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闇世界の廃病棟(第1回/全3回)

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闇世界の廃病棟(第1回/全3回)

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第7章 身の一部を隠す狂気の研究室

-PM21:00-

「けっこう歩いたはずなんですけど・・・さっきから誰にも会いませんね」
 可哀想な死者たちの魂を成仏させようと、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は病棟内を歩き回っていた。
「トンネルに入った時はかなりの人数がいたはずなんだが・・・?」
 ハンドライトで廊下を照らしながら、一緒に行動しているアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)も疑問符を浮かべる。
「まっ・・・まさか・・・心霊現象で、私たちだけ別の空間に隔離されてしまったてことは・・・」
「そんなことはないと思うぜ。生徒たちが他の部屋で探索しているから会わないだけかもしれないしな」
「そうですよね・・・」
 優希がほっと安堵するのも束の間、首が180度後ろへ捻じ曲がった女のゴーストが廊下を徘徊していた。
「き・・・きゃぁああ!」
 彼女の叫び声はゴーストに聞こえてしまい、鋭く尖った爪で襲いかかる。
 アレクセイは標的に向かって火術を放つ。
 ゴオォオッと燃えながらも、化け物は優希に跳びかかる。
「いやぁあ!来ないでぇええ!」
 ゴーストの顔面を優希がハンマーでガンッと殴りつけた。
 ドスッボキンッと砕いていくと、ゴーストはその場から動けなくなり、肉片がパチパチと燃えて焦げた匂いを漂わせる。
 緊張の糸が途切れたのか、優希はペタンと床に座り込む。
「ここで休んでいると、また襲ってくるかもしれないぜ。早くラボの中に入ろう」
「えぇ・・・そうですね」
 優希は床から立ち上がると、アレクセイと共にラボ2-4のドアを開けて中に入っていった。



 彷徨う死者たちを成仏させてやろうと、樹月 刀真(きづき・とうま)たちはラボに向かい2階の廊下を歩いていた。
 静かな病棟内でカツンッカツンッと足音が響く。
「さて・・・行方不明者は全員死体になっちゃいましたかね?」
「そうかもしれないわね・・・こんなところで何日も生き残れそうにないわ」
 刀真の言葉に漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は頷き、ゴーストがいきなり襲いかかってこないか辺りを警戒しながら歩く。
「俺達も死体にならないよう気を付けましょう」
 ゴーストに襲われたら一貫の終わりだというように、刀真は冷静な口調で言う。
「今すぐ召されそうな不吉なこと言うな・・・」
 襲われたら終わるというような言い方に、玉藻 前(たまもの・まえ)はため息をつく。
「それにしても体の一部を奪うなんて・・・誰がそんな手間をかけたんだか」
「しっ!何か聞こえるわ・・・」
 廊下の奥からペタンッペタンッと這うような音が聞こえてきた。
 頬の削れた不気味な化け物が、月夜たちの姿を見つけて壁をつたって天井へ上り迫りくる。
 ゴーストは天井から飛び降り刀真の頬を掴み、喉元に鋭く尖った爪を当てる。
「こいつめー!」
 玉藻がハンマーでゴーストを壁際へ殴り飛ばし、刀真もハンマーで標的の四肢を砕いて動きを止めた。
「とりあえ地べたを這いつくばってください」
 ガンッベキンッと骨を砕く音が響く。
「刀真、やめて!」
 月夜の声で刀真はようやく殴るのをやめた。
「まぁ・・・これでとりあえず動けませんね。とりあえずここに入ってパーツを探してみましょうか」
 3人はラボ2-4のドアを慎重に開け、中にゴーストがいないことを確認し中に入っていった。



