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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)

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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)
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第4章 砕かれた想い

「こんにちは【THE IDOLBRE@KER】です。その女神像の欠片――いただきますね」

 バッと。

 空飛ぶ箒を使っての急降下。
 バニッシュの光に包まれたリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)の姿にそれでも一歩足を引いて回避行動を取ると、カチェアはろくに狙いもつけずにライトブレードを振り回した。

 ガッツン。

 その刃が何か硬いものを捕らえ、押し返す気配があった。
 手応えに、一瞬カチェアはホッとする。

 しかし――

「私は――おとりです」
 リースの声。
 直後、脇を通り過ぎた風と共に、カチェアの腕の中から重量が消えた。

「盗ったのじゃ!おぬしの、大事なもの!!」

 ハッとして振り返るカチェアの目に、空飛ぶ箒にまたがった袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)が高々と舞い上がっていくのが見えた。

「させませんよっ!」

 さっさと逃走姿勢に入った袁紹の前に飛空挺で割り込んだのは六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)だった。
 袁紹が箒の速度を上げようとするのを見るや、優希はためらいもなく、スロットルを固定したままで飛空挺を放り出した。

「なっ――!」

 袁紹の悲鳴と、飛空挺に積み込んでおいた爆薬の音が大気を震わせる。

「ミラさんっ!」

 大胆に空中に身を躍らせた優希を、わたわたと慌てた動きでミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)が受け止めた。
「し、心臓に悪いのですわっ!」
「ご、ごめんなさい」
 優希は顔を赤くして謝った。
「懐にも悪いな……」
 墜落していく優希の飛空挺を眺めやりながらアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)はどこか悲哀のこもった声を上げた。
「ま、まあ目的の第一段階は果たしましたから……」
「せっかく俺様が改造してやったのに……一瞬だったかよ……」
「し、仕方がないではありませんかっ! カンバスさんの想いを無駄にする訳にはいきません。女神像は、どうしても手に入れなくてはっ――」

 優希の声を遮って。
 立ち上る煙の中から、空飛ぶ箒が現れた。

「志方がありません、ほんとにまったく。こんなものがあるからいけないのですよね」
 女神像の胴部を手に。
 爆発のあおり受けた袁紹を箒の後ろに乗せ、志方 綾乃(しかた・あやの)は微笑んだ。


「胴部を渡しやがれっ! いらねーんだろっ!?」
「ええ。いりません」
 飛空挺に乗って放たれるアレクセイの雷術を、綾乃はくるくると器用に避けながら飛ぶ。
「ティセラに肩入れする気かよっ!」
「本来、女王候補争いは己の才覚と組織力で戦うべきではありませんか? 女王器に女王像。ミルザムとティセラのお宝争奪戦……その勝者が女王だなど……どうにもお粗末な結末としか思えません。そもそもこんなもの、パラミタに必要ない――そうは思いませんか?」
「カンバス様が残した想いを、無駄にするわけにはまいりません」
 タタタタと、ミラベルの手から機関銃の弾丸が舞った。
 バランスを崩した綾乃が僅かに顔をしかめる。
「だったらなおさらなのに……。どうしてですか? 女王像や女王器なんてものがあるから……」
 綾乃を援護するように、今度はリースの機関銃から銃弾がらばらまかれる。
「こんなものを巡って争う方が……カンバスちゃんの想いを無駄にしてる……そうではないんですか?」
 リースの言葉に、引鉄を引くミラベルはその指を鈍らせた。
「揺らがないでくださいっ、ミラさんっ! それでも、ここで止めたらカンバスさんのやったことが無かったことになってしまいますっ」
 ミラベルの背後から、優希は強引に飛空挺のスロットルをふかした。
「逃がしてはくれないということですか……志方ありません。本初」
「いいんじゃな? 壊してしまうぞ?」
 うなずく綾乃を確認、袁紹は女神像の胴部を軽く放り上げると、ヒロイックアサルトとチェインスマイトによる一撃を放り込んだ。

「えっ!」
「なっ!」
「あっ!」

 驚愕と絶望が混じる優希達の悲鳴を無視して――
 複数回の打撃にさらされた像の胴部は無惨にも砕け散り、もはや原型を想像できないくらいバラバラになって空京の街へと落下していった。

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 女神像の胴部がバラバラと砕け散るのを呆然と見上げながら、カチェアは震える手で携帯電話を耳に当てていた。
「ま、政敏? あ、あのね、お、落ち着いて聞いて……その……像砕けちゃったんだけど」