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シー・イーのなつやすみ

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シー・イーのなつやすみ

リアクション

「しかし、どうにも今回敵の襲撃が早かったわね〜。どういうことなのかしら?」
 アリアのよそってくれたカレーをもごもごやりながら、ヴォルチェが首をひねる。
「それは周囲の魔素〈マナ〉が極端に減ったからだろうな」
「あら? あなたは……」
「イルミンスールの樹だ。あっちは相方のフォルクス」
「どうも」
 軽く挨拶をかわし、首をひねっている彼女に近づいていくのは和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)の二人。
「はいはい〜♪ んで? 魔素が減ってるってどういうことなの?」
「あぁ。あんたら常人には感知しにくいかもしれないけど、ヨウ・ジェアに向かってどんどん魔素が集まってる。多分脱皮のさいにエネルギーとして使うんだろうけど、森の向こうまですっからかんになるほどに集めまくってる。多分、それが今回の襲撃の理由だろうな」
「あぁ、魔素が尽きて地面に落下してるお前は滑稽だったな」
「うるせぇな!」
「あぁ、それはオレも感じてたな」
 と、言うのは第二陣トラッパーとして出て、先ほど戻ってきた倉田 由香(くらた・ゆか)の相方ルーク・クライド(るーく・くらいど)
「え? そうだったのるーくん?」
「だから最初に言ったじゃねぇか! なんか大気がおかしいって!」
「ごめんね? アリーセさん達とトラップしかけてるのに夢中だったから……」
「つまり、オレの言うことなんてそんぐらいって思ってんのか!?」
「あ〜。こら、喧嘩はあかんで〜?」
 一方的な言い合いになろうとした雰囲気を察したのか、燕がルークの小柄な身体を抱き上げる。
「そ〜んなピリピリしとったら幸運とか身長とかいろんなもんが抜けてしまうで〜? ほ〜ら、わろてわろて♪」
「だ〜! 身長が抜けるか! は〜な〜せ〜!!」
「わ〜、るーくん抱っこされてう〜らや〜まし〜♪」
「るっせぇ!? 見てないで助けろぉ!!」
「平和ね……」
 などというほのぼのとした光景に、どこか力を抜かれるが、
「なァ。トいうことは今夜ニモ第二陣ガ来るんじゃナイカ?」
 いつの間にやらすぐ近くにやってきたシー・イーが、気を引き締めさせるためにか言葉をはく。
「ま、夜の見張りがいないって訳でもないし、大丈夫っちゃ大丈夫よん?」
 などと言っているヴォルチェの視線が気だるく、陣営から出て行く人影を見据えていた。



