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第5章 帝王学部「ねんがんの ていおうに なったぞ!」


「指導者即ち王たる資質、そちらを追及するもうひとつのコミュニティのPVを紹介します。
 プログラムNO.6、『帝王学部』」

 背景が真っ暗な画面には、ひとりの青年がパイプ椅子に座っていた。
 椅子に座っている姿は、瓶底メガネをつけて、髪はべったりと張りついたようなイケてないマッシュルームヘアーの、いかにもパッとしない風体だ。なまじ長身なだけに、情けなさが倍増している。
 それは、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)の変装した姿だった。
 BGMが流れていた。か細くて悲愴な響きの弦楽器の旋律。
 ヴァルのナレーションが入った。
「勉強もスポーツも、そして恋もダメダメな僕。
 ライバルにどんどん出し抜かれ、夜も眠れず昼に寝る生活を繰り返していたある日、この帝王学に出会ったんだ!
 それ以後、勉強もスポーツも、そして臣民の指導も全てが上手くいくようになり、そして──」
 ヴァルは椅子から立ち上がった。
「そしていつしか『ねんがんの ていおうに なったぞ!』」
 背景が明転し、白い光に包まれる。
 BGM、重厚なオーケストラヒットとともに、勇壮な旋律へと切り替わる。
「今日は、そんな野心たっぷりの皆に、帝王学部の魅力を語っちゃうよ!」
 テロップが入った。
「効果は人により多少の誤差があることをご了承ください」 


「あいつ、帝王なんて言ってるよ」
 観客席で不動 冥利(ふどう・みょうり)がスクリーンのヴァルを指差した。
「帝王と魔王と、どっちが強いかな?」
「好きに言わせとけばいいでしょう。『帝王だ、スゴいだろう』なんて威張って来ても、『そう、関係ないね』で流して終わりです」
 そう答えて肩をすくめるのは古代禁断 復活の書(こだいきんだん・ふっかつのしょ)だ。
「んー……あ、戦うよりも帝王と魔王が手を組む方が強いかも知れないね」
「ならどうします? 説得して味方に引き込みますか?」
 復活の書の問いに、冥利は首を横に振った。
「面白そうだから、ボクが帝王になるよ。まずは、帝王の人の所に行って、『キミの王位をゆずってくれ』って頼むよ」
「ヌル過ぎアル。そんなの回りくどいアル」
 古代禁断 死者の書(こだいきんだん・ししゃのしょ)が、冥利の隣でフン、と鼻を鳴らした。
「欲しいものは力で奪い取るのが世の慣わしアル。帝位簒奪、『殺してでも奪い取る』のが手っ取り早いアル」
「……あのPVの帝王さんは、そうするだけの価値がありますかね? まずは見てみるとしましょうか」

 画面切り替わる。次々に映し出される場面。
 ――机に向かい、テキストを開いてノートに色々書き込むイケてない格好のヴァル。
 ――鏡の前に立ち、手元の資料を見て何かを話し、つっかえては首を振るイケてない格好のヴァルと。
 ――「まずは第一印象を良くする事」と美容室に行き、鏡の前に座り、髪にハサミを入れられたり、眼鏡を外されたりするヴァル。
 ――「姿勢を正す。背筋を伸ばし、胸を張る」と意識して、ノッシノッシと街を歩くヴァル。
 ゼミナーのナレーションが入った。
「懇切丁寧な指導と高め合う素晴らしい仲間達。
 王になるのは大変だと考えている諸君。
 そんなことは無いのだよ。
 全国1000万人の生徒を持つ、この神拳ゼミナーの赤ペン指導…することなく、丁寧かつ深長な自習と、行動による実学(シナリオとキャラクエ)さえこなしていれば、なんと何時の間にか全て上手くいっているッ!
 それはこの帝王学部が誇る驚異の進王率100%が示しているのだよ!」
 入るテロップ「王を自称するのは自由です」 


 ルキノ・ラウェイル(るきの・らうぇいる)が「うーん」と唸った。
「自習だけで、スクーリングはないんかい……」

 画面には、壇の上に立ち、目前に並ぶ何千もの臣民(CG)を見下ろすヴァルの姿が映った。その隅に、「協力:蒼空歌劇団俳優会」の文字が入る。
 ズラリと並ぶ臣民らの列の最前には、軍服を着たリカイン、ソルファイン、ヴィゼント、サンドラの姿があった(こちらはCGではなく実映像)。
 ヴァルの風貌は、大きく変わっていた。精悍な顔、力に満ちた双眸、セミロングの髪を少し後ろに流したワイルドな頭。かつてのイケてない格好を感じさせるものは微塵もない。
 ヴァルが拳を突き上げると、臣民達も呼応して拳を突き上げ、
「おおぉおぉぉぉッ!」
と鬨の声を上げる。
 ゼミナーのナレーションが入った
「さあ、来たれ帝王学部!
 今なら無料体験セミナー実施中!」
 テロップで「帝王学部  >検索」が表示された。 


「ヴァルさんにお訊ねします。ずばり、帝王とは何ですか?」
「帝王とは、全てを手に入れる者の事です。男子の大望にして本懐、男児なら誰でも一度は、『帝王』を目指すものですよ」
 コメント求められるヴァルは、力強く答えた。、
「なるほど。
 『勉強もスポーツも、そして恋もダメダメな僕』が『勉強もスポーツも、そして臣民の指導も全てが上手くいくようになり』と、大変劇的な変化を遂げましたね」
「ええ、全ては帝王学のたまものです」
「恋が抜けてますね」
「……いや、その……ほ、ほら、臣民の指導が上手くいってますし」
「帝王学でも、恋はダメですか?」
「……い、いやぁ、帝王っていったらカッコいいでしょ。女の子なんて向こうの方から寄ってくる! よりどりみどりってなもんだ!」
 観客の一部から声が上がった。
「帝王よりも女帝でしょ? シャンバラってもともと女王の国だしー」
「女の子だけか。つまんないなぁ」
 後者の声は、男子のものだった。どうやら薔薇学の者らしい。
 ヴァルの居心地が微妙に悪くなった。

 冥利、復活の書、死者の書らは、微妙にうろたえている「帝王」ヴァル・ゴライオンに対する評価を決めた。
(「帝王」? 『そう、関係ないね』)