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第10章 この想いがくれたもの


「おー、いたいた!」
 雷蔵は、ようやく薫を捜し当て、呼びとめた。
「どうしたでござるか?」
「うん、ちょっとさ、今回一緒だった連中に声かけててよ。愛美を元気づけるためにも、俺の話に乗らないか?」


 愛美や、他の毒蛇にやられた者達も完全に体調を取り戻した頃、男子が中心となって、今回の事件に協力した者達を例の洞窟に招待した。


 洞窟に、蛇の姿はなかく、死骸もなければ、中も、きちんと明りがともされていた。
「どうしたのこれ?」
 アメリアが驚きに目を見張る。

「男連中で片づけたんだ。やっぱり、こういうのは綺麗な思い出で終わりたいだろ?」
 芳樹が面白がるような笑みを見せる。
「企み、じゃなくて、サプライズだよ。ほら、奥に行こうぜ!」
 皆、パートナーや愛美に見せたくて頑張ったのだ。

「うわっ!」
「…っと」
 光が岩に足を取られてバランスを崩すのを、佑也が支えた。
「大丈夫か?」
「は、はい! ありがとうございます!」
「もう、佑也ったら! 男なんか助けてどうするのよ! こういうシチュエーションの時は女の子を助けるもんでしょ!」
「……あのな、そういう下心ミエミエなことしたら、かえって嫌われると思うぞ」
「え〜〜っ、そうかなぁ?」
 佑也は悩み始めたアルマを見てため息をつく。このままじゃ、近くにいる女の子にアルマが声を掛けまくって、ゆっくり貴重な景色を楽しめないだろう。
「そうだ、せっかくだから一緒に見るか?」
「えっ!?」
 佑也は傍にいた光を誘う。
「いいんですか?……その、女の子とじゃなくて?」
「うん、どうせ緊張して風景見れなくなるのが関の山だし。どうする?」
「それじゃ、ご一緒させていただきます!」
 光がぺこりと頭を下げる。
「ちっがーうっ! そこは、女子を誘うのーっ!!」
 アルマの嘆きを背に、佑也は光の肩を押して、奥へと急いだ。

「愛美、マリエルこっちだ」
 焔が、2人を手招き、安定感のありそうな岩の上にのせる。
「もぉっ、他の女の子になんか、優しくしちゃダメっ!」
 アリシアがぷぅと頬を膨らませて怒る。
「あ、あの、」
 愛美が焔を呼びとめた。
「どうした?」
「私のせいで、怪我させちゃって、ごめんね」
「一度、守り抜くと誓った『竜珠』の為ならば何でもない事だ。……だが、あまり無茶はするなよ」
 焔と愛美の会話に、アリシアがますますむくれた。
「愛美は謝らなくていいのっ、焔が大事にかばったのは、私なんだからっ!」
 アリシアがぎゅぅっと焔の足にしがみつくのを見て、ルナが注意する。
「アリシア、その行為は焔の行動にとって、障害となります」
「いいのっ!」
 焔は、アリシアを抱き上げた。いわゆる、お姫様だっこというやつだ。
「焔…」
 アリシアが嬉しそうに焔の首にしがみつく。
 足場が危ないからなどというと、また機嫌を損ねそうなので、焔は口を噤んだ。
「正しい判断です」
 ルナがアリシアに聞こえないように言った。

「愛美、もういいのか?」
 ベアとマナが愛美の近くに来る。
「うん。聞いたよ、私を蛇の下から助けてくれたんでしょ?」
「いやまあ、それほどでも」
 照れるベアを見て、マナがひとつ、愛美にお願いをした。
「ベアってホントすごかったんだよ。やっぱり、本当の友達じゃないとああは出来ないよね」
「うん、そうだね」
「それじゃ、ベアも、愛称とかで呼んでいいよね?」
「うん、いいよー。マナミンって呼んでー」
「ほんとかっ!?」
 ベアが今までにない笑顔で小躍りする。
「うん。『マナ』だと、マナさんとかぶっちゃうもんね。でもそのニックネーム、なかなか広まらないんだよねぇ」

「あ、政敏さん!」
 カチェアとリーンと一緒にいた政敏が、愛美に呼び止められる。
「あの、ケガの具合はどうかな?」
「大丈夫。もうなんともないよ」
 笑顔の政敏に、愛美がほっとする。
「小谷は?」
「え?」
「大丈夫?」
 それが、体調のことだけを聞いているわけでないのは、愛美にもわかった。
「……うん、大丈夫!」
 明るく応える愛美に、いろいろな意味をこめて、政敏は「頑張れよ」という言葉を贈った。

