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伝説のリンゴを召し上がれ

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伝説のリンゴを召し上がれ

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第3章

 同じ頃、高崎 朋美(たかさき・ともみ)ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)は、アシハラザルに荒らされた倉庫に到着していた。
「アシハラザルたちが、地球からのリンゴを食い散らかした……といっても、全滅したかどうかは、きちんと調べてみないとわからないわよね?」
 朋美は、故郷を遠く離れて寂しい思いをしているのは、自分達契約者も同じだと思っている。
「千分の一でも、可能性があるならきっちり調べてみましょう。たとえ一個でも、まるごと残っていたならコーデリアのために回収して、リンゴの味を活かす食べ方で食べてもらいましょう。故郷の味は、なにものにも代えがたいですからね」
 一個でもリンゴが残っていれば、そのまま。「食い散らかした」中ででも、かじられたものの、残っている部分をきれいに切りとって、アップルパイの材料に使えるところはないかを丹念により分けるつもりだ。
「沢山失った、のね。けど、新しい『なにか』もキミを待ってるから。」
 友達になりたい、と願いを込めて、心の中のコーデリアに語りかける。
 ウルスラーディは、アシハラザルが食い散らかしたリンゴの後片付けも兼ねて、パートナーの朋美の手伝いについてきた。
「甘いものは苦手だから、料理する前のほんのり甘酸っぱい、生で食べられるリンゴにお目にかかりたいもんだね。アシハラザルとの間接キスはおことわりだが」
 と、苦笑しながらも、パラミタの味に慣れていないコーデリアのために、アップルパイに加工できそうな部分を、できるだけ、かき集めるつもりだ。
「上手くお菓子に仕立て上げるのは、幸人にお任せだ」
 そう言って、倉庫に入ろうとしたとき、扉が不自然に歪んでいることに気付いた。
「鍵……壊されてる……?」
 リンゴに気をとられていた幸人と美瑠は気付かなかったようだが、森から倉庫まで、アシハラザルを誘導するように、ところどころに餌が撒かれている。
「これは、調べてみる必要がありそうだわ」
 表情を引き締めた朋美は、エンパイアーパラミタホテルに連絡を取った。


「イヤイヤ! パーティなんて出たくない! 何も食べたくない! もう放っておいて!」
 癇癪を爆発させたコーデリアの声が、廊下にまで洩れ聞こえてくる。
 困ったものだな、と思いつつ、それを顔に出さずに立っているSPの足元に、何かモゾモゾと動くものが……、
「チカ、チカー! どこ行っちゃったんだ〜? ああっ、そんなとこにいたんだね!」
 駆け寄ってきたのは、ペットのパラミタモグラを捜す子供のふりをして、コーデリアの居場所をつきとめようと、ホテル内を歩き回っていた木賊 練(とくさ・ねり)だった。
「君、ここには入れないぞ」
「でも、あたしのパラミタモグラのチカが……あっ、チカが、このホテルで一番、豪華な部屋に入ろうとしてる!」
「こら、待ちなさい!」
 追いかけるSPたちは、彩里 秘色(あやさと・ひそく)のスウェーで攻撃を受け流された上、しびれ粉の犠牲になった。
「コーデリアさん……」
「……」
 パーティ用のピンクのドレスを着せられ、金色の巻き毛にもおそろいのリボンを結ばれたコーデリアが、見知らぬふたりの侵入を警戒して、不審そうに眉をしかめる。
「ええと、あたし、コーデリアさんに言わなきゃいけないことがあるんだ」
 12歳という年齢より子供な練は子供同士の感覚で、15歳という年齢より大人な秘色は、弟や妹のお守りを思い出しながら、7歳のコーデリアに話しかけた。
「コーデリアさんのために料理されるはずだった、地球のリンゴが全滅したことを知っていますか?」
「知ってるわ、パラミタのお猿さんが、私のリンゴを、みんな、食べちゃったんでしょ! 後見人の叔父さんが言った通りだわ」
「叔父さんは、何て言ったの?」
「パラミタは、とっても危険な場所だ、って。あぶない動物とか毒のある植物ばっかりだから、安全のために、そういうのを全部、やっつけなきゃいけない、って」
「それは嘘だよ! だって、地球のリンゴをアシハラザルに襲わせたのは、後見人の叔父さんだもん!」
「えっ?」
 コーデリアは、はっと顔を強ばらせた。
「叔父さんが……私に嘘をついたの……?」
「私たちの仲間が、力を合わせて調査した結果、わかったことです」
「叔父さんの言ったことは、全部嘘なんだよ、だって、パラミタには、チカみたいに、とってもかわいい子もいっぱいいるんだよ!」
 練は、チコを、コーデリアに触らせた。まるで小さなぬいぐるみのような感触に、コーデリアが、無邪気な子供の顔をとりもどしていく。
「この子も、パラミタの動物?」
「そう、かわいいでしょ? それに、パラミタの果物は、とってもおいしいよ。地球の果物に負けないくらい……ううん、地球のより、ずっとおいしい」
「今、あなたのために、私たちの仲間が、デザートパーティに出すパラミタのリンゴを料理しています。伝説のリンゴと呼ばれるくらいおいしいリンゴですよ」
「でも……パラミタのリンゴなんて……それに、パーティなんてつまらないから、行きたくない……あなたたちの言ったこと、信じられないし……」
「ね、地球のリンゴとパラミタのリンゴ、どっちがおいしいか確かめに行こうよ! もし、パラミタのリンゴが地球のリンゴよりおいしかったら、あたしたちを信じてね」
「……うん、わかった」
 半信半疑ながらも、頷いたコーデリアは、練と秘色に手を引かれて、パーティ会場へ向かった。