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第6章 皆でお茶を
「皆さん、お疲れ様です」
 皆を出迎えたのは、羽瀬川セトと神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)だった。
「ふふふ、すんごいお菓子作って『きゃーさすが! スバラシー授受おねーさま!』とか美羽に思わせてやるんだから」
 と、悪戦苦闘しつつ授受はクッキーやらパウンドケーキやらを用意し。
「凝ったものは作れませんでしたが……」
 セトが用意したのは、皆で手軽に楽しめるバーベキューだ。
「それからこれ、オリジナルティーなんです」
 ずっと色々な場所を旅してきたセト。その旅の間に良く飲んでいた、野草や木の実を乾燥させてブレンドしたお茶だ。疲れた身体に快く染みてくれる。
 それから、冷たいジュースやお茶やお菓子。それらを授受とセトは、花壇の見える場所にセッティングした。
「皆さん、コップを持って下さい」
 各々が準備を進める中。
「陸斗くん? どこに行ってたんですか?」
「えっと……」
 言いだしっぺのくせに花植えをサボってた(雛子認識)陸斗は、雛子に詰め寄られ言いよどんだ。
「ね、寝てた?」
 挙句、適当すぎる言い訳を口走る陸斗を、ウィスタリアと朱華が慌ててフォローする。
「いえいえいえ、陸斗さんは私達と一緒に、ウサギに餌をやってたんです」
「あ〜、そうそう。植えるには多すぎるニンジンが持ち込まれて、それで……」
「ちなみに持ち込んだのは俺だよん」
 得意げに胸を張るにゃん丸を陸斗が睨む、ギリギリギリ。
「何だ、そうだったんですか? でも、何も言わないでいなくなっちゃうから私、心配しました」
「まっこの子がうっかりさんなのはいつもの事じゃないの」
 雛子にもキアにも何も言えず曖昧に笑む陸斗の肩を、ゴットーがそっと叩いてやった。
「でも陸斗くん、何だかヨレヨレってしてませんか?」
「それより雛子ちゃん、コップ! あっそれと雛子ちゃんは普段、どんな服着てるの?」
 更に彩がさり気なく雛子を連れ出してくれ。
 陸斗はようやくホッと、胸を撫で下ろしたのだった。
「藤枝? これからお茶会が始まるけど?」
「帰ります。バイトがありますから」
 ちょうど同じ頃。事態の収拾を見届け、こっそり立ち去ろうとした輝樹をルーシーは引きとめようとし、思い留まった。雛子が残念がるだろうなと思いつつ、その背は自分の役目が終わった事を主張していたから。
「そっか。うん、今日はご苦労様」
 背に労いの言葉を送られた輝樹は、一度だけ振り返り軽く手を挙げた。

「みんなお疲れ様! それではかんぱ〜い!」
 授受の音頭と共に、たくさんのコップが高く掲げられる。切られるシャッター、そして始まる、お茶会。
「どお美羽。なかなかおいしーでしょ?」
「うん! ちょっと形はいびつだけど、味はバッチリだよ」
「どぉしてこの子は一言多いのかしらぁ?」
「にゃにゃ、ヒナのホットケーキの方が美味しいのにゃ」
「そうですか? クッキーとても美味しいですよ ねっ、彩さん」
「うんうん、上出来だと思うわ」
「これなら彼氏さんも喜んでくれるね」
「本当っ!? んふふふふ〜♪」
「えっ、授受さん彼氏さんいらっしゃるのですか?!」
「うわぁ羨ましいかも〜」
「はい皆さん、笑顔下さいね……はい、チ〜ズ!」
 勇のカメラが、満開の笑顔を映し出す。
「何もせずにお茶会参加。幸せなことですねぇ」
「ご活躍だったと聞いていますよ」
 のんびりお茶を啜る悠斗に、セトが微笑み。
「……ぇ? 僕が働いた? 何のことか解りませんね」
「では、そういう事にしておきましょうか……もう一杯いかがですか?」
「良い味ですねぇ、貰いましょう」
 カップにお茶を注いだ。労いの想いを込めて。
「エレミアもお疲れ様でした、疲れたでしょう?」
「ちとな。まぁ珍しいものも見られたし、中々有意義な体験であったよ」
 セトのお茶に、エレミアは目を細めた。
「うわっお肉美味しい!……むぐっむぐっ」
「華野、お茶ですわ! よく噛んで食べないとダメです」
 筐子に負けじと、ガートルードとシルヴェスターもせっせと飲食に勤しむ。
「せめて元は取らないとね」
「うむ、その通りじゃの」
「ウサギもお土産に持って帰りたかったのですが……」
 パラ実で売れば一儲けできただろうに、その悔しさを振り払うように、ガートルードとシルヴェスターはバーベキューに舌鼓を打った。
「ウサギ達、良かったですね」
「何匹か貰ってきても良かったかな」
 ウサギ達を無事に送り届けてきた穹はウィスタリアに頷いてから、ちょっとだけ寂しそうに呟いた。

