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【2019体育祭】魔法と科学の借り物競走!!

リアクション公開中!

【2019体育祭】魔法と科学の借り物競走!!

リアクション


*10:30〜* 午前の競技開始



 何故か白い神父服をまとったクリス・ローゼンは、スタートの合図を鳴らすためのピストルを掲げる。

「銃声がしたら、お互いに借りる物を発表しますね〜!」

 ドン


 リア・ヴェリー『それでは早速Aチームの競技を開始です。現場の白波さん、いかがでしょうか?』
 白波 理沙『はい、こちら白波 理沙です。ここで、スクリーンを使用しての借り物決定を発表するわ』


 アナウンスが流れた後、会場の中央に設置されている巨大なスクリーンに最初と同じように選手の名前が表示された。その横には、最初はなかったBチームから【借りるもの】が表記されていた。



 ・東條 カガチ………アルパカの写真集
 ・七尾 蒼也…………ヴァーナー・ヴォネガット
 ・エル・ウィンド……今はいているパンツ
 ・ラグナ アイン…………神野 永太



 白波 理沙『さて、ではそれぞれ借りるものはスクリーンに表示されている通りです。さっそく借り物を開始してください!』

 決定が発表されると、会場内から沢山の声援が送られてくる。

「エル神様いいぞ〜〜〜」
「もふもふ写真集〜」
「蒼学ファイトお〜!」
「イルミン優勝〜〜!!」


 生徒達が自主的に用意したペットボトルや、吹奏楽部の打楽器やファンファーレが軽快なリズムを刻み、いよいよ体育祭の開始を強くイメージさせる。第一チームの選手達も、お祭りだということをいまさらながら思い出た。
 さっそく東條 カガチは選手席に座っている立川 るるに歩み寄って交渉を開始する。

「てわけで、写真集を貸してほしいんだが、いいか?」
「いまるるもってないよ〜。ラピスが持ってるの」
「大事にするからさ、ゴールするまでの間だけ貸してくれ」

 あっさり貸してもらえそうな様子を察して、東條 カガチは思わず顔をほころばせた。立川 るるはしばらく考え込んで唸ると、小首をかしげながら自慢の三つ編みをいじってこまったように上目遣いで見上げる。

「うーん、でも蒼学の人でしょ? だから、交換条件つきなら、かなぁ……あ、るるお弁当ないから、お昼買って来てくれたらいいよ?」
「ああ、それなら俺の友達が弁当用意してるから、一緒に食べようぜ」
「ほんと? ならいいよ〜多分あのへんに座ってる〜」

 ぱあっと顔を明るくして笑うと、観客席を指差し、分かりやすそうな目印を指定した。東條 カガチは身体をかがめて、こそっと耳打ちをする。

「んで、可能なら後で中身見せてもらってもいいか?」
「もふもふ好き?」
「ああ、わりと」
「じゃ、一緒にみよ〜」

 七尾 蒼也は渋い顔をした緋桜 ケイの前で返事を待っているところだった。悠久ノ カナタも間を取り持てるように二人の間に立っていた。

「だめか?」
「……いや、いいんだけどよ……」
「ケイ、ここは耐えるところじゃぞ」
「や、分かってるんだけどさ、カナタ……手にした状態だろ? てことはヴァーナーに触るんだろ……?」
「大丈夫だ! ゴールに着くまで絶対触らないから!! (多分)」
「……ならいいぜ。怪我させたりなんかするなよ」
「もっちろん!」

 お礼をいいがてらその場を離れると、救護テントでナース服を着てるヴァーナー・ヴォネガットを見つけ、すぐさま事情を話す。

「ケイの大事なもの、だから絶対に危険な目にはあわせないからさ!」
「はい、それじゃ一緒にゴールまでがんばりましょう!」

 ヴァーナー・ヴォネガットは、七尾 蒼也の手をとってにっこりと微笑んだ。


「あ、あの。私の借り物は神野 永太さんなので、お借りしたいんですが……」
「認めません、永太は私だけのものです」
「どうか、お願いします!」
「断じて! 永太は生涯を私に捧げ、いつもそばにいると約束したのです」

