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海の魔物を退治せよ!

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第4章 エビカニ合戦


 漁師から情報を聞いた陽太が、パラミタ伊勢エビの巣のポイントを皆に知らせてくれた。しかし、その巣は海の中にあった。

「俺が昔聞いた話によると、日本のエビの養殖場では電気ショックを与えてエビを隠れ場所から飛び出させてから捕まえるらしい。その方法を試してみようではないか」
 アルツールはそう言うと、用意してきた金属棒を手に空飛ぶ箒にまたがり、陽太が教えてくれたパラミタ伊勢エビの巣があると思われる場所の上空まで飛んだ。
「パラミタ伊勢エビは集団で巣を作っていますから、気をつけて下さい!」
 予めパラミタ蟹とパラミタ伊勢エビの生態や弱点、急所を調べておいた陽太が、アルツールに警告する。
 アルツールは陽太の言葉に頷き、十分に警戒しながら波の下に見える岩礁の隙間に金属棒を差し込むと、ほんの少し地上に出ている部分目がけて、ギャザリングヘクスで強化したサンダーブラストを打ち込んだ。
 海中にいくつもの小さな稲妻が走り抜けるが、しばらくは何事も起こらなかった。しかし、やがて海中が砂煙で見えなくなり、波が不規則に大きく揺れると、大きな水しぶきを上げてパラミタ伊勢エビが飛び出してきた。
「出てきたぞ!!」
 エビは尾を使って海中から海上まで飛び上がり、アルツール目がけて体当たりを仕掛けてくる。
 アルツールは空飛ぶ箒を操ってそれを避けながら、再びサンダーブラストをエビめがけて放った。エビは再び海中に戻ったものの、陽太の警告通り、別のエビが何匹も現れ、海上へ飛び出してくる。
「そのまま浅瀬におびき寄せるのですわ!!」
 エリシアがアルツールに向かって叫び、防具代わりに鋼板を括りつけて補強しておいた囮役のゴーレム2体を浅瀬へと進ませる。海中では役に立たないが、浅瀬ぐらいならなんとかなるだろう。
 パラミタ伊勢エビを退治しようと集まっていた他の者達も、それぞれ戦闘態勢に入る。
 それを見たアルツールは、自ら囮となってエビ達を浅瀬へと誘導した。時折、違う方向へ向かおうとするエビには、アルツールの紙ドラゴンがブレスを喰らわせ、注意を引いて戻してくれた。
 エビが海岸へ近付いて来たのを見計らい、エリシアがノーンに合図した。
「ノーン、今ですわ!」
「まかせて、おねーちゃんっ!」
 ノーンは事前に陽太とエリシアに言われた通り、自身に危険が及ばないよう光翼で浮遊すると、海岸の上空からパラミタ伊勢エビに向かってサンダーブラストやファイアストーム、氷術など持てる術をありったけ打ち込み始めた。
 迷彩塗装のスキルを使って海岸沿いの岩陰に潜んでいた陽太は、エリシアとノーンが誘き寄せてくれたエビとの間合いを計りながら、エイミングで狙いを定め、スナイプで目を狙って冷線銃を撃った。急所をやられて動けなくなったエビを見た陽太は、次の獲物に狙いを定める。
 イルミンスール魔法学校の天枷 るしあ(あまかせ・るしあ)は、迫りくるパラミタ伊勢エビを見て、小さく呟いた。
「……鍋」
 るしあは一番近くにいたエビに向かって雷術を放つ。感電したエビは、体を勢い良く反らせて跳ね上がり、岩場にあたって波打ち際のるしあの傍まで飛んで来た。
 それをチャンスとるしあは火術を放つが、エビは長い触覚を振り回し、5対の長脚でるしあに攻撃を仕掛けようともがいた。
「るしあ、危ないっ!」