 わいわいと学友達が集まってくる。
 沙幸に美海、留美とラムール、さけ、アリア、メイベルにセシリアにフィリッパ、美羽とベアトリーチェの女の子達が愛美の近くに集まる。
 壮太に案内された真希とユズも、混ぜてもらった。


「さて、皆さん。よくぞお越し頂いたでござる」
 薫が、水たまりの前に立ち、招待者達にあいさつをする。

「これより、拙者達がお見せしたかった景色をご覧に入れるでござる。愛美殿、」
「は、はい!」
 突然話しかけられ、愛美が背筋を伸ばす。
「愛美殿が、これを見て元気になるようにと皆、思っているでござるよ」

 薫の合図で火が消され、辺りが闇につつまれた。やがて洞窟の中に銀河が広がった。

 あちこちで、感嘆の声があがる。

 洞窟の天井いっぱいに広がる小さな輝きは、地球の土ボタルと言われるものに似ているが、これは全く別の種類の虫の仕業だった。虫は大小さまざまな光を放ち、闇に浮かぶそれは、厳かな星空のように皆を魅了した。

「どうだ、ユキノ、すごいだろ?」
 いつも英虎にくっついて、彼の後ろに隠れているユキノが、その光景を前に、英虎の横に並ぶ。
「とても綺麗でございます。望遠鏡で見る星とは、また違う、不思議な輝きでございます……」
 喜ぶユキノの様子に、英虎も嬉しい気持ちになった。

「本当に綺麗ですね」
 足元が危険だからと言われた幸は、ガートナに、いわゆる『お姫様だっこ』の状態で抱きかかえられて、星を見ていた。
「また蛇が集まってくるかもしれませんから、今のうちに1匹採取しておこうかな」
「もう一度、すぐに来れば良いでしょう。今度は、君と2人で来たいものだ」
 ガートナの言葉に、幸がくすりと笑う。
「何を言っているんです? 今だって私の目に映っているのは、あの星と、あなただけだ」
「幸……」
 幸はガートナの首に手をまわした。

「……濃……っ」
 うっかりその斜め後ろにいて会話を聞いていたトライブの眉間には、いまだかつてないほど深い皺が刻まれていた。
「しかも、激甘じゃのぉ」
 ベルナデットも頬を染め、目のやり場に困っている。
「なんですの? 一体、何がどうなっていますの?」
 アリシアの目は、幽也の手できっちりと塞がれていた。
「手を離しなさい、幽也!」
「そうだよ。手を離してあげてもいいんじゃないの?」
 とりなす誠治に、いつもは温和な幽也が睨みつけてくる。
「いけません。アリシア様の教育上、お見せするわけには参りません」
「どうせ暗くてよく見えないだろ。それにほら、綺麗な銀河だぜ」
 怪我の功名とはよく言ったもので、それは愛美が運命を信じて無茶をしなければ、見る事がなかった光景だった。

「ねぇ、壮太」
 足元が危険だからと壮太に背負われたミミは、壮太の首にしがみつきながら、2人で地上の星を見ていた。
「なんだ?」
「僕、重くない?」
「全然、だから気にしないで見てろよ」
「うん。……ねぇ、壮太。今日、バイトは?」
「ちゃんと休みもらってきた」
「ほんと?」
「ウソはつかねぇよ」
 背中のぬくもりを通して、壮太が小さく笑っているのが伝わってくる。
「ねぇ、壮太」
「今度はなんだ?」
「こういうの、なんか、いいね」
「そうだな」
「ねぇ、壮太」
「ん?」
「僕、今日はハンバーガーが食べたいな」
「了解」
 ミミは壮太の背中に頬をくっつけ、壮太の穏やかな笑いを感じていた。

 ショウとアクアは、あの日以来、ちょっと微妙な距離感があった。
「あのさ…この前の事、怒ってる?」
 勇気を出して、ショウがアクアに聞く。
「え? どうしてです?」
 思ってもない事を尋ねられて、アクアが驚く。
「いや、勝手に…薬飲ませたし…」
「あの場合は、適切な処置です」
「うん、でも、意識のない女の子にすることじゃないかなって……」
 アクアがくすくすと笑う。あの日以来、ショウから感じていた距離感は、こんな事のせいだったのだという安心感に気を緩める。
「それじゃ、今度は意識のあるときにしてください」
「え?」
「……やだ、違います、そういう意味じゃなくて、そうしたら、ショウがそんな風に悩んだりしないかとか、だから……」
 アクアはつい言ってしまった自分の言葉に、そしてショウは、アクアのそんな動揺に、お互いの存在を意識しないではいられなかった。
「星、綺麗だよな」
 ショウがアクアに言う。
「ええ」
 ガッシュは、なんだかよくわからないけど、お兄さんとお姉さんが仲直りしたならそれでよし!と、にこにこと2人を見ていた。2人の距離は違う意味に形を変えそうな予感がした。

