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■第2章

「わ〜い、ライオンさんだ!がお〜!」
 無邪気な威圧というのだろうか。天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)は目の前にいる猛獣に臆することなく、むしろ尋常でない威圧感を放ちながら近づいていく。
「いや、それは虎だぜ?」
「ん〜? 違うのきょーちゃん? でも可愛いから一緒! がお〜!」
 次原 京華(つぐはら・きょうか)の突っ込みを気にせず、虎に近づいた彼女は協力すぎる怪力で抱き付く。
 もちろん、その圧迫に耐えられるわけもなく、虎は崩れ落ちる。
「あれ、寝ちゃった?」
「あー、そうだな。疲れちゃったんだろ」
 崩れ落ちた虎が息をしていることを確認すると、傀儡の糸を駆使して縛り上げる。
「そっか、あっちにもとらさんがいる!」
 結奈にロックオンされた虎は目の前の惨状を見るなり、怯えて逃げ出した。
「待て待て〜」
「結奈! あんまり遠くまで行くなよ!」
 京華がそう言うと、結奈は「はーい」と元気な返事をして虎を追いかけていった。
「強い相手からは逃げる、動物の本能だなぁ」
 狂暴化した動物達が相手と聞いて、洗脳か何かでどんな相手にも狂ったように襲ってくるのかと思っていた。
 だが、実際そうではなく、単純に縄張りに入り込んだ相手に攻撃しているだけで、動物の本能は失われていないようだ。
「そこ、気になるわよね?」
「ん?」
 背後から声をかけられ、振り向いた京華はぎょっとする。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が立っている。そう、動物園にビキニやレオタードの姿で。
 園長に話を聞いていた時から存在には気づいていたが、正面から会うとびっくりしてしまう。
「この子、貴方が捕まえたのね。ちょっといいかしら?」
 もっとも、セレン自身は京華の驚きようは気にしておらず、倒れ伏す虎に近づくその体をべたべたと触りだした。
「心拍よし、血圧よし。うん、この子なら大丈夫そうね」
「しかし、ヒプノシスも使わずよく気絶させたわね。外傷もないし、見事ね」
 セレンが虎を触診する横で、セレアナは気絶した虎と京華を見比べて称賛していた。
「ああ、それは」
「きょーちゃーん! 大変大変!」
 京華の言葉を遮るように結奈の無邪気な声が響く。
「くまさん! ギュッとしたら動かなくなっちゃったの! とらさんも動かなくなっちゃったし!」
 意識を失った熊の足を引き、ずるずりと引きずってきた結奈の姿を見て子供は強いと納得していた。
 もっとも、動物達にとっては迷惑極まりないのだろうが。 
「はっ、あっけにとられてる場合じゃないわね!」
 セレンはそう言うなりどこからか医療セットを取り出すと、採血用の注射器を取り出した。
「おねーちゃんお医者さん?」
「ん、まぁ、そうね」
「わぁ、すごい! 動物さん達を治してあげてね!」
 興味津々といった様子で注射器を覗き込んでくる結奈の問いかけに苦笑いをしながらセレンは返すが、結奈はすっかり信じているようだ。
「うん、ここは任せておいて」
「お願い! 私はあっちに行ってくるね!」
 他の動物を見つけたのか、結奈は楽しそうに走って行った。
「悪いな、ここは頼むぜ?」
 結奈を追いかけながら京華も駆けだしていった。
「さて、しっかり調べないとね」
 2人を見送ると、セレンは検査セットを取り出して動物達から血を抜き取り、検査を開始した。

「何も見つからないわねぇ……」
 動物園を歩き回りながらエセル・ヘイリー(えせる・へいりー)は呟いた。
 時々現れる小動物達が忙しく駆け回っている姿は非常に可愛く、こんな事態でなければ楽しめただろう。
 もっとも、彼らは自分達から逃げ回っているのかもしれないが。