「どうぞ、御龍」
「ありがとう。……中々良い紅茶ね」
 戦いが終われば真紅の鬼神も普通の女の子。優雅な所作で紅茶を口に運ぶ御龍を、秋桜は静かに、どこか優しげに見つめていた。
「一仕事、終わったあとのお茶もおいしいな」
「このお菓子もいけるよ」
 穹や朱華もまた、お茶を飲みながら心地良い疲労感に浸っていた。
「はい、サイカどうぞ」
「うむ。しかし、スイカバーがないとは何と手抜きな茶会か」
「あのね、普通お茶会にスイカバーは出ないよ」
「うわぁ! ね、晃代、これも美味しいわよ……って、どうかした?」
「ちょっと思ったの。もしかしたら僕も、ここに通っていたかも、なんて」
 百合園への入学は親が決めてしまった事。今の学校が嫌いとかではないけれど、ふと考えてしまった。
「そうねぇ、晃代ならここの制服も似合いそうだけど……まっ、正直、私はどこでも良いけどね」
 晃代と一緒なら……そんな呟きが聞こえたような気がして。思わず見つめたイリスは、素知らぬ風で幸せそうにお菓子を頬張っていた。
「身体を動かした後の一杯は美味しいね、フェイル」
「お疲れ様でした」
 淡々としたセリフとは裏腹に、甲斐甲斐しく晴謳を世話するフェイル。
「ほらほらるーくん、頬っぺたにクッキーのくず、ついてるよ」
「子ども扱いすんなよな!」
「わぁい、お菓子お菓子♪」
「沢っ、お前はどうしていつもいつもいつもいつも……ッ!!」
「こっからここは全部私のです」
「だから、意地汚く抱えて食うなよ!」
「……」
 そんな楽しそうな声達をBGMに、真人は夢の世界へと旅立っていた。快い疲れと楽しい雰囲気に抱かれたその口元に、幸せそうな笑みを浮かべて。
「ん〜労働の後の甘い物はサイコー!」
「良かったら自分の分もどうぞ」
 差し出す隼からありがとうとお菓子を受け取り、リシルはふと思った。
 お菓子は好きだしここには元々、お菓子を食べに来たわけである。だけどそもそも、こんな風に美味しい物をお腹一杯食べる事が出来るのは、契約してくれた隼のおかげなわけで。
「隼のまで奪うほど、オレは食い意地張ってないぜ」
 ぷいっとそっぽを向きつつ、大好きなお菓子を返してくるリシル。隼は笑いをかみ殺しつつ、半分食べかけのクッキーを受け取ったのだった。
「マナ? どうかしたかい?」
 楽しい楽しい雰囲気の中、ベアは隣に佇むマナの表情が優れない事に気づいた。
「いえ。ただ、誰がウサギさん達にあんな事を、と思って……」
 理由はもう一つある。あの場所、あの空気……どこか懐かしく不吉な。
「貴女は自分が護る。例えこの先、何があっても」
 それは誓い、そして約束。ベアの変わらぬ眼差しと想いに、マナはようやくそっと、微笑みを浮かべた。
「皆様、花植えのお仕事お疲れ様でした」
 本領発揮とばかりに、太陽や真也達に茶を振舞う翔。さすが執事、お茶一つ淹れるのでも優雅で、板についている。
「風天様、セシリア様も、どうぞ」
「翔さんも座って下さい。疲れてらっしゃるでしょう?」
「いえ、この方が落ち着きますし」
 誇り高く笑む翔に、そんなものかなと風天も笑みを返し。そんな二人に、クッキーを食べていた手をふと止めたセシリアのしみじみとした声が届いた。
「いつか、ここが花で一杯になる風景を見たいのぅ」
 今はまだ花一輪。
 花はただ静かに慎ましく、そっと微笑むように風に揺られていた。

担当マスターより

▼担当マスター

藤崎ゆう

▼マスターコメント

 藤崎にとって、蒼空のフロンティアでの初めてのシナリオに参加していただき、ありがとうございました。
 皆さんのキャラクターとお会いできて、藤崎はとても嬉しかったし楽しかったです。同じように少しでも楽しんでいただけたなら、これ以上の喜びはありません。
 それから、ちょっと宣伝です。7月下旬から、蒼空学園を舞台にキャンペーンシナリオをさせていただける事になりました。
 もしまたお会い出来る事がありましたら、どうぞよろしくお願い致します。