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リアクション
第三章
下層・楽園
監視カメラの映像、近隣の住民の話、蒼空学園生徒会の湯上凶司を初めとする女性衣類盗難事件を調査していた面々は、犯人は間違いなく学園付近から出ていないと確信。洞窟の深層に行けば行くほど、女性もののアクセサリーや下着などが拾えた。洞窟探索に参加した女性の持ち物も発見されたあたり、もはや決定的。
「よくここまでたどり着いたな、冒険者諸君!」
さらに言えば、購買部にあった古いラジオが拾った電波は、今流行りのタブレットや携帯電話から発信されたものではなく、もっと旧式の、トランシーバーのようなタイプであることが分かった。電波の届く範囲はそれほど広くなく、音が反響する場所。
それは、この洞窟の内部だ。
契約者たちはたどり着いた。その奥地、広大な広場へ。
辿り着いた十数人の契約者たちは、その光景を見て顔をしかめた。
そこにいたのは魔物でもなくお宝でもなく、かわいらしい女性ものの服に身を包んだ男、女装家約二十人がひしめく空間だった。
「お前が、今回の事件の首謀者か」
杠 桐悟(ゆずりは・とうご)が、その先頭に立つ学生服の少女に問いかけた。
「いかにも! ちなみに私はれっきとした女じゃ! ありとあらゆるものを使ってこれだけの洞窟を作るのは骨が折れたわ。はっはっは!」
「行方不明になっている冒険者たちはどこにいるの?」
パートナーの朝霞 奏(あさか・かなで)もなるべく周囲を見ないように彼女に問いかけた。
「何人かは捕まえてここに捕らえてある。全員かどうかは分からんがの。別に危害を加えるつもりはない。この場所を取り壊さんよう説得するつもりじゃ」
「なるほど。つまりここは人には言えぬ趣味趣向を持った者どもの集まり、ということか」
ジャンヌ・ダルク(じゃんぬ・だるく)はいかにも嫌そうな顔をしている。
「その通り! 表では気持ち悪がられる女装家も、ここでは歓迎される! ちなみに私はそんな男たちを可愛くメイクするのが大好きなのでここにおる!」
「そのために、色んな物を盗んだのじゃな?」
伊達 晶(だて・あきら)も少々青ざめた顔をして、彼女に問いかけた。
「ん? 盗む? 何をじゃ?」
女子生徒は、首をかしげた。
――あれ?
冒険者たちの心中が疑問符で満ちていく。と同時、少女の後ろの女装家たちの顔が引きつった。
「い、生かして帰すな! 秘密の場所が消されるぞ!」
「捕まえろ!」
「やっちまえ!」
「うおおおおお!」
途端、女装家たちが奮起。武器を取り出し、いきなり契約者たちに襲い掛かってくる。
「ちょ、お前達!?」
困惑するリーダーの少女を尻目に、戦闘が勃発した。
「なんだか話がよく見えなくなったけど……」
先陣、身軽に躍り出る小柄な影。
「とにかく全員、校長室まで付き合ってもらうよ! うりゃああ!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の鋭い弾丸のような足技が炸裂。襲い来る女装家たちが瞬く間にボコボコにされていく。
「援護します! 存分に!」
後方から奏が叫ぶ。光術とサイドワインダーが美羽のわずかな隙をカバーし、完璧な連携を実現。
「てい、てい、てい、てい、このーっ!」
右を蹴り、左を蹴り、光が脇を通り抜け、近づく女装家がみるみる吹っ飛んでいく。
「話はもう終わったんだよね? だったらこの先のお宝目指して突撃よ!」
そしてなぜか水着姿のセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がにやりを笑う。
スキル・天のいかづち。直撃を受けた数人の女装家が倒れた。
「敵の数が多いわ。それとあまり派手な技使わないで。人様の服かもしれないんだから」
同じく水着姿のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がスキル・光術で一時的に敵の視界を奪う。続いて見事な槍さばきで敵を一撃で沈めていく。
「というかそもそも、宝はあるのかしら。話を聞いた限りだと、どう考えてもなさそう……」
ふと考えるセレアナの隣に、ジャンヌが立った。
「加勢します。君たちも奪われた服を取り戻して」
「あー、うん。やっぱりそうよね。そう見えるわよね。だから服を着ていこうって説得したのに……」
「…………?」
「盗まれてなんていないわ。私たちはこれが、デフォルトなのよ」
言われ、ジャンヌは前で大暴れするビキニ姿のセレンフィリティとレオタード姿のセレアナを何度も交互に見た。
「あーはっはっはっは! どきなさい! 散りなさい! お宝のために!」
目の前で、セレンフィリティは扇情的な姿で銃や魔法をぶっ放している。
「……何ですって?」
ジャンヌは思わず顔を少し赤らめた。
その後方で、戦場を見渡す晶が腕組みして頷きを一つ。
「盛り上がってきたのう。わらわも支援せねばな」
スキル・怒りの歌。怒りの感情が上乗せされた契約者面々の攻撃力が上昇。戦況はみるみるうちに優勢へと傾いていった。
「どうりで変だと思ったわ。いきなり服やアクセサリーが倍増したからな」
数分後、ボコボコにされた女装家たちが横たわる中、女子生徒は地上の事情を聴いた。
「あはは……まーとりあえず、あなたも校長室まで付き合ってもらうわね。この洞窟作ったのあなたみたいだし」
美羽が苦笑いで女子生徒の肩を叩いた。
「ま、仕方あるまい。結果的に負けてしまったからのう」
「それで、宝物はこの先にあるのよね?」
セレンフィリティは戦闘の疲れが全く見えないまま、輝く瞳で少女に詰め寄った。
「宝? ないぞ、そんなもの」
「え? だってスキルはこの先に反応……」
「ここは社交場みたいなノリの場所じゃもの。そもそも隠すほど宝を持っておらんし、この奥は行き止まりで何もないぞ」
「そ、そんなぁ……」
セレンフィリティは、その場で崩れ落ちた。
「……ん?」
そこで、桐悟がふと気づいた。
「では皆のトレジャーセンスは一体……何に反応しているんだ?」
事態が片付き、帰ろうとしていた面々が、彼の言葉で全員立ち止まった。