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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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「……というわけで、ミリアさんにこの余った食材の活用法を教えてもらえないかと思って」
「私が調子に乗って切り過ぎてしまったのが原因で……是非とも教えてください!」
 経緯をミリアに話した神和 綺人(かんなぎ・あやと)が、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)と一緒に作った筑前煮の余りが詰められたタッパーをテーブルの上に置く。鶏肉、コンニャクの姿は見えず、代わりにゴボウ、ニンジン、レンコン、タケノコでほぼ占められていた。
「味は問題ないと思う。……俺は、ちらし寿司の具材に活用しようと考えたのだが」
「そうですね〜、薄味なのがかえって都合がいいと思います〜。なんでしたら、ちらし寿司を作られてる方と一緒にやられてはいかがでしょう〜」
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)の提案に、味見をした上で頷いたミリアが示した先では、沢渡 真言(さわたり・まこと)がキノコを煮詰めて出し汁を取ろうとしている最中だった。
「ミリアさんがそう仰るのでしたら、構いませんよ。私としても手間が省けますしね」
「すみません、よろしくお願いします」
 快く頷いた真言にはユーリが付き、綺人とクリスは筑前煮に水で戻したシイタケを加え、ちらし寿司用に適度な大きさへ切り揃えていく。
「お姉様方がご飯ものを作るのでしたら、わたくしはお菓子を作りますわ。リンネ様から頂いたハチミツがいい香りですの」
「うふふ〜、甘いものは大切よね〜。じゃあ私もお手伝いしちゃおうかしら〜」
 ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)のお菓子作りに、ミリアもどこか楽しげに加わる。いくつになっても『女の子』は甘いものが好きなようである。
「ええと、わたくしは何をお手伝いすればよろしいでしょう?」
「瀬織、僕たちが切った野菜を種類ごとに分けるためのお皿持ってきてくれないかな?」
 綺人の指示を受けて、神和 瀬織(かんなぎ・せお)が小皿を数枚持ってきて、綺人とクリスの前に置く。置かれた皿には次々と、切り揃えられた野菜が載せられていく。
「ミリアさんは料理を余らせた時って、どうしてますか?」
「そうですね〜。醤油、味噌を使わない段階の物でしたら他の料理に活用することもありますけど〜、大体二日、三日と同じ料理がテーブルに並ぶことになっちゃいますね〜」
 砂糖、塩、酢、味醂までなら、他の料理に活用したとしても元の味の影響は小さいであろうが、醤油、味噌が加わると大分影響が出てくるであろう。特にカレーなんて入れた日にはとても他の料理に活用は難しいであろう。
「そうですか、やはり大切なのは、余らせないように作ることですよね。私も次からは気をつけます」
 普段は大きさがまちまちだったり、勢い余ってまな板に包丁の刃が食い込むこともあるというクリスだが、今日は気を使ったのかそこそこ揃った出来映えであった。それらは出し汁の浸った鍋に放られ、煮詰めている間にすし飯の作製に取り掛かる。
「手際がいいな、料理の経験が?」
「ええ、ここで私は作法の練習をさせてもらっていて、ある程度は出来るようになりました」
 真言が言って、炊き上がったご飯に酢を振り、少し置いてから混ぜ始める。瀬織がうちわを持ち、真言とユーリで次々とすし飯を用意していく。
「あら! お姉様わたくしに内緒で、そのような催しに通ってらしたなんて!」
「ふふふ、では今日はたっぷり、真言さんの腕前をご披露してもらいませんとね」
「ははは……」
 話を聞いていたティティナとミリアの言葉に、真言は苦笑するばかり。
 やがて、煮汁を吸い切って鮮やかな色に染まった具材を、用意したすし飯に混ぜ、錦糸玉子と紅生姜で彩りをして無事にちらし寿司が完成する。
「……出来た! ……って、何だか多くありませんか?」
 綺人の指摘通り、ちらし寿司はここにいる6人+ミリアを加えてもなお余る量に用意されていた。お菓子とお茶、春を感じさせる桜餅とハチミツロールケーキに甘さ控えめのハーブティーの方は人数分よりやや多い程度であった。
「ですが、ちらし寿司でしたら皆さんにも振る舞えるでしょう。これからお花見も予定されているようですしね」
 真言の言葉に皆頷き、用意した料理を包んでお花見の会場へと持っていく。

