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うそ

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うそ

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    ★    ★    ★
 
「これは、獲物としては大物よね」
 小型飛空挺で鷽に近づきながら、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はスナイパーライフルを取り出して構えた。仁王立ちになった小型飛空挺の上で、両手で高く掲げたロングバレルをゆっくりと振り下ろして狙いを定める。
「う、うそだぴょ〜ん」
 パシンパシンと銃弾を受けて、鷽が頭を軽くのけぞらせた。
 だらだらと額から血を滴らせながらも、大丈夫致命傷じゃない……らしい。
「でたらめだわ」
 足捌きと重心移動だけで巧みに飛空挺を操りながら、シルフィスティ・ロスヴァイセはつぶやいた。言ってしまえば、その操縦自体がすでにでたらめではあるのだが。
「ジュリエットお姉様ったら、ビュリ様と一緒に下から陽動を行うとおっしゃっていましたのに、いつになったら……」
 困ったように、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は言った。
 アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)と自転車の二人乗りで、鷽の上の方の枝に待機しているのだが、攻撃のタイミングがまったくつかめないでいたのだ。
「みんな頑張ってるよね。私だって、頑張るよ。地味だって、ちゃんと世界設定は守るんだから」
 ゆるゆると小型飛空挺で鷽に近づきながら、琳 鳳明(りん・ほうめい)が言った。先端恐怖症のため、手に持っている槍には穂先がついていない。これでは槍と言うよりも棍なのだが、武器としてはそれなりであろう。
「えいっ」
 鷽の背後から忍びよった琳鳳明、ここぞとばかりに槍を突き出した。
 ぷすっ。
「う、うそだぴょ〜ん」
 お尻にぷっすりと槍を突き入れられて、鷽がのけぞって悶えた。
「あたしたちも負けていられないじゃん。今じゃん!」
 それを見たアンドレ・マッセナが叫んだ。
「行きますわよ。必殺! 天翔る自転車ミサイル!!」
 アンドレ・マッセナにうながされて、ジュスティーヌ・デスリンクが意を決した。一気に自転車を漕いで飛び出す。そのまま、二人は嘘に激突した。
「うそ〜ん、痛いぴょ〜ん」
 アンドレ・マッセナの持っていた機関銃がぷっすりと額に刺さって、鷽が思わず翼で額を押さえて苦しんだ。
「あ〜れ〜」
 抜け落ちた機関銃とともに、ジュスティーヌ・デスリンクがアンドレ・マッセナと自転車とともに落ちていく。
「どいてどいてですわー」
「なんなのじゃー!」
 運よく、生い茂る世界樹の葉に引っかかって助かったビュリと新田実の上に、その自転車が落ちてきた。そのままごっちゃになって、もう一段下の枝葉まで四人はバラバラになって落下していった。
「私も負けてはいられませんわ。これで追い払ってみせます」
 超感覚を全開にしたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、必殺アライグマ拳で、シャカシャカと鷽の足下を攻撃した。
 足をすくわれる形になって、鷽が枝の上でひっくり返る。
「ふふふふふ、よくやった。この鳥のおかげで、私の封印が弱まって目覚めることができた。この上は、エナジードレインによってその能力ごと吸い取ってくれるわ!」
「おい、花華、キャラクターが変わっているぞ。だいたい、吸精幻夜セットしていないではないか!?」
 突如現れた童子 華花(どうじ・はな)の別人格に、キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)が戸惑って叫んだ。
「私ができると言えば、できるのだ。かぷっ」
 キュー・ディスティンの言葉などお構いなしで、童子華花は倒れた鷽の首にかじりついた。
「うそ〜!!」
 ポンと、白い煙をあげて、鷽が爆発した。何事かと一同が驚く間もあらばこそ、大小様々な大きさの鷽が、そこら中にあふれかえる。
