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第1章 豪雨により床が水浸しに・・・ツルツルツルリン滑る床

 ケースをうっかり落としてしまい、その中から出てきたミニたいふうたちが暴れていることを聞きつけた生徒たちが、困っているオメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の屋敷にやってきた。
「よーっし!小人さん整列ー!行っくよー!お掃除スタートっ!にゃはは〜☆」
 埃や塵でミニたいふうが凶暴化しないように、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は小人の鞄を使い掃除を始める。
「いらっしゃいませ〜☆・・・セット、クウィンタプルフレア!」
 ミニたいふうのミニミニへ両手を向け、七枷 陣(ななかせ・じん)は火術による火球五連打を放つ。
「そんなの消しちゃうもんねぇ♪」
 真っ白な丸い雲のような身体をクルクルと回転させ、ザァアアアッと豪雨を降らせて炎を消してしまう。
「ちょっ、効いてないとかマジかよ。くっそ、もう一回食らえや!」
「へへぇんだぁ〜、お兄ちゃん全然ダメダメだねぇ〜♪」
 陣の炎はミニミニの雨によって、ジュァアーッと簡単に消されてしまった。
「―・・・・・・雨の日無能」
「まったく・・・雨の日無能ですわね」
 近くで掃除をしていた風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が、陣の傍でボソッと言う。
「・・・無能違う!こんな水気ばっかりな状況だったら誰でも同じやろが!!」
 半泣きしながら陣は抗議の声を上げる。
「ハッ・・・無能め」
 小人の鞄を使ってリーズと一緒に大広間の掃除をしていた仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)が、喚く陣に向かってフンッと笑い飛ばす。
「ハハッ、氏ねお」
「うわぁ・・・全然役立たず状態だねぇ・・・」
 眉を潜めてリーズも深いため息をつく。
「良し、お前後で粛正な!」
 立て続けに言われ最後に止めを刺すリーズに、陣が人差し指をビシィイッと指す。
「はぁ・・・人が真剣にやっているのに、何を遊んでいるのでしょうね」
 両手に皮手袋をはめ、屋敷内にあった除湿機を使って屋敷内の湿気を無くそうとしている緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は呆れ顔をする。
「まだまだ暴れちゃうぞぉ〜♪」
「あら?暴れていたんですか?てっきりはしゃいでいるだけかと思いました」
 フワフワ跳びながら屋敷を散らかしているミニミニを見上げ、望はクスリと笑いハウスキーパーで片っ端から片付けていく。
「さぁ、どうぞ。いくら暴れてもすぐに片付けますから」
「なんで、このわたくしが掃除など・・・・・・ま、まぁ、お困りのようですし、力をお貸しするのはやぶさかではありませんけど」
 ブツブツ言いながらも、ノートはモップを使い望と共に屋敷内を綺麗に片付ける。
「しかしまぁ・・・よくもこんなに床を水浸しにしてくれましたわね。水を拭き取っても拭き取っても洪水状態になってしまって・・・まったく・・・きりがありませんわ・・・」
 バケツにモップを突っ込みギュッと水を絞り、再び床の拭き掃除をしていく。
「のあぁあああ゛〜!滑る滑る〜っ!!」
 ミニミニを追いかけていた陣は濡れた床に足を滑らせ、ツルーンとバケツの方へ突っ込んでしまう
「ぶわっ、冷てぇえ・・・。イッて!」
 ヒュゥウウーン・・・ボカッ。
 蹴り飛ばしてしまったバケツが頭に直撃し、頭から水を被ってしまう。
「ちょっと!邪魔しないでくださらない!?」
