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【十二の星の華】黒の月姫(第1回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第1回/全3回)

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 次の相手は九条 風天(くじょう・ふうてん)だった。
(この物騒な時期に『また』転校生ですか…、今回は少し探ってみましょうか…お姉さんの赫夜さんは剣術がお好きなのですね。一介の剣客として力量を試すため、一手お手合わせ願いたいですね。…テロリストの可能性がないか)
 風天と赫夜は一礼すると、お互いに構えを取る。
風天が、赫夜がどの程度の腕前なのか、手加減して打ち込んで見ると、それを赫夜が剣先で跳ね返す。風天は剣を交わすうちに、『剣のクセ』を見極めようとしている。やはり、赫夜は体の使い方、力の応用の仕方が特殊だった。二人は剣を交える。
「風天さん、あなたの力量はそのようなものではないはずだ。私に気を遣ってくれているのか?」
 にやっと赫夜笑うと、風天も笑い返し
「申し訳ございません、では手加減無しで参ります!」
二人は再び剣を激突させるが、力が拮抗しすぎたのか、二人の手から木刀が投げとんでしまった。
「試合終了!」
 その瞬間、ジャッジの声がかかる。
 風天は赫夜に声をかけた。
「手は痛くありませんか? ヒールをかけて差し上げましょう」
 風天の言葉に
「慣れているからな…しかし、お願いしたい」
 風天はヒールを当てながら
「できれば赫夜さんとは剣術仲間として、友好を深めたいと思っております」
 すると赫夜も
「ああ。私もそのような友達、仲間を欲するところだ。是非、良き友となって欲しい」
 赫夜の手に、ヒールを施す風天は赫夜の手が確かに剣術家としての手のひらの感触であるのに、美しいしなやかさをもっていることに驚いた。

 次の相手は菅野 葉月(すがの・はづき)
「お願いします!」
 一礼をした葉月が剣を振るうと、赫夜が防戦しながら、ぽつりと呟く。
「葉月殿、太刀筋が日本の伝統的なものだな」
「おわかりですか。実家が江戸時代から剣道場を営んでおります。赫夜さんとも剣術仲間として、色々語り合ってみたいです…」
「うれしいお言葉だ」
 二人は何度も切り結んでいくうち、不思議と認め合う友情が生まれてくるのを感じた。
 

 3分が経ち、休憩が入れられる。ギャラリーたちも、熱戦にどよめきを隠せない。
「赫夜さん、お疲れではないですか」
 汗を拭き、水分補給をしている赫夜のもとに、次の相手、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)がやってくる。
「お気遣い、ありがとう。ただ、心配はご無用だ。私も剣の使い手。自分のペースをわきまえているつもりだ」
「そうですか、それは良かった。赫夜さんは魔法は使われますか?」
「いや、努力不足でな。レイナさんは魔法剣術を使われるのか?」
「はい。しかし、赫夜さんが使われないのですから、私も剣術のみで参ります」
「それはありがたい。魔法というのは、私にとって割り切れぬ。理解力が足らないのだな」
 髪の毛を束ね、ポニーテール状にした赫夜の言葉に、レイナも戸惑う。
「そのようなことは…」
「女性剣士は今のところ、レイナさん、お一人のようだ。楽しみだな」
「ええ…!」
 レイナはけん制で様子見から入り、赫夜の太刀筋を見極めようとする。
(赫夜さんは斬り結ぶ形式をとるみたいですわ…でも、体の使い方がねじりが一切はいらない)
「レイナさん、参る!」
「いざ!」
 二人の剣が交わると、ジャッジが声を上げた。
「相打ち! 両者引き分け、終了!」


「残るは神野 永太(じんの・えいた)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)のみ! 藤野 赫夜、歴戦の勇者達を相手に、健闘が光ります!」
 アニムスが実況中継を続けている。
「ね、姉様大丈夫かしら」
 青い顔をしている真珠を、アクアやザイエンデがフォローしている。
「大丈夫だろ、あんたの姉さんのことだ」
 静麻も真珠の背中をさすってやる。


 次の対戦相手の永太は、今までの赫夜の対戦を見、すさまじい腕前に衝撃を受け、感動すらしていた。
(永太が剣道部に入部したのはつい最近。大切な人を守りたいと思い、そのためにはもっと強くならねばと決心したから。赫夜さんも、なにかきっかけがあったのかな?)
「試合開始!」
 ジャッジの声が響く。
 永太は太刀を構えながら、質問した。
「赫夜さんは、いつ頃から、なぜ剣を?」
「覚えていないな。物心ついた時には、剣を手にしていた。さて、参るぞ!」
「はい!」
 結果は永太の負けであったが、それでも永太は清々しい気持ちになっていた。
(赫夜さんに剣道部に入って欲しい…。どの部に所属するかは赫夜さんの自由なので、口には出せないけれど…赫夜さんが剣道部に入ってくれたら、彼女を目標にして、もっともっとがんばれる)
 そう思う永太だった。

 最後の相手は、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)
「俺は不器用だから、剣を交えることでしか相手を理解できない…」
 そうつぶやくエヴァルトに赫夜は剣を構える。
「剣士と言うのはそういうものだ」
 二人は最後の試合らしく、全力でぶつかった。エヴァルトが赫夜が全身全霊をかけてぶつかってくることを喜ばしく感じ、同じ、「剣士」としての絆も感じられた。
 二人の試合が終わった瞬間、観客達からも大きな拍手があがる。