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リアクション
第3章 のんびりと休日を。
ぽす、と、ビーチボールが砂の上に落ちる。
「やった、勝ったぜ!」
ステア・ロウ(すてあ・ろう)が元気一杯な声を上げ、彼女の隣で構えていたアリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)は、落ちたボールを拾いあげた。向かいに立つ正光・シュクレール(まさみつ・しゅくれーる)に話しかける。
「おにーちゃん、今日はなんだか調子が出ないねー、返ってくるボールも変な方へ行っちゃうし。どーしたの?」
「い、いや……」
どうしたのと聞きながら、アリアにはその理由が分かっているようでもあった。正光は今も、覗き込んでくるアリアを直視できない。
(2人とも可愛すぎて……目線が合わせられん)
アリアは水玉のビキニタイプの水着、ステアは緑のレオタードタイプの水着を着ている。それは凄く似合っていて、正光としてはとても平常心ではいられなかった。見ないようにしている相手に、まともにボールが返せるわけもない。
「ニーサン、折角水着を披露したのに目線合ってないぜ?」
ステアが近づいてきて、ニヤリと笑う。元々彼女とアリアは、水着のお披露目をしたい、と正光を海へ連れてきた。しかし、彼はこの体たらくである。
「そ、それは、可愛いから……」
真っ赤になって目を逸らしたまま言う正光に、ステアはへへっ、と嬉しそうにした。
「……照れるじゃないか。でも、やっぱりこっち向いて言ってもらいたいぜ。アリ姉もそう思ってるんだからさ」
「え……」
「そうだよ、こっち向いてー♪」
どきりとしたところにアリアの明るい声がかかり、釣られて振り向く。今日初めて、まともに見るアリアの水着姿――
「そ、そうだ! ビーチボールはこのくらいにしてスイカ割りでもしよう。な!」
「そうだねー♪ キレイに割って、3人で食べよっかー♪ ちょうどのども乾いてきたしね!」
正光の反応にどこかいたずらっぽく笑って、アリアは置いてあったクーラーボックスからスイカを取り出した。砂の上に置き、少し離れた場所に立って目隠しする。叩いたとき、彼女が一番力加減が出来そうでもある。ふらふらと木棒を持って歩くアリアに、ステアがスイカの位置をあっちこっちと教える。そして遂に、ぽけん、と棒がヒットした。
「おおー、ナイス、アリ姉!」
割れたスイカは瑞々しく、とても美味しそうだった。
スイカを食べながら、正光は改めて浜辺を眺める。楽しく遊べたら、とアリア達2人娘に誘われてホイホイと海に来てしまったけれど。
「今日は海開きだったんだな、知らなかった……」
「私もアリ姉に言われて気付いたんだけどな!」
「アリアは知ってたのか」
肩より下は特に見ないよう気をつけながら、正光はアリアに顔を向ける。
「うん、折角買った水着をおにーちゃんに見せたかったからねー」
スイカを食べ終わったアリアは、そうそう、とシートの上にうつぶせになる。
「アリア、どうした?」
「おにーちゃん、日焼け止めクリーム塗ってほしいなー」
「日焼け止めクリーム?」
予想外の言葉に、正光はぴしゃーん! と背後に稲妻を迸らせる。まさか……俺に塗れというのか!!
「ステアじゃダメなのか!?」
「うん、おにーちゃんじゃなきゃダーメ♪ 全身にくまなく塗ってほしいなー」
「全身……!?」
硬直する彼に、ステアが不思議そうに首を傾げる。
「ニーサンどうした? 日焼け止めクリームを塗るくらい大丈夫だろ? いつも家ではアリ姉の体触りまくってるんだからさ♪」
おっと、言い忘れていたがアリアは正光の婚約者である。
「家とここでは別だろう!」
「? 大丈夫だ、問題ない」
何が問題ないのかとツッコむ暇もなく、ステアは彼の背中を叩いた。
「だから頑張れ、ニーサン♪」
「…………。うう、仕方が無い……」
少々たじろぎながらも、正光は日焼け止めクリームを手に取った。
「あ、胸に触れてもいいから、安心して塗ってね」
「……!?」
「家でマッサージするくらいの力でねー♪」
胸に触れてもいい、ということは、ビキニの紐を解いてもいいということであり――
「ん〜、気持ちいい〜♪」
紐を解き、なるべくいつも通りに、と人目を気にしながらクリームを塗っていく。その緊張すらも嬉しいのか、アリアは幸せそうに目を細めた。
◇◇◇◇◇◇
「……こう?」
「うん、そうだよ、アゾートちゃん上手上手!」
そして海では、白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)はアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)に泳ぎを教えていた。
ちょうど、アゾートは新しい水着を持っているようだから、と海に誘って自分もお揃いにしてみた。2人は東シャンバラの公式水着を着て、たゆたう海の中でばしゃばしゃと小さなしぶきを上げている。長い髪が広がらないように、今日のアゾートはポニーテール姿だ。
「クロールしかやったことないから、よくわからない……」
練習だから、あまり水深がないところで。アゾートは立ち泳ぎをした歩夢に両手を持ってもらい、水面に仰向けになって背泳ぎの体勢を取っている。
アゾートはただもくもくとキックを続け、確認の為に上目遣いな視線を送ってくる。歩夢は、そんな彼女と少し顔を赤くしながら顔を合わせていた。なんというか……やっぱり可愛い。
その動作はどこかぎこちなくて――
(アゾートちゃん、やっぱり運動はあまり得意じゃないんだな……。でも、そんなところも……)
そして、遠慮が無かった。
足の動きが大きければ、当然体の動きも大きくなるわけで。
「あ、あんまり激しく動くと危ないよっ!?」
「……?」
「アゾートちゃん……その、お胸とか結構あるし……」
――……あああっ、私は一体何をっ!
言いながら、歩夢の顔は真っ赤になる。
(でも、アゾートちゃん、結構大胆っ。賢者の石に一生懸命で余り恥ずかしさとか無いみたいだけど……)
ポロリとかしちゃわないか期た……もとい心配っ!
「……? ああ、大丈夫……。これ、バンドゥタイプだから。しっかりしてるし」
ひとり照れて目をそらす歩夢に、アゾートは冷静に言う。歩夢の言わんとしていることは分かったが、その意味合いは分かっていないらしい。
「へ? あ、そ、そうだね……」
残ね……もとい安心である。
「あ、そうだアゾートちゃん! 足の動きはもうちょっと、小さめでもいいかも……」
慌ててそう言って、歩夢はアゾートの足側に回る。足を取って動きを教えていくが、アゾートはそれを普通に受け入れて練習している。
(あんまり恥じらいとか無いのかな? 公式だから恥ずかしくないとか言ってたけど……)
ある日、学校の入口で聞いた話を思い出す。
(でも彼女、自分の事とか無頓着みたい……。こんな魅力的なのに……)
そう思うとまた照れてしまって、手の止まった歩夢に、アゾートは不思議そうに声を掛けた。
「どうしたの?」
「う、ううん、なんでもっ!」
――でも、そんな飾らない所も素敵だな……
泳ぎ終わって、着替えようと一緒に更衣室に行く。シャワーには一応仕切りがあるけど、浴びる前後には水着を脱ぐわけで。
(み、見るのも見られるのも大変!)
背中を向けて、照れながらできるだけ前を隠しつつ……、ちらりちらりと振り返ってアゾートを気にしながら着替えを済ませる。アゾートはやっぱり、全然気にしてなくて自然体だ。
す……少しは、み、みれたかな……?
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