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迷宮での探索勝負!

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迷宮での探索勝負!

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■第三階層

セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、思案していた。彼女の先には、更衣室と書かれた看板があった。但し書きで水着に着替えること!とある。
「私たちはそのままの格好でいいのでは?時間もかかることですし」
「それもそうよね。でもこれでみんな水着になっちゃったら小暮君誘惑する効果薄れちゃうと思って。残念」
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の意見に賛同しつつ、軽口を叩きながら進む。
「この場に小暮君がいなくてよかったですよ。あんまりふざけるのはよしなさい」
 セレアナはそれに軽く顔をしかめ、たしなめるように言った。
更衣室の先には、地底湖でもあったのか水を引いたのかはわからないが、宣言通り道は水没していた。
ここからは泳ぐしかないようである。

一方、芦原 郁乃(あはら・いくの)荀 灌(じゅん・かん)泉 美緒(いずみ・みお)の三人は水着に着替えることを選択していた。
三人が着替えている横を、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が通過していく。
 先行していた芦原たちの声を聞きつけ、今のうちに罠に誘導する仕掛けを用意して足止めするために、更衣室はスルーすることにしたのである。

 その様子を見て思わず落胆の声を上げたのは、モニタールームにて待機していたハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)で、逆ににやりと笑みを浮かべたのはローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)である。ローグの傍らではナターリア・フルエアーズ(なたーりあ・ふるえあーず)が苦い顔をしていた。
「正直、このトラップはどうなんですか?」
「いいじゃないか。更衣室を用意して、水着に着替えなさいって警告を出しておく。素直に従った奴も従わなかった奴も、あとでちゃんと理由がわかるようになってるんだからな」
 二人の会話に、ハインリヒが加わってきた。
「それでもオレは、できるだけ着替えてもらいたいもんだぜ。やっぱりテレビが入るのならお色気シーンはあってもらわないと困るからな! それに……」
 意味ありげにハインリヒが言葉を濁す。どうやらローグとナターリアにも知らされていない仕掛けが用意されているらしい。

 水没地帯は、拍子抜けするほどすぐに抜けることができた。
 だが、セレンフィリティとセレアナはそこで立ち止まることとなる。
「究極の選択ね」
 二人の先は、道が二股に分かれていた。道は急斜面となっていて、どちらも再び水が満たされている。
 すぐに追いついてきた吹雪とイングラハムが合流する。
「どうしたのでありますか?」
「この先の道なんだけど……」
セレンフィリティに促されて分かれ道を見ると、分かれ道それぞれに看板が掲げられていた。右の道の看板には遠回り。だけどただの水路とある。
 左の道には近道。だけど中には……
 とあった。左の道を覗き込むと、何かが無数に蠢いているのが気配で感じらる。吹雪は身震いして顔を引っ込めた。
「いや、ここは右の道を選ぶべきでしょう。近道、と書いてあるのが本当かどうかはわかりませんが、左の道に何かいるのは確実です」
 セレアナの意見に一同、満場一致で賛成だった。セレンフィリティとセレアナが右の道へ進むのを見送って、吹雪とイングラハムは待機する。
 しばらくして、郁乃、灌、美緒の三人が現れた。
「あれ、吹雪じゃない。どうしたの?」
 首をかしげる芦原に吹雪は道の先を指差した。
 看板を見て、左の道を覗き込む郁乃。後ろをついてきた灌に釘をさすことも忘れない。
「荀灌、危ないし、押さないでね。いい、押しちゃだめだよ」
 しかし、それが失敗だった。念押したのを、押せというフリだと感じた荀灌が直後にそのまま郁乃を突き飛ばしたのである。
「きゃーっ!」
 郁乃の絶叫が響き渡る。
「お姉ちゃ〜ん、大丈夫? ごめんなさい、てっきり――」
 言い終わらないうちに、どこからともなく現れたイングラハムが心配そうについてきた美緒もろとも灌を突き落とした。
「掛かったな間抜けめ!!」
「勝てばいいのでありますよー!」
 悪人のセリフそのものを吐きながら、イングラハムと吹雪の二人は右の道へと飛び込んだ。その直後、今度は二人の悲鳴が響き渡った。
「ふふん、水場では大荷物で移動することは命取りだ。水着に着替えろ、という警告はこのためさ」
モニタールームでは、ローグの笑い声が響いていた。

 左の道、びちびちと艶かしくうねっている生き物は、うなぎだった。
それらをものともせず突っ切って顔を出したのは、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)のペアである。
実際のところ、左右の道は本当に左が近道に作られていた。右の道を選んだ契約者は、装備の荷重が倍加するようになっている上(安全のために緊急脱出ボタンをそこかしこに用意してございます)、かなりの回り道を余儀なくされていた。
が、一般的にあのうねうねなにかが蠢く中に飛び込んで行ける人がどれほどいるのかが勝敗を分かつ秘訣、というのが仕掛け人達の狙いでもあった。
「おお、出口にも更衣室が用意されているとは親切なことだ」
「そうだな、オラぁこのぬるぬる気持ち悪くってたまんねえぜ。遠慮なく使わせてもらおう」
 更衣室に入っていく二人。甚五郎とホフマンは第三階層に入ったときにも、律儀に水着へと着替えている。今もぱっつんぱっつんにはち切れそうな肉体美を惜しげもなく晒している漢二人組であった。
 全身くまなくヌルヌルした液体を拭き取り、そして運営が移動させておいてくれたのだろう、元の自分達の服を着込み、そして。
 そして、ひときわ背の高い甚五郎の視線があるものを捉えた。