 えんじブルマをはいたラグナ アインは両手を合わせて瞳に涙を滲ませて懇願する。だがいつもどおりの重装甲を纏った燦式鎮護機 ザイエンデは火器を構えて対峙する。
 困り果てているラグナ アインの姿を、妹であるラグナ ツヴァイは「ああ、困っている姉上も素敵です……はぁはぁ」と言いながらデジカメのシャッターを高速連射していた。すると、手を叩いてラグナ アインは微笑んだ。

「それなら、一緒に来てください! ゴールまで三人で行けばいいんですよ〜!」
「なるほど。それはいい案です。供をするだけであるならば、許可いたします」
「ありがとうございます、ザイエンデさん!」

 さあ! と大きく声を張り上げているのはエル・ウィンドだった。彼が借りるものは、「今はいているパンツ」なので、脱いであったとしているパンツを受け取ってはくれない。

「気にする事はない。今はボクしか見ていないから☆」
「や、なんかさっきからカメラ持った妖精がうろついてるんだけど……」
「永太、行きますよ」
「え? あ、ザイエンデ?」
「私たち三人で行くことになったんです」
「それは困る! まだパンツを借りていないのだ!」
「永太、早く貸してあげればいい」
「お願いします、スタートが遅れてしまいます」

 機晶姫二人から、いきなりのパンツ脱げコールに神野 永太は嫌な汗を大量に流しながら体操着の短パンに手をかけた。

「(落ち着け、この二人は機晶姫だから事の重大さに気がついていないんだ……でも誤魔化せないしなぁ……ああ、何でパンツなんて書いちゃったんだ………)」


 明智 珠輝『なかなか脱ぎませんね……では代わりに私が脱ぐといたしましょう! パンツだけでなくこの身を全て晒しますよ!!』
 リア・ヴェリー『先ほどから放送事故が続き申し訳ありません。このたびは事前に申請させていただきます。皆様、数秒の間だけ耳をお塞ぎください』

 明智 珠輝『さ、リアさんもいっしょに究極の美をついきゅドゴ
 リア・ヴェリー『失礼いたしました。もう大丈夫です。以下、解説はフィア・ケレブノアと神和 綺人にかわります』


 放送席の漫才が一通り終了したところで、またまたラグナ アインが手を叩いた。

「ゴールで手にしていればいいんですから、今脱がなくってもいいんじゃありませんか?」
「それなら話が早い、永太、早くいきますよ」

 そういうがはやいか、燦式鎮護機 ザイエンデは神野 永太を小脇に抱えると、ラグナ アインと眼で合図してトラックを駆け出した。エル・ウィンドもすかさずその後を追いかけ始める。


 白波 理沙『現場の白波です! さて、最初の障害は積み木! 積み木を積み上げてその上を飛び越えてね。積み木の数は10個。崩したらやり直しよ』


 積み上げるところまでは簡単に進み、身軽な動きが得意であれば難なくこなせる簡単な障害であった。ただ積み上げたものを一個でも落としてしまえばやり直しというのは、意外にも難易度が高く、一度は誰もがミスをする障害だった。その先にある障害の数々は、ありがちな麻袋、平均台渡りなど、よく知られているもので特に何か特別なことを要求されることもなかった。


