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魔法スライム駆除作戦

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魔法スライム駆除作戦

リアクション

 
    ☆    ☆    ☆
 
「なんか、騒がしいですねぇ」
 シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は、そう言ってスプーンですくったパフェのクリームを口に運んだ。うーん美味しいとポーズをつけかけて、思わず横に立てかけた白いパラソルを倒してしまいそうになる。学内なので制服を着ているが、その下は白いロリータ服であった。ピンクのツインテールが、白い服には鮮やかに映える。
「そうだ、水無月様、この後一緒にお風呂に行かないですかぁ。へへっ、実は、もうこの下に水着きてきちゃってるんですぅ」
「ええ、シャロと一緒でしたら。それにしても、なんだか落ち着かないわ」
 コーヒーを飲みながら、水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が言った。左目の下にあるペイント・オブ・ティアが、ちょっと悲しげな印象を人に与える。足許まである白い髪は、椅子に座っているため、背後の床に美しい髪だまりを作ってしまっていた。
 その髪に、静かに忍びよるものがあった。
 ちょうどそのとき、彼女のパートナーの鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)がやってきた。彼は、睡蓮の姿を見つけたとたん、その背後に大きく盛り上がって今にも襲いかかろうとしている真っ青なスライムの姿をも目撃することとなる。
「!」
 まず最初に身体が動いていた。ややスマートな漆黒の装甲に被われた身体が、床のタイルを踏み砕かんばかりに蹴って走る。
 すれ違い様に抜刀した剣で、スライムを上下まっぷたつに切り裂く。だが、スライムにはそのような攻撃は逆効果だった。二つにされたスライムは、それぞれ別の固体として復活したのだ。
「九頭切丸!」
 予期していなかった出来事に、睡蓮が驚いて立ちあがった。
 だが、スライムの攻撃はまだやんではいない。
「水無月様、こっちですぅ」
 シャーロットが叫ぶ。
 剣が効かないと悟ると、九頭切丸は睡蓮の前に立ちはだかって盾となった。スライムが彼に襲いかかる。しゅうんというアクチュエータが停止するような音が聞こえて、九頭切丸がバランスを崩して倒れた。耐魔処理を施された装甲の一部が脱落していた。
「何をするのよ!」
 九頭切丸から離れたスライムにむかって、睡蓮が躊躇なく火球を放って倒した。
「とにかく、九頭切丸様を安全なところまで運ぶですぅ」
「ええ……。ええ、そうよね」
 シャーロットの言葉に、放心しかけていた睡蓮は我に返った。とにかく二人で九頭切丸を運ぼうとする。だが、体重が一〇〇キロを超える九頭切丸は、女の子二人がかりでも引きずっていくのがやっとだった。
 そして、九頭切丸を運ぶことに集中しすぎたため、二人はほとんど無防備になっていた。
 左右から、二人に覆い被さらんとスライムが現れる。
「危ない!」
 それに気づいた水神が、睡蓮に襲いかかろうとしたスライムを大上段から叩き割った。光条兵器の光刃に焼かれて、スライムが蒸発する。
 同時に、七尾もシャーロットに迫るスライムにむかって火球を放った。だが、人に近すぎたため、一瞬の躊躇が生まれる。それが、狙いを外させた。スライムが、そのままシャーロットを餌食にする。
「ああ、やっかいなことになってしまいましたぁ……」
