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猛女の恋

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猛女の恋

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10・オウムと遊ぼう

 昨日の朝から、オウムに翻弄されている6人がいる。レベッカ・ウォレス、アリシア・スウィーニー、羽高 魅世瑠、フローレンス・モントゴメリー、切縞 怜史、ラヴィン・エイジス。オウムを見失い帰ろうとするとオウムが現れる、その繰り返しで一日が過ぎた。
 それぞれに目的は異なるものの、オウムを捕まえたい熱意は同じである。

 
「逃げれば追う、追えば逃げるは、鳥の業、
 欲しいはいらない、嫌いは好き、
 欲しいはいらない、いらない、いらないっ」



「また今日の歌はいっそうわかんないな」怜史が呟く。

 そこにターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)がやってくる。
「瞳も声も失ったらアプローチなんて殆ど出来ないじゃない。魔女も酷い取引をさせるわよね。人の恋心につけこんでこんな話をもちかけるなんて許せないわね」
「まぁ、カノンの気持ちは分からないでもないんだけどさ。偽りの姿で幸せになんかなれないだろ?」
 ジェイクはターラのためなら何でもするつもりだが、カノンの行動には疑問を感じている。しかし、妖艶な美女ターラは恋の駆け引きも恋の切なさも知っている。純情なカノンを弄ぶ魔女が許せない。
 なんとか取引を止めさせたいと魔女の住処を探す途中で、オウムの声を聞いてここに来た。

 露出度の高いターラーと魅世瑠、レベッカの服装に、オウムが歌う。

 
 「小さな羽根で飾る胸、小さな羽根で隠す秘所、
 魔女マルハレータが退治されたら、
 俺の羽を差し上げよう、極彩色の輝く羽を
 ケケケケケェ」



「もう、オウムの歌にはうんざりだヨ、マルハレータって魔女をやっつけにいこうヨ」
 レベッカのぼやきに、ターラのパートナー、ジェイク・コールソンが答える。
「魔女がいるのは、この森に近いオウムの行動範囲内の荒地って事だと思うんだけど。
 百合園にも現れたって聞いたから・・・きっとここだよ」
 持ってきた地図を出し、サルヴィン川近くの荒地を指差す。
「森にも百合園にも近い。さあ、行こう。さっきの歌を聞いただろう!逃げれば追う、追えば逃げるんだよ。僕たちが動けばオウムも動く。魔女の住処まで連れてってくれるよ」
「そうかもなぁ、こいつは魔女マルハレータが退治されたらって歌ってたしな」
「ケケケケケッ」
 オウムの耳障りな笑い声が頭上から聞こえる。

 そのとき、ハーブの響きにも似た美しい歌声が響いた。緋桜 翠葉(ひおう・すいは)の声だ。美しい声で先ほどのオウムの歌「小さな・・・」を歌っている。海凪 黒羽(うみなぎ・くろは)が呆れていう。
「……お前、なぁ…(深い溜め息)オウムに張り合ってどうする」
「だってあまりに惨い声なんだもの。美しくないものはキライ。ふふ……ねぇ、わたくしは美しいものが一等好きよ。あの鳥の声も美しくしてあげたいわ」
 翠葉は彼の左腕に腕を絡ませて、翠色の緩いウェーブのふわふわの髪をかき上げる。
「ケーケーケーケーケッ」
 オウムの声が気のせいか、ほんの少し美声に変わっている。翠葉と黒羽が加わり、一行は10名、森を抜けて荒地を目指す。


 そのころ蒼空では。
 御剣恭哉と宮本明日菜が、今日も本の山に囲まれぐったりしていた。
「ねぇ恭哉。こんなの見つけたんだけど、何か参考にならないかな?」
「ぉ、これはオウム」
「まさかねぇ、そんな長生きのオウムいるっ?」
 何百年も前の資料に極彩色のオウムが飛んでいる。
「わかんね、いるかも」

 百合園図書館でも。
 ブレアとマグが高く積まれた本の間で、懸命にページをめくっている。時々、ブレアが立ち上がって、読み終えた本を書棚に戻し、また背ほどに高く積み上げられた本を持ち込んでいる。
「これ・・・噂の・・・」突然、マグがそのなかの一ページを指差す。
 そこに描かれていたのは、極彩色のオウム。傍らに小太りの少女が立っている。
「ずいぶん、古い本だねぇ」
 本の背表紙は茶色にすすけて、ページのあちこちが抜け落ちている。オウムのページも欠損が目立つ。
「残念っ!」
 二人同時に叫ぶ!

 いつの間にか夜になる。

 静香のファンである葛葉 翔は、百合園女学院が見える斜面に1人座っている。学院は夕暮れと共にあちこちに灯が灯り、夜が深まるにつれ、その数が減ってゆく。
「地味な戦い方だけどさ、こういうのも男の戦い方だぜ」
 女相手に銃を向けるわけにはいかない、いくら相手が元女戦士のカノンだとしてもだ。
 翔の武器は爆竹や鼠花火、片手に持って歩き出す。もし学院ないで騒ぎがあったら、爆竹や鼠花火をカノンに投げ、その隙に桜井静香達に「今の内に逃げろ!」と隠れながら声をかけようと思っていた。
 女学院の周辺に誰か潜んでいないかを調べながら歩く。茂みに隠れた野うさぎが突然飛び出してくる。その声に思わず木陰に身を隠す翔。しばらく木陰で周囲をうかがっているが、特に変わった様子はない。
「やれやれ、どうなってるんだか、俺も物好きだぜ」
 灯の消えた百合園を見守る翔。

 ルカルカのパートナー、ダリルも、何時でも動けるよう教導団のバイクに跨って百合園を見張っている。満タンに充電した携帯は通話状態のまま、ヘッドセットを使用しハンズフリー状態に。ルカルカにも同様にしてもらい、常時通信可能にしている。

 ダリスもリーゼロッテを心配して、ずっと外にいる。

 大切な人を守る。そのためにすべきことを男たちはしていた。