 白波 理沙『現場の白波です! さて、次なる障害はテスト! マーク式だから答え合わせも簡単よ』


 そこかしこから非難の嵐が吹き荒れるが、環菜がマイクを取った。


 御神楽環菜『今回の成績は、今学期の成績に関わりますので、まじめにやるように』


 その言葉を聞いて、会場内がシンと静まり返ったのは、言うまでもない。選手達は思わぬ頭脳労働に負われて、それでも難なく障害を乗り越えて次に向かう。



 白波 理沙『現場の白波です! さて、最終生涯は……あなたの人生の思い出! あなたの今の姿を永久に保存します! 写真撮影!!』


 会場内から微妙な反応が返ってくる。ただの写真撮影なら生涯と呼ぶようなものでもなかろう……と思っていたが、真っ先に到着した七尾 蒼也とヴァーナー・ヴォネガットはどこから出てきたのかパパラッチのような大量のカメラマンに囲まれ、何らかの魔法で衣装がころころと変わって幼稚園児、小学生、中学生、高校生、成人式、結婚式を模した衣装にフラッシュの光で切り替わり、その映像がスクリーンに映し出される。



 フィア・ケレブノア『なお、このコスプレ撮影会の写真は学内で永久保存され、本日出展している売店、賽の目でも販売予定です』
 神和 綺人『コスプレじゃないんですけど、まぁこの借りたモノを持った写真があなたの生涯に刻まれる、ってことでしょうね』 
 フィア・ケレブノア『貸し出すものによっては大変なことになりますね……ふ、コレが若さか』
 神和 綺人『いや、意味分かりませんから』


 放送席の予感は当たっており、緋桜 ケイはスクリーンに映る最愛の人の白いドレス姿を見て、肩を震わせていた。

「……ヴァーナーの、ウェディングドレス姿……」
「ケイ、心を乱す出ないぞ」
「すごく、綺麗だ……俺も、いつか……」

 傍らで諭したつもりの悠久ノ カナタが心配しているようなことには幸いなことにならなかった。会場内からはブーイングやら歓喜の声やら色々飛んでくるが、順次ゴール手前にいる緋桜 遙遠の前に立つ。彼の格好もまた、結婚式会場にいるような真っ白い神父服をまとっていた。
 一番乗りしたのは東條 カガチだ。

「それでは、あなたの半身に対して一言」
「えー、っと。コレは、俺の書いたものに対してってことか?」
「そうです」

 こほん、と一つわざとらしい咳払いをすると、観客席にいるパートナー、柳尾 なぎこに向かって息を吸い込む。

「これからもよろしくなっ!」
「………はい、ゴールを認めます。あなたが一等です!」

 ゴールが認められたらしく、東條 カガチには紙ふぶきが投げかけられる。観客席から柳尾 なぎこが飛び出してきて、パートナーの腰に抱きつく。二番手は七尾 蒼也。

「あ、えっと、これからも大事にしたいと思ってる」
「はい、ゴールを認めます」
「おめでとうございますっ!」

 手をつないでゴールした七尾 蒼也にヴァーナー・ヴォネガットは抱きついてほっぺたにキスを贈る。それをにこやかに受け取ったが、その直後に背後から冷たい殺気を感じ取った。

 三番手はラグナ アイン、四番手にエル・ウィンドと続いた。

「皆、大好きですっ!」

 本来同着だったのはずなのだが、パンツを手にすることがどうしてもできず、結局エル・ウィンドはビリ扱いとなってしまった。

「これからも、エリザベート様の照明としてがんばりますっ!!」

 そう叫んだ言葉に対し、エリザベートはニヤリ、と笑ってマイクを手にした。

 エリザベート『そんなに照明になりたいなら、後夜祭で照明にしてあげるのですぅ〜』

 その言葉を聞いて、エル・ウィンドは身悶えしながらその場に倒れてしまった。



 リア・ヴェリー『はい、気絶者も出てしまったAチームでしたが、さくさく行きましょう。Bチームの開始です。現場の白波さん、引き続きお願いします』
 白波 理沙『では今回の借り物で、一番多く書き込みをしたラグナ アインさんにお話を伺うわ』
 ラグナ アイン『はい! 私が書いたのは、私にとって、とっても大事な人たちの名前です』
 白波 理沙『先ほどのコメントも素敵でした。借りる方には、大切に扱ってもらいたいものね』