「これ、キミでしょ?」
 翔子は雷蔵にフラットカブトを見せた。
「詫びの代わりだ」
「いいって言ったのに」
 翔子は笑って気にするなというが、普段は守る側に立つ事が多い雷蔵としては、女子を身代わりにしたという罪の意識が、やはりどこかでくすぶっていた。
 だからこそ、翔子が洞窟を見たいと言っていたのを思い出し、愛美の為にもなるからと皆を説得して、この計画を仕掛けたのだ。


「すごく、綺麗……」
 月夜が喜ぶ姿を見て刀真が頬笑み、2人の姿を玉藻が面白そうに見る。

 他の者達も地中の銀河の下、思い思いに語らい、景色を堪能した。

 陣と真奈、陽太に美魅に真人の医療班5人は、スイートフラット誕生秘話で盛り上がっている。

 朝野姉妹に、レイディスとフィーネ、ルカルカとダリルとカルキノスに、セシリアとファルチェは、今回の事のあらましを、それぞれの視点で話している。

 優斗はテレサに、タイミングが悪かったと慰められ、アイナが星を見る振りをしながら、それに聞き耳を立てている。
 隼人とソルランは、改めてウェイルとアリシアに謝りに言っていた。

 ドットとエリン、唯の3人は、また始まった炬と京のゲーム話が穏便にすむように見守っている。

 巽とティアは、蛇を全滅させたのかと納得いかない気持ちになったが、恭司が蛇除け用に煙草を提供させられた話や、準備に参加した黎次とルクス、アルフレートにテオディス、薫の話で、蛇除けは一時的なものにしかならないだろうと聞かされ、住処を奪った罪悪感がほんの少しだけ和らいだ。

 アメリアとミーナは女2人でなにやら夢中になって話をしており、あぶれた芳樹と葉月がなんとなく話したり話さなかったりと、のんびりやっている。

 翡翠と円、リネンとヘイリー、イーオンとフェリークス達は、それぞれ学友たちを見守りながら、万が一大蛇が姿を現したらすぐに対処できるよう、気をめぐらせていた。

遥にベアトリクスと藤次郎正宗と、筐子とアイリス、防師の2組は、純粋に星空を楽しんでいる。

「ごめん、想葉」
 ぽつりとピアストルが想葉に謝る。
「なんのこと?」
「それは、……ナイショ」
 愛美を助けようと頑張る想葉を見て、本当は愛美に焼きもちをやいていたなんて事は、内緒なのだ。
 それだって、想葉の優しさに触れてとっくに癒されてる。
 ピアストルは、並んで座る想葉の肩にそっと頭を預けた。
「綺麗だね」
「うん。ピアスと見れて良かった」
 この光景は2人の冒険の1ページに加えられた。


「……みんな、ありがとう。心配掛けてごめんなさい」洞窟に、愛美の声が響く。
 顔が見えない分、人は素直になれるのだろうか。
「やっぱり、私にとって『運命の人』は特別だから、きっとこれからも後先考えずに突っ走っちゃうかもしれない。……でも、私には、『運命の人』の他にもたくさん、大切な友達がいるんだって、もう、絶対、忘れないから」
 皆の心に愛美の言葉が染みる。

「だから……、昨日ミスドで逢った店員さんとの恋、応援してね☆」

 皆は一様に虚脱感を覚えた。

(この女、こりてねぇ。)

 それが全会一致の意見であった。

「まなみんらしいですけどね」
 遥のつぶやきに、何名もが同時にうなずいた。


担当マスターより

▼担当マスター

玉野 晴

▼マスターコメント

 こんにちは、玉野です。
 リアクション提出が1日遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 アクションですが、MCがLCと離れたら没対象と、シナリオガイドに明記しておきましたので、行動は採用しても、MCと合流しない間は描写なしとさせていただいております。

 さて、称号ですが、シナリオにちなみ「友愛」とつく称号を数名の方にお贈りしております。
 また、同じ称号は差し上げていません。

 ガイドを呼んで下さった方もいるようで、とても助かりました。
 楽しかったです。ありがとうございました。

 皆さまに、女王のご加護がありますように。