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リアクション
☆ ☆ ☆
御嶽のところから離れたガイアス・ミスファーンは、パートナーの許へむかっていた。途中で、何やら話し込んでいる綾瀬 悠里(あやせ・ゆうり)たちを見かける。
「とにかく、黒幕の居場所を突き止めるのが最優先ですよ」
「でしたら、きっとまたザンスカールの空き家か何かにアジトを作って、安全な場所から指示を出しているに違いありませんわ」
千歳 四季(ちとせ・しき)が、考え込む綾瀬悠里に言った。
「仮にそうだとしても、いったいどこに潜伏しているかよ。今から探し出すとすると、少しやっかいだわね」
イエス・キリスト(いえす・きりすと)が、困ったように考え込む。
今から探すとすると、ずいぶんと出遅れてしまった感は否めない。もっと確かな情報があればいいのだが。
「オプシディアンが、またザンスカールの町に現れたの?」
二人の会話を耳にして、久世 沙幸(くぜ・さゆき)が割り込んできた。
「いや、そうじゃないかという推測なんですが……」
「なあんだ。だって、目撃情報は、森の北の方だったということだったんだもん。町だと、逆方向だよね」
綾瀬悠里の言葉に、久世沙幸はちょっと安心したようだった。
「けれども、アジトがあるのでしたら、町の方だと思いますわ。怪しい建物に絞って探せば、きっと見つかりますわよ」
「結局、足で探すしかないのかな」
千歳四季は簡単そうに言うが、イエス・キリストとしては、そうは簡単には見つからないだろうと思っている。
「うーん。でも、みんなの考えじゃ、隠れてないで、スライムを操りに出てきてるんじゃないかって話なんだよね」
「判断としては、そちらが正しいであろうな」
考え込む三人に、ガイアス・ミスファーンが声をかけた。
「いつぞやの魔糸騒ぎのときのような下準備ならばいざ知らず、本番では現場で仕上げをしていると我らは見ているが。なので、すでに多くの者が、スライムの合流点に目星をつけて出発しているぞ」
「ふーむ。同調するか、あくまでも、可能性を潰すという意味でアジトを探すかですね」
「可能性は、すべて潰しておいた方がいいとは思いますが」
「でも、二人だけで勝てるの?」
久世沙幸が、綾瀬悠里と千歳四季の会話の痛いところを突いた。見事オプシディアンを探し出せたとしても、こちらが瞬殺されたのでは意味がない。そのへんは、ガイアス・ミスファーンは身をもって体験しているし、久世沙幸も目撃している。だが、そのときちょうど農家に出向いていた綾瀬悠里たちは、幸か不幸かそれを知らなかった。とはいえ、話だけは、後で聞いてはいる。
「北へむかうのであれば、空振りに終わってもスライムと戦うことはできよう」
ガイアス・ミスファーンのアドバイスに、綾瀬悠里たち三人は、他の生徒たちのむかったスライムの合流点にむかうことにした。
「へーえ、やっぱり、敵は合流点か。これはいいことを聞いたぜ」
小型飛空艇用の補助灯を借りに学校に寄っていた葛葉 翔(くずのは・しょう)が、彼らの会話を小耳に挟んでほくそ笑んだ。もともとそこへむかう予定だったが、読みは外れていなかったようだ。
目的地を決めた生徒たちが、次々に出発していく。
遅れてしまったと、ガイアス・ミスファーンは先を急いだ。
「待たせてしまったな、出発するとしよう」
戻ってきたガイアス・ミスファーンが、ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)に言った。
「やあ、いたいた」
二人が出発しようとしているところへ、七尾蒼也がペルディータ・マイナとともにやってきた。
「よかった、間にあって。これを渡しておこうと思ってさ」
ちょっとはにかみながら、七尾蒼也が手作りのお守りをジーナ・ユキノシタに渡した。
「これは?」
ちょっと戸惑いながら、ジーナ・ユキノシタが聞き返した。
「禁猟区がかけてある。何かあったら、駆けつけるから」
「ここからは無理でしょうけれど……」
「もし間にあいそうになかったら、チームを組んだ仲間に連絡するさ。とにかく持って行ってよ」
「では、遠慮なくいただきます。さあ、行きましょうガイアスさん」
簡単に礼を述べると、ジーナ・ユキノシタはガイアス・ミスファーンとともに、スライムの合流点目指して出発していった。
「よかったね、ちゃんと渡せて」
「ああ、ベルディータ、おまえの分もあるぞ、ほら」
にこにこしながら言うペルディータ・マイナに、七尾蒼也がぶっきらぼうにお守りを押しつけた。
「ふーん、ずいぶん扱いが違うんだあ」
「そ、そんなことはないさ。さ、さあ、もう一仕事だ、行くぞ」
あわててごまかすように、七尾蒼也は言った。
☆ ☆ ☆
「ようし、どんどん塩を運び込んでくれ。雷術の通電をよくするんだ」
エル・ウィンド(える・うぃんど)がクレイゴーレムたちに命令をとばしていると、不意に携帯が鳴った。
「こんなときにいったい誰だ?」
『いあ、いあ、だごん。でぃす いず ぽに夫 すぴーきんぐ』
通話ボタンを押すと、聞き覚えのある声が聞こえてくる。いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)だ。