「あいつ、続けてこっぱずかしいことを……」
「蒼学、続けてふぁいっと〜! さらに勝ったらお姉さんが、イイコトしてあげるよんっ」

 如月 佑也が顔を真っ赤にしながらハンディカムを構えている横で、アルマ・アレフはチアガールに扮したモニカ・レントンと共に一等を取った勢いに乗ろうと、応援に熱が入る。
 イルミンスールの応援団も負けておらず、観客席の熱は上がる一方であった。試合開始の合図がなった。


 白波 理沙『さぁ! スタートいたしました!! メンバー紹介とアイテム紹介、続けてどうぞ!』


 ・緋桜 ケイ…………………携帯電話
 ・立川 るる…………………柳尾 なぎこ
 ・神野 永太…………………黄金の改造制服
 ・燦式鎮護機 ザイエンデ…如月 佑也、アルマ・アレフ、ラグナ ツヴァイ

「さっき、ヴァーナーととっても楽しそうだったな……」

 緋桜 ケイは七尾 蒼也に笑顔で手を差し出しながらそういった。七尾 蒼也は苦笑しながら自らの携帯電話を差し出す。選手席に残っていたヴァーナー・ヴォネガットは緋桜 ケイを見つけるとおもむろに優しくハグして、天使の微笑を向けると、唇に自分のものを重ねる。

「ボクを大事なものに選んでくれて、ありがとうです」
「ヴァ、ヴァーナー……当たり前じゃないか、俺にとって何にも変えがたい……大事な人なんだ。これからも、ずっと」
「ケイ……?」

「ヒューヒュー」
「かこつけてプロポーズとは!」


 ヴァーナー・ヴォネガットは顔を真っ赤にしてうつむいてしまい、緋桜 ケイも青を赤らめて頬をぽりぽりとかきだす。

 と、そんなかわいらしい二人を差し置いて競技は進んでいた。

「るるもたいやきすき〜」
「本当?」
「後で、おごってもらう約束したから、一緒に食べよう?」
「うん!」

 立川 るるはあっという間に柳尾 なぎことたい焼き仲間として手をつないでトラックを駆け出していった。

「たのむっ! 貸してくれ!!」

 深々と男らしい土下座を拾うし、トラックに穴ぼこを作り始めた神野 永太は目の前にいるエル・ウィンドからの返事を待った。

「もちろん、ボクは心が広いからね」

 そういって、エル・ウィンドはにっこりと微笑んでそのままたたずんでいた。

「……で、何でお前は脱がないんだよっ!」
「さっきキミも脱がなかったじゃないか〜☆ どうしても借りたいなら、ボクを捕まえてごらん〜☆」

 先ほどまで気絶していたはずのエル・ウィンドは異常なほどの上機嫌でスキップでトラックを駆け出した。神野 永太は顎が外れそうなほど口を開けてその後を追いかける。

 燦式鎮護機 ザイエンデはラグナ アインの前に立ち、優雅な身のこなしで手を突いて頭を垂れた。伝統芸能のそれのような見事な動きに、会場内から思わずため息が洩れた。

「あなたの大事な家族、お借りします」
「はいっ」

 ラグナ アインはにっこりと微笑んで返事を返す。それを受けて、膝を突いたときと同様の優雅に立ち上がり、わずかに金の瞳を細めて微笑んだ。その後、目にも止まらぬ速さで観客席にいる如月 佑也、アルマ・アレフ、ラグナ ツヴァイを引っつかみ抱えるとトラックを駆け出していく。それでもしっかり如月 佑也とラグナ ツヴァイの手からはハンディカメラは手放されていないあたりがある意味凄いと周りの観客達は思っていた。

「ザイエンデさ〜ん! 佑也さんも、がんばってくださ〜い!!」
「ちょ、ちょっとまて!あ、足があああああああああ!!!」
「あの子、佑也が怪我してるの忘れてるのかしら……」
「ああ、応援している姉上もたまりません……」