「ここは・・・誰もいないようだな・・・」
 ソウガ・エイル(そうが・えいる)はそっとドアを開け、ラボ2-3に入っていく。
「何なんですか・・・ここ・・・」
 ホルマリンの溶液の中に浮かぶ生物のパーツを直視し、アリア・エイル(ありあ・えいる)は思わず一歩後退る。
 蓋のされた2mほどの高さがあるいくつものシリンダーが立ち並び、その中に生物の身体の一部が入っていた。
 シリンダーの蓋には、ホルマリンを流し込むパイプがつながれている。
「何か見つかったか?うあっ何だこれは・・・」
「―・・・酷いわね」
 異様な光景を目にした周とレミは唖然とする。
「もしかして何かの実験用ですぅ?」
 後から入ってきたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、シリンダーの中に入っているゴーストたちの身体の一部を見て首を傾げる。
「だとしたら何の研究かしら?」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は眉を潜めて考え込む。
「生物実験なら生命の進化とかが考えられますわね」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、セシリアに答えるように言う。
「思いを残しては死ねないよな。私も自分が死んだら多分そうだろうから」
 ホルマリン漬けになっている生物の身体の一部を見ながら、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が呟く。
「イリーナって心霊現象が怖かったんじゃ?」
 怖がっていないか、トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)はイリーナの顔を覗き込む。
「普段はな・・・でも今回は成仏できない気持ちに共感してるせいか・・・そっちの方が気持ちが優先する」
 シリンダーにそっと手を触れ、イリーナは静かな口調で言う。
「誰がこんな真似をしたのかしらね・・・イリーナ」
 遺体に共通点がないかエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)は携帯でシャメを撮りながら、イリーナに話かけるがシリンダーによじ登り、蓋を外してパーツを拾うことに集中しているせいか返事が返ってこない。
 イリーナは一言も喋らずに黙々とパーツをハンマーにひっかけ、シリンダーから取り出していった。
「念のために、簡単な罠でも作っておくか」
 九条 瀬良(くじょう・せら)はドアの外と中に、ゴーストが侵入してきたら分かるように鳴子をつけた。
「(ラティも物好きだよなー・・・あんなのをどうにかしてやりたいなんて)」
「・・・・・・彼らを見てると、自分の昔を思い出します。だからその・・・」
 不機嫌そうな顔をする彼に、ラティ・クローデル(らてぃ・くろーでる)はしゅんとした顔で言う。
「分かってるって・・・」
 真剣にゴーストたちを助けようとしている生徒たちがいるこの場で、瀬良は罰の悪そうな顔をする。
 罠を仕掛け終わり一息つこうとすると、ドアの向こう側からペタンペタンと足音が聞こえてきた。
 鉄パイプを握り締め迎え撃とうとするが、足音はドアから離れていく。
 ほっと安堵の息を吐いた瞬間、ガシャァアンッと天井の金網が落下する。
「あんな所からゴーストたちが!」
 ソウガが驚愕の声を上げる。
「鳴子に気づくなんて・・・少しは知恵が働くヤツもいるということか?」
 悔しそうに瀬良は舌打ちをする。
「ここのパーツに見向きもしないっていうことは、あのゴーストの身体の一部はここにはないっていうことですね」
「どうやらそうみたいだな」
 向かってこようとするゴーストを、瀬良は鉄パイプで力いっぱい叩きつけた。
「まだきますよぉ!」
 金網の外れた天井から現れたゴーストを、星のメイスでメイベルはドスッと殴りつける。
「どうやら痛覚ないようですわね。いくら攻撃しても向かってきますわ」
「そうみたい・・・ね!」
 フィリッパが蹴り飛ばした亡者を、セシリアがモーニングスターで床へ叩き落とす。
「この場を荒らされたくないから、少し大人しくなってもらおう」
 標的の両肘をイリーナがハンマーで叩き割り、トゥルペは両膝へハンマーを殴りつけた。
「仕方ないな・・・」
 佑也がゴーストの両足をザバァッと切断した。
「ふぅやれやれ、ここまでやれば動けないはずだ」
 四肢を砕かれて動けなくなった亡者を見下ろし、疲れたように瀬良はため息をつく。
 襲撃の騒動が治まったのを確認すると、イリーナたちは再び死者たちのパーツ集める。