 パートナーの剣の花嫁、マリハ・レイスター(まりは・れいすたー)が咄嗟に叫ぶ。
 エビがぐっと身を曲げ、跳躍の体制に入ったところを、エリシアのゴーレムが尻尾と脚を抑え、止めに入る。
「今のうちに目を狙うのですわ!」
 適者生存のスキルでエビにプレッシャーを与えながら、エリシアがるしあに言う。るしあは再び火術をエビの目を狙って放った。
 ゴーレムをガツガツと攻撃していた脚や触覚が強張り、エビがその場に倒れる。
「助かります」
 短い言葉ながら礼を言うるしあに、エリシアは得意気に微笑んで見せた。るしあの無事に安心して、マリハがその場に座り込む。
「良かった……」
 せっかくきれいな場所なのだから、こんな危険な事よりも、もっとふたりでゆっくりしたかったと思うマリハの心配をよそに、再びエビ退治にとりかかったるしあを、マリハはちょっぴり恨めし気に睨んだ。
 こうしている間にも、攻撃と挑発で興奮したパラミタ伊勢エビ達は続々と浅瀬に集まり、鋭い顎で獲物を噛み砕こうと、長い触覚をゆらゆらと揺らしていた。


 一方、同じく漁師から情報を聞いた司は、パートナーのサクラコと共に、蟹の巣として教えてもらった海岸沿いの崖下に来ていた。
 司達が崖に出来た一番大きな岩穴の前に立つと、奥の闇から向けられるいくつもの視線を感じとった。
「ここだな」
「ここみたいですね」
 サクラコは、事前の打ち合わせ通りその場から離れて身を隠し、司は空飛ぶ箒に乗って視線を感じた方向に向かい光術を打ち込んだ。光と衝撃が闇を揺らす。
 ざわり、とあたりの空気が変わり、もぞもぞと岩の間から大きな蟹が一匹、また一匹と這い出してくる。
 司はそのうちの一匹に狙いを定め、幻槍モノケロスで攻撃を仕掛けたが、大きな鋏の一振りであっけなく弾かれた。しかし、想定済みの司は次々に槍を繰り出し反撃してくる蟹を徐々にサクラコが身を潜めている場所へと誘い出す。
 狂血の黒影爪の能力で影に潜んでいるサクラコは、司を信頼して辛抱強く攻撃の機会を狙っていた。

 イルミンスール魔法学校の牧村 裕香(まきむら・ゆうか)とパートナーのアリス、北方 冬美(きたかた・ふゆみ)は、突然沸いた蟹を相手に地形を活かして死角を狙う戦法で奮闘していたが、司が蟹を相手に1人で戦っている姿を見つけると、応戦にと駆け付けた。
「無事か!?」
 裕香が蟹に火術を放ちながら司に向かって言う。まだ戦いに不慣れな2人の、それでも誰かの助けになろうとする様子を微笑ましく思いながら、司は礼を言う。
 司は続けて槍で蟹を攻撃しながら、裕香に腹を狙うよう頼んだ。慎重に狙いを定める裕香を守るように、冬美が仕込み竹箒を構える。
 サクラコの攻撃範囲まであと少しというところで、蟹は司ではなく裕香達の方へと進み始めた。火術は蟹の鋏と脚に阻まれ、その進行を止めるまでには至らない。蟹は向きを変えて裕香達を正面に捉えると、大きな鋏を振り下ろす。
「サクラコ!!」
 司の声に応えて、サクラコが潜んでいた影から蟹を目がけて飛び掛かった。鋏の間接部分を狙い狂血の黒影爪を振るうと、司の攻撃でダメージを受けていたその部分は、どさりと砂浜に落ちた。蟹がバランスを崩した所で、サクラコはとどめとばかりに、目と目の間を攻撃するが、巨大な蟹相手には浅い傷しか負わせられない。
「司くんっ!!」
 サクラコは蟹から飛び離れると、司に向かって叫ぶ。司はサクラコが攻撃していた場所目がけて槍を突き刺した。最後の力を振り絞って暴れる蟹の脚と残りの爪をなんとか凌ぐと、ようやく蟹は力尽き、その場に崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
