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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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第四章 本当に守りたかったもの

最奥部にたどり着く人間がいるとはな……
 だだっ広い部屋の真ん中に、それはいた。
「ドラゴン!? いや……」
 ついに姿を現した遺跡のガーディアンを見て、五条 武(ごじょう・たける)が立ち尽くす。それは確かにドラゴンだったが、一点だけ普通のドラゴンとは違うところがあった。一目見れば分かる。もう生きてはいないのだ。
「ドラゴンゾンビか!」
 武は【改造人間パラミアント】へと変身し、戦闘に備えた。
「とうとうここまで来たか。カチェア、外にいるヴァンガードと連絡を取ってくれないか? 蛇遣い座の襲撃がなかったか念のため確認をしておきたい」
 緋山 政敏が、パートナーのカチェア・ニムロッドに言う。
「分かりました」
 カチェアは遺跡の入り口で待機しているシルヴィオ・アンセルミに連絡を入れ、用件を伝える。
『こちらは特に異常ないよ』
 シルヴィオはそう答えた。
「立った今、最奥部にたどり着いたところです」
『そうか。俺には検討を祈ることしかできないが、どうか無事に帰ってきてくれ』
『蛇遣い座のやつ、なぜ出てこない! 怖じ気づいたか!』
 隣からメイコ・雷動の威勢のいい声が聞こえてくる。それは、政敏の耳にも届いた。
「問題ないようだな。さて、こっちはどうなるか」
 如月 玲奈(きさらぎ・れいな)には、ガーディアンをボコボコにするだけの理由があった。八つ当たりだ。
パッフェルのやつ、私のパートナーが蛇遣い座だって名乗ったとき、『知らない』って言ったじゃないのよ! そしたら蛇遣い座が出てくるし、光条兵器が蛇腹剣って、私と思いっきり被ってる! 女王の血? 星剣? そんなの関係ねー!」
 玲奈は、敵の動きを封じるには足を狙うのが最も効率が良いと判断。ドラゴンゾンビの足目がけて光条兵器を伸ばす。
「恨みはないけど、私のストレス解消のためにサンドバッグになりなさい!」
そんなちんけなもので何をしようというのだ?
 ドラゴンゾンビは足で光条兵器を受け止めると、玲奈ごと投げ飛ばした。
「うわああああ! 壁にぶつかるう!」
 玲奈は咄嗟に体を捻り、軽身功を利用してなんとか壁との直撃を避ける。
「ふう、危なかった。さすがはゾンビってもドラゴン。なかなか強いじゃないの」
 玲奈と入れ替わるようにして、今度は武がドラゴンゾンビに立ち向かった。
「食らえ!」
 武はチェインスマイトを用いたフェイント混じりの攻撃を行うが、敵はこれを翼でなんなく受け止める。
「ちい、これならどうだ!」
 続いてドラゴンアーツによる怪力で足を狙うと、ドラゴンゾンビは宙へと舞い上がった。
「うおっ」
 風圧で武の体が吹き飛ばされる。
「……強力なガーディアンというだけあって、かなり手強い相手のようだな……手を貸そう」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)がそう言って武の隣に立った。
「すまない。その光条兵器……君の方があいつとは戦いやすいかもしれないな。俺はサポートに回ろう」
「……ここまできたら総力戦だ……おまえたちの力も貸してほしい」
 アシャンテは振り返って仲間たちに言う。その言葉に、生徒たちは武器を取った。
「……悪いが、死者は死者らしく眠りについてもらうぞ」
 アシャンテが、右手に持った小銃型の光条兵器で上空のドラゴンゾンビに狙いを定める。遠当てによる武の援護を受け、アシャンテが弾丸を発射した。だが、ドラゴンゾンビは滑空でこれをかわす。弾丸は部屋の天井のもろくなった部分を直撃した。天井が崩れ落ちる。

