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六章 思い出

 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は一人で行動していた盗賊を殴り飛ばしてた。
「ち……畜生……頭を殺す前にこんなことになるなんて……」
「何を言ってるんだお前は。そんな事より、これを見ろ」
 エヴァルトが盗賊に見せたのはペンダントの絵が描かれた紙だった。
「このペンダントを知らないか? 知ってたら寄越せ」
 もはやどちらが盗賊か分からない言い回しではあるが、盗賊にそんなことを突っ込む余裕は無い。
「ぺ、ペンダントは知らないが、この先にお宝がある! ひょ、ひょっとしたら……」
「どうも本当っぽいですね。向こうからお宝の気配がします」
 トレジャーセンスを使っていた鈴木 麦子(すずき・むぎこ)が盗賊の言うことを肯定する。
「ん……行くか、お前も逃がしてやるから消えろ」
「は、はいいぃぃ!」
 エヴァルトの手から逃れた盗賊は脱兎の如く逃げ出し、麦子はそんな盗賊に一瞥もくれずトラッパーでの知識を生かして罠を警戒しながら先頭を歩いていく。
「え〜っと……なんの話をしてましたっけ……そうそう私が思うにあの子の恋人は『悪い男』だったのです。ペンダントには悪いお金になるような秘密が隠されていて、恋人の男は、悪い一味のメンバーだったのですが、彼らを出し抜き利益を独占しようとしていたのです。そのためにペンダントを洞窟に隠したのですが、利益を得る前に死んでしまって。盗賊団はそれを探しに来たのです。この幽霊もその時一緒に死んだのですが、自分の愛した恋人が悪い男だったと言うことを思い出したくないので、記憶の奥に封印してしまったのです。どうですか? 私の推理は」
「う……う〜ん……いいんじゃないですか? かなり独創的で」
 次百 姫星(つぐもも・きらら)は苦笑いを浮かべながら相槌を打っていると、
「あ……」
 小さく声を上げた。
 姫星の視線の先には散乱したガラクタの中に小さな宝箱がありました。
「おお! 本当にお宝っぽい箱が置いてありますよ」
「でも、トラップがあるとすればあの辺ですからね皆さんも注意してください」
「んもう! こんな時に尻込みしてどうするのよ女は度胸でしょ?」
 そう言って来たのは麦子のパートナー鍛冶 頓知(かじ・とんち)だった。
「でもトンチは男でしょ?」
「な、何をわけの分からない事を言ってるのよ。ほら、さっさとあの箱の中身を改めるわよ!」
「ああ! 頓知さん、あんまり不用心に近づくと……」
 姫星の制止も虚しく、頓知は物の見事にトラップワイヤーを踏んづけて、
「あぶっ!?」
 目の前を巨大な鎌が通過し、頓知の服を破り捨て、
「きゃああああ!」
 絹を裂いたような男の悲鳴が上がる。
「さ、トラップももう無さそうですし箱を開けますね」
 麦子はパートナーの痴態を無視して鍵の掛かった箱をピッキングでなんなく解錠した。
 姫星も興味ありげに中を覗きこむ。
 中にはオモチャやぬいぐるみ、手紙が押し込まれていた。
 その奥で、小さなペンダントが置かれていた。
「……おお! ペンダントだ! エヴァルトさんの絵とそっくり!」
 ペンダントを持ってはしゃいでいる姫星を見て呪われた共同墓場の 死者を統べる墓守姫(のろわれたきょうどうぼちの・ししゃをすべるはかもりひめ)は安堵のため息をつく。
「さ、これでここにいる理由も無くなったわ。他の人にも連絡して脱出しましょう」
「うん、私もその意見に賛成。他の人が盗賊を引きつけてるわけだし、さっさと出よう」「てめえら! そこでなにしてやがる!」
 そんなことを言っている間に姫星たちは盗賊たちと鉢合わせた。
「きゃあ! 言ってるそばから!」
「下手に戦ったらペンダントが壊れるかもしれないわね。ミスター木本、何か作戦はあるかしら?」
「まあ、あるにはあるけど」
 声をかけられた木本 和輝(きもと・ともき)はペンギンアヴァターラ・ロケットに両足を乗せた。
「みんな、ちょっとの間息止めといてな?」
 そう忠告した瞬間、和輝はスケボーのように地を這うロケットに乗って、盗賊たちに突っ込んでいく。
 盗賊たちは思わず身構えるが、和輝はあっという間に盗賊たちの間をすり抜ける。
「な、なんだ! ただの虚仮威……し?」
 盗賊たちが安堵の笑みを浮かべようとするのと同時に、盗賊たちは人形のようにその場に崩れ落ちた。
「ふう、通り過ぎる最中に痺れ粉散布作戦、成功」
「大分そのままの名前ですね」
「まあまあ、細かいことは気にしないってことで。さ、目的の物は見つけたし早くあの子の所に戻ろう」
 和輝の言葉にみんなが頷き、六人は真っ直ぐに出口を目指した。

 こうして、洞窟でのペンダント探しは幕を閉じた。