 立川 るると柳尾 なぎこは順当に進み、積み木を仲良く積み上げ、テストも二人の頭でがんばっていた。その後ろを、はしゃぎスキップで駆けているエル・ウィンドとその後ろを走るのは3人を軽々と抱えている燦式鎮護機 ザイエンデだ。さすがに3人も抱えていたせいか、最初の積み木がなかなか突破できず、苦労を強いられてしまった。だが速さではトップクラスのため、先頭を追い越して最後の生涯に向かっていた。

 緋桜 ケイとヴァーナー・ヴォネガットは改めて手をつないでトラックをかけていた(もちろん携帯電話も手にしている)。ちょっと照れた表情を見せ合いながらかけている姿はみているものの心を和ませていた。

 最後の難関、写真撮影で逆転が起こる。

 神和 綺人『ホントですか!? 今入った情報によりますと、最後の難関の写真撮影は最大2人を想定していたため、計4人いるザイエンデ選手はその組み合わせを全部やらなくてはいけないそうです!』
 フィア・ケレブノア『カップリング全制覇ってやつですね』
 神和 綺人『あの、フィアさん、もう少し分かりやすい解説をお願いします……』


「く、こんなところで……」
「お先に」

 緋桜 ケイが燦式鎮護機 ザイエンデの横を上機嫌な様子ですり抜けていく。トップをいつの間にか抜かれ、彼女はびりになってしまった。スキップするエル・ウィンドを横目に見たときようやく撮影が終わり、すぐさま駆け出すも、トップは立川 るるだった。そこにめがけて、自身の身体についたブースターを全開にさせて飛行した。(その間、如月 佑也がいく度目かの悲鳴を上げているのだが気にかける様子は全くない)

「もふもふだいすき〜!」
「はい、一等、おめでとうございます」

 立川 るるたちが歓喜の声を上げている横に、大きな音共に降り立った燦式鎮護機 ザイエンデは、問いかけられる前に口を開いた。

「永太を失う事は、私自身の消滅を意味します」

 緋桜 遙遠は驚いていたが、すぐに審判らしくゴールを認める合図を出す。パートナーの勝利宣言に思わず顔をほころばせた神野 永太は自分も協議中であるということを忘れて彼女にしばし見とれた。(肩の上でぐったりしている如月 佑也の事は眼に入っていない)

「ザイエンデ……」
「ほらほら、見とれているとボクを見失っちゃうヨ☆」
「いいからこっちこいってーのっ!!」

 そういうやり取りをしているうちに、のんびりとゴールを目指していた緋桜 ケイとヴァーナー・ヴォネガットは仲良くゴールをした。

「他に浮かばなかったんだけどさ、これからも一緒にいてほしいんだ」

 返事の変わりに、満面の笑みと唇へのキスを贈られ、会場内からも暖かな拍手が送られた。

「下着はだから大事なんだって!!!」

 もはや言い訳にしか聞こえない神野 永太の叫びだったが、衣装を借りる上での【身につける】というのを満たしていないため失格扱いとなってしまった。





 リア・ヴェリー『かわいらしいカップルの誕生、素敵なチームでしたね。それでは気持ちを切り替え、Cチームの競技を開始です』
 白波 理沙『スタートの合図が鳴ったわ! アイテムが表示されるわよ』



 ・久世 沙幸………………ペンダント
 ・樹月 刀真………………青い魔女帽子
 ・ソア・ウェンボリス……超ミニスカのステージ衣装
 ・ケイラ・ジェシータ……彼女から貰った手編みのマフラー


 深い蒼色の硝子に、赤い花が描かれたペンダントを見せているのは、沢渡 真言。それにまつわる簡単な話を聞き、両手を合わせていっしょうけんめいにお願いをしているのは久世 沙幸だ。頭を下げるたびに、大きな胸がたゆんたゆんと揺れる。