 司が裕香と冬美に声を掛ける。
「ああ。助けは必要なかったようだな」
 却って足を引っ張った気がして、裕香がそう言った。
「いや、心強かった」
「ふん、心にもない事を言いよるのぉ」
 司の言葉に、冬美が拗ねたように言う。
「ところで、サクラコ」
「にゃ?」
「後で好きなだけ喰わしてやるから、今は我慢しろ」
 先ほど落とした蟹の鋏を抱えて、今にもかぶりつきそうなサクラコを司が止める。
「ちょっとくらいいいじゃないですか!」
「エサなら朝、腹いっぱい食ったろう」
「もー、いくら私が獣人だからって、ご飯をエサって言わないで下さいよ。そりゃ猫ですから獣ですけども、女の子を魔獣扱いしないで下さいっていつも言ってるじゃないですか。だいたい私はペットじゃなくて、司くんのパートナー。それも立派なお姉さんなんですよ。わかってます?」
 司はサクラコの抗議をいつものように受け流し、裕香と冬美に向き直った。
「それじゃ、次に取り掛かるか?」
「ああ、次はもっと上手く立ち回ってみせる!」
 裕香はエンシャントワンドをぐっと握り締め、裕香の決意を手助けするように、冬美がアリスキッスで裕香の元気を回復させた。

 亜紀哉とアステルは、蟹を挟み討つよう左右に展開し、攻撃を仕掛けていた。
「地元の漁師を困らせる様な高級食材とは、随分と倒し甲斐のある敵ではないか!」
 亜紀哉が不敵な笑みを浮かべる。
「台所の担い手として、おまえ達を見逃すわけにはいかん。家の食卓に華を添えてもらうぞ!」
 アステルが戦闘用ビーチパラソルを構え直した。
 蟹は長い脚をガチガチと鳴らすと、巨体に似合わない素早い動きで、まずは亜紀哉に襲い掛かった。そこを反対側からアステルが戦闘用ビーチパラソルで攻撃する。
 蟹は反撃しようと、今度はアステルの方へ向かってくる。その隙に今度は亜紀哉が狩人の弓を蟹目掛けて放った。
 2人は、そうして、蟹が左右にしか動けない事を利用し、徐々にダメージを与えていくが、蟹はなかなか倒れない。
「甲殻類風情には負けられん!」
 亜紀哉は適者生存で蟹にプレッシャーを掛けて動きを鈍らせ、脚と甲羅の隙間を狙って矢を放つが、蟹は大きな鋏を盾として矢を弾くと、そのまま亜紀哉に向けて鋏を振り下ろす。反対側にいるアステルが助けに走り出すが間に合わない。
 殺られる!と亜紀哉が両腕で身を庇った瞬間、ガキィンという金属音が響いた。
 イルミンスール魔法学校の鷹野 栗(たかの・まろん)の持つ女王のカイトシールドが、大きな傷と引き換えに亜紀哉を守ってくれたのだ。
 蟹達の出方を見て、慎重に攻撃の機会を窺っていた栗だったが、亜紀哉の危機にとっさに身体が動いていた。鋏を盾で受けた衝撃に眉をしかめながら、栗は亜紀哉とアステルを怒った目で見つめた。
「生物部部長として、貴方達の戦い方は見ていられません。一気に仕留めてあげるのが、私達がこの子に出来る唯一の事です。一気に行きますよ!」
 栗は傷だらけの身体で威嚇してくる蟹を辛そうに見つめると、覚悟を決めてバーストダッシュを発動させる。そのスピードを利用して、鋏の下の関節部分目掛けて深緑の槍を振るった。
 ドスンと音を立てて蟹の巨大な鋏が砂の上に落ちる。
「今です!」
 栗の声に、アステルが蟹の正面から急所目掛けて戦闘用ビーチパラソルを突き立てた。蟹は大きく暴れた後、ようやく事切れた。
「おかげで、助かったようだ」
 亜紀哉が言い慣れない礼を口にする。栗は、自分達が倒した蟹の死を悼むようにその甲羅をそっと撫でると、2人に向き直った。
「お願いですから、なるべく苦しませずに仕留めてあげて下さい」
