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リアクション
chapter.6 密談と開戦
外へと続く、滑走路にも似た船内発着場。
ヨサークが見守る中、小型飛空艇に乗り込み空へ飛び立とうとしているのはルーセスカ・フォスネリア(るーせすか・ふぉすねりあ)とカカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)だ。熊っぽい外見のルーセスカと、猫っぽい外見のカカオは共にゆる族で、この光景だけ見たらどこのテーマパークだよという感じである。ルーセスカとカカオの後ろには、それぞれの契約者、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)とミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)も乗っている。
「よし、準備は整った、いつでも大丈夫だ!」
「こっちも、覚悟は出来てるぜ」
レイディスとミューレリアの作戦は、ほぼ一緒であった。ふたりの作戦、それはパートナーの運転する小型飛空艇にふたり乗りし、敵飛空艇の頭上まで移動してから飛び降り、奇襲をかけるというものだった。
「ミューレリア、お前と同じ作戦を考えるとはな」
「それは私のセリフだぜ! 足手まといにならないよう、気をつけるんだぜ?」
ふたりはどうやら既に知り合いらしく、軽口を叩き合っていた。
「そろそろ出るよぅ、白ぼさちゃん」
「俺は白ぼさちゃんじゃねえ、レイディスだ!」
ルーセスカが出発を促すと、隣のカカオも負けじとミューレリアに声をかけた。
「カカオたちも行くにゃあ。用意はいいにゃ?」
「ああ、ばっちりだぜ!」
いまいち迫力に欠けるが、逆にこのファンシーさが相手の油断を誘うかもしれない。一連の流れを見ていたヨサークは、そんなことを思った。
と、そこにもうひとり、小型飛空艇で飛び立たんとする生徒がやって来た。樹月 刀真(きづき・とうま)である。先程行われた戦闘で飛空艇が故障してしまった刀真は、レンタル飛空艇を引っさげての登場だ。操縦しようと伸ばした指に巻かれた包帯が、つい数時間前まで繰り広げられていた戦いの激しさを物語っている。刀真はヨサークの前まで来るとその足を止め、その手をすっと差し出す。
「ヨサーク、あんたのお陰でここまで来れた。礼を言う。本来なら全て終わった後に言うべきなんだが、生きて帰れるか分からないんでね」
「何辛気くせえこと言ってんだよ。そんなんじゃ士気だけじゃなくて、血糖値まで下がっちまうぜ? 野菜食え野菜」
刀真に握手を求められ、硬く手を握るヨサーク。彼はその言葉とは裏腹に、刀真の手に異様なほど熱がこもっているのを感じた。
「おめえ……」
大切な両親を殺された刀真にとって、同様に大切な存在である環菜の誘拐は彼の人格を豹変させてしまうほどの事件だった。
「殺す……邪魔するやつは誰だろうと殺す……」
不穏な空気をまといながら飛空艇に乗る刀真。
「刀真……眼が、血の色してる」
パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、そんな刀真を不安げな表情で見ていた。
――出来ることなら、もっと刀真には命を大事に扱ってほしい。相手のことだけではなく、彼自身のことも含めて。
月夜のそんな思いを遮るかのように、刀真は敵が目に入り次第殺しかねない雰囲気を出している。そんな刀真のところに息を切らしながら走ってきたのは、少し前に大部屋でヨサークとさけの仲介に入った呼雪だった。
「はぁ……間に合った、か……」
「呼雪……?」
友人である呼雪の突然の登場に驚く刀真。呼雪は息を整え、刀真に告げる。
「なあ刀真、ひとつだけいいか」
「……何だ?」
怒りですっかり口調が荒くなっている刀真の左胸を、呼雪はすっと指差した。
「それは、刀真が思ってるよりずっと重いものなんだ。本当は刀真も分かっているのかもしれないけどな」
俺が言いたいのはそれだけだ、と付け加え、刀真に背中を向ける呼雪。そんな呼雪の背中に、刀真が声をかける。
「……そうだとしても、譲れないものだってある」
それ以上呼雪が刀真に言葉をかけず、そのまま去っていったのは友人に対する信頼故か、それともこれ以上は単なるお節介になると判断したためか、あるいは別の何かか……。それは呼雪にしか分からないことだった。
「さあおめえら、そろそろ仕掛けるぞ! 野郎はちゃんと生きて帰って来い! 女は特攻して死ね!」
ヨサークの声が響き、ルーセスカ、カカオ、刀真がそれぞれの飛空艇を発進させる。
「じゃあ、行ってくるねぃ」
「ミュウ、思いっきり暴れてくるにゃあ!」
「行くぞ、月夜」