「ホントに一斉に狂暴化したみたいだしなぁ、変な薬とかも見つからないし」
 狂暴化の原因は薬物によるものでは? と想定して周囲の探索を行ったが結果は得られずレナン・アロワード(れなん・あろわーど)はため息をついた。
「腹減ってきたなぁ……。売店で食べ物でも貰おうぜ」
 勝手に持っていくのはダメだろうと言おうとしたエセルだったが、園長には園内のものを好きに使っていいと言われていることを思い出した。
「そうだね、すぐそこにあるしそうしようか」
 ふと売店の看板が目に入った。
 小さなコンビニのような売店で、菓子類の袋等が目に入る。
 これなら観光客向けの食べ物ぐらいなら手に入るだろう。
「よし、じゃあ何か頂くかな。ってなんだこりゃ!」
 売店に入るなり、レナンは驚きの声を上げた。
「ほぼ食い荒らされてんな……。これも動物達の仕業か?」
 菓子類やパンといったものはほぼ食い散らかされ、ゴミが辺りには散らかっている。
「……待って、これおかしいよ」
 エセルは散らかっているゴミを一つ持ち上げる。
「これ、ちゃんと開封されてるし、食べ残しもない。動物だったらそもそも食べないし、こんな風に食べるのは人間だけだよ」
 菓子が入っていた袋は丁寧に開けられ、中のものは綺麗になくなっている。
「つまり、オレ達以外の人間が園内にいるってことだよな?」
「だと思う。原因もその人達なんじゃないかな?」 
 そう言いつつ、エセルは辺りに散らかるゴミを拾っていく。
「にしても、ずいぶんと荒れてんな……。いてっ!?」
 こつんと音を立て、レナンの頭に空き缶がぶつけられた。
「だ、誰だ!?」
 レナンが缶の飛んできた方向を見る。
 そこには猿の群れがこちらを睨み付けていた。
「げっ……」
 その数は10を超えており、手には空き缶や木の枝、石などを持っている。
「な、縄張りだったのかな」
 目を逸らさないようにしながらエセルはじりじりと距離を取る。
「レナンちゃん、罠は?」
「この状況じゃ用意できねぇよ。距離とって逃げたほうがいいだろ」
 下手に傷つけるよりは逃げたほうがいいだろうというレナンの意見にエセルは了承し、2人はゆっくりと距離を取り売店の入り口ドアに手をかける。
「よし、このまま……」
 エセルがドアを開けようとした瞬間、猿の群れは一斉に手に持つものを投げつけてきた。
「おわぁっ!?」
 突然の襲撃に驚いたレナンがエセルを押し飛ばすようになったがドアが開き、2人は勢いよく倒れこんだ。
 幸いドアは閉じて2人に猿の投げつけた物は届かなかった。
「ふぅ、びっくりした」
 エセルは大きくため息をつく。
「あれ、エセル達じゃないの」
「あ、セレンちゃん。どうしたの?」
「何って、あれだけ派手に騒げば気が付くわよ」
 気が付くと自分達の横にはセレンとセレアナが居た。エセルは気にしていないようだったがレナンにはその姿が衝撃的過ぎるようか、そっぽを向いてしまっている。
「ちょっと猿の大群に……」
 エセルが指さすと、猿の群れは売店の中からいまだにこちらを睨み付けている。
「あ、そう言えば何か分かったの?」
 セレン達は自分達と同じで事件の原因を調べていた、何か進展があったのかを聞くとセレンはニヤリと笑う。
「『適者生存』って知ってる?」
「あ、魔獣使いの……?」
 そう言う事よ、と言ってセレンはふふんと笑う。
「もっとも、気づいたのは私だけどね」
「ちょっと、セレアナ!」
 横から突っ込んだセレアナの言葉にセレンは慌てている。
 彼女達のやり取りをみて軽く微笑んだエセルはハッと先ほどのことを思い出す。
「そうだ、さっき売店に人が食べ物を漁った跡があったの」
「やっぱり、今回の事件は人為的に引き起こされってわけね!」
 彼女の言葉を聞くと、ぐっとセレンは拳を握る。
「よし、園長に伝えに行きましょう!」
 そう言うなりセレンは勢いよく走り出し、セレアナとエセルも急いであとを追いかけ、一人取り残されたレナンも我に返ると追いかけた。