 モップをビシャッと床に叩きつけ、眉を吊り上げたノートが陣を見下ろす。
「しっ仕方ないじゃないか!大体・・・そんな所にバケツ置いておくほうが・・・んぎゃぁあっ!?」
 立ち上がろうとした瞬間、また足を滑らせて転んでしまい、今度はバケツに尻がはまってしまった。
「―・・・えっ・・・あっ・・・・・・マジ?あの・・・ちょっと・・・」
「知りませんわ、わたくしお掃除で忙しいのですから」
 ノートに助けを求めるが、プイッとそっぽを向かれて断られてしまう。
「この大変な事態に何をやっているんですか、いいかげん怒りますよ」
 片足をダンッと踏み鳴らし、遙遠は怒りを抑えながら冷たい表情で陣を見つめる。
「すでに何か怒ってるやないか・・・」
 陣は眉をへの字にし、子犬のようにシューンとなって小声で言う。
 次また何かしでかしたら、“ハウス!”と言われそうな雰囲気だった。
「どうした?助けて欲しいのか?どうか助けてください、お願いしますと頼むなら考えんでもないが?」
 バケツにはまっている陣の姿を見つけ、磁楠が陣に向かって小ばかにしたような口調で言い放つ。
「ざけんなっ、氏ねお!」
「そうか・・・ならばしかたがない」
「へっ!?あぁあ待ってくれ、オレが悪かった!このとぉおり〜」
 離れようとする磁楠に、陣は慌てて転がりながら謝る。
「最初から素直にそう言えばいいものを・・・」
 磁楠は掃除をしていたリーズと一緒にバケツを外してやった。
「(くそぉお〜アイツらぁあ・・・後で覚えてろよぉ・・・)」
 痛む尻をさすりながら、離れていく磁楠たちを涙目で睨んだ。



「オメガさんの屋敷って結構広いんだな・・・ミニたいふうたちどこにいるんだろう?」
 和原 樹(なぎはら・いつき)は周囲をキョロキョロ見ながら、バケツを抱えミニたいふうたちを探す。
「どこから風が来ていれば分かるんだけど・・・」
「他の部屋にいるのかもしれないな。1箇所ずつ見て回るか?」
 部屋のドアを開けて、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)はミニミニとミーミがいないか確認する。
「うーん・・・こっちの部屋にもいないようだな・・・」
「ひょっとしたら近くにいるかもな・・・相手は3cmのちっちゃい台風なのだろう?」
「ここにいるよぉ♪」
 フォルクスの足元の近くから、ミーミがひょこっと現れた。
「いまだフォルクス、捕まえろー!」
 樹からバケツを受け取り、氷術で凍らせるとすぐさまミーミの上に被せ確保する。
「よしっ、捕まえたぞ!」
「早くケースに入れてしまおう。ちょっと取ってくるから、そこで待っててくれ」
「あぁ・・・。なっ・・・バ・・・バケツが!?」
 バケツを押さえていたフォルクスは、それごと身体が宙に浮かぶ。
「どうしたんだフォルクス?えっ・・・・・・どういうことだ!」
 叫び声に気づき振り返った樹は、驚愕のあまり目を丸くする。
「ちょっと油断しちゃったぁ。でもミーミそんなのじゃ捕まらないもーん♪」
 凍ったはずのミニたいふうは溶けて元気を取り戻し、バケツに入ったまま浮かび廊下を烈風の如く進む。
「うわぁあああーっ!とっ止まってくれぇええー!!」
 安全装置のない1人用ジェットコースターに乗ってしまったかのように、フォルクスは涙目になりがなら悲鳴を上げる。
「このっ、大人しくするんだ!」
 先回りした樹はバケツに飛び乗った。
「やぁーだもん!これならどうだぁあ、えぇえーいっ!」
 ミーミはスプリンクラーのように身体をグルグルと回転させ、豪雨を発生させながらビュィイイイーンと飛び回る。
「ぁああ目が回る・・・目がぁああ゛っ!!」
 壁にぶつかりそうになりながら大広間へ直行する。
「うっ・・・・・・回りすぎてもう・・・無理・・・・・・」
