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薔薇と桜と美しい僕たちと

リアクション公開中!

薔薇と桜と美しい僕たちと
薔薇と桜と美しい僕たちと 薔薇と桜と美しい僕たちと

リアクション

【3】

 和やかな空気で花見をしている中。

「この場所は、渡さんッ!」
「させるかっ! ここはボクがいただいたッ!!」
 桜が一番綺麗に見えるだろう場所を、鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)エル・ウィンド(える・うぃんど)は奪い合っていた。
「ここは俺が見つけた最強スポットなんだ!」
 何故か腰にフラフープをつけて、ぐるんぐるん回しながら、虚雲。
「そこを華麗にボクがいただく! さあ退くんだ弟!」
 金色に輝く全身タイツを身に纏い、優雅にステップを踏みながら、エル。
「こ こ で、ボクはトランペットを吹く!」
「お れ は、ここでフラフープを回してるの!」
「何でフラフープ回してるんだよ、弟は!」
「美しいだろ!? え、美しくない?」
「いや、上手いと思うけど……美しいかどうかは」
「うっそマジで」
「マジで」
「……」
「…………」
「じゃあ尚更美しいと評されるまで回さなければ!」
「なんでそうなるんだよ! ボクはたまに弟の判断がおかしいと思うんだが!」
「てめーらガタガタうるせーんだよ! ヨヤ様が作ったうめーべんとーでも喜んで食ってろこの野郎!」
 二人の言い合いがなかなか収まらないところに、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が乱入した。
「弁当?」
「喜んだ! いますぐ食べさせろ!」
「馬鹿まずは喧嘩両成敗汚物は消毒ヒャッハーだろ! 燃やさせろ!」
「なにその放火魔発言。俺、ウィルが怖い」
「燃やせればなんでもいいのかウィルは」
「燃える炎と俺は美しいから。美しさアピールしておかないとルドルフに退場食らうかもしんねーし」
「退場くらっとけば?」
「ヨヤさんの弁当は置いていけよ、ウィル」
「おまえら……! 覚悟しとけよ背後や夜道に!」
「なんでもいいけど弁当食べたい」
「おい弟、ボクがいる限り簡単に美味い食事にありつけると思うなよ。まずは争奪戦だ」
「お? 負けねーぞ俺だって。ヨヤ様のべんとーマジ美味そうだからな。ぶっちゃけおまえらにやるのは勿体ない」
「あら鈴倉様、お弁当が食べたいの? はい、あ〜ん」
「えっ?」
 突然横から箸が伸びてきて、わけがわからぬまま口を開けると鶏の唐揚げっぽい何かが侵入してきて、でもそれは噛めば噛むほど
「ブラックホールが広がっていく……これが真理か」
 わけのわからないことを呟きながら、虚雲は倒れた。
 箸の持ち主――風森 望(かぜもり・のぞみ)は箸を持っていない手を頬に当てて、
「あらあら、倒れてしまうなんて大袈裟な喜び方ですのね」
「……望ちゃん、何を食べさせたんだ?」
「鶏の唐揚げかっこはてなかっことじ、です」
「はてな?」
「ええ、はてな」
「何食わせたんだよ……」
「はてな? にふさわしいものですわ」
 望の笑顔を見て、エルもウィルも思った。
 これ以上突っ込んで聞いたら、自分の身が危険だと。
「すまん弟。相手が悪い」
「骨は拾ってやる」
「ところでヨヤさんの弁当は?」
「あっち」
 骨は拾ってやると言いつつも、二人はさっくりと踵を返して行ってしまう。
「私の『まともな』お弁当もあっちにあるんです」
 望も行ってしまい、虚雲だけが残されて、
「美しくなく暴れるからこうなるんですよ?」
 ござを片手に持って通りすがった志位 大地(しい・だいち)にそう言われ、
「……絶対、これ、俺のせいじゃない……」
 虚雲は呟いたのだった。
「虚雲さん」
 そんな彼にも、
「風邪を引いてしまうといけないから、これ。よかったら使って?」
 膝掛けを差し伸べる、優しき女神は現れる。
「ケイラさん……!」
 にっこりと微笑んだケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)の手を握って感涙寸前で居ると、

 ぷあっ、ぷー!