そして、3機の小型飛空艇が空へと放たれた。
彼らの飛空艇は飛び立つや否や上空へと駆け上り、ぐいぐいと高度を上げていった。レイディスとミューレリアがほぼ同時に光学迷彩を使用し、敵船に目を向けた後消えている互いの姿を見て言い合う。
「おいおい、こんなとこまで同じかよ」
「これで目的まで一緒だったら笑えちゃうぜ! 今のうち聞いておくぜ?」
「以前、あの校長を呼び捨てにしたら怒られたからな……呼び捨てに出来るくらい恩を売る、ってとこだな」
「へえ、蒼空の生徒ならもっと優等生な答えが来ると思ってたぜ」
「そういうミューレリアは?」
「決まってるぜ! これを機に校長と仲良くなって、謝礼金をゲットするんだぜ!」
互いの腹の内を見せ合い、笑い合うレイディスとミューレリア。
「そろそろ、良いかにゃ?」
「チャンスは1回だよう。失敗したら許さないからねー」
敵船上空に移動を終えたタイミングで、カカオが促しルーセスカが釘を刺す。
「よしっ……行くぜ!!」
そんな気合いと共に、レイディスとミューレリアは同時に飛空艇から飛び降りた。互いの契約者に当たらぬよう、少しポイントを移しスプレーショットを放つルーセスカとカカオ。もちろんシヴァ船の装甲はそんなことでは剥がれないが、少しでも注意を向けさせることが出来ればそれで充分だった。
「シヴァ船長、銃撃があった模様です!」
シヴァ船船内。報告に来た船員に、シヴァがゆっくりと指令を出す。
「さっき見えた数機の飛空艇ですね。まあ軽い威嚇射撃といったところでしょう。放っておきましょう」
と、その時。船内が一瞬揺れた。
「っ!? 船長、この衝撃は?」
「……さては、飛空艇から船の上部に飛び移りましたね。命知らずな方たちだ……船内の警備を固めておきなさい。今はまだ、相手の出方を窺いましょう」
あくまで見の姿勢を取るシヴァに、先程ヨサークの船から移ったメニエスが後ろからやってきて話しかける。
「あまり悠長に構えすぎると、痛い目に遭うかもね」
「ふふふ……なあに、心配には及びませんよ。あなたがくれたこのお土産の中身が正しいのならば」
シヴァがひらひらとその手に持っていたのは、今しがたメニエスから譲り受けたばかりの紙切れだった。そこには、ヨサークの船に乗っていた生徒たちの内訳が書かれていた。
「しかし、生徒さんにも様々な方がいるんですねえ」
メニエスを見て面白そうに呟くシヴァ。話は少し遡る。
◇
「シヴァ船長、何やらこちらに真っ直ぐ向かってくる者がいます」
ヨサークの船から抜け出し、箒でシヴァ船へと向かっているメニエスとパートナーを見つけた船員が、シヴァに報告する。シヴァが船内から様子を確認すると、メニエスは両手を上げ、交戦の意思がないことを示していた。
「ふむ……とりあえず考えを聞きましょうか」
メニエスは銃を向けられるという警戒態勢の中でだが、シヴァの船に招き入れられた。
「何かお話したいことがあって、こちらへ参られたのですね?」
「察しが良くて助かるわぁ。事情があってさっきまであそこにいたけど、実はあたし、彼らの敵なのよね。だから、あなたたちの仲間に加えてもらいたいと思って」
単刀直入に自分の考えと立場を話すメニエス。もちろんシヴァはそう易々と信用するはずもなく、証拠を求めた。そこでメニエスが渡したのが、ヨサーク船の乗船人数・男女や戦闘力の高い者が記された紙だった。
「これは……素敵な土産物ですね」
「もしそれだけでは信用に足らないのでしたら、この子を人質として預けますわ。ロザ、ロザ!」
メニエスの横で、ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)がもうひとりのパートナーを呼び寄せる。
「なになに? ミストラル、あたし人質係やっていいの?」
ミストラルに呼ばれたロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)は、この場に不釣り合いな明るい声ではしゃいでいる。
「落ち着きなさいロザ、みっともないですわ」
「はーい。で、おねーちゃん、あたしどうすればいいっ?」
「ロザ、今命令してあげるから待ってるのよ」
ロザリアスを落ち着かせてから、メニエスはシヴァに告げる。
「その紙も、これも好きに扱ってもらって構わない」
「……何が望みです?」
勘繰るシヴァに、メニエスは間を置かずに答えた。
「あの傲慢で生意気な校長を捕まえたんでしょう? あたしはただそれを近くで拝みたいだけ」
「どうします? 船長」
船員たち、そしてメニエスらの視線を受け、シヴァは少し考えた後答えを出した。
「そちらの方は人質として預かります。それと、あなた方の武器も。それで交渉成立としましょう」
こうして、メニエスは限定的にではあるが、シヴァ空賊団に迎え入れられた。
◇