「悔しいが・・・・・・ここまでのようだな・・・」
 まるで高速回転するコーヒーカップに乗った気分だった。
 バケツから手を放してしまい、樹とフォルクスは目を回しながら床に倒れ込んでしまった。



「オメガさんにまた会えて嬉しいのですー、えへへ」
 騒動を聞きつけた桐生 ひな(きりゅう・ひな)が、ミニたいふうたちを大人しくさせようとやってきた。
「この前、パーティに来てくれた方ですわね」
「覚えていてくれたんですねー嬉しいです♪」
 ひなは嬉しそうにニコッと笑う。
「今ちょっとミニたいふうたちケースからが逃げてしまって・・・」
「ミニたいふうの2人は生まれたばかりなのでー、部屋の中で暴れるとオメガさんが困っちゃうのを知らないだけなのですっ。でもこういうことはオメガさんから言ってあげないと駄目なのですよー」
「やっぱり・・・大切なお友達だし、あまり手荒なことをしたくないんですよね?私たちからも注意してあげますよ」
 御堂 緋音(みどう・あかね)も一緒に説得してあげようと、困り顔のオメガに笑いかけ、暴れるミニたいふうたちの方を見る。
「ミニミニちゃんミーミちゃん!早くケースに戻ってください!」
「やぁだもん♪」
 たいふうたちはオメガの注意を聞かず、笑いながら屋敷内を水浸しにしてしまう。
「お2人ともオメガさんの友達なのですよね?今していることはオメガさんを傷つけるのですよ」
「大人しくケースの中に戻るのです!お屋敷こんなになっちゃって、オメガさん困ってますよー!」
「まだまだ暴れたいからイヤ!!」
 緋音とひなが注意してもまったく言うことを聞かず、笑いながら飛び去ってしまった。



 たいふうを弱体化させるため、朱宮 満夜(あけみや・まよ)は“おしゃれ”と称して負荷をかけ、回転を弱めるため衣服を着せようと風呂場へ追い込もうとしていた。
「(フフフ・・・どうやら遊んでいると思っているようですね)」
 満夜は不適な笑みを浮かべ、たいふうたちを追いかける。
「ようやく風呂場へ追い詰めましたよ・・・」
 ドアの隙間から入っていたミニミニたちを確保しようと、そっとドアを開けて中の様子を覗く。
「ペット・・・?におしゃれという感覚は男にはわからん・・・」
 男の子用の小さな服を手に、ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)はハテナと首を傾げる。
 繊維の影響で凶暴化しないように、天然原料のやつを着せようと、そっと忍び寄っていく。
「どうせなら着せて洗剤を染み込ませてちゃいましょう」
「それと水分の重さで飛べなくさせようという考えなのだな?」
 小声で言いながら満夜とミハエルは徐々に間合いを詰める。
 ミニたいふうに頭からバサァッと小さな服を被せた。
「いやぁいやぁ、何するのー!」
 ミーミはイヤイヤするように暴れる。
「お洋服くらい着ないとダメですよ!ぁああっ」
 無理やり着せようとするが、洋服からスルリンと抜け出してしまう。
「動きづらいからやだぁっ」
「こっこら、暴れるな!」
 服を脱ごうともがくミニミニを、ミハエルは必死に取り押させようとする。
「おしゃれくらいしないと・・・もう一度着せてあげますから動かないでくださいっ」
 せめてミニミニだけでも確保しようと、満夜も一緒に着せようとする。
「うえぇえんー!」
 ぎゃぁぎゃぁ泣き喚きながら小さな台風は身体から放電し、あちこち壁を傷だらけにしてしまう。
「―・・・きゃぁっぁあぁぁあ!?」
「うぉおおぁああっ!!」
 ビッビビリリッビリリッ。
 室内に青と黄色の電光がバチバチバチィイイッと走る。
 服は真っ黒な丸焦げな状態になり、感電してしまった満夜とミハエルは床へバタンと倒れてしまった。
 2人が気絶している隙に、ミニミニはスィーンと風呂場から逃げ出した。