「ね、お願いっ! 大事なペンダントだって分かってるし、絶対絶対傷つけたりなんかしないからっ」
「蒼空の方ですと、学校のためになりませんっ……ごめんなさい……ゴールまでに、私から奪ってください!」

 沢渡 真言は幼馴染から貰った大事なペンダントを身につけなおすとトラックへと駆け出した。久世 沙幸もその後を追う。藍玉 美海は何度も魔法の詠唱をしようと考えたが、いっしょうけんめいになっているパートナーを見て思いなおし、温かな眼差しでその背中を見守っていた。


「ううむ、どうしようかのぅ」
「貸さないなんていいませんよね? 貸し出しアイテムって書いたんですから」

 樹月 刀真はうーんと唸り声を上げたまま考え込んでいるセシリア・ファフレータに再度聞きなおす。

「そうなんじゃが、お父様から戴いた大事な帽子なのじゃ……大事にしてくれよ」
「ありがとう。傷つけないと約束する」

 愛用されているのが見て取れる青い魔女帽子を手にゴールへ目を向けた。

「これ、借りたら着なきゃダメですか……?」
「ダメって書いてあったし、大事に着てくれるならゴールまで着てってほしいな」

 動き方によっては下着まで丸見えになってしまいそうな短いスカートに、ラメやラインストーンがちりばめられたかわいらしさ全開のステージ衣装は体格的にも小鳥遊 美羽と近しいソア・ウェンボリスが着たら似合うに違いないのだが、ブルマだけでも恥らう彼女には抵抗がある様子だった。

「か、可愛いけど……私は似合わないと思います……」
「ご主人! ブルマだからスカートがめくれても安心だぜ!!」
「あ、そ、そうですね! それなら、着てみます。大事に着させていただきますね」
「うん! ソアぽん、がんばってね!」

 手早く体操着の上に着込むと、まるでスポットライトが当たっているかのような存在感が生まれる。小鳥遊 美羽の脚線美こそないが、その愛らしいたたずまいだけでアイドルを名乗るのにふさわしい容姿に変貌していた。

「すごい、ソアぽん……私のライバルにふさわしいわ!!」

 小鳥遊 美羽の言葉を聞く間もなく、ソア・ウェンボリスは颯爽とゴール目指して駆け出していた。

「そっか、彼女からの贈り物なんだ」
「ああ、だから絶対貸さない」
「ま、コレでも食べなよ……」

 ケイラ・ジェシータは、どこから出したのか渋井 誠治にどんぶりを差し出す。蓋を開ければ、あたたかなカツ丼が姿を見せる。食欲をそそる香りは、生唾を飲ませるのに十分だった。

「パートナーも泣いてるよ、素直に貸したほうがいいって」
「う、うう……すまない、俺が悪かった……でもただじゃ貸せないから借用書書いてくれ。あとケイラさんの大事なもの、代わりに預かる」
「あはは、やっぱり引っかからないか〜、うん。いいよ、何かあったらうちのパートナー好きにしてくれていい。絶対に、乱暴には扱わない」

 そういって、ケイラ・ジェシータは渋井 誠治の背後でこっそりマフラーを奪おうとしていたパートナーに微笑みかける。勝手に盗もうとしたことを咎められないと知っているのか、そ知らぬ顔で渋井 誠治の前に改めて立つ。
 ケイラ・ジェシータはわたされた借用書にサインをすると差し出したカツ丼はまたどこかへとしまって、パートナーの御薗井 響子を渋井 誠治に預けてスタートした。


 先頭を突き進むのは樹月 刀真、その後を追うのはいまだに追いかけっこを続ける久世 沙幸と沢渡 真言だ。ソア・ウェンボリスとケイラ・ジェシータは同校のよしみで助け合いながら進んでいた。
 テストの関門にたどり着いたとき、久世 沙幸はようやく沢渡 真言に追いつき、再度頭を下げた。