「しかし、いいのか? 相手が交渉に応じるなんて保障はないんだぜ?」
 夜の森を、隙間から差し込む月明かりを頼りに歩く影が三つ。その先頭を歩く男の名をグレン・ラングレン(ぐれん・らんぐれん)といった。
「い〜のい〜の! 戦わなくていい方法があるんなら、それをやっとくに越したことはないんだぜ!」
 といってがはがは笑っているのは先ほどまで火の元をしていたベア。
「報われなくても俺はしらねぇぜ?」
「そんなことを言うのはどうかと思います、ベアは……!」
 グレンの台詞にカチンとくるところがあったのか、ベアの後ろに付いたいたマナが語気を荒げる。
「まぁまぁ。別に報われるとか報われないとかじゃないさ。やっとけたことを無駄かもしれないでやらないとさ、夜ぐっすり眠れないと思うのよ、自分」
「…………。」
 グレンがベアをジっと見る。単純な笑顔に見えるが、どこか奥を感じさせるそれに、これ以上グレンは説得をするのをやめた。
「言っとくが、交渉が失敗してどうなっても俺様は知らんからな」
「大丈夫だって。逃げるぐらいの実力はもれなくあるんだぜ!」
 ケラケラ笑う彼の台詞のどこまでが真実か掴みかねながら、森を歩いてゆくと、
「「ッ!?」」
 殺気が走った。
 互いに背を預け、一瞬で構える二人。
「え?」
 呆けた表情をするマナを放って、二人は殺気の出所を探す。
「交渉も余地もないとは。まいっちゃうんだぜ」
「軽口が叩けるなら上等だな。が、これがどこぞの部族ではない可能性もある手っ取り早く、」
「「こいつをぶちのめして先へ行けばいいッ!!」」
「マナ! 光条兵器!」
「あ、はい! 内蔵火器アクティブ、出します!」
 カルスノウトを肩に担ぎ、光条兵器を取るために右腕を空ける。
 一つ、二つと時間が過ぎ、
「そこかぁッ!!」
 グレンのアサルトカービンが殺気の主めがけて、フルオートで発射される。
「っとぉッ!? いきなりかますとかないわぁ、ほんま」
 が、その射線を滑りぬけるように下へとかわし、軽口を叩きながら降り立つ人影一つ。青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)という自称トレジャーハンターである。
「ま、結構距離離れてたし、ちと激しいオラへのラブコール?」
「ふん、アンコールの準備は万全だぜ?」
 カードリッジを入れ替えながら、挑発するように言う。ここで突進の一つもかましてきてもらえたら、カウンターで蹴りの一つもくれてやるのだが、
「遠慮しとくわ〜。だってまだ役者は上がりきってへんし?」
「うぐお!?」
 グレンの背後でベアの声が響く。
「なに!?」
「ふぅはははははははははははー!! よくぞこのシャンバランストライクを受けとめた!! その点は褒めておこう」
「ぐぅ! しゃ、らくっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 突如現れた珍奇な姿、誰が呼んだか神代 正義(かみしろ・まさよし)。彼こそは自称正義の味方、パラミタ刑事シャンバランである。その反則げに繰り出された蹴りをカルスノウトで受け止め、反撃に光条兵器を振りぬくが、逆にカルスノウトを足場に飛ばれ、回避される。
「伏兵か!?」
「もらい!!」
「ぬおッ!?」
 ベアに気をとられた一瞬を付いて、幸兎が一気に銃の間合いから蹴りの間合いまで進入してくる。
 突進の穂先として構えられたアサルトカービンを警戒し、グレンが一歩左へと流れた瞬間を狙って、雪兎は本命の蹴りを撃つ。
「ぐぅッ!」
 なんとか右腕の防御が間に合ったものの、85kgもあるグレンの身体が一瞬浮く。
(腕が痺れてやがる……! なんつう蹴りを撃つんだ、こいつ……!)
 実際には地面と相手を足で一直線につなぐことで破壊力を増している技量の一つなのだが、とてつもない底力を秘めている様に見せていた。
「シャンバランブレード!!」
「光条兵器、アクティブッ!」
 バジオンッ! という稲妻にも似た鋭く重い音が響き渡り、マナとシャンバランの剣先が離れる。
「せぇぇぇぇぇぇいッ!!」
「チェストォォォォォッ!!」
 切り下ろし、斬り払い、突き、柄撃ち、切り上げと、刹那も互いの刃をあわすことなく猛烈な勢いで剣撃を打ち込みあう二人。互いの斬撃軌道を斬撃軌道で打ち落とす、どちらかが一手間違えた瞬間に決着がつく、紙一重の攻防を続け、
「ふぅんッ!!」
 互いの刃が離れた反動を利用して、カルスノウトで切り上げを打ち込む。
「甘いッ!」
 手にした光条兵器を片手持ちに変え、カルスノウトの刃自体を焼滅させる。
「なにッ!? んなら!」
 だが、そこで隙を作るを良しとせず、バックステップで間合いをとり、右腕に魔力を集中させる。
「爆炎波ァァァッ!!」
「なんの、轟雷閃ッ!!」
 炎と雷が互いに牙をむき、互いの主の間で爆散する。
「そ、相殺しやがった……!?」
「ふふふ、悪の攻撃など、私には通用しないのだ!!」
 ヒーローのお面かぶった珍奇な人間が、勝利を確信し力強くそういった。
(こいつら、つえぇ……!?)
 嫌な汗が、グレンとベアを襲った。