 耳元で、トランペット。
「〜〜っ!? エルおまっ、耳元でトランペット……鼓膜死ぬ……」
「妹に手を出すとはいい度胸だ」
「出してね――」
「ケイラ! あっちでお弁当を食べよう。ウィルが箸を上手く使えなくてなくて取り分けが美しくない。手伝ってくれないか?」
「それは構わないのだけど……虚雲さんは?」
「ケイラの膝掛けで簀巻きにしておいたらどうだろう」
「えっ!? え、えぇと……あうぅ?」
「ふむ、駄目か? じゃあ大地さん! 大地さんのそのござで!」
「構わないですよ」
「よし、じゃあ――」
「でも、エルさんも一緒に巻いて捨て置きます」
「…………」
「さ。ケイラさん、俺たちも弁当を食べに行きませんか?」
「あ、はいっ!」
「取り分けるのがお上手なんですか?」
「お箸の使い方は褒められますよ、綺麗だって」
「いいですね、作法がしっかりしているというのは」
「えへへ。ありがとうございます」
 去って行く大地とケイラの背を、虚雲とエルは哀愁を漂わせながら見送った。


 一方その頃、桜の樹の下では。
「紹介しよう、大和の親戚の撫子だ」
「譲葉撫子ですっ。えっと、おにぃちゃんも、おねぇちゃんも、みんなみんなボクと仲良くしてくださいっ☆」
 九ノ尾 忍(ここのび・しのぶ)から譲葉 大和(ゆずりは・やまと)の親戚として紹介を受けた撫子は、見るもの全てが幸せな気分になってしまうような笑顔をその場に居る全員に向けた。
 すかさず望が撫子を抱き締める。
「可愛い可愛い可愛いですわーっ!!」
「ふぎゅぅ……おねぇちゃん、強くぎゅってされたら、苦しいですぅ……」
「あぁっ、私としたことが失態ですわ……! ごめんなさい、撫子様」
「ボク、様付けされるよりも、ちゃん付けされるほうがいいなぁ……?」
「撫子ちゃん?」
「はいっ♪」
「かーわーいーいーでーすーわーっ!」
 ぎゅぅっと抱き締め、柔らかな撫子の頬に自らの頬をすり合わせ、望はうっとりと言う。
「私……このまま昇天してしまっても、悔いはないですわ……きっと」
「望殿、それはさすがにしてはならないでござる」
 すかさずナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)が止めに入った。望は、はっと我に返ったように頭を振って、
「そうですわね……ここで昇天してしまったら、他の幼女を! 少年を! 見られなくなってしまいますものね!」
 熱く語る。
「未来という可能性を無限に秘めた小さな身体! 穢れを知らないあどけない瞳、新雪のように白く清らかで純粋な心! そして膨らみかけの胸、もとい蕾こそが至高の美!!」
 ヒートアップしていく。ナーシュも撫子も止められず、忍は止めるつもりもなく手酌で酒を飲み。
「ああ、でもロリもいいけどショタも良いのですよ? まだ筋肉のついていない薄い胸、細い腰、半ズボンからあられもなくさらけ出す太もも! ……ああ、いいですわね……どこかにショタは居ないかしら……?」
「おねぇちゃんは、撫子じゃ嫌ですか?」
「いいえっ! ショタもいいけどロリもいいのですわ! そうそう、撫子ちゃんはおいくつ……?」
「5歳っ」
「ストライクゾーンきましたわ……!」
「広すぎでござるよそのストライクゾーン」
「心と同じ広さですの」
 そんな発言を聞きながら、撫子は思う。
――これ、バレたらヤバイですね。
 春らしいピンクのワンピースに身を包んだ、5歳児。誰が見ても可愛い幼女。
 ただし中身は、
――いやっ、大丈夫です。ちぎのたくらみを使っている俺に死角はない……!
 外見からは想像つかないが、譲葉大和本人なのであった。
 バレたらどうなるか、なんて。
――想像もしたくないですね……。簀巻きにして放置だったら可愛らしいレベルですが、さて。
「あら? 撫子ちゃんどうかしまして? 顔色が悪いですわ」
 考えていたら青ざめていたらしく、望に顔を覗きこまれた。撫子、もとい大和はぷるぷると首を横に振って、
「きのうねっ、楽しみで、あんまり眠れなかったから。たぶんそのせいだから、だいじょうぶ!」
「あら……無理はしないでね、眠たくなったら私の膝を貸してあげますわ」
「うんっ、おねぇちゃんありがとう♪」
 大和にできることはただ一つだ。
 撫子イコール大和、という方程式を作らないよう、ボロを出さずに演じきるのみ。
 決意を新たにし、密かに握りこぶしを作っていると、
「そういえばナーシュさんはどこに行かれたのかしら……?」
 望みが、いつの間にか居なくなった金髪の忍者を目で探していた。
「忍びの極意でも披露なさっているのかしら。宴会芸的に」
 大和は、忍びの極意が宴会芸で披露されるとは恐ろしい、と思いつつ、何か変なことをしていれば、とも思った。
――何らかの騒ぎが起これば、もしも俺が大和だとバレても逃げおおせますしね……。
 安全策は多い方がいい。
 そう考え、大和は一人小さく笑う。