 まだ駆け出しの2人にはその頼みは難しくもあったが、栗の悲痛な表情に、どちらも力強く頷いた。


「くっくっくっ。見ろ、この蟹の数を! これで勇者なぶらに勝ったも同然だな!」
 なぶらにどちらが多く食材を狩れるか勝負を挑んだジークフリートは、わらわらと沸き出る巨大蟹の群れを前に勝ち誇っていた。
「王族二人と鬼崎さんがいれば、勇者なぶら達に負けるはずないのです。魔王様、鬼崎さん。がんばりましょうね」
 ジークフリートの傍らに立つ美央の言葉に、朔が頷く。
「皆との蟹鍋のため…全力を尽くして蟹の注意を引きつけましょう」
 美央と朔の意気込みに気を良くしたジークフリートは、さっそく臨戦態勢に入った。
「敵の過小評価は危険だ。気を引き締めていくぞ!」
 そう言って、まずは『禁じられた言葉』の呪文を唱えて自らの魔力を上げていく。
「水棲系の生物であるパラミタ蟹は雷属性の技に弱いはずだ。サンダーブラストを打ち込むぞ」
 ジークフリートの予告に、美央はフォーティテュードを発動させて雷への耐性をつけた。
「魔王様、私の事は気にせずに、存分に暴れてください」
 ジークフリートと美央の準備が整ったのを見て、朔は近場の蟹達にアボミネーションを仕掛ける。
「…私を恐れろ…」
 朔からおぞましい気配が発せられると、蟹達は怯えて動きを強張らせた。
 そこへ、ジークフリートが言った通りにサンダーブラストを放つ。続けて雷術を発動させると、蟹に向かって降り注ぐ雷を操り、蟹の感電時間が長引くように仕向ける。
「ふはははっ、魔王の雷光をくらうがいい!」
 その間に、美央は自らにパワーブレスをかけて攻撃力を高めておいた。降り注ぐ雷が収まるのを待って、ライトニングランスを発動させ、ほとんど身動きがとれなくなっている蟹の鋏の下の関節部分を狙い、忘却の槍で素早くそこを貫く。続けざまにもう一方の鋏も狙い落とした。ドスンドスンと両の鋏が落ち、爪を失った蟹はしびれたままの脚を砂地に突き立ててもがいていたが、やがて動かなくなった。
「さすがだな」
 ジークフリートの言葉に、美央はにっこりとほほ笑んだ。
「雪だるまの加護厚きパラディンが蟹如きに遅れをとる筈がありません」
 そんな言葉を交わすジークフリートと美央の背に、違う蟹が感電で震える鋏を振り下ろす。
「おっと、私がいる限り魔王様に手出しはさせません」
 美央が間一髪それに気づき、巨大な盾であるラスターエスクードでそれを防いだ。
 仲間の危機に、朔は黒檀の砂時計を使い、素早い動きで『月光蝶』と銘打った強化型光条兵器のグリントフンガムンガを蟹に投げつける。武器は比較的柔らかい甲羅の前縁の溝に刺さり、ひるんだ蟹にジークフリートが雷術を喰らわせると、蟹はズシンと音を立てて砂地に身を崩した。
「思ったより大変だな」
「でも、なんとかなりそうですね」
 ジークフリートと美央が次の蟹に狙いをつけている横では、暑さで痛まない内にと、朔が倒した蟹を冷凍パックよろしく氷術で冷凍していた。


 その頃、パラミタ伊勢エビ狩りに向かったなぶら一行も、浅瀬におびき寄せられたエビに戦いを挑もうとしていた。
「困っている漁師さんを助けられ、海鮮料理も味わえる宿命の対決とは、この狩り勝負、燃えてきましたよ!!」
 超感覚を発動させて、牛の耳としっぽの生えたルイが笑顔でポーズを決めると、パートナーのラッコの獣人マリオン・フリード(まりおん・ふりーど)と、魔道書シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)から歓声が上がった。
「ルイ、頑張ってね〜! セラはマリーと一緒に応援してるよ」
