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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

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第二章 祭りの前日

 蒼空学園校長兼理事長の山葉 涼司(やまは・りょうじ)は、会議室に集まった20名ほどを見回した。蒼空学園ばかりではない、他校の生徒にも声をかけてある。
 もちろん神野 永太(じんの・えいた)獣 ニサト(けもの・にさと)とパートナー田中 クリスティーヌ(たなか・くりすてぃーぬ)のように、自ら出向いてきた生徒もいる。
「つまりは臨時の風紀委員か」
 マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)の冷静沈着な言葉に、山葉がうなずいた。
「明日の昼休みには、かなりの混乱が予想される。本格的な対策はとっているんだが、実施は明後日からになりそうだ。そこで明日だけ風紀委員を増員したい」
 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は、集まった生徒をチラッと見る。蒼空学園の生徒が多いものの、何かとそりの合わない学校の生徒も見かけた。
「随分いろいろと声をかけたんだな」
 パートナーのサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)にささやいた。
「山葉校長の人脈の広さでしょう。統制に問題が生まれるかもしれませんが、他校へのけん制にはなりますから」
「ちょっと聞きたいんだけどさ」
 滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)が、手を挙げた。
「風紀委員に何かメリットはあるの? 例えば伝説の焼きそばパンを優先して1つ貰えるとかさ」
 他の生徒からも「そうだよなー」との発言がある。逆に「報酬目当てでやるもんじゃないだろ」との声も聞こえた。
「もちろん用意してある」
 自信たっぷりの山葉の言葉に、「おおっ!」と歓声が返ってくる。
「当日の混乱も、昼休みの始まるせいぜい10分か15分くらいのものだろう。それが終わったら風紀委員にはここに戻ってきて欲しい。ささやかだが慰労会を行う予定だ」
「そこで伝説の焼きそばパンが貰えるのか?」
 黒木 カフカ(くろき・かふか)が目を輝かせる。
「伝説になるかもしれないナポリタンパンを用意してある」
 山葉の言葉に、全員が「?」の顔になる。
 クロス・クロノス(くろす・くろのす)が発言を求めた。
「私は何もなくても引き受けるつもりですが、何が頂けるのでしょう。よく聞こえなかったのですが」
 仕方ないと言った風に、山葉が言い直す。
「用意してあるのは伝説になるかもしれないナポリタンパンだ」
 全員の顔が一層「?」となった。
「聞こえたぁ?ミスティ」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、パートナーのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)に尋ねた。
「私の耳が確かなら、ナポリタンパンと聞こえましたが」
「あたしもそう聞こえたんだよねぇ」
 室内のざわめきが大きくなると、山葉が咳払いをした。
「コッペパンに焼きそばを挟んだものが焼きそばパンだ。そこでコッペパンにスパゲティナポリタンを挟んだナポリタンパンが作られた。実は購買部から試食を頼まれているんだ」 
「なーんだ」や「そんならそうと言ってくれよ」の声があちこちから聞こえる。
「只働きよりはマシってところか。それよりも風紀委員の肩書きは面白そうだな」
 花京院 秋羽(かきょういん・あきは)は、うっすらと笑みを浮かべた。面倒なので適当に済ませようと考えていたが、ここに来てあるお仕置きを思いついた。
「また何か考えてるの?」
 パートナーのティラミス・ノクターン(てぃらみす・のくたーん)が、秋羽の顔を覗きこんだ。
「そうだな……ティラミスにも働いてもらうことになるか。甘いものじゃないのが残念だが、伝説を味わうのも悪くない」 
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)が立ち上がった。
「山葉校長直々に頼まれたら断れませんわ。でもナポリタンパンは遠慮しておきます。私は食べたいものを食べる主義なので」
 黒い布に隠された目元は見えなかったが、口元には笑みをたたえている。一礼して再び席についた。
「風紀委員も慰労会もナポリタンパンも、嫌なら断ってくれても構わない。できれば協力して欲しい」
「それなら……」
 会議室の後ろの方に座っていた女性が立ち上がった。少し遅れて隣の男性も立ち上がる。
「私はこれで失礼させてもらう。頼む相手を間違ったようだな」
 波羅蜜多実業高校の雉明 ルカ(ちあき・るか)と、パートナーのビンセント・パーシヴァル(びんせんと・ぱーしばる)だった。ヒソヒソと会話の漂う会議室を、気に留めずに立ち去った。
 他に断る生徒がいないことを確認した山葉は、明日の分担に取り掛かる。購買部を手伝う者、焼きそばパンの運搬を担う者、購買部の近くで混乱を収める者、校内全体を見回る者。いくらかのローテーションを加味して振り分けた。
 また火村 加夜(ひむら・かや)の提案で、風紀委員は腕章を付けることも決まった。

「うまーくもぐりこめたな」
 獣 ニサト(けもの・にさと)は、田中 クリスティーヌ(たなか・くりすてぃーぬ)を見てニンマリ笑う。
 2人は何のかんのと言って、購買部を手伝う担当についた。そうでなくてはニサトの企みは成就しない。
「まだまだです。これから明日の用意をしなくては」
「お、クリスも乗ってきたじゃねぇか」
「美味い酒が飲めるとあれば、ニサトの悪巧みにも協力は惜しみません」
「言うねぇ、うっし、まずは買い出しだ」

「臨時であっても、リカが風紀委員を引き受けるとはね」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、パートナーの中原 鞆絵(なかはら・ともえ)を振り返った。
「仕方なくってところよ」
「まじめに風紀委員に取り組むのであれば、あたしも手伝いましょう。でも隠し事でもしているのであれば……」
 鞆絵の瞳の奥が深くきらめいた。リカはクスッと笑って首を振る。
「いっつもトラブルメーカーじゃ飽きるでしょ。ちょっと離れたところにいれば、変わった景色が見られるかもね」

「まいったなぁ。伝説の焼きそばパンは食べたいけど、ナポリタンパンってのも気になるし」
 滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)は、頭を抱えた。
「あら、だぁりん、そんなの簡単じゃない。あたしに任せてよ」
 洋介のパートナー、源 静(みなもとの・しずか)は、厚い胸板をドンと叩いた。
「何か良い方法でもあるのか?」
「簡単よぉ。だぁりんはそのまま風紀委員で頑張ればいいの。それならナポリタンパンを食べられるでしょ。あたしは風紀委員を辞退して、焼きそばパン獲得に精を出すわ」
「そうか! でも焼きそばパンを100%買えるとは限らないだろ」
「それは仕方ないわよ。だからだぁりんも風紀委員として、あたしをさり気なくフォローして。そしたら少しは確率があがるかも」
「そうだな、やってみるか」