「分裂した!?」
 吹っ飛ばされて尻餅をついた童子華花が、唖然として言った。これはさすがに予想外だ。
「うそだぴょ〜ん」
「うそだっちゃ」
「うそでごわす」
「うそだがや」
「うそでありんす」
「うそじゃん」
「うそだべ」
「うそでんがな」
「うそでやんす」
「うそなのだ」
「うそでございます」
「うそにゃん」
 ピーピーさえずりながら、分裂した鷽が世界樹中に散っていく。
「なんか、事態は悪化したよね……」
 琳鳳明が、少し青ざめて言った。
「逃がしちゃまずいわよ!」
 リカイン・フェルマータが、シャカシャカと手近な鷽を洗いながら叫ぶ。
「まかせろ、しびびびび……」
 キュー・ディスティンが、リカイン・フェルマータと童子華花ごと、その場にいた鷽にむかって雷術を放った。
「しびびびび……」
 痺れたリカイン・フェルマータたちが、ぶすぶすとアフロになった頭から煙をあげている。
「私は何をしていたんだ?」
 むくりと起きあがった童子華花が、キョロキョロと周囲を見回した。なんだか、自分の中に変な者がいたような気がする。
 見れば、目の前で痺れたリカイン・フェルマータが、消し炭になった小さな鷽を握りしめていた。そのそばには、目を回した五月葉終夏が無事に倒れていた。
 いつの間にか、もやっていたような淡いピンクの光が消えている。
「あーれー、曲がれません!」
 小型飛空艇に乗ったシルフィスティ・ロスヴァイセは、方向を変えることができなくなって、そのまま世界樹の生い茂る葉の中に突っ込んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「逃がしません。今ならできるはずです。チェーンジ! ランザーウイング!!」
 ランザー・フォン・ゾートが、飛んで逃げた一羽の鷽を追いかけながら叫んだ。魔道書のくせに、機晶姫のような外部装甲がぱきょぱきょと移動変形して、その姿が飛行形態へと変形する。
「決めます。ランザーミサイ……ぐわあ」
 ピンク色の光を引きながら飛ぶ鷽に、一気に止めを刺そうとしたランザー・フォン・ゾートが、突然攻撃を受けて撃墜されていった。
「うむ、そうはさせぬ。義姉者の幸せ、いまや正式に教導団公認ゆるキャラに昇格したそれがしが守ってみせるでござる!」
 トナカイの牽く橇の上から諸葛弩を乱射したうんちょう タン(うんちょう・たん)が、きっぱりと言い放った。
 同じ橇に乗っている皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)は、幸せそうにぴったりと金 鋭峰(じん・るいふぉん)に寄り添っている。前を飛ぶ鷽のおかげで、周囲は桃色だ。
「団長、お慕いしておりますぅ……。一緒に鷽を、二人の幸せを守りましょう」(V)
「うむ。伽羅がそう言うのであればな」
 金鋭峰が渋く答えた。
 ――きゃーきゃー、名前呼ばれちゃった、名前よ、名前!!
 心の中で盛大に叫びながらも、皇甫伽羅はかろうじて理性を保った。
「ああ、そうだ、ツーショット撮って、ツーショット」
 さすがに我慢できずに、パタパタと手を振り回しながら皇甫伽羅は叫んだ。
「任されい、義姉者」
 すかさず、うんちょうタンが携帯で写真を撮る。
「もーう、今ならなんでもできちゃいそうですぅ。すべては私の思うがまま、なのですぅ!」(V)
 皇甫伽羅が、ぷるぷると身体を震わせた。
「なるほど。ならば、それがしは今ひとたび献帝陛下にまみえとうござりまする」
 トナカイたちの手綱を操っていた皇甫 嵩(こうほ・すう)が、それならば自分もと願いを口にした。
「陛下であれば、ずっとそれがしとともにいらっしゃったはず」
「ええ、もちろんですとも」
「おお、陛下、ずいぶんと大きくおなりで。この義真、嬉しゅうござりまするぞ」
 さも当然のように横に現れた劉 協(りゅう・きょう)を見て、皇甫嵩が喜んだ。
「ただ、私はまだ形もない姿で地上にいたはずなのですが、ここはどこなのでしょう?」
 英霊として初めて実体化した劉協は、戸惑うように首をかしげた。
「これは、機会を逃してはなりませぬ。嘘が嘘になってしまわぬうちに、ささ、よろしければ伽羅と契約を」
 皇甫嵩にうながされて、皇甫伽羅は劉協と契約を結んだ。
「おおお、これからはこの義真がお守り申し上げまする!」
 皇甫嵩は、感無量のようであった。
 