「ぽに夫さんですか、この忙しいときに、いったいどこにいるんです」
話を聞いてみると、何でも、パラミタ内海の海岸付近にいるので、ついでだから阿魔之宝珠を探しているという。
『きっと、スライムが巨大化した原因と関係が……』
「ありません!」
きっぱりと、エル・ウィンドは言った。
「ただでさえ人手がほしいんですよ。ぽに夫さんもすぐにこっちへ来てください。何? 間にあわない? とにかく来てください!」
そう言って、エル・ウィンドは携帯を切った。
つーつーつー。
「ええと……。しかたないですね。だごーん様!」
半ばあきらめたように携帯を隠しにしまうと、いんすますぽに夫は断崖から海にむかって叫んだ。
曇天の中、強い風が吹き、いんすますぽに夫のローブを乱暴にはためかせた。
突然、海面が大きく盛り上がり、音をたてて飛び散る海水が霧のように周囲に立ちこめた。
霧笛のような音が、大気を震撼させる。
夜霧の中に、赤い目の輝きが浮かびあがる。突然のびてきた巨大な腕が、握りつぶすかのように、いんすますぽに夫をつかみあげた。
「行きましょうか」
手の中で、いんすますぽに夫が言うと、巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)は陸に上がって歩き出した。
☆ ☆ ☆
「世界樹が光っているから真っ暗ではないが、細かい枝には気をつけるのじゃぞ」
空飛ぶ箒で大きく北側に迂回した望月あかりが、鷹野栗に注意を促した。
「分かってますです」
言われなくとも承知していると、鷹野栗は答えた。
てっぺんの展望台を目指すにしても、幹近くは巨大な枝が密集しているため、安全を期してわざわざ端の方まで迂回してきているのだ。遠回りでも、端ならば枝や葉の層も厚くはないので、すぐに抜けられるだろう。
二人が飛ぶ真下では、美しく輝く魔法陣が、ゆっくりと回転している。その大きさは、世界樹の枝の傘よりも少し小さい程度という巨大さだ。こんな状況でなければ、すばらしく美しい光景であるのだが。
無事に枝葉の間を抜けると、鷹野 栗はその上に出た。ここからは、何もない安全な空間を、展望台目指して飛んでいくだけだ。
ふと下を見ると、北の枝の端にある展望台に人影が見える。望月 あかり(もちづき・あかり)と忌部 綿姫(いんべ・わたひめ)だ。
「さあ、がんばって、機材のセットをしてくださいねぇ〜。ここを出張スタジオにして、スライムとの戦いをラジオ中継するんですから〜」
どてらを着込んで火鉢にあたった望月あかりが忌部綿姫に言った。
「はいはい。まったく、こんなところにスタジオを構えなくてもいいものを。まあ、でも、セッティングは、ばっちりやっとくから。その後のことは任せたよ」
多少愚痴りながらも、忌部綿姫がテラス状のむき出しの展望台に、バッテリーやらトランスミッターやらをセッティングしていく。
「似たようなことを考える人もいるのですね」
「私らは、てっぺんを目指すのじゃ。行くぞ、栗」
鷹野栗たちは、さらに上昇すると、世界樹頂上の展望台を目指した。
展望台は、世界樹の先端のトンガリに突き刺さったドーナッツ状の円盤といった形だった。さすがにこの高度でむき出しはつらいので、外周がすべて窓になった展望室となっている。もっとも、外周にはバルコニーがぐるりとあるので、そこから外の景色を眺めることもできる。
そのバルコニーに着地すると、鷹野栗たちは、ぐるりと一周して世界樹の周りを確認した。
北には、いくつかの明かりが見える。きっと、空飛ぶ箒などに乗った生徒たちの明かりだろう。
暗くてよくは分からないが、二カ所ほど大きく森の色が変わっている場所がある。あれがスライムの位置に違いない。
また、南の方にも、空を飛ぶ光が見えた。誰か、南方向にむかっているのだろうか。
「そろそろ左右に分かれようか」
指輪で呼び出した光の精霊を空飛ぶ箒の周りに飛び回らせたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、同じようにしているジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)に言った。
「準備はできているのだよ」
横を飛ぶジュレール・リーヴェンディが答える。
「オプシディアンのことだから、何か仕掛けを仕込んでいるかもしれぬから、充分に気をつけるのだぞ」
ジュレール・リーヴェンディが、カレン・クレスティアに釘を刺した。
「大丈夫だもん。あいつに出し抜かれたりしないんだから。きっと、手薄な反対側から何か仕掛けてくるに決まっているわ。今度こそ、先回りしてやっつけてやるんだから」
「策はあるのだな」
「もちろんだよ。スライムは、反対の色の玉で誘導されてたらしいから、それを見つけて壊しちゃえばこっちのものだよ」
カレン・クレスティアが、一部鋭い観察眼を披露する。
「スライムを操れなくしたら、今度こそあいつの正体を問いただすんだから」
「では、くれぐれも気をつけてな」
お互いにうなずくと、二人はオプシディアンを捜して二手に分かれていった。
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