 ずるりと引きずられるようにして、シャーロットが衣服を剥がされた。だが、幸いなことに下着の代わりにフリルがたくさんついたふりふりのワンピース水着を着ていたので、すっぽんぽんだけはまぬがれた。もっとも、白い水着はスライムによってしっとり濡れてしまったので、それはそれでマニアが喜びそうな姿ではあったが。
 そして、七尾は、ぽかんとそれに見とれていた。
「ぽうっとしているとやられますよ!」
 突然七尾の前に現れた譲葉大和が、シャーロットの次に七尾に襲いかかろうとしたスライムを光弾で打ち抜いた。
「すまない。助かったぜ」
 七尾は大和に礼を言うと、シャーロットにタオルをかけてやった。
「あなたたちもスライムに襲われたの? でも、なんで気絶してないのよ」
 シャーロットをだき起こしながら、睡蓮が七尾と大和に訊ねた。それはそうだ、二人ともトランクス一丁なのだから。普通ならスライムに襲われた後だと思うだろう。
「何を言うか、これこそが男の戦装束」
 大和が、言い返した。
「とにかく、二人を安全なところへ」
 華麗に大和をスルーして、水神は言った。
 全員で協力すると、睡蓮たちはなんとか九頭切丸を安全と思われる通路まで運んでいった。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「騒がしいなあ、気が散って飯が食えないじゃないか」
 佐伯梓は周囲の阿鼻叫喚をよそに、黙々と食事を続けていた。
「おや、なんだこのスープ。なんだか勝手にくねくねと動いてるが。ふっ、生きのいいスープだぜ。食いがいがあるってもんだ。いただきまーす」
 スープの入った碗に佐伯が手をのばそうとしたとき、いきなり飛んできた火球が、碗ごとスライムを吹き飛ばした。
「な、なんだ!」
 めちゃくちゃになって飛び散るご飯の破片を腕で防ぎながら、佐伯は叫んだ。
「大丈夫か」
 神名祐太が、佐伯の許に駆けよってきて訊ねた。
「なんてことしやがるんだ。せっかくの飯が……」
 思い切り睨みつけてくる佐伯に、神名は一瞬わけが分からなくてきょとんとした。
 まさか、この男は、本気でスライムを食おうとでもしていたのだろうか。正気か?
「とにかく、気をつけろよ。じゃあな」
 通りすがりで助けはしたが、ここで足止めされるわけにはいかない。瓶がなかなか見つからないのであれば、先に冷蔵庫の扉を開けた方がいい。神名は作戦を進めるべく、厨房にむかって走っていった。
「ああ、こら、逃げるのか。待ちやがれ。俺の飯、弁償しやがれ!」
 佐伯は叫んだが、神名は聞こえないふりをして行ってしまった。
「まったく。なんてこったい」
 怒りの収まらぬまま、佐伯はテーブルの上に視線を戻した。
「こいつら……」
 思わず絶句する。いつの間にかテーブルの上にスライムたちが這い上がってきている。わずかに残っていた佐伯の食事も、今は完全にスライムまみれになっていた。
「くそっ!」
 思わず、佐伯はテーブルを叩いた。だが、怒りのために、それが遙かに強かったのだろう。丸テーブルが簡単にバランスを崩してひっくり返った。当然、上に乗っかっていたスライムたちが跳ね上げられて宙に飛ぶ。
「うわあああぁぁぁ」
 てこの原理で飛ばされたスライムたちは、お約束通り、佐伯の上にボトボトと落ちてきた。
「ああ、意識が……、白く……澄んでい……く。これが明鏡止……水の境地か……」
 パンツ一丁の姿にされて、佐伯は意識を失っていった。
「こんな所でやられちゃってるのがいるよー」
 ややあって、パートナーを失って一人救助活動にいそしんでいたクレアが、大声で人を呼んだ。カーテンを持ったカノンが駆けつけてきて、佐伯をくるんで運んでいった。
 