 居なくなったと思われたナーシュだが。
「これぞ忍びの極意!」
 望の予想通り、別の場所で極意を披露していた。
「ジャパンの伝統芸能にして忍びの極意、ハラオドリ!」
 忍びの装束を脱ぎ捨て、白い腹をさらけ出す。その腹には顔が描かれていて、ナーシュがくねくねと腰を動かすたびに歪んでいた。
 大きく息を吸いこみ、吐き、腹をへこませたり膨らませたりして顔に表情をつけ、妖美に踊る。
「面妖、とでも評すればいいのか。しかし何故ここでそんな踊りを……」
 毛氈の上に正座をし、茶を点てていた本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)はそんなナーシュを見て呟いた。
 茶を点てていたら、突然金髪の忍者が現れて腹踊りをはじめた。
 要点をまとめてみたが、正直よくわからない。第三者に話しても理解されがたいだろう。
 それでも涼介は茶を点てる。
 和敬清寂。
 その寂の意味は、どんな時にも動じない心。
 なので動じず、静かに茶を点てる。
「どうぞ」
「おぉ、かたじけのうござる」
 点てた茶を置くと、ナーシュは静かに毛氈の上に座った。姿勢がいい。ぴんと伸びた背筋が綺麗だと思った。ただし上半身裸で腹には顔が描かれているが。
 茶碗を両手で持って飲んでいる彼の傍らに花見団子を置いた。
「団子でござるか」
「白と桜と緑で、桜を見立ててみたんだ」
「茶の風味を消すことなく、ほんのり甘い。美味でござるよ!」
「忍者様、お団子好きですか? 桜餅もありますよ」
 桜の模様が散りばめられた振袖を着たリリ・ハーレック(りり・はーれっく)がナーシュに微笑みかける。リリの後ろには、桜餅につられてやってきた珠輝とリアが居て、二人のためにと野沢 光(のざわ・ひかる)が茶を点てていた。
「ふふ……! 腹踊りとはまたセクシーなことを……! これは私も――」
「脱がなくていいからな」
「一緒に踊るでござるか!?」
「ええ、この明智珠輝のしなやかな裸体、とくとご覧あ――」
 脱ごうとして帯に手をかけた珠輝に、リアの華麗なるローリングソバットが炸裂し、珠輝は言葉もなくうずくまった。
「リ、リアさん……今日は積極的というか過激というか……」
「だって珠輝は脱ぎたいだけだろう? そんなんじゃ、美しくない」
「ならば今夜ベッドの上で、美しく脱いでみせましょう……! ふふ……!」
「んな……!」
「お抹茶を、どうぞ」
 腹踊りに動じなかった涼介のように、光もそんな二人のやりとりに動じることなく点てた茶を出す。リリがにこりと微笑んで、桜餅と団子を出した。
「茶人殿たちは静かでござるな」
「茶道の心得の一つだからね」
 光が笑って言う。
「やわらかい心を持ち、互いに尊重し合うんだよ」
「それから、季節感を大切にするし、な。花見なんかは最高だぜ? 桜を見ながら茶を点て、飲み。これ以上春に相応しいものはないと私は思うんだ」
 光と涼介、二人の茶人の言葉を受けて、ナーシュは一度脱いだ服を着直した。
「? どうしたの? もしかして寒い?」
「ちゃんと服を着て礼儀正しくやるべきだと思ったでござる。なんとなく、でござるが」
「構えなくていい。リラックスして楽しまないと損だぞ?」
「ならば作法を知らないところは大目に見てもらうことにするでござる」
「そうか。もう一服するか?」
「いただくでござるよ」
 言葉を受けて、涼介が茶を点てる。
 茶を点てる音と、茶を飲む音。風が吹いて桜の木が揺れる音。舞う花びら。
 静かで、暖かで、時間の流れが緩やかに感じる空間で、茶を楽しんだ。