「ふふ、わかりました。では、ゴールまでお預けいたします」

 追いかけっこが楽しかったのか、必死な彼女に根負けしたのか、沢渡 真言は首元からペンダントをはずして、久世 沙幸の手の中に預ける。うれしさのあまり抱擁して喜びをあらわにした。それをみて、銀髪の魔女は眉をひそめた。

「……沙幸さんたら、私以外の女性に……あとでオシオキをしなくては、ね」

 走行している間に、トップを突き抜ける樹月 刀真は背後に向かって氷術を放つ。トラックは綺麗に氷が張って、スケートリンク状態になった。


 神和 綺人『なんと! 樹月選手他の選手の妨害を始めました! 直接的な攻撃ではないため、ルール違反に当たりません!』


「コレもまた、障害ですよね?」

 そういって悠々と駆け出したが、背後から「焼き尽くせ! ファイヤーボール!!」というかわいらしい詠唱が聞こえる。
 振り向いた先には、アイドル衣装のソア・ウェンボリスが杖を構えながらかけているところだった。火球が走ったところは綺麗にもとのトラックに戻っているため、転ぶ心配もなくなっている。

「ま、仮にもうちは魔法学校だしね」

 ケイラ・ジェシータは補うように一言加えると、走るペースを速める。トップとの差は既に埋まりつつあるのが目に見えていた。
 ゴール直前、もはやコレは最後に審判から許可を貰うのが早いほうに勝利があたえられるというのが観客にも見て取れた。

「大事な思い出なんだ!」
「いつも支えてくれるパートナーだから!」

 だが二人が声にするよりも早く、ソア・ウェンボリスが声を張り上げた。

「いつも、これからも、見守ってくれているから!」

 緋桜 遙遠は、ソア・ウェンボリスを一等にし、ケイラ・ジェシータ、樹月 刀真は同着の二等にした。四等は、残念ながら借り受けるのが遅かった久世 沙幸だったが、借りたペンダントを返すときにあまり残念がってはいなかったようだった。

「やっぱり、こういうのはいろんな人とこうやって交流できるのが楽しいから……かな?」
「そうですね。学校のためにも勝ちたいですが、沢山の人と仲良くなるということが一番大事ですね」

 沢渡 真言は久世 沙幸の言葉に同強いて、彼女の手をとりお礼を言った。



 リア・ヴェリー『続いてDチームの競技を開始したいと思います。現場の白波さん、いかがでしょうか?』
 白波 理沙『はい、こちら白波。午前最後の闘いだけど、皆にはがんばってもらいたいわね』



 ・沢渡 真言……………………漆髪 月夜
 ・渋井 誠治……………………雪国 ベア等身大ぬいぐるみ
 ・小鳥遊 美羽…………………ネックレス
 ・セシリア・ファフレータ……髪につけているリボン


「ああ、本人まだ知らないかもしれないから、驚かせて御菓子を喉につまらせないようにだけ気をつけてくれればいい」

 そういわれ、沢渡 真言は観客席でお菓子をほおばる漆髪 月夜を見つけ、慎重に話しかける。目が合って、向こうのほうが不思議そうに首をかしげていた。

「んぅ? あれ? 選手の人ですよね」
「あ、はい。樹月さんから、あなたを借りてもいいという許可をいただきまして……」
「んぐ、んぐうう!!?」

 案の定お菓子で喉をつまらせそうになったので、ジュースを差し出して背中をさすってやる。ようやく落ち着くと、本人の気持ちも落ち着いたようで、食べかけていたスナック菓子を一気に口の中に入れ、新しいお菓子の袋を2つほど持ち、ジュースをウィンドブレーカーのポケットに入れて「大丈夫。でも急ぐとお菓子を落とすから……」とだけ呟いた。