    ☆    ☆    ☆
 
 厨房へは、何人かの者たちが駆け込んでいった。
「塩です。スライムも軟体動物のはず、ナメクジと同じです。きっと塩がききます」
 調味料を引っかき回しながら、羽瀬川 セト(はせがわ・せと)が言った。
「セトよ……こんなアホな作戦ホントにうまくいくのかのぅ……?」
 エレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)が、赤毛のポニーテールをゆらして、怪訝そうな顔で訊ねた。手伝う必要もないだろうと、暇なので三つある流しの栓を閉じたり開けたりして遊んでいる。
「アホとはなんですか……。ああ、見つけましたよ」
 そう言って、セトは岩塩の入った瓶をエレミアに見せた。
「塩なんて、役にたつのかしら。スライムといったら、まずは、これ、消火器ですわ。『マックィーンの絶対の危機』で見ましたもの」
 お前はいくつだというツッコミはないと信じて、狭山 珠樹(さやま・たまき)はいろいろな物をあさっていった。シリカゲルや小麦粉やフライパンなどなどをたくさん手に入れる。
 彼らと一緒に厨房に入った茅野 菫(ちの・すみれ)は油を探していたが、その目的は他の者たちとはちょっと違っていた。
「あった、あった。これで、スライムちゃんを守れるじゃん」
 菫は油を手に入れて、幼い顔に無邪気な悪意を浮かべた。
「ねえ、菫、考えなおさない?」
 色違いのペアルックを着たパートナーのパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が、菫に言った。
 菫は、この油を撒いて、食堂に混乱を巻き起こしてスライムたちがやられるのを少しでも減らそうと考えていたのだ。そうすれば、スライムに襲われる犠牲者が増える。その姿を携帯で写真を撮って、『菫様の面白アルバム』のさらなる充実を謀っているのだ。
「嫌だよー」
 菫はそう答えると、密かに厨房の近くから油を撒き始めるのだった。
 入れ違うように厨房に入ってきたセトは油を探したが、すでに菫に全部奪われてしまい、どこにも発見できなかった。
「しかたない、酒で代用するかな」
 ウォッカの瓶をいくつかみつけると、セトはその口を開けてボロ布をねじ込んで火炎瓶を作っていった。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「タマの奴、どこにいるんだ。今回はついてくるなって言いやがって。ミーだけをのけ者にしようったって、そうはいかないぜ!」
 狭山 珠樹(さやま・たまき)に内緒でついてきた新田 実(にった・みのる)は、食堂に着くなり、さっそくスライムを一匹倒した。
「はーっはっはー! ミーの火力はパラミタで一番!」
 大胆不敵に、実は進んでいった。ほどなく珠樹の姿を見つける。
「さて、まずは消火器を試させていただきますわ」
 珠樹は消火器を構えると、見つけたスライムにむかって消火液を吹きつけた。これで、スライムが粉まみれになって動けなくなるか、低温で凍りつくはずだった。だが、肝心の消火器は、粉末消火器でも二酸化炭素消火器でもなく、化学泡消火器だったため、たいした効果はなかった。多少、スライムの動きを鈍くした程度である。
「あれっ、おかしいですよ」
 予定と違ってしまったために、ちょっと珠樹があわてる。そのため、狙いがそれ、広範囲に泡が広がってしまった。
「何をやってるんだ」
 見かねた実が、彼女の許にむかって駆け出した。珠樹の近くにいるスライムを倒そうと、火球を放とうとする。そのとき、珠樹の撒いた消火剤にすべって足をとられた。思い切り狙いが外れて、何もいない天井に火球が命中する。
「ちょっと、みのるん、なんで君がここにいるのですか」
 珠樹が驚いて叫んだ。
「いや、タマが心配でついて……てててってぇ!?」
 答えながら、実のろれつが急に回らなくなる。その脚から上半身にかけて、泡だらけのスライムが這い上がってきていた。消化剤の泡に隠れていたため、接近が分からなかったのだ。
「馬鹿な、ミーが、こんな雑魚どもに……」
 珠樹の方にのばした手をぱたんと倒して、実が気絶した。下半身から、スライムによってすぽぽんと脱がされていく。
「みのりん!」
 あわてて駆けよった珠樹だったが、素っ裸の実を前にどうしていいか戸惑ってしまう。ひっくり返してみようかという誘惑にも駆られるが、それは人としてまずいと思いなおして、実のお尻に小麦粉をぶちまけて隠したつもりになった。