 セラエノ断章はマリオンの肩に手を置いて、ルイに笑顔を向けた。
「ルイお父さんがんばれぇ〜!!」
 まだ小さいマリオンは、ルイにセラエノ断章と一緒に居るよう言われていたが、一緒に戦えない代わりにと、両手に持った扇を一生懸命振って父と慕うルイを応援している。義娘(むすめ)達の応援を受けて、ルイのパワーは全開だ。
「よぉし! それじゃ、魔王達より一匹でも多く、パラミタ伊勢エビを捕獲しよう!」
 なぶらの掛け声に、由宇、ルイ、マリオン、セラエノ断章は「おーっ!」と拳を上げて応じた。
 ルイは超感覚に加えて殺気看破も発動させ、エビの気配と動きに意識を集中させていく。
「サポートなら任せて下さいなのです〜!」
 由宇は愛用のエレキギターを手に、『怒りの歌』で仲間達の攻撃力を高めた。
 なぶらは櫛状の短剣である女王のソードブレイカーを構えると、目でルイに合図する。
 それを見たルイは軽身功を使い、海の上を飛ぶように走ってエビへと近づいて行った。
 ルイは自らを餌として、こちらに殺気を向けてくるエビの前を走り抜けてなぶらの方へと誘い込む。エビは10本もの長い脚をガチガチと鳴らしながらルイを追い掛けて来た。
 ルイは『先の先』を使い、襲いかかるエビの顎を避けて腹の下へと潜り込むと、怪力の籠手で強化された腕力を頼りにエビを浜に打ち上げようとその胴体を抱えて立ち上がろうとする。しかし、予想よりもエビは重く、激しく抵抗された上に、長い脚がルイに絡みつき行動を邪魔する。たまらずバランスを崩したルイはそのままエビと共に浜に向かって転がった。
 それを見た由宇は演奏を『悲しみの歌』に切り替え、エビの攻撃力を下げる。
「ルイさん、ナイスだよ!」
 浜辺で待ち構えていたなぶらがバーストダッシュを使ってエビの背に飛び乗り、頭と胴体の付け根の殻の隙間を狙い剣を突き立てる。しかし相手は3メートルもの巨体。急所には届かない。なぶらはそのまま轟雷閃を発動させて止めを刺した。あたりにいい匂いが漂い、エビはルイの上に崩れ落ちた。
「とても美味しそうなエビさんの匂いなのです〜」
 由宇がうっとりと目を閉じる。途端、ぐぅっと可愛らしくお腹が鳴った。
「うう、そういえば今日は何も食べていませんでした……」
 そんな由宇をかわいそうに思ったマリオンが、持っていたサザエを分けてくれた。
「うーん、ちょっと焦げちゃったね。もっと弱くしないとダメかな」
 なぶらは、エビの鮮度を保つために轟雷閃の出力には気を使っていたのだが、まだ強かったようだ。
「次は焦がさないように気をつけるよ。セラさん、エビの冷凍は頼んだよ」
 マリオンと共に駆けつけたセラエノ断章は、エビの下から這い出てきたルイになぶらと共に手を貸しながら、彼の言葉に頷いた。
「でも、こっちが先かな」
 セラエノ断章は、エビの冷凍に使うブリザード分の魔力を残しながら、傷だらけのルイにヒールをかけた。
「魔力は大事に使いたいから、余計な仕事はあまり増やさないように頑張って欲しいな」
 セラエノ断章にそう言われ、シュンとするルイを元気づけようとマリオンが口を開く。
「でも、ルイお父さん凄かったですぅ〜。おっきな海老さん相手に身体一つであそこまで戦えるなんて。あたしもいつかはルイお父さんみたいに強くなるです!」
 キラキラと目を輝かせ素直に親愛の情を見せるマリオンに、ルイのパワーが再び充電されていく。もちろん、セラエノ断章のヒールのおかげでもあるのだが。
「よし、思ったより大変だけど、頑張って次に行こうか!」
 なぶらの言葉に、ルイは義娘達にもらったパワーと笑顔で、再び夏の海に向かって走り出した。