「誰かいますかぁ?」
 藍乃 澪(あいの・みお)はそっとラボ2-4のドアを開け、中の様子を覗き見る。
「あっ!」
 すでにゴーストたちのパーツを探している刀真たちを、フローラ・スウィーニー(ふろーら・すうぃーにー)が見つけた。
「ここは人が少なそうですねぇ。あたしたちも一緒にゴーストたちのパーツを探しますぅ」
「5人しかいなかったから助かるわ」
 奥の棚の裏から月夜がひょいっと顔を覗かせ、澪たちを手招きする。
「見つからないですね・・・」
「箱の中とかにありそうだよな」
 引き出しの中にないか、優希とアレクセイも一緒に探していた。
「ゴーストが侵入してこないように、鉄パイプをつっかえ棒にしましょう」
「えぇそうね」
 刀真の言葉に頷きた月夜は鉄パイプをつっかえ棒にし、ドアからゴーストが入ってこれないようにした。
「この辺とかにありそうですねぇ」
 澪は机の引き出しの中や、シャーレや上皿天秤などが置かれた棚の中を探す。
「あれ・・・この引き出し・・・なかなか開けられません」
 スライド式の白い引き出しに手をかけ、グッと力を入れてフローラが開けようとしていた。
「我が開けてやろう」
 力任せに無理やり玉藻が開けると、その中には大きな銀色の箱があった。
「うーん・・・重いですよコレ・・・」
「開けてみるですぅ」
 フローラが引きずり出した箱を開け、中を見てみると生物の身体のパーツらしき物が入っている。
 虫が湧いていてあまりの状態の悪さに、誰も素手で掴めなかった。
「仕方ありませんね・・・。本体らしきゴーストに遭遇した時に、箱ごと渡しましょうか」
 刀真はそう言うと、箱の蓋をパタンと閉じた。



「―・・・さて・・・・・・確か亡者たちが奪われたパーツを探して彷徨っているということだったな・・・・・・」
 亡者たちのパーツを探しに来たクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は、静かな2階の廊下を歩いていた。
「まずはそれを探す事になるが・・・・・・俺としては早く終わらせて帰らなければいけないからな。黙ってここへ来てしまったから、今頃は彼女たちが心配しているだろうからな・・・・・・。さっさと用事を済ませてしまおう、行くぞアイシア・・・・・・」
「あ、あの、御免なさい!闇の気配がしたからといって勝手にこんな所に来てしまって・・・・・・。その上、クルード様まで巻き込んでしまうなんて・・・・・・今後は気をつけます・・・・・・」
 アイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)は申し訳なさそうに顔を俯かせる。
「まぁ・・・・・・早く終わらせて帰ればいいことだ」
 沈んだ表情をするアイシアの銀色の髪を、クルードは優しく撫でてやる。
「まずはここに入ってみるか」
 クルードはラボ2-5のドアノブに手をかけて慎重にドアを開けた。
 室内に入るとすでにアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)たちが、死者たちの奪われたパーツを探している。
「よくわからない液体が入った試験管とかばかりだな」
「もしかして帰り時間が過ぎてしまったのか?あぁゴーストたちと夜明かしか・・・・・・長い夜になりそうだ」
 収納ボックスの中に死者たちの奪われたパーツがないか探していたテオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)は、時間が過ぎてしまったことに気づきため息をつく。
「うーん・・・こちらにもありませんわ」
 エリシアは椅子の上に乗って棚の中を覗く。
「ひょっとして・・・・・・ああゆう所に隠されてはいないか?」
 棚の上に置かれた錆びた鉄の箱をクルードが見つけた。
「その中に入っているのでしょうか・・・」
「俺がとってやろう」
 テオディスは椅子の上に乗り、両手で箱を掴んだ。
 テーブルの上に置いて蓋を開けてみると、その中には病棟内を徘徊するゴーストたちの物と思われる、腎臓など生物のパーツが入っていた。
 冷凍すらされていない状態だったため、腐り蕩けていた。
「くぅ・・・保存状態もだが・・・それ以上に匂いがキツイな」
 両手で鼻を塞ぎ、アルフレートは顔を顰めた。
「他は人手が足りているようだからこっちに来てみたんだが・・・何か見つかったか?」
 ドアを開けてウェイルが室内に入ってきた。
「マスクとゴーグルをしててよかったわね」
 バイオケミカル対策要員のような格好をしたフェリシアは眉を潜め、腐乱したゴーストの身体の一部が入った箱を覗く。
「とりあえず本体が見つかるまで蓋をしておこう・・・」
 ウェイルはそっと箱に蓋を被せた。