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リアクション
数々のバンドが盛り上げた『メトロック』もトリを迎え、ロックフェスのタイトルにもなったバンド『メトロック』の出番が近づく。
「テスラ、久々のステージだからといって、浮かれて無理しすぎないでくださいね」
「べ、別に浮かれてなどいません。……せっかく声をかけてくださったのですから、悔いの無いようにしたいです」
マナ・マクリルナーン(まな・まくりるなーん)にメイクを施してもらいながら、テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)がこれから迎える時間への意気込みを語る。
「メトロさん、よろしくお願いするッス!」
「会場全体が音楽の波に乗れるように頑張るわよー!
アルトサックスを担当するサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)と、トロンボーンを担当するヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)が、『メトロック』のリーダー兼テナーサックス担当のメトロ・ファウジセン(めとろ・ふぁうじせん)と意気込みを語り合う。
「わたくしのスカダンスで、必ずや会場を熱気の渦に巻き込みましょう……!」
筋骨隆々のマスクレスラーに扮したヴィクトール・ロズミリオン(びくとーる・ろずみりおん)が、既にやる気まんまんといった様子で出番を今か今かと待ちわびていた。
「皆様、楽器の調整はわたくしにお任せください。常に最高の音質を提供いたしますわ」
「うーん、ちょっと調整が甘いかも。セルフィーナ、お願いっ」
裏方としてメンバーの楽器調整を一手に担っているセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)へ、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が担当するベースの調整を頼む。
「こうして、一致団結できるのも素晴らしいことですね。花音、楽しんできてくださいね」
「うん! ボクの歌で多くの人が楽しんでもらえたら嬉しいな!」
ボーカルを担当する赤城 花音(あかぎ・かのん)が、リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の励ましに笑顔で答える。
「みんな準備できたー? それじゃ行くじぇ!!」
メトロの呼びかけで、メンバー全員が円陣を組む。
学校の違う者たちが、この日のために用意したお揃いのオレンジ色のTシャツを着て、一つのバンドとして活動する。
音楽には、それを可能にするだけのパワーが秘められている。
「メトロック!」
一斉に拳を突き上げ、そしてステージへと繰り出していく。
既に観客席は、登場を待ちわびた生徒たちがメガホン片手に、大熱狂の渦を作り出していた。
(こんな中で歌えるなんて……ううん、ここがボクのスタートなんだ! アイ・アム・ミュージックファイター!!)
会場が生み出す熱気に気圧されないように、花音がマイクを握り締め、パワフルでかつ可愛らしい歌声を響かせていく。
君の願いが翼になる
つなぐ手と手で高く飛べるよ
アコースティックギターを奏でるテスラと、ベースを弾く詩穂が花音のボーカルに花を添える。特にテスラのコーラスはかつて『オーシャンボイス』と讃えられたことが納得の、まるで海の如き深みのあるもので、それでいて花音の声を食うことなく、歌声に幅を持たせていた。
混迷の時代に僕らは出会った
生まれた意味を探してた
悪戯な運命に 勇気で踏み出そう
託された希望 眠る記憶の誇りを呼び覚まして
メトロのテナーサックスとサレンのアルトサックス、二つのサックスがソロパートを時に競うように、そして手を取り合うように音色を刻んでいく。
ヴィクトールのスカダンスが、彼自身が持つファンサービススキルも相まって、熱狂的な歓声と共に受け入れられていく。
あの日……思い描いた景色
見守る真夏の陽射し
誰もが幼い頃は純粋
汚れを知らない心
今や最高潮に達した熱気の中、突然、パチパチと弾ける氷塊が炎によって吹き上げられ、花火のごとく弾けて光の乱舞を演出する。
「かの者たちには、演奏に集中してもらいたいからな。……カヤノ、セリシア、いくらでも来い!」
「言ったわねサラ! セリシア、やるわよ!」
「ふふ、そうですね。雷と氷、そして炎の織り成す光景、ご覧に入れましょう」
炎熱、氷結、雷電の精霊長であるサラ、カヤノ、そしてセリシアがそれぞれ得意とする力を振るい、次々と光を弾けさせていく。
「まったく、俺たちだけで盛り上がってる気がしないでもないが……だが、このような晴れ舞台に華を添えるのには、俺も賛成だ。及ばずながら力になろう」
「ふふ、そうですわね、お兄様」
さらに、光輝、闇黒の精霊長であるセイラン、ケイオースの光と闇のコラボレーションも加わり、一層華やかな演出がステージを魅了の渦に包み込む。
「まあ! これがケイオース様と妹様の手がけた演出ですのね!」
その様子を、ビーチバレーの際にケイオースから聞き及んでいた沢渡 真言(さわたり・まこと)とティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)が、ビーチバレー勝負に負けたケイオースから「ライブを一緒に見に行くことは残念ながら出来ないが、よければ見ていってくれ、席は用意する」と言われて用意された席――周囲の熱気と歓声を程良く吸収する闇に包まれていた――で見守っていた。
「私たちはいいですけど、この熱気の中、ケイオースさんは大変でしょうね。このライブが終わったら、労いに行ってみましょうか」
「ええ、そうですわね、お姉様」
真言に頷いて、ティティナが声援を送る。
前からも、そして後ろからも応援を受けたメンバーたちは、己の持てる力を余すことなく演奏に振っていく。
暗闇の中で 僕らは楽園に想いを馳せる
何時か叶える夢 たどり着ける約束の場所
共に生きる喜びを 咲き誇る笑顔の花
響きあう歌声は 優しさに包まれて 今 羽ばたく
後奏、ヨーフィアのトロンボーンが波打つように響く。
既に会場の中で、その波を感じない者はいなかった。
澄みわたる未来 歩き始める世界へ……
花音の歌声が余韻を残して消えると、割れんばかりの歓声が沸き起こる。
ヴィクトールが、
詩穂が、
サレンが、
ヨーフィアが、
テスラが、
花音が、
ステージに出てきたセルフィーナとマナ、リュートが、
そしてメトロが、全てを出し切った表情で頷き、会場へ呼びかける。
「最後はみんなで、
合言葉はメトロック! だじぇ!」
メ \(・3☆)ノ ト
ロ l l ッ
ク ノ レ=3 !!
何時までも、拍手と歓声が会場を揺らしていた――。