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空賊を倒せ!

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第6章 空賊撃退後に起こったこと

 場面は引き続き船倉。
 やれやれと、その場にいた全員が、床に座り込む。戦いは終わった――みんながそう思ったとき、大きな怒声が室内にこだまするのであった。
「火事だ! 船倉に火の手がまわってきたぞ――ッ!」
 叫んでいるのは、ヴィンターリオ・シュヴァルツ。
 彼の指し示す方、船倉の奥を見ると、確かに赤い炎がメラメラと燃えさかっている。
「とりあえず、本物の彫刻を甲板にあげるぞ!」
「そ、そうですね!」
「わかりました!」
 ヴィンターリオの呼びかけに、レロシャン・カプティアティや皆川陽が呼応する。
 そのほか、金住健勝やカルナス・レインフォードなど、ダミー木箱に入って体力を消耗しきっていた者たちも本物が入っている木箱に手をかけ、運び出す作業を手伝い始めた。
「僕は火を消すために応援を呼んでくるし」
 一方、木箱を持つなんて大変そうだと思っていたテディ・アルタヴィスタは、そう言い残して船倉から走り去って行く。

 甲板上。空賊は倒されるか撤退したかで、その姿は皆無。
 ただ、戦いを経てボロボロとなった学生たちが、甲板のそこかしこで休んでいる。
 そんなところへ、ヴィンターリオの誘導に従って、木箱が運ばれてきた。
「よし。とりあえず、ここに置くんだ!」
 ヴィンターリオの指定した場所――それは船のへり近くである。
「そ、そんな場所まで持って行くのは勘弁していただきたいであります! この木箱、意外に重くヘトヘトであります!」
 健勝が抗議の声をあげるが、それをたしなめる者がいた。
「こんなところに木箱置かれても通行の邪魔だよねぇ〜。どうせ目的地に着いたら下ろすことになるんだし、あそこまで持って行っておけばいいんじゃない?」
 銀髪の吸血鬼オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)である。
 いつの間にかその場にいた桐生円も続ける。
「今運ぶのも、後で運ぶのも一緒なのだよ。ボクも手伝うから頑張ろう」
 円も木箱に手をかける。それによって、流れは決まった。みんなは、もう一度力を振り絞り、木箱を船のへりまで持ってきた。
「はい、ご苦労さん」
 誘導だけをして、運搬を手伝うことのなかったヴィンターリオがねぎらいの言葉をかける。
「ところで、お前さんたち。空賊のボスの姿、見たことあるかい?」
「いや、見たことないな……」
「そういえば、ボスらしい敵はいませんでしたね」
 みんなは口々に答える。
「じゃあ、覚えておきたまえ。……俺がこの空賊のボス――ヴィンターリオ・シュヴァルツだ!」
 その台詞と同時に、ヴィンターリオは剣を取り出す。そして、剣の平たい側を、思い切り木箱の側面上部に叩き付けた。
 すると、船のへりを支点に、てこの原理で、木箱はふっと持ち上がる。そしてそのまま、へりの向こう――大空へと投げ出されるのであった。
「アディオス!」
 次の瞬間、ヴィンターリオ自身もへりを飛び越え、大空へと身を投げ出す。
「……え?」
 みんなは、慌てて船のへりから身を乗り出し、木箱とヴィンターリオが落ちていった先を確認した。
 するとそこには、6機の改造飛行艇によって大きなネットが張られており、両者はそれに回収されていたのだった。
 改造飛空挺は、最大船速で去っていく。もう、追いつくことはできないであろう。
「うわーしまった。まんまとやられてしまったのだよ」
 円は棒読みの台詞を吐いた。


「ご苦労だったな。……大分、時間がかかってしまったようだが」
 予定より大幅に遅れ、太陽が沈んでから、飛行船はタシガンに到着。出迎えてくれたのは、校長のジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)であった。
「申し訳ありません。……実は、飛行船の中に空賊のボスが潜んでおりまして、最後の最後で彫刻を奪われてしまいました――」
 全員を代表して、薔薇の学舎の学生、明智珠輝が状況を報告する。
 彼にとって、親愛なるジェイダスにそのような報告をすることは苦痛であるはずなのだが、なぜかその表情は恍惚としていた。
 お仕置きされてしまうことを、期待しているのであろうか。
「ああ、それなら問題ない。君たちは立派に仕事を果たしてくれた」
「……え? どういうことでしょうか――」
 ジェイダスの意外な言葉に、珠輝は動揺する。
「実はこの飛行船に本物の彫刻は載っていない。つまり、君たちの飛行船自体、フェイクだったということだ。本物は、本来使う予定だった飛行船で、既に無地、送り届けられている」
「なるほど。……ということは、オリヴィアたちは囮だったというわけだねぇ」
 オリヴィア・レベンクロンはニヤニヤと笑みを浮かべながら、ジェイダスの話を聞く。
「そういうことになるな。まあ、気を悪くしないで欲しい。敵を騙すにはまず味方から……と言うしな」
「ところで、ジェイダス校長!」
 藤原すいかが、ピシッと手をあげる。
「どうした?」
「本物の彫刻が無事ということは、一緒に記念写真なども撮ることができ――」
「それはできない」
 ジェイダスはすいかの話を遮り、冷たく即答した。
「本物は既に、タシガン家にわたっているからな」
「そんな……」
 すいかは、ガクっと肩を落とし、うなだれるのであった。


 そして、閑話休題。
 捕らえた何人かの空賊を尋問し、話を統合したところ、どうやら彼らは彫刻のことを『手に入れた者を、あらゆる災厄から守ってくれる女神像』だと思いこんでいたようだ。
 なぜ、彼らがそんな突拍子もないことを信じてしまっていたのか?
 それはまだ、調査中である――。

担当マスターより

▼担当マスター

ゆずみや ともめ

▼マスターコメント

 はじめまして。タシガン空峡より、リアクションが届いたようです。