「……確か、ボクはさっきも生地を捏ねていた気がするんだな。どうしてボクばっかり力仕事なんだな」
「いやー、ほら俺料理苦手だからさ? モップスは料理得意だってリンネから聞いたし」
「生地を捏ねるくらい誰にでも出来るんだな。……リンネ、ボクのハチミツ寄越すんだな」
 あははー、と笑う佐伯 梓(さえき・あずさ)に溜息をついて、それでもモップスは手を止めずにクッキーにするための生地を捏ねる。途中でハチミツを加えられた生地から、ほんのりと甘い香りが漂う。
「おっ、ハチミツ、いい匂いだな。今焼いてるパンケーキにかけたら美味そうだぜ」
「だよね〜! モップス、こんなに喜んでくれてるのに、今まで隠してたなんてズルイよ〜?」
「……リンネに言われるのも微妙な気分なんだな。まあ、喜んでくれるのなら、悪い気はしないんだな」
 黄泉 功平(よみ・こうへい)と一緒にパンケーキ作製に取り掛かっていたリンネに言われて、溜息をつきつつモップスが好意的な感想を口にする。
(……ふふふ、あんなにぷるぷるして、可愛らしいですねえ)
「んー? カデシュ、なんで笑ってんのー?」
「いえ、何でもありません。それより梓、よそ見すると曲がってしまいますよ」
「えっ? うああ!」
 笑みを浮かべていたカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)に振り向いた梓の手元が狂い、型の中で生地がおかしな方向に曲がってしまう。あーあ、と溜息をついてやり直した梓の、またぷるぷるしながら型を抜く様子に、カデシュは笑い声を必死に押し隠す。
(……何はともあれ、楽しい場になってよかったです。一時はどうなるかと思いましたけど)
 リンネとモップスのところに梓と功平がほぼ同時に声をかけたことで、一瞬不穏な空気が流れかけたところを、リンネが「二人ともお菓子作ろうとしてるんだから、一緒にやればいいじゃん! ケンカはダメだよ!」と宥めたことで、今の共同関係が成立していた。
「あー、すげえいい匂いしてきた。早く焼けないかなー」
「こっちももうすぐ完成だぜ。食わせてやっから、そっちのもちょっとくれよな」
「いいよー」
 オーブンの前でじーっと焼き上がりを待ち続けている梓が、きつね色に変化していくパンケーキをフライパンの中で揺する功平の誘いに頷く。
「あらあら〜、とっても美味しい香りがしますね〜」
 まるで蜜の香りに惹かれる蝶のように、ミリアがひらひら〜と二人のところへやって来た。その瞬間オーブンがチン、と焼き上がりを知らせる音を奏で、うっすら焦げ目のついたパンケーキが皿に盛られ、ハチミツを垂らされる。
「出来上がりっ! 早速味見……あつつつつ」
「あちちちちちち」
 一目散に味見をしようとした梓、そして功平が、手や舌をヒリヒリ言わせながら、自分たちで作った料理の出来映えを味わう。
「うめーっ! 何か料理って簡単かも!」
「鉄板で失敗しちゃあ、流石に恥ずかしいもんな。ま、今回は上出来だな」
 自らの料理に太鼓判を押した二人が、周りにも料理を振舞う。
「梓、美味しいからって食べ過ぎはいけませんよ。皆さんもほどほどにしてくださいね」
「うんうん! でも、ついつい手が伸びちゃうんだよね〜」
「食べ過ぎると身になるんだな」
「大丈夫! リンネちゃんの場合はぜ〜んぶここにいくから!」
「あらあら〜」
 お菓子を囲んで、華やかな会話が交わされる。

「…………ボクもう疲れたんだな。ここで休ませてもらうんだな」
 でろんとした身体をさらにでろんとさせて、モップスがテーブルの足に背中を預けるように地面に座ると、そのまま寝落ちしてしまう。
「あの、モップスさん大丈夫でしょうか?」
 そんなモップスを、東雲 いちる(しののめ・いちる)が心配する。体格の割に体力があるわけではないところに、とにかく捏ねる、かき混ぜる仕事ばかりさせられたが故の結果であった。
「う〜ん、ちょっと働かせ過ぎちゃったかな? じゃあここでとびっきりのパンケーキ作って、食べさせてあげよう!」
「は、はい! 私もギルさんに美味しく食べてもらえるよう、頑張りますっ」
 二つ並んだフライパンに、モップスのかき混ぜた生地が流し込まれていく。素材の良さ、そしてモップスの努力の甲斐あってか鮮やかな黄色をした生地が、熱を受けて段々ときつね色に変化していく。
「へ〜、いちるちゃんでその『ギルさん』って人のことが好き――」
「わわわわわ!!」
 口を塞がれ、リンネが身悶える。
「わ、私はただ、好きな人に美味しいものを出してあげたいなって――わ、わわ! 私自分で好きって……」
「むむむむむー!」
 リンネの顔も、フライパンの中のパンケーキのように色が変化していく。そして、ちょっと危ない色に変わり始めたところでようやく解放される。
「ぷわ〜!! ひ、ヒドイよいちるちゃん〜」
「ご、ごめんなさいリンネちゃん」

「微笑ましい光景ですね。私達が入っては邪魔になってしまいそうです」
「だな。ま、楽しそうだし、これはこれでよし、じゃないのか?」
 リンネといちるが仲良く料理に取り組んでいるのを、クー・フーリン(くー・ふーりん)長曽我部 元親(ちょうそかべ・もとちか)が見守っていた。
「私達もこの際、料理というものを覚えてみましょうか。我が君に作って差し上げたい」
「まあ、悪くないかもしれんな。とはいっても何を作るかだが――」
 そこに、ミリアが通りかかる。
「やはりここは、先生に教えを請うのが得策ではないでしょうか」
「だな! おーい、ちょっと来てくれ!」
「は〜い♪」
 呼ばれたミリアが微笑んで二人のところへ向かい、そしてミリアの持っていたレシピの中から、クーは麻婆豆腐(唐辛子ではなくハチミツ入り)、元親は肉じゃが(冷めても美味しい)を選択する。いちるにだけでなく自分たちも食べられる工夫を提案したのが、非常にミリアらしかった。辛くない麻婆豆腐が麻婆豆腐なのかどうかは、この際気にしてはいけない。
「さあ、我が君の方はそろそろ出来上がりそうです。私達も急ぎましょう」
「よし! いっちょ張り切ってみるか!」
「分からないことがありましたら、気軽に聞いてくださいね〜」
 ミリアが見守る中、それぞれの料理が進行していく。やがて出来上がった料理を前に、三人は団欒とした時間を過ごしたのであった。