「可能な限り、急げるようにお願いしますね」

 沢渡 真言は苦笑しながら漆髪 月夜の手をとった。

「これさ、重さどのくらい?」
「俺様と同じだから、99かな」
「……持っていくのか?」
「俺様もご主人も手伝わないぞ?」 

 雪国 ベアと瓜二つのそのぬいぐるみは、大きさも体重まで同じに作られた超精巧なぬいぐるみであった。黙ってじっとしていたら、どっちが本物か区別がつかなくなりそうだ。渋井 誠治は頭をぐしゃぐしゃにかいて、一つため息をつくと気合を入れておんぶした。到底、走れるような重さではない。

「なんてことない障害が……っあんなにも凶悪に見えるとは……」

 おんぶした状態でいかに効率よく動けるか考えるが、とにかく足を動かすので精一杯になりそうだった。ケイラ・ジェシータに頭を下げにいった小鳥遊 美羽はあっさりと二つ返事をもらった。

「うん、いいよ」
「え、いいの?」
「一生懸命な女の子なら大丈夫だと思うからさ」
「ありがとう! 大事に扱うね!!」

 受け取ったカーネリアンをあしらったネックレスを大事そうに両手で持つと、脚線美がより際立つ華麗な走りで駆け出していった。その背中を見つめて、ケイラ・ジェシータはそのネックレスに込められた想いや、本当は渡したかった相手のことを思い出していた。

「沙幸さん、貸して差し上げて」

 藍玉 美海は久世 沙幸の肩に長い指を滑らせるとにっこり微笑んでセシリア・ファフレータを見つめる。

「よいのか?」
「ええ、女の子なら大歓迎ですわ」
「美海ねーさまがいうなら、どうぞ!」

 しゅる、と音を立てて外れたリボンは久世 沙幸の緑色の髪を緩やかに開放して肩に流れ落とす。細く赤いリボンは、女の子が噂する【赤い糸】に見えなくもない。そう思い、セシリア・ファフレータは思わず口にする。

「ふむ、おぬしたちはこの赤いリボンで結ばれておるのじゃのう」
「え」
「あら、セシリアさんはいいこと仰るのね」

 クスクス、と笑う藍玉 美海をよそに、礼を言ってセシリア・ファフレータもスタートした。



 第一の障害は、渋井 誠治には拷問にしか見えず、早速ビリフラグを立ててしまっていた。のんびりと歩いている沢渡 真言に先を越されてようやく飛び越えることに成功したが、麻袋や平均台が強大なモンスターに思えて仕方がなく、たちくらみを起こしてしまっていた。
 トップを走る小鳥遊 美羽はテストも難なくこなし、最後の生涯写真撮影はアイドルらしくさまざまなポーズで撮影を終えた。

「私を際立たせるためにある、アイドルである証!」

 そう宣言して一等としてゴールすると、観客席から【美羽ちゃーん!】とファン達からのラブコールが殺到する。それに答えるようにして、ソア・ウェンボリスに貸していたアイドル衣装を早着替えで披露する。

「ソアぽんも似合ってたけど、やっぱり私のための衣装よね!」

 というが早いか、ステージに立ったときに歌う十八番の曲がどこからとも無く流れ始めていた。

「大魔女になるために必要なものじゃ!」

 セシリア・ファフレータが握り締めたリボンを掲げながらそういったとき、丁度沢渡 真言も到着していた。

「幼馴染から戴いた、大切な品物です!」

 少し遅れての宣言だったため、三等の結果に終わった。いまだテストのところで回答を続けている渋井 誠治は、本人の身体を考慮してSOSレンジャーが出動していた。本人は身体が硬直して動けなくなっているようだったので、まず身体からぬいぐるみを引き剥がすところから開始した。

『SOSレッド、雪国 ベアのぬいぐるみを汚さないように患者から引き剥がすのよ』
「了解です、隊長。ブラック、そこのシートの上にぬいぐるみを……」
「ゆい……じゃなかった、レッド、一人で大丈夫ですか?」
「……安心しろ、グリーンもついている」

 すっかり役に馴染んだレンジャーたちは手際よく患者を運び出していた。