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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 第8章 お待たせいたしました。第6章の続きです。

 ファーシーとアクア、助けに行った朔と合流した花琳達が覗き込む中で、スカサハはぱちっ、と目を覚ました。
 起き上がって、キョロキョロとする。 
「……ハッ! スカサハ溺れてたでありますか……」
「う、うん……」
 何となくその場に流れるのは、間の抜けた沈黙。
「……えーと……」
 困ったようにファーシー達を順に見て。
「とりあえずこういう飛び込みは危険でありますからやっちゃだめでありますよ!」
 と、スカサハは言った。
 若干、遅かったような気がしないでもない。

              ◇◇◇◇◇◇

 海開き。斯様に夏の海は危険が多い。いや、一般で言う危険という意味でも。
「開放的になった者を狙う悪漢は尽きぬからな。帝王として、浜辺の警邏も欠かせぬ」
 誰かの平和な1日、皆の楽しき1日を守り支えることこそ帝王の喜び。その背を誰かに焼き付けられたなら、それに勝る喜び無し。
 ということで、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)キリカ・キリルク(きりか・きりるく)シグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)と一緒に夏の警邏を行っていた。
 勿論、何事も無いにこしたことはない。特別構えすぎず、基本のんびりと歩いている。
「うう、もうお婿にいけない……」
 海の家を通りかかると、そこでは、バイト少年プリムが宣伝用のぼりを追加設置していた。何があったのか、涙目である。メイド服である。恥ずかしい格好にされたそのフィニッシュがメイド服であり、存外似合っていたことから、彼は闇口からそのままバイトするように命を受けた。『水着に着替えたら時給を半額にするがそれでいいか?』と言われてしまったら仕方ない。ご丁寧に、胸の名札には「ぷりむ☆」とあった。
「……闇口さんまで悪ノリして……2軍はこれくらいしないと目立たないんだ! とか……わけわかんないよ……」
 その彼に、ヴァルは声を掛けた。
「海の家のプリム君か。暑い中お疲れ様」
「……うう……お兄さんは?」
「俺か? なに、通りすがりの帝王だ」
「帝王……?」
 名乗りを聞いて、プリムはきょとんとした。というか目を点にした。よくわからない。
「えっと……名前を聞いたつもりだったんだけど……」
「名前なんて、どうでも良いだろう」
 堂々と即答された。この手のやりとりには慣れているのかもしれない。
「大事なのは、自分が今日1日何をしたか、だ。誰にどう想われてるとか、2軍とか気にする必要は無い」
 何だかすごい良い事を言われた。
 全くもってその通りだ。突っ込み所などどこにもない。闇口を引っ張ってきて聞かせたいくらいだ。だが、プリムは1つ確認したくなった。
「メイド服でも?」
「…………」
 2人の間に短い沈黙が流れる。それから、ヴァルは満面にいい笑顔を浮かべてプリムの背を思いっきり叩いた。
「さ、それじゃ頑張ろうぜ。プリム!」
 そして、笑いながら浜を歩いていく。多少むせつつ、プリムは彼の背中を見送った。
(あ……最後、呼び方変わってたかも)
 と思いながら。

「キリカはいつも通りか。水着は着ないのか?」
 プリムと別れ、水着姿の海水浴客達の間を3人で歩く。皆が水着姿の中、キリカは水着を着ていない。警邏にあたる際のスタンスだけでなく、服装までいつも通りだった。いや、残念である。いや口には出さないが。
「水着ですか? まぁ……一応女性ですけど」
 キリカは特に興味無さそうな口調で、淡々と言った。
「今は薔薇の学舎に属しているので、どこで知り合いに逢うとも限りませんし」
 帝王と一緒だからいいんです。と内心で後に続ける。決して口には出さないが。
(……まぁこの炎天下、男3人で歩いてると思われるのはなんだか癪……って……)
 シグノーも普段の性別不詳な格好をしているしと思って見てみると、こちらはきっちり水着姿だ。一体いつの間に着替えたのだろう。
 別にいいけれど。何とも思わないけれど。帝王に水着姿見られたくないから。いや口には出さないが。
(ああ、考えてみたら帝王は目的を持ってきちんと警邏しているのに、自分たらくだらない事ばかり考えて……)
 不真面目な自分に、ちょっと反省する。そういえば、前にも寝ている帝王にキs……
 あああ……………………
 キリカは心の中で叫んだり自らの行いに激しく落胆したりと忙しかった。
 いや口には出さないが。表情にも出さないが。……表情に出さないのはなかなかすごい。
(帝王だって頑張ってるんです。僕も頑張らないと)
 そう思ってヴァルの方を見る。彼は、シグノーになにやら苦い視線を向けていた。シグノーは――
「暑い……ッス。折角浮輪も持ってきたのに、海に入らないとか勿体無いッス」
 水着姿のシグノーは、遊ぶ気満々だったらしく浮輪を小脇にぶーぶーと言っていた。太陽の熱にダレ気味でもあるらしい。
「シグノー……お前はいつも通りすぎる。真面目にやれ」
 ヴァルが今度は口に出し、シグノーを怒った。だが、シグノーは悪びれない。というか全然堪えていない。
「でもほら、事件は陸で起きるんじゃない、海で起きてるんだ! ってどこかのちいぱい仲間の青い鳥……じゃなかった湾岸署の青い島さんも言ってるッス」
 海に入るのも警邏の一環とばかりに浮輪を被って走り出す。
「というわけで、ダッシュっス!」
 全力アタックして波打ち際から海に全力アタックする。が、手加減なしのその勢いに、浮輪がぱんっ! と破裂した。すごい力だ。浮輪もびっくりしたことだろう。
「ギャー!」
 瞬く間にシグノーは沈没し――(カナヅチ)

「大丈夫でございますか?」
 監視員の魅華星に助けられた。
「た、助かったッス……」
「全く……危険を防ぎにきたのにお前が助けられてどうするんだ」
「そなた達も海の安全を守りにきたのでございますね。わたくしもですわ。1日はまだ長いですし、お互いに頑張りましょう」
 魅華星はそう言って、夜刀龍の所へ戻っていく。それにしても、豊満なボディときわどい水着だ。
「「…………」」
 シグノーはキリカとその背を見送り――
「……や、やるじゃないっすか海」
 と、目の前に広がる海に言った。そして。
「……良いんスよ。狐は泳げなくても」
 と、海から目を逸らした。