羊にまたがり流鏑馬よろしく、羊の間を走り抜けて戦闘用羽子板で叩きのめしていく。
「しょうがない、羊を片付けるのが、当初の目的なんですから!」
毛を刈られた羊の群れをひとまず片付け、新たな羊の群れを目指して真名美は島を走りぬけていった。
その先で、一回り大きな羊を見つけ、まず周りの羊を叩いていると、横合いから悲鳴があがる。
「わー! 羊!消さないでよう!」
翔太は集めた羊に突っ込んで、羽子板を振り回しはじめた真名美に抗議した。
「ええっ? どうして?」
「さっき羊を偶然大きくしたんです、その羊は消えなかったから、こうして育ててるんですよ」
なんと、大きな羊なら消えないらしい。
今度こそ、羊を料理できるかもしれないという期待に胸を躍らせた。
「おなかいっぱいジンギスカンを食べるぞー!」
「おー!」
「そこの娘! おぬしも羊を持ってこんかぁ!」
皆大喜びで羊を駆り集め、じわりじわりと羊を育て、そのお肉を口にするときをうきうきと待つのだった。
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