    ★    ★    ★
 
「ななな、なななななななななな」
「うん、そうだよね。あ、いたいた」
 立川 るる(たちかわ・るる)は、立川 ミケ(たちかわ・みけ)にうなずくと、テラスへと駆けてきた。
「だめだよ、一人でどこかいっちゃ」
 立川るるは、軽くラピス・ラズリを叱った。さっきからしきりに校内放送で鷽に注意してくださいと流れている。うっかりラピス・ラズリが鷽と接触しようものなら、何が起こるか分からないと考えて、立川るるはあわててやってきたのだった。
「ずっと、絵を描いていたんだよね」
 ぱらみたがくしゅうちょうのページを見せながら、ラピス・ラズリ画伯が言った。
 そう、まさにラピス・ラズリの絵は画伯と呼ぶにふさわしい物であった。万人には理解しがたい、すばらしい解釈で象形化された絵が展開されるのである。
「もう、何枚か描いたんだよね」
 そこには、なにやら恐ろしい物が描かれていた。まるで、野菜を寄せ集めたようなパーツで構成された生物……。いや、生物と言っていいのだろうか。なにやら甲殻類のように見えなくもないが、気のせいだと思いたい。
「んーっとね、十二星華の蟹座さんを描いたんだよー」
 ――ありえない……!!
 思わず、立川るるは心の中で叫んだ。
 これのどこが十二星華の蟹座だというのだろう。
「失礼な。私は蟹座だ。本人が言っているのだから間違いはない」
 突然、ぱらみたがくしゅうちょうの中の絵が外に飛び出して立体化した。
「いや、どう見ても嘘でしょう」
「嘘じゃないよ。ちゃんと見て描いたんだもん」
 ラピス・ラズリ画伯が、自信を持って主張する。
「ほら、他の絵だってあるんだよ」
 そう言ってみせられた次の絵は、まだ描きかけの物だった。空を飛ぶ鷽と、それを追いかける橇に乗った金鋭峰が描かれている。いや、橇に乗った野菜の金鋭峰だった。
「ぎゃー、私の団長が野菜に!!」
 凄まじい悲鳴が、空から聞こえてきた。
「なななななななー」
「だめだわ、なんとかしないと」
 立川るるが冷や汗を浮かべたところへ、鷽がよたよたと飛んできた。身体の一部が野菜と化して、うまく飛べなくなったらしい。そこへ、野菜蟹座が合体する。
「うそだにぃ〜」
「ああ、誰かなんとかしてー」
 雄叫びをあげる鷽に、立川るるが頭をかかえた。
「お任せください、姐御!!」
 突然、野太い声とともに、十人ほどのモヒカンたちがふってわいたように現れた。
「我ら、D級四天王にお仕えするその他大勢ズ。何なりと御命令を」
 全員が、立川るるの前に跪いて命令を待つ。
「あの鳥をなんとかしてー」
「お任せください。今すぐ、消毒して、消毒して、消毒しまくりますぜぇい」
 答えるなり、モヒカンの集団が立川るるを担ぎあげた。
「よおし、行ってみよー!」(V)
 D級四天王立川るるの命令で、モヒカンたちは鷽を追いかけ始めた。