  ☆  ☆  ☆

「いやあ、ここどこだろうね」
「方向音痴のくせに、何も考えないで進むマスターが悪い」
 遺跡のどこか。最初の分かれ道で他の探索メンバーと違う方向に進んだ鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)ルクス・ナイフィード(るくす・ないふぃーど)は、完全に道に迷っていた。戦部 小次郎の用意した名簿にも名前は載っていないので、誰にも気付いてもらえない。
「しょうがない、来た道を戻るしか……ん?」
「どうした、マスター」
「下から何か物音がする」
 氷雨が地面に耳を当てる。次の瞬間、二人のいる場所に穴が空いた。
「うわあっ」
「何だ!?」
 二人は落下しながらも、氷雨のもっていた空飛ぶ箒でなんとか体勢を立て直す。そこで氷雨とルクスが見たものは――
 前に見覚えのあるたくさんの生徒たち。後ろに迫力満点のドラゴンゾンビ。
「あれ、この雰囲気……最奥部にたどり着いたっぽい? ……計画通り!」
「見てて飽きないな、マスターは……」
「ま、目ざすところに来たんだし、結果オーライだよね。ルクス、行くよ!」
 氷雨は蛇腹大鎌の形状をした光条兵器でアシャンテに斬りかかる。アシャンテは左手の刀でこれを受け止めた。
「……どういうつもりだ。なぜ私たちの邪魔をする」
「ガーディアンを寄ってたかって倒そうとするなんて、つまんない人たちだね」
 氷雨はニッコリ微笑んで言う。
「……なんだと?」
「守護してるってことは、この遺跡にある『何か』はガーディアンにとって大切なモノ。それを倒して奪うのっておかしいよ」
「……なるほどな。おまえの言うことにも一理あるのかもしれない……だが、こちらにも譲れないものがあるのだ」
 アシャンテは光条兵器から弾丸を放つと、それを避けた氷雨に追撃の則天去私を浴びせる。氷雨は一旦距離をとり、遠当てと星輝銃による弾幕援護で生徒たちの行動を妨害した。
 一方、ルクスは武に襲いかかっている。投げつけられた刀を、武はすんでのところでかわしていた。
「あんたみたいな正義ぶったヤツを見ると虫酸が走るんだよ」
「く、ただでさえ厄介な状況だというのに……!」
 ルクスの投げつけた刀がかすり、武の頬から血が伝う。それを見ると、ルクスは一層興奮した。括り付けた糸で刀を回収し、恍惚の表情を浮かべる。
「地べたでも這い蹲ってろ!」
「狂ってやがるぜ」

  ☆  ☆  ☆

 当然の結果だった。氷雨たちの妨害とドラゴンゾンビの圧倒的な力の前に、探索メンバーたちは手も足も出ない。それでも、諦める者は誰一人いなかった。何度叩きのめされても立ち上がる。
なぜ、そこまでする
「この手で決着をつける。そう決めたから」
 リフルがドラゴンゾンビに答える。彼女の言葉に、生徒たちも皆頷いた。ドラゴンゾンビはそんな彼らをしばらく見つめると、急に笑い出した。
「笑いたければ笑えばいい。私たちは引き下がらない」
そうではない、嬉しいのだ
「……嬉しい?」
五千年ぶりか……こんな目をした者たちに出会ったのは。お前たちになら『アレ』を託してもよいかもしれんな
 生徒たちは状況が飲み込めない。
おまえたちの求めるものは、この先の宝物庫にある。もっていくがよい
 ドラゴンゾンビは背後の小さな扉を示した。
これでようやく眠りにつける。私が本当に守りたかったもの……それはシャンバラ人の誇りだったのかもしれぬな。シャンバラを……頼んだぞ
 ドラゴンゾンビの存在が薄れてゆく。やがてそれは完全に消滅し、後には巨大な骨だけが残った。

  ☆  ☆  ☆

「これは……羅針盤、でしょうか?」
 リフルの手にした物体を見て、ザカコ・グーメルが言った。
「全く予想をしていなかったものですが、これだけ厳重に保管されていたのです。きっと何か特別なものなのでしょう」
「なあに、お宝じゃないの? この宝物庫には他に何にもないし、とんだ期待はずれだわ」
 興味津々のザカコとは対照的に、ヴェルチェ・クライウォルフはつまらなそうな声を上げる。
「単に包囲を知るためのものではないようですが……とりあえず、ここで話すのもなんです。一旦遺跡から出ませんか」
 源 紗那がそう言い、一行は遺跡を後にした。