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NINJA屋敷から脱出せよ!

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NINJA屋敷から脱出せよ!

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其の壱


『……さすが、葦原島クオリティ』

無限 大吾(むげん・だいご)西表 アリカ(いりおもて・ありか)がうめくように呟いた。
 だって、ホントに酷い。
 忍者屋敷がこんな外見であってたまるか。
 大吾はしらけた顔で、アリカは金色の瞳を皿のようにして、そのド派手な屋敷を見上げた。
 ペンキ塗り立て、安っぽくツヤツヤ輝く建屋は星条旗カラー。
 まあ、なんとなく嫌な予感はしていたのだけど。
「食堂のメニュー、おかしかったしな……」
「教室に飾ってあった書道も、訳わかんなかったよね……」
 NINJA屋敷の異様な存在感に圧された心を、エイヤと奮起させる。
「よおおし! 入るぞ! 楽しもうっ」
「そ、そだね! ここまで来たからには楽しまなきゃ損だよっ」
 なんかもうヤケだ。
 受付の入館名簿に筆ペンを走らせ、出迎えの巨大なネコ型マスコットロボを尻目に屋敷内に踏み入る。
 その愛嬌のあるような、ヘタウマでちょっぴりムカツク表情が、彼らの不安をさらに煽った。
 2人の胸中、期待が0.5割、不安が9.5割――。

「いや、だからPOPカラーじゃ自然感ゼロだろ!?」
 大吾が物言わぬ竹林にツッコミを入れた。アリカも続く。
「てか内装まで星条旗カラーにすることないじゃん!?」
「うげっ。掛け軸に描かれてるのアニメのキャラじゃないか。普通は書道とか風景の水墨画だろ!?」
「しかも無駄に畳とか使ってるから余計に違和感バリバリだよ!」
「さらに萌えフィギュアの数々……、床の間に置くな! 可愛いけどさ、これじゃ落ち着かないから!!」

 疾風のごとき怒涛のツッコミ。
 2人の表情がなんだかイキイキしているのは、きっと気のせいじゃない。
 NINJA屋敷を逆の意味で満喫している2人だ。
 アリカがちょっと嬉しそうに叫んだ。
「忍者がチョロチョロ動き回って目立ち過ぎだよ! 読んで忍ぶ者らしく、少しは忍ぼうよ!?」
 口もともゆるく、NINJAロボのキテレツな動きを見詰めていた2人が同時に眉をひそめた。
「あれ? なんか、ロボがこっちに来てない?」
「……って、どわぁ!?」
「なんか襲ってきたー!! なにこれ、ちょっと危なくない!?」
「よ、よくわからんがヤバイな」
 NINJAロボは無骨な手足をねじくれさせて、カンフーの動きで2人を襲う。
 ――機晶ロボ、暴走。
 火急の危機だが、――どうしてもツッコまずにはいられない。

『……って、カンフーは中国武術だぁあ!!』


     ×   ×   ×


「これが噂に名高いニンジャ・ヤシーキか。迷宮になっているとはさすがだな!」
 と感心しきりのエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)
 外国人である彼の日本観は、この屋敷のプロデューサーであるハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)と五十歩百歩だ。
 エース曰く、
「ニンジャは日本の隠密特殊部隊で、今でも訓練をして有事には日本国民皆がニンジャとして活動するんだ」
「へ〜っ」
 無邪気に信じるクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)の関心は、実のところ別にある。
「オイラ知ってるんだもんね。ニンジャって『カタヤキ』っていう超堅いおせんべいを非常食にしてたんだよね。ちみっこいトンカチでぱかんと割って食べるってアレ。オイラにもくーわーせーろーーじゃないとイタズラすーるーぞーー」
「ち、ちょ、こら、やめないかクマラ。ハロウィンだけれども。そうだけれども。というかその人はニンジャじゃない、お客さんだ」
 近くにいた少女の足にすがりついて駄々をこねるクマラを慌てて引っ剥がした。お菓子のこととなると、増して子供っぽくなるのが困りものだ。
「お嬢さん、すみません」
 エースが花のようなスマイルで謝罪すれば、少女は頬をほんのり赤らめる――。

 ――そのとき、屋敷内に緊迫したスピーカー音が響き渡った。

「非常事態発生、非常事態発生でありんす。
 NINJA機晶ロボが原因不明の暴走。人を襲う危険があるでありんす。
 客人はできるだけ機晶ロボから離れ、アルバイトNINJAの救出を待つでありんす。
 繰り返すでありんす。
 ――非常事態発生……」

「機晶ロボの暴走? 故障か?」
「ふう〜ん、なんか大変なことになってるみたいだね」
 幸い、この部屋に機晶ロボはいない。
 冷静な2人だが、一般の少女ではそうはいかないだろう。顔を白くして、明らかな恐怖が見て取れる。
 エースは泣き出しそうな彼女の眼前に、一輪の薔薇を差し出した。
「大丈夫、ニンジャがきっと出口まで導いてくれますよ。そういうアトラクションなのでしょうから」
「は、はい……」
 少女の不安が消えたのを見て、エースは籠手型HCに指を伸ばす。
 この大迷宮。
 近場のニンジャと合流するのが、きっと脱出への近道になる。
「よし、クマラ。とりあえずニンジャを探すぞ」
「うん! ニンジャなら知ってるはずだもんね。――兵糧丸のありか」
「…………え?」
 耳を疑った。
「ニンジャはそーいうのを隠してるはずにゅん。他にも、水渇丸とか飢渇丸とか。それを探すのがオイラたちの任務っ☆ オイラのサイコメトリなら簡単簡単っ」
「……お前、こんなときでも出口より食べ物が優先なのか」
「違わい、出口も探すついでにニンジャ非常食を探して長期戦に備えるべきだにゅ」
 そう言いながら、張り切って空飛ぶ箒でマキビシを掃除し始めた。
「って……、ホントかよ」
 絶対、食べ物目当てに違いない。
 クマラが綺麗にした床を進んで扉に手を掛ける。ガチャと音がするだけで開かない。錠がかけてあるようだ。
「さすがニンジャ・ヤシーキ、用心深いな。脱出させる気が微塵もないとみえる」
 だが、こちらにはピッキングスキルがある。
 難なく開けて、少女に手を差し伸べた。
「さあ、お嬢さん、こちらへ。このエース・ラグランツがお守りしましょう――」