リアクション
▽ ▽ 魔剣を手放した時、黄蓮の胸にあったのは意外にも安堵だった。 自分を慕い、使われることを望んでくれた剣だったが、黄蓮は命を喰うことを止め、長く迷い続け、いずれは戦うことすらやめていたに違いなかった。 意思のないただの剣なら、あるいはただの人だったなら、きっと、もっと楽だった。 このままでは辛いばかりで、剣が折れてしまったのも、そんな心を反映したからかもしれない。 それでも、その瞬間、黄蓮の中にあったのは悲しみでも憤りでもなく、安堵だったのだ……。 △ △ 「えー、やっぱり今回は……、うん、また次の機会にってことで……」 「あーもう、情けないっ! このダメ兄貴、いい加減観念しなさいよっ!」 家出同然に旅立ってから、一度も里帰りをしていない。 アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)は、ついに限界を迎えた双子のサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)に首根っこ捕まえられて、聖地カルセンティンに帰って来た。 「パラミタが存亡の危機にあるのよ!? 一度は帰っておかないと、もしもの時に後悔するんだからね!」 「だって、一人前になるまではって誓ったし……」 言い訳するが、単に気後れしているだけなのをサンドラは知っている。 「まあ一人前には遠いかもしれないけど? 成長してないわけじゃないんだから」 「ほう? 珍しい顔が帰って来たな」 ズルズルと引っ張られるアレックスは、かけられた声に、しゃんと背筋を伸ばした。 「あ、ア……」 カルセンティンの守り人、アレキサンドライトは、固まっているアレックスを見て笑う。 「両親が喜ぶぞ。早く顔を見せに行ってやんな」 「い、いやその、まだ早いと思ったんスけど、姉貴に無理やり……」 もごもごと言うアレックスの背中をぽんと叩いて、アレキサンドライトは歩いて行く。 「思い残すことのないように、な」 「後で改めて挨拶に行きますので!」 サンドラの声が追い、アレキサンドライトはヒラリと手を振った。 ▽ ▽ フェスティード達と共に、戦場に出る。 自分達の正義を、エセルラキアは疑っていない。 だが、敵でも民間人は殺さずに済ませたいと、彼は考えている。 民間人と軍人の覚悟は違う。 戦う相手が民間人なら、できるだけ捕虜とすれば、捕虜交換で、敵に捕らえられた自国民を救うこともできるだろう。 △ △ エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、パートナー達と、聖地モーリオンへ地祇もーりおんを訪ねた。 「よかった。元気そうだね」 今日も花畑の中にいるもーりおんを、エースは抱きしめる。 続いてパートナーのリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)も 「元気そうで嬉しいわ」 と、ぎゅうっともーりおんを抱きしめた。 「花畑も広がってるね」 「広がってる」 見渡すエースに、もーりおんは頷く。 「数年後には、樹木も花を楽しめそうだな」 「楽しめる」 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)も言った。 桃や桜や木蓮などを、少しずつエースが植えている。 「お花見が出来るわね。エオリア、腕を振るってね」 「解っていますよ」 お弁当を期待されて、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が請け負った。 リリアが、花畑の花達に、不自由がないかを訊ねる。 「よしよし。皆元気みたいね」 それでもエオリアは、少しでも良い土になるようにと、持参したラグランツパウダーを土壌に混ぜたり、肥料をやったりと花畑の世話をした。 「……それにしても、エースの様子が少し、おかしいような気がしますね」 いつもより、テンションが低い気がする。植物ラブ度が大人しいというか。 エオリアの疑問に、リリアも「そうね」と言った。 エースは少し離れたところで、じっと何かを思うように、花畑を見つめている。 一度は滅び、そして再生しようしている、この地。 「メシエ、何か知ってる?」 メシエは肩を竦めた。 エースは先の、前世関連のことで、未だ混乱しているのだろう……という説明では、一連の事件を知らない彼等には中途半端すぎるし、エースは彼等を心配させたくないと思っているだろうから、全てを語るわけにもいかない。 「モーリオンの滅びが、未だに気にかかっているのだろう」 なので、そう答えた。 「そう……なのかな?」 それが理由だとすると、最近になってテンションが低い理由としてはおかしいような気がして、リリアは何となく首を傾げる。 エオリアが、まとめて置いてある荷物の方を見た。 「お弁当を食べて元気を出して貰いましょうか。 エースの好きな物を中心に作って来ましたので」 「そういえば、そろそろお昼ね。もーりおんちゃん、お腹すいた?」 リリアの問いにもーりおんは、少し首を傾げて、頷く。 「……お腹すいた」 「エース! お昼にしましょう!」 呼び声に、エースは顔を上げて頷いた。 |
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