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【特別授業】学校対抗トライアスロン

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【特別授業】学校対抗トライアスロン

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(3)『ほふく前進』

『『張られた網は大河の如し、いえ! 夜空に輝く天の川!! 参加者たちの汗と涙が夜空に煌めく星のように美しく力強く輝いています!!!』』
 第三種目『ほふく前進』、全長500mの芝生道には一面に金網が張られている。金網は高さ50cmの位置に張られていて、選手たちは地表との間を『ほふく前進』で進まなくてはならない。それも『2人手を繋いだ状態』で。
『『さぁ! 競技開始から早くも5分、現在の一位は〜〜〜〜〜〜おぉ〜っと!! これは早くもデッドヒートだぁあああ!!!』』
 先頭は『戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)リース・バーロット(りーす・ばーろっと)のペア』。体操服に身を包んでいるが這い進む様は正に軍人、迷彩服が目に浮かんで見えるほどの見事な『ほふく前進』で流れるように進んでいた。
「思ったほど、難しくは、ありませんね」
 言いながらもリースは少し苦しそうだった。
「手を繋いだ、状態は、二人三脚と、まるで同じです」
 戦部もこれに難なく応える。
「手を前に出す、タイミング。2人の呼吸。そして単調なリズムを、崩すことなく、維持できるかどうか、それが鍵です」
 言葉を切るタイミングが同じなことも、2人のリズムが合っている証拠である。完走を目指す上で懸念すべき点があるとすれば―――
「痛みは無いですか?」
「? 痛み、ですか?」
「胸です」
「胸?」
 変わらぬ口調で、視線も前方に向けたままに戦部は言った。うつぶせのまま500mもの距離を進むとなるとリースの大きな胸はなにぶん不利に思えた。体操服姿であればこそ尚圧迫されることだろう。
「大丈夫ですよ、処置はしてあります」
「そうですか」
 淡々と、声色も変わらずに言ってのけた。こうした台詞を言っても、ちっともイヤらしく聞こえない所がまた憎たらしい。誠実さと生真面目さの勝利であろうか。
 それにしてもリースが言った処置とは何の事だろうか。胸当ての類を装備しているようには、とても見えないのだが……。
 さて、先頭争いをするもう一方のペアに関しては……悲しいかな、リースのような心配は全くもって必要ないようである。
「ぅう……」
 セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)は這っていた。 
「ぅうううう……」
 アシュレイ・ビジョルド(あしゅれい・びじょるど)と手をつないで這っていた。アシュレイは自分よりも更に小柄な体をしているから、自分が引っ張っていく位の気持ちで臨んでいたのだが……。
ティセラが……ティセラがあたしにピッタリの種目があるからって……」
 高さ50cmの所にある金網も、2人にとっては何のその。寝転がってうつ伏せになっても手足は思いのままに動くし2人の体格も近い、そして何より2人とも胸が小さ―――
「あたしにピッタリってそういう事かーーー!!!」
 『ムキィーッ』という台詞すら聞こえてきそうな程にセイニィは発狂した。そうして思わず、
「危ないですよ」
「あ、ありがとう」
 上げてしまった頭をアシュレイが手を添えて止めてくれた。
「ごめん」
「ううん、私こそごめんなさい、無理に参加させちゃったみたいで」
「ち、違うよ、違う違う! あたしも来たからには何かしらに参加したいと思ってたし、あの、その『ほふく前進』が嫌とか『水泳』の方が良かったとかそういうのは無くて、その……」
「ふふっ」
 必死に弁明する様が可愛く思えて、アシュレイは小さく笑って応えた。
「遅くたって構いません。一緒に完走しましょう」
「う、うん。そうだねっ!」
 2人は互いに握る手を、強く、やさしく握りしめた。そうして再びに這うを始める。『遅くたって構わない』そう『2人一緒に完走する』ために。
 …………心意気はそうなのだが…………悲しいかな。本人たちは完走を目指して慎重に進んでいるつもりでも、どうしても他の参加者たちよりも楽に手足を動かせてしまうわけで……。
 『アシュレイセイニィペア』が意図せぬトップ争いに復帰した頃、その遙か後方では本当に完走を目指して我が道を行くペアが一つ。
「せーのっ、せーのっ、せーのっ、せーのっ」
「よいしょっ、よいしょっ、よいしょっ、よいしょー」
 『エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)のペア』は実に堅実に這い進んでいた。2人の身長差を補うべく、かけ声に合わせて手足を前に出していた。
 そんな2人の仲むつまじくも心温まる協力プレイを、冷めた目で見つめる男が一人。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜」
 薔薇の学舎所属の元怪盗、カールハインツ・ベッケンバウワー(かーるはいんつ・べっけんばうわー)である。
「やっぱ、まぁ、ダセェな。いや、まだマシか」
 ボサボサと頭をかきながらそう呟いた。
 コースの外で、というよりスタート地点から一歩も動かないままに競技者たちを眺めていた。
「よいしょっ、よいしょー」
 小柄なクマラが先行気味に進んでゆく、そうすることで歩調を合わせる。
「せーのっ、せーのっと」
 『ほふく前進』である以上、通常は「がに股」になってしまうがそれではやはりに不格好。それを少しでも魅せられるものにするべく、エースは左膝を地面につけ、右足を後方に伸ばし、更に左腕で上体を支えながらに前進するという体勢をとった。
 接地面積を少なくする事で移動スピードを確保、更に左臀部を地面に近づけるよう意識することで頭の位置も低く保つことができる。
 非常に効率的、かつビジュアル面への考慮も忘れていない。そんなエースの『ほふく前進』が、未だスタートすらしていないカールハインツに「まだマシか」と思わせた……のだが。
「………………帰るか」
 興味が失せていた。アリシアからの連絡を受けて参上したのだが、不幸なことに『ペアを見つけること』が出来なかったのである。まぁ、彼自身積極的にペア探しをしなかった事にも一因はあるのだが、とにもかくにも彼はここで会場を後にしたのだった。
『『ゴォ〜〜〜〜〜ル!!! 『エースクマラペア』のゴールを持ちまして〜〜『ほふく前進』競技終了で〜〜す!! 選手のみなさん、お疲れSUMMER〜〜〜!!』』
「マスター」
 相変わらずにハイテンションなにパートナーの一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が寄りて言った。
「第4会場の確認を終えました。いつでも引き渡せます」
『『そぉ〜〜でした〜〜〜、みなさまに残念なお知らせがありますっ!! 次の第4種目『小猪避け』ですが実況は再び絵梨奈さんにお任せするため、ボクはここで一度マイクを置く事になりま〜〜〜す』』
 瑞樹とのやり取りもマイクを通してやってのけた。『熱狂のヘッドセット』の効果か、いや、はたまた彼女のプロ根性の片鱗……は言い過ぎかもしれない。
『『少しの間、普通の女の子に戻りますが、10年後の8月また出会えるのを―――いえ、100分後の8月にまた出会えるのを楽しみにしてるよ〜〜。それでは恒例の中間発表で〜〜〜す!!』』
 第三種目『完走者:3ペア』。
 暫定順位、一位:シャンバラ教導団、二位:空京大学、三位:百合園女学院。