「そこに書いてる情報は、かなり正確よ。それより、捕まってる校長は見れないの?」
紙を眺めているシヴァに、メニエスがせっつく。メニエスへの警戒を完全に解いたわけではないシヴァは、室内にある一台のモニターを指差した。
「校長先生は、今船内のとある一室でおくつろぎになってもらっています。モニター越しで良ければ、ご覧になりますか?」
シヴァがスイッチを入れると、モニターにロープで縛られた環菜が映った。それを見た瞬間、メニエスは自身の体に電流が走ったのを感じた。ぶるっと肩を震わせ、目を輝かせるメニエス。
「あぁ……いいっ! その屈服させられている姿……その間抜けな額に踵を押し付けてあげたいわぁ……グリグリと何度も何度も……消えない痕を残してあげたい……」
歓喜に打ち震えているメニエスを横目に、シヴァはさっきメニエスが言っていた言葉を思い出していた。
「そろそろこちらも動きますか……痛い目に遭うのは嫌ですからね」
シヴァは船員たちに指示し、小型飛空艇を数機並べて空へと解き放たせた。
一方シヴァ船上空では、一足先に着地したレイディスとミューレリアを刀真が眺めていた。
「勢いが足りない……」
そう呟いた刀真は、飛空艇の角度を変える。シヴァ船に対して直角に向けられた飛空艇。
「このまま突っ込んで、飛空艇ごとぶつける」
「刀真、それ結構無茶……下手したら死ぬ」
「だからこそ、奇襲として有効なんだ。大丈夫だ、ぶつかる寸前で飛び降りる」
言うや否や、刀真は言葉通り、飛空艇ごとシヴァ船に突っ込む。次の瞬間、シヴァ船が揺れた。
「……死ぬかと思った」
船上部に開いた小さな穴と粉々になった飛空艇を見て、刀真に抱えられた月夜が愚痴を漏らす。
「ちゃんとふたりとも生きてるだろ。ほら、行くぞ」
刀真は何事もなかったかのように、開いた穴から船内へと侵入する。月夜、そして先に着地していたレイディスとミューレリアもそれに続いた。
船の上部で3人が侵入を果たしていた頃、シヴァ船とヨサーク船の中間地点ではいくつかの小型飛空艇や空飛ぶ箒が飛び交っていた。シヴァの指示により小手調べと牽制目的で飛ばされた数機の小型飛空艇、それを迎え撃っていたのはクロス・クロノス(くろす・くろのす)だった。和原 樹(なぎはら・いつき)とパートナー、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)も箒に乗りながら応戦している。
「こんなに数が来るとは思わなかったよ……っと、囲もうったってそうはいかないからな!」
3〜4機の飛空艇に囲まれそうになった樹は、光術を放ちどうにか窮地を脱する。フォルクスも傍で雷術などを使いフォローをするが、空賊たちの動きをなかなか捉えられない。
「樹、無理はするな。空中戦ではただでさえこちらは不利なのだ」
「そりゃあ、プロが相手なんだからそうなんだろうけど……こっちだって、空が怖くて箒に乗ってられるか!」
空賊たちの攻撃を飛び回ってどうにか回避する樹とフォルクス。その近くでは、クロスが飛空艇に乗って大鎌を振り回していた。
「ふふ、ふふふ……こんな上空ならさすがに教導団のチェックも入らないでしょう……思う存分、暴れさせてもらいますよ」
彼女はどうも、校長を救出するだとか船を守るだとかよりも、暴れることが主目的らしかった。普段きちんとした戦術・戦法の中で戦っている彼女は、相当溜まっていたのだろう。少し前の依頼で光がある場所でしか動けない機晶姫と共に行動した時も彼女は大暴れしていたはずだが、気にしないでおこう。きっと彼女は溜まりやすい人なのだ。
「さあ、この大鎌の餌食になりたいのは誰ですか?」
質問を投げかけておいて、クロスは問答無用で大鎌をぶんぶんと振り続ける。しまいにはどこから持ってきたのか、酒瓶を取り出し鎌の範囲外にいる空賊に向かってぶん投げ始めた。完全にやってることが酔っ払いのそれである。
「瓶の破片を頭に食い込ませたいですか? それともこの鎌で体を引き裂かれたいですか? さあ、選ぶのです!」
乱暴な運転を続けながら、クロスは好き放題暴れた。が、敵もだてに空賊はやっておらず、彼女の攻撃を見事にかわし続けていた。
やがてクロスに疲れが見え始め、樹とフォルクスも飛空艇に取り囲まれてしまった。
「なあ……フォルクスって、泳げるのか?」
「……そんな心配はするな。我は落とされんぞ。無論樹、お前も落とさせん」
しかし、それが強がりであることをフォルクスは自分で分かっていた。もう、あまり長くは持たない。
そんな彼らの様子を遠くから愉快な表情でシヴァが見つめていた。
「せっかく子供たちを引っ張ってまで挑んできたんです……こんな程度ではないでしょう? ヨサークさん」
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