校長室
選択の絆 第一回
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馬場校長と共に 業魔は戦いを楽しむ。それも、相手が強者であればある程、その悦びは増す。そして相手がどんな弱者であったとしても、全力で立ち向かう。出し惜しみはしない。手を抜くなどということは、相手にとって失礼なことだと考えるからだ。 自分の相手をしてくれる者はどんな輩であっても悦びをもたらせてくれるはず。だから、誠意を以て精一杯の戦いをする。 それが業魔の戦い方であり、生き方である。 今この目の前に立つ若者は、どんな悦びをもたらせてくれるのだろうか。そんな期待に胸を踊らせ、業魔は【蛇刀・裏】を固く握りしめる。 御凪 真人(みなぎ・まこと)は業魔と対峙していた。 (ふむ。ハイナ学長がピンチかと思い駆けつけてみれば、本当にマズい状況のようですね。とりあえず、この男の意識が私達に向いてる間にハイナ学長を含む護衛の方々やケガ人には離脱してもらうようにしましょう) 「では、手筈通りに、と。【サンダーブラスト】!」 御凪が叫ぶと、業魔の上空から雷が降り注ぐ。 対し業魔は、ふん、と鼻を鳴らしただけで、防ごうともしなかった。雷が彼に直撃するが、傷一つない。 やがて雷がおさまる。 「この程度か? 次はこちらから――ッ!!」 業魔は気づく。セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)がいつの間にか懐にいることに。 (!! 雷は牽制の為。【ゴッドスピード】か何かで急接近したわけだ。こうまで近づかれると【蛇刀】も使えん) セルファは唱える。 「【バーストダッシュ】……からの! 【ランスバレスト】!」 ドスッ!! と、セルファの槍が肉にめり込む音がする。しかしそれは業魔の肉を貫いた音ではなかった。 「良い。面白い。戦いはこうでなくてはな」 呟く業魔の右の手の一本が、セルファの槍を握りしめていた。 (やば……ッ!) セルファは咄嗟に槍を手放し、退避する。あのままいれば、残りの5本の腕に潰されていただろうし、後に続く御凪の攻撃にも巻き込まれていただろう。 「上出来です、セルファ。準備は出来ました」 御凪は言って、自身専用スキルを躊躇無くぶちかます。 「【ポジトロンバスター】ッ!」 瞬間、光と雷が収束した砲撃が業魔を捉えた。御凪の知識を凝縮した砲撃。生身で受けるのは困難である。 だが。業魔に常識は通じない。 「むう!!」 業魔は唸り、砲撃を二本の腕で受け止めた。少しだけ巨体は揺らいだが、それだけだった。 「……ふむ。これは、ちょっと状況は良くないですね」 自身最高の技が難なく防がれ、御凪の頬に汗が流れる。 だからといって、狂戦士は止まらない。 ■ その様子をみていた布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)とエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は一つの作戦を見いだす。 「あんなのを難なく防ぐなんて……」 エノレアはしばし呆けて、業魔の強さを再確認した。 「こうなったらもう、マムを呼ぶしかないよ!」 佳奈子は説得するように言う。 「マム? 馬場校長のこと?」 「うん! 私たちの中で敵うのって、グレートマムだけじゃない? それに、やっぱり敵の大将には、マムが名乗りを上げて、正々堂々と勝負すべきじゃないかと思うよ!」 「……そうね。そうしましょう。すぐに馬場校長を呼んで、私たちは校長が業魔に集中できるように雑兵の相手をするわよ!」 ■ 佳奈子たちの要請を受け、馬場 正子(ばんば・しょうこ)とその護衛をしていたエルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)、ディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)はすぐに業魔の元へ向かおうとするが、 「むう。亡者どもめ、通さないつもりか」 馬場が呟き、目の前を見据える。そこには無数の亡者がいた。 そこでエルシュは前にでる。 「馬場校長は奥の手というかキリフダだから、校長が出るまでも無い場所では俺達が頑張ります。だから体力を温存していて下さい。ディオロス、【火遁の術】を発動しておいてくれ」 わかりました、と、ディオロスは【火遁の術】を発動させる。近づいた敵を自動的に炙るためだ。 襲い来る亡者に、エルシュは【光術】を付加した剣を振るう。 「くっ……、やはり多いな!」 言いながら次々と切り倒していくが、そのうちの一体が、エルシュの死角を捉える。 「うぉッ!?」 だが、亡者の攻撃がエルシュに届くことはなかった。 馬場が亡者を殴り飛ばしたからだ。 「あ、ありがとうございます。馬場校長」 エルシュは、校長に助けられては本末転倒だな、と少し落ち込む。 それを見て馬場が言う。 「いや、こちらこそ礼を言う。わしを守ろうとしてくれてありがとう。さぁ、業魔の元へ急ぐぞ!」 ■ 馬場たちと、それに途中で合流した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)らが業魔の元へ辿り着いた時には、御凪とセルファは既に満身創痍であった。 む、と、業魔は馬場たちに気づく。 「ほぅ。強者の匂いがする」 業魔の狙いが馬場に固定された。業魔がゆっくりと近づく。 「ちょっとまった! ここは通らせないよ!」 と、小鳥遊が特大の大剣型の【覚醒光条兵器】を構え、立ち塞がる。小鳥遊のパートナーであるベアトリーチェは、剣の花嫁が故に、【覚醒光条兵器】の使用中は大きく疲弊する。その為、ベアトリーチェは馬場の隣で休んでいた。 「いくよぉ!!」 小鳥遊が大剣を振りかぶる。 対し、業魔は【蛇刀・裏】を構え、受け止めさせようとするが、途中で気づく。小鳥遊は、大剣の大きさを利用してか、剣の腹の部分で叩き潰そうとしている。つまり、切っ先という切っ先を受ける【蛇刀・裏】では、切っ先の見当たらない剣の腹に感知できない。 「なるほど」 言って、業魔は二本の腕を高く上げ、大剣の刃を、がしりと握りしめた。 「えっ!?」 小鳥遊は驚く。まさか、素手で刃を握りしめるとは誰にも思えないし、誰も思わない。 そしてそのまま、剣ごと小鳥遊を放り投げた。 「きゃああぁッ!?」 小鳥遊は勢いよく壁に突撃しかけたが、ギリギリのところで馬場が小鳥遊を受け止めた。 「おぬし、覚悟は出来ているだろうな」 小鳥遊を地面に下し、馬場は業魔を見据える。 「久々に面白そうなやつに出くわしたな」 業魔はにやりと嗤い、刀をしまう。そして六本の腕を構える。 拳と拳が、衝突する。 ■■■ ケガ人も多くなってきたということで、事前に設置しておいた退路や救護スペースを確認しておこうと、透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)と璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)は戦場を離れようとしていた。 救護スペースはこの隣の区画にある。亡者達の群れを抜け、救護スペースを確認しようとするが。 「!? 何!?」 設置しておいた救護スペースが、無かった。 そこで、マッピングデータを見ていた璃央が気づく。 「な……。救護スペースがあったはずの区画そのものの構造が、全く別のものになってます!」 それを聞いて透玻は考える。 「まさか……神殿内部が……ランダムに変化している? だとしたらお手上げだぞ。これまでのデータも全て水の泡だ。撤退もできん」 そして、透玻が璃央と共に、他の区画も確認しに行こうとした、その時。 神殿群が、起動した。